第二章 11 〇檻の中の二人
「まさか、牢にぶち込まれるとはな」
目が覚めたらぼろい牢の中だった。石造りで、あるのは正面に鉄格子とその対面に存在している小さな格子窓。火の光が微かに差し込むが、それ以外にはトイレらしきところと、毛布が一枚。
酷いにおいが立ち込めていた。
情なのか、折れた右腕は添え木がされて、応急処置がされていた。これで後遺症があるという事はないだろう。
「まさかお前がここに来るとはなァ」
嫌な声が聞こえた。
「ヴェイシャズ……」
顔も見たくないクソ野郎だ。それが今、目の前で微笑んでいた。豪奢だった服はなく、身に付けていた装飾品もなくなり、ただの脂ぎったジジイになっていた。それが通路を挟んで向かいの牢の中にいた。
最初は無視しようかとも思ったが、ここがどこで何があったのか、今知ることができる情報を最大限握っているのはヴェイシャズだ。情報は手に入れられるときに手に入れておくべきだ。
「何があった?」
「それはァ、こっちのセリフなんだがなァ」
「いいから答えろ。なんで俺はここにいる?」
「はははァ。残念ながら、知れる立場にはいない。なんでお前がここに入ったかなんてことはァ、看守にでも聞くことだァ」
風月は渋い顔をする。
それでもとりあえず聞いてみることにした。
「本当に知らない? 知ってたらそこから出してやる」
その言葉に反応したヴェイシャズを見て、占めたと思い薄っすらと笑う風月。
「お前の罪ってどんなの? 貴族を奴隷に落として散々いろいろやらかしたけど、それがどのくらいの罪? 重罪って聞いたけど、その年で何年ぶち込まれるんだろうね? 生きて出てこられるのかな?」
目を細めるヴェイシャズ。本当に出れるかどうかを訝しんでいるというより、この後の未来を牢屋から出るか出ないかで比べている。
「本当に出れるのかァ?」
牢屋の鍵は、扉に備え付けられている。それでも鍵穴を見れば利き手が使えなくても開けられることが分かった。ヘアピンを取って、それで自分の牢屋の鍵を開けて見せた。何のひねりもなく、鍵穴の位置さえ分ければ、簡単に内部のシリンダーに先を引っかけて回せる。
「こんなもんよ」
巡回の兵士が来ても困るから再度シリンダーを回して鍵を掛ける。すると驚いた顔をするヴェイシャズ。
「氷使えただろ? あれで扉を凍らせて開かないようにして偽装しつつ、いつでも出れないようにしておけ。できるか?」
「できるがァ? 私に何をさせたい?」
「まず乗るのか、乗らないのか?」
「乗ったァ」
相変わらずべっちゃりとしたしゃべり方だが、この狡猾さはある意味頼もしい。
「吐いた唾を飲むんじゃねえぞ。俺を助けろ。お前の判断で、いつでもいい。今牢屋に入っていることが謎なんだ。ぶち込まれるようなことをした覚えはない。だから、何かあったときに助けろ」
「処刑されるときとかかァ?」
「その時は処刑台を崩してでも助けやがれ」
皮肉を笑顔で返すと、ヴェイシャズの顔が引き攣った。そこまで重いものだと考えてなかっただけに言質を取った形になる。ギリギリまで牢屋を開けるつもりはないから、逃げようとする場合は、最悪そのまま放置もできる。
「そっちはどうなんだよ? どのくらい幽閉されそうなんだ?」
「ハッキリ言って、こっちは処刑は免れても生きている間に出れなさそうだァ。特にいろいろやらかしているからなァ。疑わしい余罪も含めてェ……、いち、にい、さん」
そこから数えるのを辞めたヴェイシャズ。何をやらかしたか知らないが、それだけやっても死なない算段らしい。
「まァ、お前よりもずいぶんと楽な立場だァ」
「ん? まてまて、それは可笑しい。なあにかをやらかした覚えなんて本当にないんだぜ?」
「だとしたらなおさらだなァ。四大領主の一角から全権を任されてたんだろォ?」
