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異世界に飛ばされた俺は旅をした(*リメイクします)  作者: 糸月名
第一章 異世界へと
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第一章 22 ☆テーブルクロスと領地奪還戦


「き、吸血鬼……だと?」

「あァ、そうだァ」


嫌な空気が張り詰め、ピリピリと肌を焼いた。


「おちょくっているのか貴様ッ!」

(吸血鬼? 知ってるよ、そんなこと)


アルトは自分でも会心の演技だと感心した。それと同時に風月の作戦を思い出していた。




『まず、適当に理由をでっち上げて相手から吸血鬼の情報を引き出せ。ついでにお前はこの話を聞かなかったことにしてくれ』

『それでどうなるんだい?』

『やってみればわかるけど、相手は困惑する。とにかく時間を稼げ。俺たちに対して激怒したみたいにブチギレてくれ』

『風月はどうする? さすがにミラタリオ相手に二人は守りきれないよ? 老人、されど神域に足を踏み入れた人間だ』

『守りきれないなら、守らなければいい。俺はいかないさ。ミクハも確保しなきゃだし。最悪ミクハを確保して馬車でこの貴族領を出ればいい。調達もしておくさ』




啖呵を切ったくせに行かないのかとその時は思った。そして、細かい話を夜になるまで詰めて、作戦を実行している。

この後はとにかく時間稼ぎをして、ミクハ嬢を確保し、城を離脱。


「し、知らないのかァ?」

「その侮辱は何を持って(そそ)げばいい? 貴様の血か?」


断罪の剣を向けるとやはりミラタリオが反応した。


「今は飯の最中じゃ、その枝をしまえ」

「ほう? 枝か? 貴様も衰えたな、眼も見えなくなったか。辛いだろう? 介錯人は直々に務めてやろう。さあ、懺悔しろ」


その時、ティアがアルトのマントの裾を引っ張った。

アルトは舌うちをして剣を収める。


(曲がりなりにもティア嬢は貴族か、この場の誰よりも弁えている)


八歳ほどの幼女よりも礼節を弁えられない自分に恥を覚えたのも、つかの間。


「……引いて?」

「は?」


 困惑した。


「クロス」


目をキラキラさせているティアの言葉をアルトはしばらく理解できなかった。


(あ、前言撤回。俺よりもぜんぜん弁えてないや。いくらなんでもマイペース過ぎないかい?)


心の中でまでかぶっていた仮面をあっさりと貫かれた。手を返しつつ、テーブルに目をやる。

長さ八メートルほどの長机の上には薄ピンク色のテーブルクロスが掛けられていた。その上には所狭しと料理や飲み物が並べられている。


「あー、ティア嬢? さすがにこのサイズはテーブルクロス引きするもんじゃないと思うが」

「やって?」


上目づかいで見られるとロリコンのアルトは断れない。


「よーし、アルトお兄さんやっちゃうぞ~」

「ミラタリオ、神域の騎士一の堅物ゥ? あれがァ?」

「儂も少し心配になってきました。後釜を渡すのは早かったかもしれませぬ」


テーブルクロスに手を添えて軽くこする。


「机とのすべりは上々、さすが貴族。あとは食器の重さと、なみなみ注がれたワイン。不安定なグラス。いけるか?」


テーブルクロスに手を添えて、全神経を集中した。眼を瞑り、脳内で見事にクロスを抜く自分自身を再生した。

そして、誰もが引き抜かんとする瞬間を見逃すまいと注目した。それからかれこれ三〇秒。誰もがやがて訪れる瞬間に集中を欠かさなかった。


「っは!」


声をかけて一瞬。

カチャン、と食器が落ちる軽い音。気づけばテーブルクロスは上空を舞っていた。

盛りつけられた肉は偏ることなく元のままで、ワインをなみなみ注いだワイングラスは細波一つ立てていない。


「ふぃ~。どうだティア嬢!?」


シンと静まり返り、返事はなかった。


「……ティア嬢?」


当りを見回す。やはり返事はない。

なぜなら、齢わずか八の少女は敵の本拠地でどこにもいなかったのだから。

嫌な予感がアルトを支配する。


(こんなことは、風月のシナリオにはなかったぞ!?)


と、なれば敵しかいない。


「ヴェイシャズ?」

「いやァ、知らんよォ?」


ヴェイシャズはミラタリオをチラリとみる。しかしミラタリオもぶんぶんと首を横に振る。


「……貴様等、ティアをどこにやった?」

「いやァ、ね? 本当にしらな」


チンッ、ヴェイシャズの嵌めていた指輪の身が真っ二つに分断されて地面に転がった。アルトはすでに抜刀している。

こいつらは今、ここで――斬る!


「ティア嬢をどこにやったッ!」


反応すら許さぬ速度でヴェイシャズに肉薄する。だが、ミラタリオは反応した。

振り下ろされる剣の前に自らの剣を滑り込ませる。

互いに手加減の余地が入らないほど一撃。その全容を把握できた者はアルトとミラタリオのみだろう。

打ち付けあった刃が衝撃波をまき散らし、破壊の限りを尽くさんと城全体を駆け巡った。凶悪なその斬撃は城を半壊させた。比喩でもなんでもなく、剣気をまとった一撃は

その一刀を皮切りに神様の領域に踏み込んだ者たちの戦闘が始まった。



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