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異世界に飛ばされた俺は旅をした(*リメイクします)  作者: 糸月名
第一章 異世界へと
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第一章 6 ☆アルト・ウルベルク・ベイルサード


一方アルトは怪訝な目つきで風月を睨み付けていた。


(なんだ、コイツは。なんで、この状況で、笑っていられる?)


アルトは出会ってから一度たりとも、一瞬たりとも笑みを消した風月を見ていない。差はあれど笑みを途切れさせていないのだ。


「貴様は奴隷を解放したな?」

「俺は、カギを使ってない……」

「なに?」


アルトは怪訝な顔をした。その表情に風月は内心でほくそ笑んだ。


(あのような簡素なカギが奴隷という者に使われている世界でピッキングなど発達しているわけがない。わかんねぇだろう、俺が何を言っているのかが!)


死を目の前に笑う風月にトカゲの店主は驚いた顔で固まった。


「さあ、斬れ!」


風月の叫びの直後、間髪入れずに断罪の剣が振り落された。


「ク、ククク……」


イカレている。それがトカゲの店主の感想だった。

風月は死ぬ寸前でも地面に組み伏せられたまま笑みを絶やさなかった。

そして最も驚いているのは断罪の剣を振り下ろしたアルトだ。


「カギを、使わずに開放なんて、できるはずがない」


この場で最も心臓をバクバクいわせているのは語るまでもなく風月だ。


(あっっっぶねえええ! 死ぬところだった、一歩間違えたら首が体とおさらばしてた! 店主を黙らせるための演出してなかったら間違いなく死んでた!)


顔に笑みを張り付けつつ、その内心泣き出しそうな状態。

ピッキングを素手でやったように見せるため、ヘアピンを利用したのが功を奏した。

アルトが店主に向き直る。組み伏せた風月を解放し、切っ先を突きつける。その隙に悠々と立ち上がり丁寧に砂を叩き落とす風月。


「……どういうことだ? 店主」

「いえ、その……、その男は素手でカギを解放したのです!」


一閃。断罪の剣で首を切断されるが、刃がすり抜けて死にはしない。つまり、トカゲの店主は〝嘘は〟言っていない。

だから、風月は心底笑った。たった今剣の仕組みを理解したのだ。


「いいや! 俺は素手で開錠なんかできない!」


一閃。やはり、風月の首は切断されない。


(やはりか、店主は俺の持っていた髪留めを見ていない。だから本当に俺が素手で開錠したと思っていやがるんだ! つまり、断罪の剣は本人が目撃した事実に乗っ取り、裁きを下している!)


