第十話「心を打つ一杯~男の娘たち、憤ります~」
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「グラン・マルニエ砂漠のことについて調べてみたら、ここ最近、ほとんど同じ地域で、魔物の大量発生が発生している。計測してみたところ、この辺りの地下で、異常なほどの魔力が発生している。つまり、ここが、ピラミッドから通じている地下神殿の入り口があると思われる場所だ」
アイリスお姉ちゃんがグラン・マルニエ砂漠の南西にあるオアシスを差した。
その近くには、洞窟がある。お姉ちゃんの話によれば、この洞窟は、一度入ったら二度と生きては帰ることのない、迷いの洞窟と呼ばれており、旅人や冒険者も近づこうとはしない。
「つまり、この洞窟と、ピラミッドの中にある地下神殿が繋がっていたってこと?」
「なるほどね。ピラミッドにはそんな抜け道があったのか」
「まあ、どこの誰が作ったものなのかまでは分からないが、アレクシアとグリゼルダの探索能力で、この洞窟から、ピラミッドから通じている地下神殿の入り口に繋がっていることは間違いない」
暗殺者を迎撃したり、地下神殿の隠し場所を突き止めたりと、グリゼルダさん、今日は大忙しだったんだな。よく見ると、壁にもたれているグリゼルダさんはどこか疲れている感じだ。
「・・・絶対に突き止めてやらないと気が済まなかったからね。私の可愛い弟分を連れ去るヤツなんて、絶対に許さないわ」
「あらあらまあまあ~、グリちゃんも、トーマちゃんが大好きなんですねぇ~♥グリちゃんなら、わたくしたちのハーレムに入ってもよろしいですわよ~?グリちゃんのことも、たっぷりと可愛がってあげますよ♥」
「うるさい、私はそう言うことには、興味がないの。・・・トーマのことをそういう風に思ったことなんて、一度も、ないんだから・・・」
うん、そうだよね・・・。
分かっていたけど、改めてそう言われると、少し落ち込むけどさ・・・。
「・・・鈍いやっちゃなあ」
「まあ、そういうことに聡かったら、斗真じゃないし」
「・・・アンタも、苦労しとるみたいやな」
桜とオリヴィアさん、どうして、僕のことを見て、可哀そうな子を見るような目をしているのさ。
「つまり、オレたちがやるべきことは、この洞窟から、地下神殿に向かって、禁書を手に入れようとしているバカをブッ飛ばして、禁書を守り抜けばいいんだな?」
「ああ、そして、そのバカから情報を聞き出したうえで、サビアの王宮に突き出す。アムレット国王が禁書を奪って、この大陸を手に入れようとする計画が明白になれば、アムレット国王も終わりだ。そして、国王にこの話を持ち掛けたクロス王国も重い罰を受けることになるだろう」
「・・・監獄の警備に、雨野と同じグループにいた、有馬と斎藤もいた。だから、この場所には、雨野たちがいる可能性がある」
「アメノって、サクラと同じ勇者だったヤツだよね?どういうヤツなんだい?」
ヴィルヘルミーナさんの質問に、僕と桜は、お互いに目配りをしながら、桜が深いため息をついた。
「・・・雨野はさ、斗真のことを酷く恨んでいるんだよ。中学生の時に、斗真を女の子と勘違いしてさ、3年間、毎日のように追い回して、無理矢理自分の彼女にしようとしていたの。それで、ある日、斗真の友達をうっかり傷つけたことが原因で、斗真にボッコボコにされたんだよ」
「うわっ、そいつ、マジでバカだな」
「レベッカにここまで言われても仕方がない、相当おめでたい脳味噌の持ち主なのだろうな」
「・・・それでも全然懲りないし、人の話をちっとも聞かないんだよ。僕は男だって言っているのに、こんな見た目が女の子にしか見えない男がこの世にいるかって、訳の分からないことを言ってさ」
