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異世界に飛ばされた俺は旅をした(*リメイクします)  作者: 糸月名
第一章 異世界へと
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第一章 25 ★ミラタリオVSアルト

無数の剣戟。

一対の白刃が打ち鳴らされる度に火花が激しく飛び散り、残響が叫びのように聞こえる。


「手も足もでんかのう? いくらなんでも弱すぎじゃ」

「…………」


ミリタリオには一秒間に三〇を数える剣戟に会話する余裕があった。

笑みを浮かべるほどに一方的だった。


「口も聞けぬか若造!」

「…………」


縦横無尽。ある時は跳び上がり何もない空中を蹴り、前後左右そして上空とありとあらゆる場所から攻撃を仕掛ける。それに対し、アルトは最初の一撃以降、動きすらしない。

一撃の威力は地面を捲り返し、あたり一帯を吹き飛ばすほどだ。

しかし、何かが引っ掛かる。

何かがおかしいのう。いったい何が起こっておる?

一見、アルトには余裕がないように見える。だが、そんな状態で中心からきっかり二歩分。その範囲が一ミリたりともめくれ上がらず、傷もできなければヒビも入らない。

まるで絶対領域とでも言いたげなその空間にミラタリオは一度たりとも入れていない。

衝撃をすべてこの円の外へ逃がしているのだ。


「……ふむ。まあ、騎士としての地力は合格じゃのう。なら、ここからは本来のベイルサード同士の戦いといこうかのう」


刹那、一秒間に三〇も打ち鳴らしていた剣戟が止んだ。


(ほう、これは。これは、儂の後釜なだけはあるのう)


たった一撃。それだけで相手の力量を図ることができる。ミラタリオはようやく円の中へ足を踏み入れることができた。


「これほど、とは」


先ほどの破壊の応酬のような剣戟とは一転、見事なまでに洗練された一撃が相手の生身を狙って飛び交った。

その全てが必殺の一撃を薄皮一枚で避けあう攻防。動揺し、ミスをすればすぐさま死ぬことができる戦場だった。近くにいるヴェイシャズにその剣閃は見えていないだろう。


「ミラタリオ、貴様、舐めているのか?」

「なに?」


本当に何を言っているのか分からないミラタリオは眉をひそめた。


「ベイルサードの名は最も剣の『巧い』ものに与えられる。最も優れた技巧を持ち、繊細な一撃を放つことができるものの名だ。貴様はまだ気づかないのか?」

「わしゃ、斬られてなんかないぞ? それどころか、おぬしの方が辛そうじゃがのう?」

「……ヴェイシャズはいいのか? 先の剣を生きていられるとは思えんが?」

「これは、盲点じゃった。さすがにそこまで気が回らんかったわい」


それから堪えきれなくなり、笑う。


「愚かじゃのう、アルト」


アルトは冷えた目線を送りながら超絶技巧を秘めた剣を振るい続ける。


「最初の一撃の前に儂が蹴り飛ばした。それ以上のダメージは負わんよ。そんなことまで見えんほど貴様が弱かったとは、気づかなかったのう」

「あの一撃も見えない貴様がベイルサードに名を連ねていたのかっ。恥だな」


刹那、ミラタリオは真後ろへ跳んだ。視線だけを動かし、ヴェイシャズを見やる。

そして、驚愕した。

そ、そんな馬鹿な!

口には出さずとも、そう言ってしまったかのように錯覚する。

ヴェイシャズの趣味の悪い指輪をメリケンサックのようにつけていた右手が消え失せていた。顔を蒼白させ、しりもちをついたままただひたすらにあったはずの腕を見ていた。

出血もひどくこのままではそう長くは持たないだろう。


「いつの間に……」

「貴様はベイルサード同士の戦いがしたかったのだろう? ならちょうどいいじゃはないか。貴様が果てる前にヴェイシャズを殺してやる。貴様と戦いながらな」


ギチッ、ギチッ。


「ぐ、ぐはははははは、ハハハハハハハハハハっ‼」


額のあたりの皮膚が裂け、黒っぽい血液が溢れ出し、その顔を染め上げる。


「そんなに死にたいか、若造!」


声すらも若くなる。


「いいや、死ぬのは貴様だミラタリオ」


アルトが剣を心臓の前で構える。天を向いた切っ先、刀身はミラタリオの顔を映した。


「我は神域の騎士なり。敵を討ち滅ぼし、我が君主のために我が剣を振るう者なり。我が名はアルト・ウルベルク・ベイルサード! その名は我が剣にありっ」


その言葉は決闘の際に使われる名乗り。古の儀式は名乗った以上、敵を殺すか、殺されるかするまで剣を振るい続けなくてはならないある種の呪いだ。今では決着がつくだけでその呪いは消えるが、それでも殺し合いだ。


「我は東の地の騎士なり。敵を討ち滅ぼし、我が君主のために我が剣を振るう者なり。我が名はミラタリオ・ミース! その名は我が剣にあり!」


ミラタリオもまた騎士だ。敵に名乗らせたまま自らは名乗らないというのは恥以外の何物でもない。互いの剣に剣気が絡みつく。蒼い剣気がアルトで、血のように赤黒い剣気がミラタリオのものだ。


「本気で行くぞ、ミラタリオ。俺の巧さについて来い」

「ククク、若造が。儂の前で平伏せい!」


刹那、一撃。

音も分かりやすい衝撃もなかった。互いに斬ることすらままならない位置で剣を振るっただけだった。にもかかわらず、音が死んでいた。様子を見に来た兵士たちの声すらも聞こえなかった。

そして、二人の剣線をなぜるように壁と床が裂ける。それにすら音もなく、アルトとミラタリオのいる場所だけが見事に切断されていなかった。

この一撃にもついてくるかのう。久しぶりに血が騒ぐわい。


「っこれは、押し負けたかのう」


ピシッ、と音を立ててミラタリオの剣が折れる。


「ミラタリオ。不死とまで謳われた貴様はそんなものか?」

「あ?」


そのとき、視界が裂けた。


(いったい、何が……)


気付けば顔に袈裟懸けの傷が入り、右側がずり落ちていた。


「いつ、のまに」

「たった今だよ、愚か者」


ミラタリオの残った視界の先ではアルトが剣を振りかぶっていた。同じくしてミラタリオも刃が半分ほどしかない剣を振りかぶる。

ほぼ反射的なその行動に呼吸すらついて行かなかった。

そして、一撃。


勝負は決した。

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