「何でそれを知ってんだよ」
「ここは城の地下だぞォ。罪状は分からなくとも、どんな状況かくらいはァ、入ってくるものさァ」
子飼いの間者がいるという可能性もあるが、納得せざるを得ない。
イヴルが散々に情報を流して武器を集めさせていただけに、それが棒に振ったことはより速く拡散したはずだ。そうなれば原因を探るのは自然な事。知っている情報と合わせれば、俺が任務を遂行したことにたどり着く人間も多くいるはずだ。
そして、幽閉されていることも含めてヴェイシャズは推測したはずだ。
「さらにお前はァ、事前の積み重ねが無いからなァ。それに対して私はァ、長老院としての立場とォ、利益を出してきた政策があるからなァ。王の為という建前もある」
今すぐにあの憎たらしい顔をぶん殴りたかった。
ここにいるという事は王命を熟しつつ、それを帳消しにするほどのことをしたという結果が存在しているという事だ。意外と不味い状況なのかもしれない。
「罪状と刑が分からないとどうすればいいのかも分からないんだよな」
「しっ」
ヴェイシャズが人差し指を口に当てた。それを見て瞬時に黙ると、アルトとリナが通路の奥から曲がってきた。足音が聞こえなかったが、それでもヴェイシャズは反応した。
二人は俺の牢屋の前で立ち止まる。リナの顔からは笑顔が消えていて、アルトもポーカーフェイスをしていなかった。苦虫を噛み潰したような顔のまま、俺と目を合わせる。
「すまなかった風月、俺たちの実力不足だ」
そう言って投げ渡される丸められえた羊皮紙。それをつい利き手でキャッチしようとするが、いまだに感覚が無くて、一度地面に落とした。歯がゆい思いをしながらそれを拾い上げて広げる。
「……なんて書いてあるんだ?」
俺には読めないこの世界の文字で書かれていた。おそらくは罪状か、刑が書かれている。
「風月凪沙、お前の刑は裁判もなしに決まった。王族への叛逆、処刑だ」
二人の背後にいるヴェイシャズをお思わず見る。全力で首を横に振っていた。どうやら知らなかったらしい。もし死刑を知っていて皮肉を言っていたら牢屋から出さないところだった。
問題は別の方だ。
「俺はどうなる?」
「どうにもならないわ。ごめんなさい」
「明日。処刑広場にて、執行される。それは俺たちの力が至らなかったからだ」
「いや、イヴルが手を貸したせいだろうなァ」
突如として口を挟むヴェイシャズ。アルトが唐突に仕事の仮面を被った。
「相変わらずの鉄仮面だねェ。残念ながら神域の騎士一人二人がどうしようともォ、長老院とつながりの深いイヴルが動けばねじ伏せられる意見だねェ。ほかの神域の騎士は出席率悪いしねェ」
それは分かる。
俺が手錠されて転がされていた時もアルトとリナ以外誰も出席していなかった。
「少なくとも、二人の意見なんてねじ伏せるのなんてワケなかっただろうねェ」
「もうちょっと黙ってろお前。おい、あの蜥蜴はどうなる?」
邪竜や悪竜はあくまで俺の印象だった。だから、どう表現すればいいのかも分からず、とりあえずの呼び名をつける。
「ヴァ―ヴェルグのことか」
それが悪竜の名前。
「アイツは俺たち神域の騎士が責任を持って討伐する」
「くくく、そうじゃないだろォ? そんなことを言いに来たはずじゃないはずだァ」
下卑た笑みを浮かべるヴェイシャズ。それに反応したのリナだ。
「そう、言いたいことがあるの」
天真爛漫で笑顔が似合っていたリナが、今ではその影もない。影というのなら、陰鬱として表情の方に影が射していた。
そして、その意味を俺は察した。
「私が、処刑する」
リナは、というよりも神域の騎士第四席、ソルクワトロは処刑斧という特別な武器を賜っている。ベイルサードが裁判を掌っているように、処刑を掌っているのだ。どういう状況でリナが処刑をするのかは皆目見当がつかないが、当日まで黙っているわけじゃなく、ここまで来てそれを話しに来た。