「斗真を力ずくで自分の女にしようとしていたんだよ。この事から分かると思うけど、思い込みの激しい性格でさ、一度こうと決めたら誰の言うことも耳に入らなくなっちまう単細胞の脳筋野郎さ」
それから3年間、ほぼ毎日のように雨野と殴り合っていたこと。
全ての戦いで、雨野をギッタギタにしてきたこと。
中学生活最後の日、卒業式に、やっと僕が男だということが分かって、ショックで倒れてしまったこと。
そしてその後、雨野とは違う全寮制の高校に通うことが決まっていたんだけど、両親が出て行ってしまったことが原因で、高校を辞めて、今の学校に転校してきたこと。
そして、そこで、運悪く雨野と再会をしてしまったこと。
中学生活の3年間、ずっと自分のことを騙し続けていたと言いがかりをつけられて、恨まれていたこと。
それを話すと、大アネキたちは、呆れてものが言えないという表情になり、お通夜のような空気になった。
いや、知らんがな。勝手にお前が、僕のことを女の子だと、勘違いしていたのが原因じゃん。
そもそも、お前のせいで、僕の中学生活だって、毎日喧嘩しかしていなかったんだからな。
「まあ、それについては、確かにそう思ってしまっても仕方がないような気がするがな・・・」
「お姉ちゃん、僕、泣くよ?」
「そもそも、ウチかて、まだトーマが男の子やなんて、信じられへんからな。証拠を見ようと思うて、トーマちゃんのパンツを無理矢理ズリ下ろして、ついとるもんはついとるっちゅうことは分かったんやけどな。もしかしたら、両性具有っちゅうヤツかもせえへんな~、なんて・・・」
その瞬間だった。
部屋の中の空気がバキッと凍り付いた。
そして、感情がなくなってしまったかのような無表情を浮かべたアイリスお姉ちゃんと、アレクシアさんが、ゆらぁっと立ち上がって、オリヴィアさんに近づいていった。
アカン、これ、マジで詰んだな。
「・・・あらあらまあまあ、トーマちゃんの、パンツを無理矢理はぎ取って、アレを見たですってぇ?オリヴィアちゃん、どうやら、あの程度のお仕置きでは、足りなかったみたいですわねぇ~♥」
「・・・私たちの可愛い弟を辱めるとは、お前、そんなに死にたかったのか。それなら、お望み通り、丁寧に心を込めて、あの世に送ってやろう・・・!」
「あ・・・あの・・・その・・・落ち着いて・・・てか・・・みんな、武器まで取り出したら、さすがに、アカンって・・・!!」
「・・・・・・問答無用」
ドッカーーーーーーン!!(壁をぶち破って、オリヴィアさんが吹き飛ばされた音)
「ほな、サイナラぁぁぁぁぁぁっ!?」
キラーン★
本日二回目のお星さまになりましたね、オリヴィアさん。
貴方のことは、忘れる時が来るまで、忘れません。
「絶対に逃がさん!!ビビアナ、グリゼルダ、アレクシア、追うぞ!!あのボケ狐、見つけ出して、きつねうどんの具にしてやる!!」
「・・・・・・サーチ、アンド、デストロイ!!」
「妬ましい羨ましい憎らしい殺したい恨めしい・・・!!」
「オホホホ~、お待ちなさいな、このエロ狐さ~ん♥たぁぁぁっぷりと、可愛がってあげますわぁぁぁぁぁぁ~っ!!」
「ホンマに、ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」
大食堂の壁には大きな穴が空き、アイリスお姉ちゃんたちが武装して、脱兎のごとく逃げ出したオリヴィアさんを追いかけていく。吹き抜けていく風を受けて、僕たちはボーゼンアゼン。
よかった、王妃様たちを先に休ませておいて・・・。
こんな現場を見られた日には、なんて言い訳をすればいいのか分からない。
「・・・明日に備えて、もう、寝ましょうか」
「・・・そうだね」
「作戦会議中に何をやってんだよ、アイツらはさ。あとで、連中全員ハリセンな」
大アネキが珍しく、団長らしい、まともなことを言った・・・!
