1 最悪な日常
スズメが囀り、雲一つない快晴の空に浮かぶ太陽が眩しい朝。
ブラックオニキスのような光を吸い込む黒髪。日本人にありがちな漆黒の髪の毛とは少し違う印象を受けるそれを、掻き上げて百円ショップのヘアピンで止めた少年が静かな通りを歩いていた。
人っ子一人いない町は夜が明けたばかりで、空気は冷たく透き通っている。眠気を飛ばすには最高の朝だった。
そんな朝にもかかわらず、少年は陰鬱そうにスマホを片手にのらりくらりとゆっくりとした足取りで歩いていた。高校生活を初めてはや三か月。普通の学生のような生活を始めて二年と三か月。少年はすでに飽きていた。最初懐いていた輝かしき学校生活は曇り、なんだかんだ言っても社会の縮図である真っ黒な現実にため息しか出ない。謀略が駆け回り、誰かを蹴落とそうとする人間関係にうんざりしていた。テスト前に無言電話の応酬だったり、先輩にカツアゲされたりと学校生活での良い思い出はほとんどない。
〝旅〟をしていた時期なら毎日の食事まで全て思い出せるというのに、今ではさっき食べた朝食すらもあやふやだ。すべてがただの繰り返しように見えてしまう。
「ふわぁ……」
それでも通わなくてはいけない学校に、少年は欠伸をしながら向かっていた。彼自身に言わせてしまえば学校は温かった。今まで日常だと思っていた〝旅〟は非日常で、満たされていた生活は日に当たって腐ってしまった。
日常は何も感じさせてはくれないし、何も満たしてはくれなかった。
旅がしたい。
そんな思いを胸に秘め、少年は今日も学校へと歩を進める。
(あー、眠気も覚めないし、コーヒーでも買っていこうかな。昼飯も持ってきてないし)
そう思ったのはきっと契機だったのだろう。
コンビニでこの日初めての人間に出会った。コーヒーとイチゴ牛乳、そして昼飯のサンドイッチを買って、そのままコンビニを出ようとした。だが、そこで足が止まる。ガラス張りの自動ドアに写る自分の姿を見て少年は目を逸らした。
悲しそうに笑いながらポツリと。
「情けない」
旅の出来ていない自分を自虐気味に笑い、そうつぶやいてコンビニを出た。