プロローグ~魔法裁縫師、追放される~
今回、初めて全年齢版の小説を書いてみることにしました。
追放された主人公が勇者たちに報復する、ザマァな展開を書いてみたかったので、設定をしたためてきました。どうぞ、よろしくお願いいたします。
「・・・梶、悪いんだけど、ここで大人しく殺されてくんねえか?」
「・・・はぁ?」
僕、梶斗真はクラスメートの鳳桐人に、いきなりそう言われたかと思うと、鳳は双剣を取り出して、その切っ先を僕に向けていた。
そう言われても、殺されてくれないかと言われて「はい、いいですよ」と承諾するほど僕はバカでもない。
ここが現代の世界だったら、今すぐにポリスメンを呼んでいるところだが、生憎ここは僕が知っている現実の世界ではない。
僕たちは1週間前、僕たちが通っている高校の修学旅行の真っ最中に突然現れた魔法陣に飲み込まれて、気が付いたら見たことも聞いたこともない異世界の地【七世界セブンズ・ヘブン】という世界なのだから。
そもそも、こんな異世界に僕たちが望んできたわけじゃない。
というか、いきなり現実世界から召喚するわ、訳が分からず混乱している自分たちに「魔王を倒して世界を救ってね!」などという無茶ぶりを吹っかけてくるわ、拒否したら国家反逆罪と見なして牢屋に入れるとか脅迫されるわ、もうとにかくこの1週間ストレスが半端なかった。ブラック会社だってここまで酷くはねーぞ。働いたことないけど。
そして今日、クラスメート全員のスキルが王宮魔導士のちっこいお姉さんに教えられた。
自分のスキルは・・・何と【魔法裁縫師】と呼ばれるものだった。
「戦士」とか「格闘家」という肉弾戦を得意としているものでもなければ、「魔法使い」のように魔法を使えるわけでもなく、「僧侶」のように仲間の怪我を回復する治癒のスペシャリストというわけでもない。
とまあ、それが原因で僕はクラスメートから戦力外通告を受けて、現在、クラスメートの桐人と、他クラスメートの4人、合わせて5人に武器を構えられて崖の端まで追い詰められているというわけだ。
「分からねえか?お前みたいな役に立ちそうもないスキルを持っているヤツなんて、お荷物にしかならねぇんだよ。俺たちが魔王軍にお前のせいでやられちまってもいいっていうのかよ?だから、邪魔になる前に死んでもらわないと困るんだよ」
鳳桐人。
僕たちのクラス【2年7組】において、サッカー部のエースとして活躍しているイケメンで、クラス中の女子はもちろん、先輩や後輩からも人気のあるカースト上位に君臨する人物だ。金髪に染めた髪をオールバックにしており、制服を着崩したラフな服装はまるでヤンキーのような雰囲気だ。
「桐人の言うとおりだ。お前のスキルはどう見ても戦闘向きではない。力なき弱いものが俺たちの足を引っ張ることなど許されん。それに何よりお前のその男とは思えない色白でやせ細っていて、もやしのような女顏の男などいくら鍛えても無駄なのだ!」
巨大な戦斧を構えているのは、柔道部の主将として活躍しているうちのクラスきっての巨漢【雨野柳太郎】だ。180㎝は超える長身で、筋骨隆々とした身体は無駄な脂肪がなく、強面でガタイの良さから巷では「鬼柳」と呼ばれて、恐れられているらしい。
「ごめんね~、梶っち。でもさ、あたしたちも無事元の世界に戻りたいわけよ。それにさ、魔王退治をおっぱじめようとしている時に役に立たなさそうなヤツはまず除外っていうのはゲームのお約束ってヤツっしょ?だから、死・ん・で・く・れ・る?」
鋭い鉤爪を構えて、罪悪感などまるでなさそうに茶化すように笑っているのは【幕ノ内桜】だ。金髪のツインテールに、制服の上からヒョウ柄のパーカーを着込んでいるといった派手なギャルファッションをしている猫を思わせるような目がクリクリとした可愛らしい女の子だ。しかし、僕を今から殺そうとしているのに楽しそうに笑っている彼女の姿はまるで悪魔のようにおぞましく見えた。
「ごめんなさい、梶くん。でも、これは私たちが英雄になるためにはどうしても避けられないことだから。梶くんの命を私たちが奪うことによって、私たちは君から奪った命の重みとその罪を背負っていく。そして、その背負った罪が私たちに戦う覚悟を与えてくれる。君の犠牲によって、私たちは英雄としての第一歩を踏み出せると思う。だから・・・ごめんね?」
「訳が分からない」
長槍の刃を向けながら、涙を流しつつも笑顔を浮かべていて、自分に酔っているようなヤバい感じがするのはクラスの委員長を務めている成績優秀な【松本千鶴】だ。眼鏡をかけている知的で大人しい雰囲気がする目立たない印象を受ける彼女だが、僕に初めて向けてくる笑顔は人の心というものが一切感じられない無機質で猟奇的なものだった。
「ねえ、聞いて、梶くん?私はね、貴方のことを・・・実は生まれて初めて好きになった男性なのよ。それは今もこれからもずっと変わらないと思うわ。それでね、私は思うの。好きになった人の全てを自分のものにしたいって。そして、それは最終的にその人の命を私が奪うことによって、梶くんの全てを私が手に入れたということよね?これって、究極の愛というものだと思わない?貴方の全ては・・・誰にも渡さない。貴方は私だけのもの・・・うふふふ♥」
「・・・マジデスカ」
妖艶に微笑み、頬を赤く染めているのはクラスどころか学年一の美女ともてはやされており、学年中の男子生徒の憧れでもあった【雁野美月】であった。黒髪のロングヘアーに気の強そうな吊り目、凛然と整った顔立ち、上品で優雅な雰囲気を感じさせる佇まいを持つ美少女は、この中でも一番頭がイカレているとしか思えない爆弾発言をブチかまして、炎に包まれた剣の切っ先を向けてきた。
冗談じゃない。
こんなところで、足手まといだからという理由で殺されてたまるか!!