なぜだろう、大アネキがビシッと団長らしいことをすると、ものすごくカッコよく見える。
やる時にはやる、決める時には決める、そういうところが大アネキの魅力の一つでもあるんだよね。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
僕たちは先に休むように言われて、僕と桜、ユキちゃんは、自分の部屋に向かっていた。
(アイリスお姉ちゃんたちは、大アネキに取り押さえられて、正座で全員説教を食らうことになった)
すると、バルコニーに、誰かがいた。
それは、アンジェリカ王女様だった。
「・・・王女様?」
「・・・ああ、トーマとサクラ、ユキやったな。なんか、ちょっと、寝付けなくてなぁ」
まあ、何て言うか、僕たちが想像しているよりも遥かに、大変な目に遭っているしな・・・。
自分の父親に犯罪者の汚名を着せられるわ、監獄に閉じ込められるわ、いくら王女様だからって、気丈に振る舞っているけど、堪えないわけがないもんな・・・。
「・・・王女様、少々、お時間よろしいでしょうか」
そこで、桜が膝をついて、恭しく話しかけた。
そして、桜がアンジェリカ王女様を連れてきたのは、地下のバーだった。
アンジェリカ王女様を座席に座らせると、桜は冷蔵庫から赤みを帯びた茶色の飲み物が入ったボトルと、ダイダイの実のジュース、シロップ、ダイダイの実のスライスカットを準備すると、グラスに氷を入れて、ダイダイのジュースとシロップを入れて混ぜて、茶色の飲み物を混ぜていく。
この匂いは、ひょっとして、コーヒー?
「・・・この匂いは、コピ豆やないか?」
「はい、アムレットはコピ豆の名産地らしいですね。アルビナ王妃様が、先代から受け継いだコピ農園でコピ豆の栽培や、他国にも認めてもらえるように、営業に力を入れていることは伺っております。これは、私たちの世界にある【フレーバーコーヒー】という飲み物の一つです」
アンジェリカ王女様が、恐る恐るグラスに口をつけて、一口飲んだ。
「・・・ああ・・・美味しい!このアロマの香りと、ダイダイの酸味と香りが混じり合って、何とも言えん・・・スッキリとした喉越しや・・・!せやけど、ウチの知っているコピ豆は、もっと甘味があって、香りもここまで強うないはずや」
「ああ、それは、格安で仕入れられたこの豆を使ったんです」
桜はそう言って、コピ豆の入った袋を出すと、アンジェリカ王女様は目を丸くした。
「ええっ!?せやけど、それは、飲むには苦くて不人気やったから、商売では売れんものやったはずや!せやけど、これは、ウチらがいつも飲んどるコピの汁よりも、はるかに香りが強いし、味もええ!」
「桜って、コーヒーを淹れるのも上手だよね。ベリス姉さまも、サクラのコーヒーは美味しいって言っていたよ」
-見事な味だ。これほどなまでに美味しいものが、この世界にあったとはな。-
「・・・まあ、組の連中や、仁美たちに出す時に学んだんだけど、豆によって一番おいしく飲める挽き方や煎り方が全然違うんだよね。コピ豆は確かに甘味も強いし、香りもいいんだけど、品質のいいものはなかなか出来にくいから、べらぼうに高いんだよ。しかし、安く手に入る豆でも、煎り方や挽き方を変えれば、上物に匹敵するほどの香りと味を生み出す」
「・・・そうやったんか」
「コピ豆は他にも色々と使い道がありました。煎って砕いて、牛乳やお酒などに混ぜるとコピ豆の香りがさらに変化して楽しめるし、スパイスや小麦粉を炒って、肉や野菜を煮込んで作る【カレー】にも、隠し味として使えば、美味しいカレーが作れます」
そう言ってから、桜は、アンジェリカ王女様に言った。
「ベアトリクス陛下は、これほどのものを作れるアルビナ王妃様と、土地の改良や、コピ豆の栽培に力を入れているアンジェリカ王女様の存在は、コピ豆が世界的に通用する嗜好品として広めるためには、サビアに受け入れてもらい、大農園を任せてもらうべきだと進言されました。アーシュラ女王陛下も、その提案には賛成だそうです」
「え・・・!!」
「そうか、桜はアルビナ王妃様たちが、サビアでも生きて行けるように考えてくれたんだ!」
