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異世界に飛ばされた俺は旅をした(*リメイクします)  作者: 糸月名
第一章 異世界へと
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第一章 23 △ミクハ・ドラクル


「きゃあ!?」


城全体が激しく振動してミクハは尻餅をついた。


「いつつ……、いったい何が?」お尻をさすりつつ視線を上げると部屋が消えていた。「はあ――え?」


正確には部屋が消えているのではない。城だ、城が半壊しているのだ。


「な、なによこれ……」


恐る恐る、崩れた床のギリギリまで慎重に進んで、怖いもの見たさで下を覗き込む。


「く、崩れてる……。いったい、何があったの?」


城の最上階に当たるミクハの部屋の三分の一が消し飛び、城そのものは六割ほどが消し飛んでいた。ただでさえ高い場所にある部屋。地形変動で急激に競り上がった崖の上に建てられた城という立地を自覚させられるほど高く、眩暈を覚える。

これが神域の騎士たちの一撃によるものだと説明しても理解することはできないだろう。

その時だった。


「見つけた」

「え? あ……きゃっ!」


いきなりの声でぎりぎりで踏ん張っていた足を踏み外す。浮遊感と共にバランスを崩して半壊した城を逆さまに見下ろすことになった。

しかし、落下死は免れた。

落ちなかったのは他でもない、風月がその腕を掴んでいたからだ。


「っぶねぇ」

「や、やだ……、死にたくない」


一〇〇メートル近い高さを目の前にして死を強く意識して震えあがる。目を瞑って風月の手に必死にすがろうとする。


「た、たす。たすけっ」

「お、おい暴れんな! 本当に落ちる、落ちるから!? 俺の体制見ろっ、見てくれ‼」


恐る恐る目を開けると、風月は体をほぼ全部何もない空間に飛び出していて、ベッドの足に手をひっかけてギリギリその場で体勢を保っていた。


「あっ、ごめんなさ」

「もう少しだ。もう少し待ってろ」


風月が声を遮ってゆっくりとミクハの身体を引き寄せる。それから数分、風月はミクハを引き上げることに成功した。


「お前が、ミクハで、あってるな?」

「はい……」


床に座りながら上がった息を整える風月の声に頷く。


「俺は風月凪紗。お前を助けに来た」


私はその言葉に疑いは微塵も感じなかった。でも、分からなかった。

なんで、助けに来たの?

そう聞きたかった。


「あ、あの……、いえ」


でも聞けなかった。肺が空気を吐き出さず、声が詰まってしまった。でもそれは建前だってわかっている。事実を聞いてしまったら私は逃げ出してしまうような気がしたから、聞かなかっただけなのだから。


「どうした?」

「何でも、ありません……」


風月は首を傾げる、しかし深くは追及せず城の惨状を見渡すために立ち上がる。


「なんだよこりゃ。アルトの奴、派手にやったなあ。ティアは大丈夫なのか」

「なんで?」

「あん?」


ティア、その名前は私の揺らいでいた気持ちを後押しさせるには十分だった。


(やっぱりこの人は……)

「なんで、その名前を?」

「……、……」


帰ってきたのは沈黙。風月はどう答えるか決めあぐねていた。

原因はアルトがティアの家族の話を遮ったところに必死さがにじみ出ていたことだ。ミクハは少なからず今回の件の深い部分に関わっていると予想しているのだが、吸血鬼のことを話していいものかどうか迷っていた。


「やっぱり。あなた、なのね……」


私の頭の中では神域の騎士の言葉がリフレインしていた。


『……ああ、確かに買った奴はいた』


目の前の男がティアを買った。


「あなたがっ」


『魔の山で『血縛の契り』をあろうことかその首魁と結んだバカがな』

『交易のための陸路開拓を飲ませた。神域の騎士三人と二万もの兵士が成し遂げられなかったことをたった一人、それも数時間で成し遂げてしまった』


目の前の男が戦争を引き起こした火種を解決した。


「あなたがティアを助けなければっ」


『テメェ等ごときが一生かかってもなし得ないことをやってのける男だよ。女ひとりを剥いて喜んでいる下衆のテメェと比べることすら烏滸がましい!』


目の前の男が神域の騎士にそう言わせた。

その言葉は私に一番突き刺さっていた。

この男さえ、この男さえいなければ私はこんな気持ちになることもなかったのに。この男がティアを――助けなければ。

湧きあがる感情の名は憎しみ、そして怒り。


「私はこんなに惨めになることもなかったのに」

「――っ」


私は密かに持ち歩いていた自決用のナイフを引き抜く。いつか、ヴェイシャズの首を掻いてから私の首を落とすためのナイフを。


「あなたさえいなければっ、私はまだ生きられたのに! こんなに惨めなら、生きている意味がないじゃないっ」


何を言っているのか理解している。どれだけ理不尽でどれだけ酷いのかも。だけど、言わずにはいられなかった。

ナイフが風月に届くまで時間はそうかからない。

どんなふうに握って、どんなふうに振るったのかも混乱と興奮で、記憶はあいまいだけど、金臭い血の香りが辺り一帯に広がっていくのはわかった。


ふと我に返ったとき、目の前に一人の男が転がっていた。

血だまりの中に。


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