第一章 29 △夜明け
妹が吸血鬼だと知ってパパとママは世間から妹を隠そうとした。でも、私は一度、血を啜る妹を見て、怖くなった。
だから、視察に来ていたヴェイシャズという男に助けを求めた。
それがそもそもの間違いだったと気づいたのはそれから間もなくのことだ。妹はどこかへ連れて行かれ、それで終わりになるはずだった。
だけど、それは地獄の始まりに過ぎなかった。
妹が消えた朝、パパとママまで消えていた。
どうなったのか想像するのも嫌で、私は部屋に逃げ込んだ。ミラタリオというヴェイシャズの私兵が植え付けた恐怖で兵士は何もしてくれなかった。
夜はヴェイシャズの相手をさせられ、朝は自分を殺したいほど憎みながら静かに毛布にくるまる日々が続いた。でもそれは三週間ほど。
アルトという男が来た。
売られた妹を助けたと。まだ、生きていた妹に私は動揺を隠せなかった。そして、ひどいこともされていないという。
家族なら、喜べばよかった。でも、売らせたのは私。だから、怒りに身を沈めるしかなかった。ただ、妹が生きていることを恨みながら。
こんな自分が嫌で、妹に会うのが辛くて部屋へと逃げ込んだ。
それでも、夜はやってくる。
いつもヴェイシャズの相手をさせられる時間に私は部屋を出ようとしたとき、城が半壊した。
そして、あの男が私の前に現れた。
風月という前髪をピンで止めた男だ。
すぐに分かった。この男が妹を助けたんだと理解した。そこから湧いてきたのは自分ですら認めたくないドロドロとした感情。
私なんかを助けるために城へと潜り込んできたのはわかる。でも、それは妹を救うついで。それを自覚した瞬間、私はどうしようもなくちっぽけで惨めな存在だと理解した。
気付けば、ヴェイシャズを殺すために。いいや、自決するためにずっと持ち歩いていたナイフを抜いていて、気づいたら刺していた。
どうしようもないほど行き場のない怒りの奔流が私にそうさせた。
それでも風月は生きていて、追いかけたが途中で見失い下へと行ったらヴェイシャズに捕まった。どうしようもないほどの不幸に私は泣くこともできなかった。
だけど、また風月は来た。妹を抱えて。
もう再開することはない。そう思っていた妹を見て、私は壊れていることを自覚した。
あの娘さえいなければ、こんなことにはならなかったのに。
ちがう、ちがうの! 私は、こんなの……私じゃないっ。
絶対に思ってはいけない感情が、言葉が、溢れて止まらない。私は妹を嫌悪し、妹を呪わなきゃ生きていることすらままならない。
恨むべきはあの娘じゃないのに……。呪うのは妹じゃないのに……。
ヴェイシャズを恨んで、憎んで、呪って。
それと同時に私はあの娘に恨まれて、憎まれて、呪われなくちゃいけないのに!
だけれど、私は妹を呪っていた。
自覚してしまって、それがたまらなく惨めで、伸ばしてくれた手を払いのけて、そのせいにして私は逃げた。
そこまでしたのに、なんでなの?
なんで、そんな目を私に向けるの?
ヴェイシャズをにらんでいるその眼光で私を射殺してよ。
その資格があなたにはあるんでしょ!? 止めて、やめてよ!
そんな家族を見るような目で私を見ないで……。
そんなとき、私の耳に響く。
『お姉ちゃんを返して!』
ちがう、違う。チガウちがうチガウチガウチガウ‼ 私にそんな言葉をかけてもらう資格なんてないの。
お願いだから、私を、見捨てて。
私の祈りは未だ届かず。
太陽に照らし出され、世界が紅く染まり、夜が明ける。