だからこそ、怒りが湧いた。制度だというのならそれは受け入れる。それでも、ここまで来たリナの覚悟を笑ったヴェイシャズに怒りが湧いた。
「これを渡したかったの」
ネックレスを差し出すリナ。見たこともない形に鋳造された金属のシンボルが着けられている。
「私、神域の騎士になったばっかりで処刑は初めてなの。うまくできる自信があるわけじゃないわ。だから、これを持っていて。痛みを肩代わりする霊装なの。これで痛くない」
思わず手が伸びた。それにはいくつかの理由があって、その一つが処刑を担当するのがリナだということだ。ヴェイシャズの皮肉の通りになってしまったが、はっきり言って神域の騎士が武器を振り上げた後に逃げられるヴィジョンが浮かばなかった。
しかし、掌から拾い上げるところで手が止まる。
これはリナの優しさであり、罪悪感だ。だが、十字架を背負わせるつもりなんざさらさらない。だから、そのままネックレスを押し返した。
「大丈夫」
「でもっ」
「大丈夫だから」
泣きそうな顔のリナを制止する。アルトは何も言わずにそれを見守った。アルトはカギ開けができることを知っている。それを止めないあたり、逃げることを望んでいるのかもしれない。
「ハハハハハハッ、ずいぶんと可愛い事じゃないかァ。そんなものはただの飾りだというのになァ」
ガリ。
「それが肩代わりする痛みはァ、死の痛みだァ。死んだ人間がしゃべらなければ証明出来やしないィ」
ガリガリガリ。
気付いたら動かない右腕を掻き毟っていた。血が滲むほど深く達し、痛みで我に返る。
「お前に渡したそれは罪人の証だァ。魔力が籠っているだけでまともな高官ぞ保障されんぞォ。健気だなァ」
左腕を牢屋の行使に叩きつける。
「黙れヴェイシャズ!」
地下に声だけが響き渡る。
この男とだけは一生仲良くなれない。
「リナ、別に恨んだりなんかしないよ。だからいつものままでいてくれ」
「ほんとうに?」
「ああ、本当だ」
牢屋の格子越しにリナは抱きしめてくれた。
「(お願い、逃げて)」
ぼそり、と。リナが耳打ちする。小さな声と耳に掛かる吐息で相変わらずドキドキと意識させてくるのは相変わらずだ。アルトのように仕事一辺倒でほかのすべてを無視しても押し通すなんてタイプじゃないリナだからこそ、こんなふうに言ってくれる。
それに答えるわけにもいかないから、左手を背中に回して答える。
「アルト、リナを連れて行ってくれ」
最後まで視線を離そうとしないリナをアルトが連れて行く。
問題はむしろこれからだ。二人が消えたのを確認してから牢屋の鍵を開けた。
「死ねクソ野郎」
牢屋に蹴りを入れておいた。とりあえずリナの悲しむ顔を生み出した原因のヴェイシャズを利用はすれど、本格的に助ける気が失せた。
「ロクでもないクソ野郎と知ってたけど、こんなところに押し込まれてもクソなのは変わらないのか」
「ここがどこだか知らないなァ? 私みたいな奴らが幽閉される場所だァ」
「どういうことだ?」
「魔術牢。ここの中では魔術や剣気が封じられるのさァ。最上級の危険因子が集う場所だよォ」
「同じ穴のムジナって言いたいのかな?」
とりあえずもう一発けりを入れておいた。今度は格子の隙間から顔に直撃させた。胸がスッとした。このゲームがあったら二〇〇時間は遊べる。
と、違和感を覚えた。
「ちょっと待て。封じられる?」
「別に気にすることはァない。鍵さえ開いていれば簡単に使えるんだからなァ」
「もう魔術で錠前を作れよ」
「それなら開錠は簡単だァ」
この世界の仕組みが良くわからない。とりあえずこの世界の鍵事情についてはさておく。
