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異世界に飛ばされた俺は旅をした(*リメイクします)  作者: 糸月名
第三章 冒険と多忙と戦争と祭り
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第三章 15 ■アインスティーク


胸殻を叩き割って中の肉を潰し、黒ずんだ血液が飛び散る。


「――滑ったッ」


苦悶の声はリナの者だ。決められるとは思っていない。ヴァーヴェルグが本気を出していないのは明らかだ。しかし、それでももっと強力なダメージは与えられたはずだった。

胸殻を砕くまではよかった。問題はそのあと。肋骨は胸殻よりも固く、血と合わせて処刑斧の刃が滑ったのだ。


「上々だ!」


リナの銃撃の直後、滑った後のわずかな間隙にレギオンは持ち前の速さを活かしてもぐりこんだ。砕けた胸殻の隙間に治癒不可の一撃が滑りこんだ。そのまま心臓を穿った。胸殻越しについた時とは全く異なる手ごたえ。しっかりと脈動する肉を穿った感触が手首からひじを駆け抜けて、背中までしびれさせた。確かな手ごたえにレギオンは笑みを浮かべた。

だが相手が悪かった。


「ヴァァァァアアアアアアアアアアアアア!」


刹那の停滞の後、ヴァーヴェルグが吼えた。弾かれた腕を再び振るい、リナ、レギオン、茜を吹き飛ばす。この瞬間、レギオンとその反応を見た茜は勝利を確信していた。今の一撃は唯の最後っ屁。ただの悪あがきだと思っていた。

ただ一人、リナを除いて。

足で踏ん張り衝撃を限界まで抑え込み、リナは雄叫びで自らを奮い立たせながら処刑斧を振り上げてさらに一撃を叩き込む。

だが、いきなり朱色の剣気が噴き出し、暴風が吹き荒れた。危険を直感で察知したリナは最も力が出るタイミングよりも早く踏み込み、迫る風の壁に処刑斧をたたきつける。それすら一瞬動きが止まった。そのまま振りぬくが領の足は地面を削ってようやく停止した。


「なんなんだよ……こいつは!?」

「知らぬわ!」


リナも驚きに目を見開き動きが止まる。

びぎ、ごきゃ、ぶちんっ。

耳を塞ぎたくなるような、あまりにも生生すぎる音。それは甲殻が裂け、骨が折れ、肉や血管が千切れることによって発生したものだ。

何が起きているのか、目で見た意地つ以上の者はないにもかかわらず、この場にいる誰もが理解できなかった。

ただ、ヴァーヴェルグの傷口がひとりでに開かれたのだ。そして、呼吸に合わせて収縮する肺と心臓や各器官がむき出しになる。本来は肋骨という鎧に覆われている非常にデリケートな部位であるはずが、空気に晒されていた。そして心臓にはレギオンの傷口に癒えない呪いを付与する魔剣で貫かれた傷があり、鼓動に合わせて血液が漏れ出していた。てらてらと陽光にあてられた臓器の反射を見たくもないのに、脳みそに刻まれる。