しかし、僕はもう恐怖のあまりに足はすくんでいるし、心臓がバックバクで、言葉が口から上手く出てこない。思わず一歩足を引くと、後ろからぱらぱらと小石が崖を転がって落ちていく音が聞こえてきた。
うん、これはまずい。
僕の人生、ここで詰んだのかもしれない。
ああ、こんなことだったらもっと人生楽しくやりたいことをやっておけばよかったのかもしれない・・・なんて思っている場合ではない。
後ろを見ると、崖の近くにいくつか木が生えている。
確率は低いけど、あそこに飛び込めばもしかしたら・・・!
僕は覚悟を決めて、鳳たちに向かって言った。
「・・・嫌だ」
「あん?」
「・・・悪いけど、君たちに殺されるなんて僕は嫌だ。そんなに邪魔なら、僕がいなくなればいいんだろう?」
「だから、分からないかしら?私はね、梶くんの命も全部欲しいのよ!!」
「冗談じゃないよ。そんな理由で殺されてやるもんか。僕の人生だ。僕の最期ぐらい、僕が決める!!」
「おい、マジかよ!?」
「嘘でしょう!?」
そう言った直後、僕は崖から飛び降りて、身体が宙を舞っていた。
死にたいわけじゃない、むしろ生きたい。
でも、あんな理由で理不尽に殺されるなんてまっぴらごめんだった。
そもそも、僕のこの【魔法裁縫師】とは本当に何の役にも立たないスキルだったのだろうか?どういうスキルなのか、僕はまだよく分かっていない。
いや、あの連中はスキルのことなんてどうでもよかったのだろう。
僕のことが邪魔だった、僕を殺して自分のものにしたかった、そんな理由で僕の命を平気で奪うような連中だ。ハッキリ言ってまともではない。
そんな連中なんかにどうして、僕が殺されなくちゃいけなかったんだ・・・。
異世界に無理矢理召喚されて。
訳の分からないスキルに目覚めたせいで、言いがかりをつけられて殺されるなんて。
「わぶっ!!」
僕の身体は崖の斜面にいくつか生えていた木の茂みに何度もぶつかり、腕や足に擦り傷や打撲が出来たが、落下する速度が徐々に緩やかになっていき、地面を転がっていく。
そして、僕は奇跡的にも骨折もすることなく、崖の一番下まで下りてくることに成功した。僕は座り込んで、大きくため息をついた。
「・・・はあ、何とかあの場からは逃げられたみたい。でも、ここにいたら見つかっちゃうかもしれないな。とりあえず、どこか隠れる場所はないかな」
辺りを見回していると、谷底の岩壁にぽっかりと大きな横穴が空いていた。
どうやら、かなり奥まで続いているみたいだ。もしかすると、トンネルかもしれない。
「・・・雨風だけはしのげるかな」
もうこの際、アイツらに気づかれないなら何でもいい。
僕はボロボロになった身体を壁に寄り掛かるようにして歩いて、洞窟の奥に進んでいった。
持っていたカバンを探ると、中から暗い場所でも明るく照らせるようにと思って入れて置いたペンライトをつけると、洞窟の中を照らしながら、一歩ずつ警戒しながら進んでいく。
その先に、僕の運命を大きく変える出会いが待ち受けているとも知らずに。
近々、主人公とメインヒロイン、主人公の復讐の標的の5人の勇者の設定資料を投稿します。
メインヒロインは話が進むごとに、更新していこうと思っております。