「脱獄をこれから詰めないといけない。ここは城の地下って言っていたが、具体的にどこだ? 脱獄にはどんなルートを通ってどれだけの衛兵を回避すればいい?」
俺の言葉にいやらしい笑みを浮かべた。
「分かちゃいないなァ。金と権力で解決できるの私だけだァ。お前は王命直々に処刑が出てるからそんなモンは不可能だァ。城の第三門と呼ばれる兵士の詰め所がある。正面からの脱出はまァ、不可能だァ」
一瞬助けるのを辞めようかと思った。脱獄できるタイミングは一つだけに絞られたようなものだ。俺がこの牢獄を出て、処刑広場につくまでの道のりで脱出しなくてはならない。アルト辺りが警備につこうものなら詰んだも同然だ。
それはヴェイシャズも理解していた筈だ。処刑されるときなんて言っていたのも、裁判と処刑以外でこの場所から抜ける方法なんて存在しない。
一瞬、他の囚人たちを煽って脱出も考えたが、周りの牢屋に人が誰もいない。
その視線を感じ取ったヴェイシャズが口を開く。
「こんなところに入るのはァ、国家に反逆した一級の奴だけだァ。もしくは裁判直前の奴。普通はこんな場所に幽閉なんざされないからねェ」
なおのこと、ここから出るのが難しくなった。
「ここからその処刑広場とやらまでの間で俺を助けられるか?」
「骨だぞォ?」
まっとうな受け答えをできないのかこのクソ野郎は。
再び躊躇なく蹴りを入れた。げへげへとせき込んでいたが、一応は生きているようだった。
「それで?」
「できるがァ、はっきり言って厳しいぞォ? 衆人環視の中逃げるんだからなァ」
「あ、ああ……」
全く考えていなかった。中世では処刑は庶民の娯楽の一面があったらしい。当然入場から退場までじっくりと観察される。それを考えるとこのルートもだいぶ難しい。
「できるならいいや」
「そろそろ巡回の時間だァ。見張りなんかついたらぁ、逃げられなくなるぞォ」
正直、こういう情報については全面的に信頼するしかない。ヴェイシャズの牢を開けて、自分の牢に入り直してから鍵を締める。
それから数分して本当に看守が来た。
食事を運んできたようだったが、一人分。当然未だに権力と金を保持していると匂わせたヴェイシャズの分だけだ。明日処刑される人間にはそれすら不要というわけだ。
それなら明日に備えて身体を休めるのみだ。太陽の位置からおよそ二〇時間は身体を休められる。空腹は感じていても、体力はあった方がいい。毛布にくるまり、意識を切り離して強制的に睡眠に入る。旅の中でどんな状況でも体力は必要だった。特に今よりも幼く、大人の旅について行くためには徹底的に食事と睡眠を大事にすることを余儀なくされたものだ。
その結果、あの男の乗る馬に一緒に跨っていようが、バイクで風に晒されていようが、極寒の地で寒さに震えていようとも、睡眠と食事だけはしっかりととることを心掛けた。おろそかにしたことはない。
日本に行ってからは睡眠は偏りがちだったからここで鍛錬し直すのも悪くない。
そんなふうに思考だけして、意識が沈み始めた次の瞬間。
衝撃と共体が浮いた。具体的に言うのなら衛兵の一人が牢の中に入り風月の鳩尾を蹴りあげた。直後降りかかる暴力に抵抗できず頭を護る。
「ころすなよ」
誰かの声が聞こえた。相手は少なくともいま攻撃してきている男と見張りの二人いる。
唇が切れた。
痛い、泣きそうなほど痛い。それ以上に屈辱的だった。今すぐにこの男の足を圧し折ることは難しくない。少なくともすね当てはしていても鎧はしていないのだから。それでもこの状況を甘んじて受け入れているのは、抵抗する方が危険だからだ。そして、旅を終わらせないために耐えた。
ボキリ。一度折れた右腕を再度踏み砕かれて、声が漏れる。