骨格すら醜く歪み、ヴァーヴェルグがもがき、腕が空を切る。

本来なら内臓に触れることも可能なはずなのに、肋骨が縦に割れて内臓をさらけ出すにあたって、手を曲げても届かなくなっていた。

ヴァーヴェルグは長い首を使って自らの心臓に噛みつく。


「――――――」


もう言葉が出ない。

そのまま心臓を引きちぎり、ペッ、とガムみたいに吐き出した。

途端に水分が蒸発する音と共に水蒸気が立ち上った。細胞分裂によって発生する熱量によって血液が蒸発しているのだ。

やがて晒されていた臓器を守るように肋骨が閉じて、その肉体を再生していく。

かみ合わされた牙の隙間、そこから滴り落ちるどす黒い血液が道を作り、甲殻のわずかな凹凸に左右されながら、長い首を流れ落ちる。


「まだ、足りない……」


口が噛み合わされる度に血液が飛び散る。声に血液が絡み、掠れていた。


「その程度の攻勢で俺の命を脅かせると思ったか? もっとだ! もっと力をつけろ! 俺の命にその刃をたたきつけてみろ!」


甲殻と甲殻の隙間を流れる光がひときわ大きく輝き、赤いラインを作りだす。説明されずともわかる。

時が来た。

『準備』を終えたのだ。

ひときわ大きく剣気が漏れ出し、魔力すら膨張する。


「そんな莫迦な……」


信じられないといった調子で声を漏らしたのは茜だ。神域の騎士の中で魔術の扱いに長けているからこそ、ヴァーヴェルグのでたらめさがよくわかる。


「今までも化け物じみたところは見ておった。それでも、こんなっ。あくまでも一個の生命じゃぞ!? それがこれだけの魔力を内包するなど……っ」


驚愕する茜をよそに、ヴァーヴェルグは悲しげな瞳で、大地のように揺るがない巨竜を見る。


「あまりにも永い旅路の果て。その終わりに相応しき一撃で、葬ろう。安らかに、眠れ」


眼を焼くほどの光が網膜に入り込み、そこへ残光を残す。

思わず手で目を覆い隠し、その陰からわずかにヴァーヴェルグを覗く。圧倒的な熱を蓄えて、恒星のごとき光を放っているのは口だ。何をしようとしているのか、これほどわかりやすいこともない。


――破光。


太陽が目の前にあるかのような一撃。その熱量は今も増大し続けている。茜もレギオンも、ヴァーヴェルグの本気を目の前に戦意を挫かれた。

それでもなお、リナだけは処刑斧を握る手から力を抜かなかった。いつ『あれ』が放たれるのか、リナにはわからない。それでも、今放たれていないのなら時間はあるはずだった。

思い出すのは、風月凪沙の笑顔。それも、談笑しているときの柔和なものではなかった。たっぷりの皮肉を込めた、牙を剥き出しにした笑顔。腕がおられ、ボロボロのまま見せつけられたことを鮮明に覚えている。処刑斧を振り上げられてもなお、崩さなかった不敵な笑み。振り下ろされるその瞬間ですら、あきらめていなかったあの姿勢。

それが脳内でリフレインすると不思議と笑みがこぼれた。


「追いつきたいなって思ったから、ここで諦めてなんかいられないってわけよ!」

「……っ」

「いくら何でも無謀じゃっ」


レギオンと茜が二人係で茜を抑え込む。この状況でとっさに反応した二人をほめるべきか、二人がつかみかあっても引きずっているリナの怪力をほめるべきかわからない状況ではあるが、確かに、わずかな停滞が生まれた。


「王命を思い出すんだ。巨竜は死んでもいい! 今は巨竜が墜ちた後の事、風月凪沙を死なないようにすることが先決だ!」

「あんなのに張り合うことがまず間違っておる。今は退くのじゃ、リナ!」

「二人の言い分はわかってる。でも、あれに凪沙は立ち向かった!」


それを無謀と呼ぶか蛮勇と呼ぶのか、はたまた無知と称するのかきっと誰にも分らない。だが、それでも風月凪沙は立ち向かった。

戦った。

勝てるはずのない相手に幾度も挑んできた。


「私よりも、誰よりも弱い凪沙は、誰よりも強かった!」


リナは持ち前の怪力で茜をつかむと、そのまま腕力のみで振り回しレギオンにたたきつけて二人の拘束から逃れる。

そして最大限に剣気をまき散らし、荒々しく纏う。


「おおおおおおおおぉぉォォォオオオオオ!!」


叫び、自らを奮い立たせる。そうでもしないと、ヴァーヴェルグの前に立てそうもなかった。

だが、そんなリナの一撃すら間に合わず、ひときわ強く、ヴァーヴェルグが瞬いた。それに終わりを悟っても、獰猛な笑みを崩さない。

それは恐怖を覆い隠す仮面であり、笑っている間は不思議と力が湧いた。


(ここが、死に場所……。なら、最後まで足掻くってわけよ!)