恨みを孕んだ風月の狂気はまだ止まらない。


「俺は素手で開錠する方法なんか知らないな」


躊躇いのない鋭い剣が一閃、風月の首を薙ぐ。しかしまだ風月は生きている。その結果が意味することは一つ、語ったことが嘘ではないということだ。


「錠を破壊なんて言語道断だ。素手でそんなことはできないぞ、俺は」


またも一閃、風月の右目を抉るように剣が舞う。だが傷はない。


「第一、この場に奴隷なんていねぇだろうが!」


心の臓を貫く軌道で一閃、確実に貫かれる。だが、血が噴き出ることもない。

風月は息が詰まるかと思ってはいた。すべてが必殺の一撃となりうるのだ、無理もない。だが、そんな状況とは裏腹に大丈夫だと確信していた風月自身がいた。


「状況が矛盾しすぎている、拉致が明かないな」


アルトが次に剣を向けたのは銀髪の幼女だった。


「名は?」


風月は思わず掴みかかろうとしたが、銀髪の幼女がためらうことなく一歩前へ出た。


「ティア」「貴様は奴隷か?」「違う」


会話の後、アルトが剣を振りかぶり、今度こそ風月が掴みかかった。その顔に笑みなどあるはずもない。


「ふざけるな! 子供にまで武器を向ける気か!」

「斬れば分かる」

「斬れるなら、斬れ」


本気で風月が抑えるアルトを煽ったのは他でもないティアだった。


「私の名前はティア・ドラクル。東の地の貴族。斬れるほどの無礼を背負ってなお首が飛ばないと思うなら、斬れ」


抑揚の薄い声は幼女が纏うべきでない威風を醸し出していた。貴族、その名にふさわしい家の出ということをたった今、風月は理解した。

そして、この少女がどうやって奴隷商から逃げ出したのかを。これだけ肝が据わっていれば、一瞬のすきをついて逃げ出すことも可能だろう。


「ああ、非礼も無礼も詫びさせてみると良い、結果で示せ。このアルト・ウルベルク・ベイルサードに」


一気に周りの人間たちがざわつきだす。風月が急いで庇おうとすると、アルトはその細身からは想像すらできない熊のような強力で押さえつけた。


「神域の騎士」


ティアは呟く。それに答えるようにアルトは抑揚のない声で言った。


「私よりもずっと若いんだ、せめて苦しまずに逝け」


その脳天にスイカを割るがごとく、振り下ろされる。ティアは瞬きすらしない。すべてを受け切る覚悟を見せる。

そして。


「―――、これは。これは」


驚いたか、はたまた戸惑ったか。神域の騎士、アルトは肩から服がずり落ちたような錯覚にとらわれる。


「店主は嘘をついていない。貴様が奴隷の解放という重罪を犯したと明言していたからな。だが、そこの男は嘘を語らず断罪の剣を避け続けた。状況を見れば真実を明確に語っていない男が嘘をついているということなんだろう。それを踏まえて、この娘。なぜ死んでいない」


風月は拳を固く握りこむ。


「貴様のように世渡りが上手くなれるほど生きてもいない少女だ。嘘をついて死ぬと、おもっていたのだがな」


その言葉は確実かつ的確に風月の琴線を逆撫でした。


「いい加減にしやがれ!」


アルトは風月に殴り飛ばされる。だが堪えた様子は微塵もない。周りの人間たちはそれを見て巻添えはごめんだと言わんばかりに逃げ出した。


「神域の騎士。その称号は伊達ではない。視界の外からの一撃といえど、剣を抜いて貴様を(くび)り殺すことなど雑作もない」


語りながらゆっくりと立ち上がる。


「今の一撃は自身の軽率な行動に対する戒めとして受け取ろう。そして、今回の件にも目を瞑ろう」

「それ、だけか?」

「この私に手を上げた無礼者にまだ何かするべきことが?」


風月は拳をもう一度優男のこぎれいな顔面に叩き込んでやると意気込んで一歩踏み出した刹那。首筋に切っ先が添えられて、一歩も動けなくなった風月がいた。


「常人には見えすらしない。この一撃の威力は貴様も見ただろう? 何が不満なんだ、この場で生きながらえる以上に何を欲している?」


何かを欲すれば首を切り落とす。そう語っているように風月には聞こえた。だが、そんなものは彼にとって関係ない。


「この、野郎――っ! 欲するもクソもねぇ。テメェがやるべきは謝罪だろうがっ! あとそこのクソ蜥蜴、テメェも覚悟しておけよ」


悪鬼のごとき形相でアルトと店主を睨み付ける風月。それをアルトは涼しい顔で流したが、トカゲ顔の店主は店の中へと逃げ込んだ。


「ティアに、頭を下げて許しを請えよ」


神域の騎士、その称号の重さを知る者たちが聞いたら卒倒するようなセリフだ。アルトが語るようにその称号は伊達ではない。生物の領域を超えて神様の領域へと踏み込んだ偉業を成し遂げたものが手に入れることのできる称号だ。

現に逃げ出さない野次馬根性の塊のような街の住人たちは泡を吹く勢いで顔を青くしていた。


「この国には法がある。その法では貴族は奴隷にはなれないし、奴隷も貴族になれない。現に、今それを確認しただけだ。確認は罪ではない」


一切表情を変えずに言い切ったアルト。


「そして、ティア嬢が奴隷ではなくなったことが証明された今、状況としてはこうだ。誰かに奴隷に落とされたティア嬢を解放した。それは喜ばしいことだが、奴隷の解放罪。まったく異なる犯罪だ。裁かれろ、風月凪沙」

「だめ!」


今にも切りかかってきそうなアルトの前に、ティアが立ちはだかる。


「っ、ですが罪は――」


俺は会話の最中にアルトの視線がティアに集まった瞬間を見逃さなかった。金貨のたっぷり詰まったエナメルバックをアルトの側頭部めがけて振り抜いた。刹那、エナメルバックは切断されエルズ硬貨が飛び散って、野次馬がそれに集りだす。

コンビニの袋も、持っていたバッグも投げ出して、ティアを抱えて走り出す。

アルトはその一瞬で俺を斬り殺せたはずだ。しかし、それをしなかったのは、ティアが邪魔だったからだ。

アルトは相も変わらず読めない表情のまま、風月が消えた人込みを睨み付けていた。



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