「おい、こんなことをしていていいのかァ? 私の話し相手なんだがァ。未だ王に謁見するくらいの力はあるんだぞォ?」
すると血相を変えて出て行ったようだが、痛みでのたうってそれどころじゃなかった。息苦しくて喉に詰まったものを吐き出すと胃液が大量にせり上がっていた。
「まさかお前に、助けられるとは……」
「嫌なら別にもう一回読んでやってもいいぞォ」
「助かった」
打算があると非常に強力的なヴェイシャズは扱いやすい男なのかもしれない。明確な利があれば確実に協力してくれる。これは政治家というよりも傭兵に近い。
「なんで森神を呼ばないィ?」
「しん、だよ。アイツは」
カラン、と何かが落ちた音がした。視線を向ければスプーンだった。森神が死んだことが衝撃的だったようだ。
「どうかしたか?」
「その右腕の傷はァ?」
「ヴァ―ヴェルグってやつのらしい。さっき名前聞いた」
腕は今応急処置するのは無理だ。少なくともどういう風に折れてるか判断できない。変な風に直せばそれこそ取り返しのつかないことになる。今は痛みを堪えて休むしかない。
それでも痛いものは痛いから、それが紛れればいい程度に思ってヴェイシャズの問いに答える。
「何を契約したァ? 順に話せェ」
「森神はあの山でヴァ―ヴェルグが目覚めるのを待っていた。ヴァ―ヴェルグを殺すためにな。それで、あ、あー」
痛みでうまく思考が回らない。熱を持っていて、少しぼうっとする。それを見かねてヴェイシャズが氷を投げ渡してきた。
「冷やせェ。巡回が来たら毛布で隠せよ」
注意は去れたがそんなことはしない。毛布で氷を覆って腕に不格好ながら撒きつける。これで見られてもさして気にされないはずだ。
「ヴァ―ヴェルグは死にたがっていた。殺されるために森神にあの山を護らせていた。そしてアルトとリナもいたが失敗した」
「どのくらい強い?」
何か言っていた気がする。思い出せ。
「本当かどうかは知らないけど、この世のすべて? と同じ力を持っているって。見ると忌避せずにはいられない呪いと、敵視した敵と同じだけの強さを引き出せるみたいなことを言っていた、気がする」
ヴェイシャズも微妙な顔をしていた。
「見る者すべてェ? おかしな話だなァ。まあここで出征について話しても埒が明かないィ。むしろ契約の内容を早くしろォ。情報はいくらあっても有益だァ」
この男は本当に嫌いだが、先見の明もある。武器だなんだとイヴルが騒ぎ立てて偽の情報で追い詰められている様をみるとヴェイシャズの方が幾分か上手の印象がある。アルトが幾度も煮え湯を飲まされてきたのも納得できる。さらにミラタリオなんて言う規格外を従えて身を護っていたのだから、森神という切り札が無かったら敗北していたかもしれない。
同時に、この男が世界で一番信用できなくて、最も厄介な男だとも認識した。
「俺が結んだ契約はヴァ―ヴェルグを殺すこと。期間は設けてないとか言っていたが、一年以内に殺さないと、この国を滅ぼすとか――」
「グハハハハッハハハハハハハハハハハ!」
狂ったように笑い出したヴェイシャズに驚く。
あまりの様相に痛みそっちのけで頭が冴えた。
「何だよ」
「むしろ価値を確信したんだァ! 最高だァ、長老院どもを黙らせられるぞォ!」
「お前も長老院じゃん」
「五月蠅えェ、あんなクズと一緒にするなァ」
本気でぶん殴りたくなった。
お前が言うなと何度叫びたくなったことか。ほかの長老院の面々もこんなのばっかりだとしたらこの国は滅んだ方がいい。
「よく考えろォ。その呪いが発動してアルトたちは何の反応もしていないィ。防いだのは法律に
刻まれた魔術式で保たれているんだァ。それ以外の方法なぞあってたまるかァ」
「手放しで信用しすぎだろ」
「そうでもないィ。ヴァ―ヴェルグの名は聞き覚えがあるからさァ」