桜色の輝き。すべてを武器に込めて叫ぶ。ここで終わりだというのなら、生涯で最高の一撃をぶつけたかった。

処刑斧をかち上げるように。

巨竜を貫く破光を真正面から叩き潰すように。

真下から振るった。


「届けえええぇぇっ!!!」


ひたすらに引き延ばされた刹那の間。諦めと同義の覚悟がその刹那で一撃を間に合わせた。ヴァーヴェルグの破光とリナの一撃がぶつかったのは同時だった。

その熱を肌で感じ、死を悟る。それでも前に出た。それが活路を開いたことをリナは知らない。

破光とかち合った処刑斧が生み出した本当にわずかな停滞。死がじわじわと近づくその瞬間さえあれば、あの男は滑り込む。


「任せろ」


続く言葉。鑿を槌でたたいて深く削るように、リナの処刑斧を加速させたのは大剣をふるう大男。

最強の神域の騎士、グレイ・オイフェ・アインスティーク、その人である。

破光がすべてを焼き尽くすよりも早くヴァーヴェルグの顎がかち上げられた。晒されたのは須臾の時だが、それですらグレイとリナの武器は溶け落ちそうなほど赤熱した。


――そして、破光は放たれる。


一閃。

巨竜の甲殻に直撃こそしなかったが、それでも赤熱し、一部が蒸発を始めていた。さらに顎の動きに合わせて雲を引き裂き、空へと一筋の光が上り、太陽よりも眩いほどの光でもって、周囲に闇をもたらす。熱された空気が膨張し、光を放って大規模な爆発を引き起こした。白い光はプラズマ化した空気であり、それによってリナは吹き飛ばされる。それをグレイが不動のままつかみ、動きを止めた。

ヴァーヴェルグの口から破光が消えても、その光は止まらない。上空の空気は居間もプラズマ化し、それが収まるまでにたっぷり10秒もかかった。

すべての現象が元の状態に収束し、ようやく太陽に光が戻ってきた。


「着いたらいきなり破光とはな。はぁ、死ぬかと思ったぜ」

「……!」


さすがのヴァーヴェルグも驚嘆していた。

破光の名前を知っていることもそうだが、止められるとは考えていなかったのだ。

グレイは灰色の髪をかきあげながら、ジュウウウゥゥゥ、と音を立てる大剣を振り回して空気に晒して、赤熱した刀身を冷ましていく。それから切っ先をヴァーヴェルグに突き付けた。


「それにしても『久しぶり』だな、ヴァーヴェルグ」

「……貴様なんぞ知らん」

「そうか? なら、思い出させてやる」


くるりと手の内で体験を逆手に持ち替えるグレイ。ちょうど柄頭を剥ける形になる。その姿にヴァーヴェルグは見覚えがあった。


「アインスティーク……」

「その通り、第一席だ」


ヴァーヴェルグの意図したこととは違う応酬をしていることをグレイはわかっている。つまり、挑発しているのだ。


「悪いが、レギオンのように手を抜いてもらえると思うなよ。お前の強さは『知っている』からな」

「……アインスティーク、貴様は。そうか、ただそのためだけに」

「おしゃべりはそこまでだ、ぞっ!」


逆手に持った大剣を振り回し、ヴァーヴェルグの首を両断する軌道で弧を描く。

そこからの一瞬、リナはとらえられなかった。誓って目を瞑ったりなどしていない。近くで見ていたはずなのに、見えなかった。気づけば、ヴァーヴェルグは両手に武器を持ち、大剣を縫い付けるように叩き落した後だった。

認識した後に発生した風が吹き抜けリナの髪をふわりと浮き上がらせた。汗ばんだ体から熱を奪っていく。


「やっぱりもってやがったか。断絶剣と皇黒剣」


純白にして、もはや実戦用とは思えないほどの意匠がちりばめられ、繊細な装飾を纏う断絶剣。

漆黒の刀身を持ち、光すら吸い込んで、意匠すら見えないほどの闇そのものといっても過言ではない皇黒剣。

かつて人間だった頃があったらしいが、今でこそ3メートル近い体躯にピッタリのサイズで、むしろ今のヴァーヴェルグに合わせて作られたのだと言われたほうが納得するサイズだ。