「今まで家畜の餌として処分するにも金がかかるだけだった、コピ豆がこれほどなまでの味と香りが楽しめる嗜好品になることが分かったんだ。アーシュラ女王も、アムレットからバカ国王を追い出して、領地を取り上げるのは婚約破棄の慰謝料として取り上げるだけだから、アルビナ王妃様とアンジェリカ王女様を引き取る意味はない。むしろ、このままじゃ、国王の増長を止められなかった責任を取らされる可能性が高い」
-その責任を取らせるという形を利用して、この二人を、表舞台から退場してもらう代わりに、アムレットの民たちが、サビアでも働けるように、手配を整えて置いたというわけか。-
「ああ、アムレットのコピ豆を作る技術は、サビアにはないからな。当然、売れると分かれば、コピ豆をもっと多く作る必要がある。そのための土地の整理、品質の管理、新しい製品を開発するには、専門的な知識を持っている王女様たちの存在は、必要不可欠さ」
桜は、マーヴィンさんの知り合いの商人がお土産でもってきた【コピ豆】から、安くて大量に仕入れられる豆からでも、調理法次第で美味しく飲めることを発見して、お店のメニューに出すことにしたらしい。それが見事に大当たり。コピ豆のアイスドリンクやフレーバーを求めて、他国からわざわざ来る人もいるらしい。
「アムレットの民を路頭に迷わせずに、これからも美味しいコピ豆を作り、国の繁栄につなげる事が出来る。これだけの効果があるからこそ、アーシュラ女王も快く受け入れてくれた。今、ベアトリクス陛下が、話をつけてくれた。あとは、俺たちがアムレット国王たちを捕まえて、禁書を手に入れようとしているバカたちを倒して、捕らえればいい。だから、今度の喧嘩は、絶対に勝たなくちゃならないぜ」
桜、お前ってヤツは・・・!
ここまで、お膳立てを準備して、王妃様たちが助かるために頑張ってくれているのに、僕たちが失敗なんてするわけにはいかないじゃないか。
王妃様たちのためにも、負けるわけにはいかない。
この人たちの命も、笑顔も、失うわけにはいかない。
俄然、やる気が出てきたよ・・・!
「・・・ほ・・・ほんまに・・・何て・・・礼を言えば・・・ええんや・・・!ウチ、ずっと、オトンの目を覚めさせてやりたくて・・・必死で勉強をして・・・アムレットのコピ豆が、世界的に認められるようになれば・・・オトンも、ウチらの話に耳を傾けてくれると思うとった。おかんは、政略結婚やったかもしれんけど、それでも、アムレットを繁栄させようと、必死に頑張っていただけやったっちゅうことを・・・分かってほしかった・・・!でも、それは、いくらやっても、無駄やったんや・・・」
アンジェリカ王女様がボロボロと涙を流して、泣きじゃくる。
僕たちよりも年下なのに、王女として、アムレットを繁栄させようと一生懸命やっていただけなのに、それさえも認めようとはせず、自分の無能さを認めたくないばかりに、冤罪を着せて罪人として仕立て上げるなど、とことんアムレット国王は自分さえ良ければそれでいいという性格なのだろう。
「・・・せやけど、ウチらのことをこうして見てくれて、民のために、力を尽くせる居場所を見つけ出してくれたばかりか、アムレットの農民が路頭に迷わないように、手配をしてくれるなんて・・・!ホンマに・・・ホンマに・・・心から、お礼を申し上げます・・・!」
「きっかけを作っただけに過ぎないよ。そこから先、どうするかは、アンタたち次第さ」
桜がそう言うと、アンジェリカ王女様は感極まって、机に突っ伏して泣いてしまった。
ずっと抑えつけていた感情を爆発させたかのように、子供のように、ワンワンと泣きじゃくる。
僕たちはアンジェリカ王女様が気が済むまで、泣かせてあげることにした。
オリヴィア、ギャグ要員確定となりました。
ヴィルヘルミーナとコンビを組んで、これから先、数々のトラブルを引き起こしては、レベッカたちにシバかれるのがお約束な展開になっていきそうです。珍しく、レベッカとヴィルヘルミーナがボケませんでした。一線を超えたせいか、大人しくなってきたのでしょうか。
次回は、ピラミッドに乗り込みます!!
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!