二振りの剣を両腕に持ったという事実、ヴァーヴェルグから遊びが消えたことを意味する。

それはここまで余裕があったヴァーヴェルグをほめるべきか、ヴァーヴェルグから余裕を奪ったグレイをほめるべきか。もはや判断できない。


「それには散々手を焼かされたな」

「もう汚染した」

「知ってるよ。だがな、ヴァーヴェルグ。それでこの俺を止められると思ったか!?」


砂を侵食する水のように、大剣に漆黒がまとわりつく。それは皇黒剣が触れた場所から広がったものだ。

リナは皇黒剣も断絶剣も知らない。しかし、神域の騎士たちが持つ武器のように特別なものであることは理解した。


「どうやって俺が今まで生きてきたと思う? まあ、お前にゃどうあってもたどり着けないだろうがな!」


ズアアアァ!

グレイの刺青が動く。それが手を伝い、武器にまとわりついた。ヴァーヴェルグが汚染と呼んだ漆黒のそれは、蠢く刺青に触れた瞬間に一気に縮まり、その勢力圏を減らした。


「皇黒剣は生物を汚染できない」

「やはり、体を捨てていたか」

「その過程も、お前には理解できないさ」


その会話の意味をリナは理解できていたわけではない。きっと二人にしかわからないことだとすべて決めつけて、理解を放棄した。そんなリナとは対照的に茜はひたすらに考え続けていた。

今、グレイがやっている武器に刺青がまとわりつく、あの技を茜は知っていたからだ。むしろ、知っていたからこそ考えることがやめられなかった。過去に全く同じ技を見たことがあった。だが、それはミラタリオが血液を操るように、魔術や剣気といったものとは全く別の、血筋によって得られる力だ。それと全く同じ力となれば、血縁であることも考えられる。そんな風に思考を止めることができなくなっていた。

そしてレギオン。唯一、ヴァーヴェルグの攻撃を捉えることができた。魔術で武器を取り出し、そのままグレイの一撃を撃ち落した。ただそれだけのことなのだが、その精度が高すぎて笑えなかった。

魔術の発動は三段階に分けられる。やりたいことを思い浮かべ、魔力で魔方陣を描き、さらに魔力を込める。この一連の動作には馴れとが必要なのだ。茜もたやすく煙と魔力を混交し思うように動かしているが、実戦で使えるレベルに練り上げるためにはそれなりに時間がかかる。

戦いの合間を見つけ、魔力を込めなくてはならない。その瞬間は剣気で身を守れるとはいえ、魔術が発動できない無防備な状態なのだ。その時間が短いほどいい。しかし、ヴァーヴェルグには存在しない。呼吸を意識しないように、魔術の発動を意識しない。そもそも戦っている最中に武器を出し入れすることなどまずない。

いくつもの理由が重なり、レギオンはあれと同じことをやれと言われても絶対にできない。その技量の高さにただただ圧倒された。

刺青が大剣を戒めるように巻き付き、ヴァーヴェルグが汚染と呼んだ漆黒は入れ墨に居場所を追いやられ、大剣から消え失せた。

わずかな停滞。

にらみ合った二人の間に呼吸すら消えた。時間の概念すら消え失せたかのように風すら凪いだ。

合図は何だったのか。

間近で見ていたリナにはわからなかった。もしかしたらそんなものは存在しないのかもしれない。けれど、グレイとヴァーヴェルグが通じ合ったのは間違いない。

なぜなら、二人が動き出したのは同時だったからだ。

炎の道を見た。

それはヴァーヴェルグの剣気が描いた軌道に錯覚しただけだ。つまり、ヴァーヴェルグはその二振りの剣でもって第一席の武器を地面に縫い付けていたにもかかわらず、弾き飛ばしたことを意味する。

数舜遅れて理解するも、リナは第一席の姿もとらえきれなかった。あたりを見回し始めてからからようやく二人が動いた後の烈風がたたきつけられ、目が空けていられず、右腕を盾に薄眼を開ける。

遥か遠くで、二人は激突していた。

飛び散る火花を見つけても、そこに二人はいない。


「あぁ、遠いなぁ」


リナの口から洩れたのは、高みへの羨望と悔しさが入り混じった末の感嘆の声。剣気の使い方、足運び、そして戦いの流れのつかみ方。そのどれもが、リナには到底まねできない者だった。

ヴァーヴェルグは常に剣気を纏い、集中させる場所によって第一席の猛攻に対応していた。それに対いてグレイは常に剣気を纏っているわけではない。回避の瞬間や、攻撃を受ける防御の要所のみ、灰色の剣気を纏って応戦している。

その中で互いに必殺の一撃をたたきつけあっているのだ。一歩間違えれば容易く死ねる。あの中に入れば足手まといにしかならない。本当は今すぐにでもこの処刑斧を握って戦いに行きたかった。

足が震えて立てない。

破光を目の前に完全に怖気づいた。もうあの前に行くことができない。

悔しかった。


「リナ、引くのじゃ」

「茜……」

「此処にいてもできることは何もない」

「でも……」

「強くなるぞ。一緒に」


悔しいのは誰もが同じだった。レギオンは戦いを見ずにうつむいている。それは現実逃避しているのではなく、歯を食いしばっているのだ。自分の無力さに顔を上げられなかった。

ヴァーヴェルグの命に届いたと思った一撃は、よけようと思えばよけられた一撃。ヴァーヴェルグは確かに言っていた。

暇つぶし、と。

それは間違いなく事実で、本気で相手をするまでもなかったということだ。


「今は風月凪沙を回収して、引くのじゃ。少なくとも役割は果たしたからのう。それにまたぶつかるにしても、まずはそのメンタルをなんとかせい」


今ぶつかっても体が縮こまるだけじゃ、と茜は言う。

リナは処刑斧を握りなおすと、震える膝を必死に押さえつけてゆっくり立ち上がる。


「今、勝つ必要はない。一年後までにあやつより強くなればよいのじゃ。わしらは弱かった。だから敗北した。それはまだ伸びしろがあるということでもある。少しでも休め」

「あの時の……。破光が放たれるあの瞬間の勇気が、もう一度ほしい」

「リナ……」

「私は、嫌。勝てなくてもいい、届かなくてもいい。でも、もう後ろを歩くのは嫌」


どんな時もあきらめなかった風月凪沙がまぶしく見えた。


「力もなくて、剣気も魔法も使えなくて、それでも戦ってた。一瞬もあきらめなかった。何度も敗北して、それでもあきらめてないってわけよ。なんで、凪沙にできて、私にできないの? 私は胸を張って隣を歩いていたい」


終わりすら覚悟したあの瞬間、自分自身が誇らしかった。あの一瞬だけは風月凪沙に並んだ気がした。諦観を超越した先で隣を歩いていた。実際に死にたいわけではなく、風月凪沙のようにありたかった。


「強くなったのう、リナは。神域の騎士になる前から知った仲じゃったが、あの時とは見違えるの」


茜はリナの頭に手をのせると、そのまま髪を手櫛で梳き始めた。


「昔はあんなに小さかったのにのう。さてさて、そこまで逃げたくないのなら、もう一度仕掛けるぞ?」

「いいの?」

「止めたところで今のリナは一人で行きそうじゃからの。それならまた仕掛けるぞ? それにの、誰も逃げたくなんかない」

「俺も行く」

「レギオンも来るの?」

「もう、手は抜かない」


レギオンの優雅さが完全に消えていた。あれだけ外面にこだわっていたのにも関わらず、もはやその面影は見えない。

三者三様の思い。それが三人に誓いを立てさせた。


「もう一度あの前に立つのじゃ、三人での」


今できる最高をぶつけるために、一度退くのだ。それにプライドがズタズタにされ、それでも耐えた。

巨竜迎撃祭の終わりは近づく。



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