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異世界に飛ばされた俺は旅をした(*リメイクします)  作者: 糸月名
第四章 その嘶きは雷鳴に、打ち鳴らす蹄は雷轟に。
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第四章 21 〇浮き彫りにすべき敵


風月、フレイ、レルキュリア、質屋、族長、そしてアリア。見えない砦は騒々しく、同時に緊張の糸が張りつめていた。


「……まずは、私の目を欺いたこと」


宇宙を内包したかのような瞳は鏡の向こう側からアリアを見据える。苦虫をかみつぶした表情が無言のままに語るのは苦悶。この場で糾弾されることではなく、気づけなかったことに対してだ。


「養母さまがそこまで追い詰められているなんて知らなかったんだ。それどころかあんな後ろ暗い面があることもわからなかった。私は、そんな話一度も……」

「隠されていたんだ」


アリアの隣でずっとうつむいていた風月が口を開く。サンクチュアリとも呼ばれる不可視の砦にたどり着いて以来風月は一切口を閉ざした。

それからの第一声に質屋が声を上げる。


「アリアが幼いころから洗脳したほうが楽だったんじゃないのかい? 剣気を扱える素養も才能もあって時期女王の座に就くことが決まっている」

「まだそんなズレたこと言ってやがる蒙昧無知な輩なのか、それを演じて会議をコントロールしたい道化なのか、どっちだ?」

「どういう意味だ?」


いつにもましてきつい言葉尻にレルキュリアが怪訝な表情をする。いつもの風月ならもう少し人当たりが柔らかい。何よりも、笑みが消えているのがぬぐえない違和感だった。


「まだあの女王が見えない敵だと思っているのか?」

「倒すべき浮いた敵ではないのかい?」

「違う」


一切を断じた。


「理由は武器だ。フレイ、お前乱ところにも武器が齎されたんだよな?」

「ああ。いきなりだったが、確かに来たぞ。誰にもわからない場所に埋めたが」

「獣人を滅ぼしたいというのなら、切り札になりえる武器を渡したのはなぜだ?」

「つまり、何が言いたいのですか?」


鏡の向こうの瞳が、今度は風月を捉えた。


「見えない敵は見えてないままだ」


見るたびにゾッとする沈んでいきそうな深い族長の瞳に、風月が睨み返す。


「……」

「……」

「その見えない敵、というのはあなたの事では?」


引き絞った弓のような緊張感と静寂の中、ぶつかり合う視線。


「戦いが激化したのはどう考えてもあなたが来る直前です。武器もおそらくそのタイミングでもたらされた。神域の騎士ならともかく、あなたのかかわりが見えてきません。わかりますか? 唐突に表れ、私たちの中枢へもぐりこみ、そのうえであなたは誰とも関わり合いがないという異常。この地での争いを言い当てたことも含めてすべて知っていたのではないかと考えています。それにあなたは私の目を欺いた。その方法を使えばこの地電約することも難しくないとも思っています」

「まったく同じ言葉を返そう。この二つに武器をばら撒き、お前らが享受してないのは変だ。共倒れになって最も得をするのは時期女王であるアリアを抱えたお前ら。それに質屋、お前どうやってここまで戻ってきたんだ? 神域の騎士ですら追いつけない速度で走るハイトラよりも先についていたみたいだが? 誰よりも早く危機を察知できるみたいだが、知っていたのなら可能だよな? 武器をばら撒くタイミングだって、ヴァーヴェルグのことを知っていたお前らになら、見極められたはずだ」

「……」

「……」


お互いに不可能の証明。

正しいことも間違っていることも証明できない。だが、風月の気が立っていることは理解できた。


「仕掛けるタイミングは悪くなかったと思ったのですけれど、証明できませんね」

「タイミングはな。だが、相手が悪い。フレイは動かないだろうし、レルキュリアもいる。アリアじゃ勝てない」

「……本当に厄介ですね」

「ど、どういうことだ?」


最悪レルキュリアと戦うところまで身構えたアリアにとって、二人の会話は異常そのもので、空気だけが引き締まっているのに、会話の内容は明らかに軟化している。


「見えない敵はこいつじゃない。むしろ、もっと狡猾な輩だ」

「まったくの同感です。犯人像は冷酷無比で緻密な作戦に状況を利用する臨機応変さがあります。こんな何でもかんでも自分で首を突っ込みたがる者とは一致しません。ついでに言うのなら、『戦人』を助ける意味がありません。その人物像にあっているのが……」

「どういう訳かな……、一人だけいるんだよ」

「すべての組織に内通し、自由に聞き出来る男」


風月と族長の視線が質屋に集まる。


「ぼ、僕かい!?」

「私は違うことは分かっているんですが、問い詰めている横でもっと怪しい人が側にいて、空しくなっただけです」

「俺はずっと気に食わなかったけどな」

「私が保証します。質屋は内通者ではない。そして、フレイを助けたあなたも、敵ではない」

「ふんっ、なら敵は誰だ?」

「族長の目を欺ける何者か」


茶化されたようで眉間にしわが寄るフレイだったが、風月はいたってまじめだった。そして、その言葉であることを思い出す族長。


「それでいうのなら、あなたはどうやって私の監視をかいくぐったのでしょう? 間違いなく出血していたはずです」

「あれか? あれは、これよ」


魔術で収納していたのはサボテンの実だ。むしろ、収納の魔術を使ったことにレルキュリアが驚いていた。だが、それはレルキュリアが知っている者とは違いかなりしぼんでいる。


「傷はハイトラに噛ませて本当に造ったものだけど、口の中でこいつを潰しただけだ」


端っこを千切ると中からペンキのような液体が漏れてきた。かつてのみずみずしさは失われ、独特な香りが広がる。手首を伝って床に滴る前に舌で舐めとると、その場の全員が顔をしかめる。この世界では赤いものというだけで肉以外は食用にならないらしい。

粘つく果汁が歯に張り付くのを舌でこそぎ落としながら、水分と一緒に抜けた酸味に思いを馳せる。


「前のほうがおいしかったな。甘くはなったがレモンみたいな酸っぱさが良かったのに」

「すいません、気分が……」


血を啜っているようにしか見えない姿に吐き気を催したアリアが口許を抑えてそっぽを向いた。


「もともとは質屋に対して手札の一つになればいいとか思っていた程度だったんだが、予想外に役に立った」

「きみ、僕の事警戒しすぎじゃないかい?」

「怪しいのが悪い。ただ、このことからわかるように、お前が見てるのは薄っぺらな表面だけだってことだ。それならいくらでも騙せる。例えばこんな感じにね」


はぐっ、と果実に齧りつき身を首の力で引きちぎると中からナイフが出てきた。ちょうど柄の部分を口で押えて引きずり出した感じだ。

カランと地面に落ちて音を立てた。


「誰も気づかない」

「……っ」


フレイの首にナイフが突きつけられていた。実の中から出てきたナイフに気を取られて、左手の動きを見逃したのだ。

すぐにナイフを腰に差しなおすと、笑いながら言う。


「結局見ているのはあくまでも全体だ。局所に集中すれば他所が疎かになるし、全体を見れば細部の観察に向かない。穴はいくらでもあるってことだ」

「……ええ、業腹ですが、その通りです。クォリディアの動きに気づけませんでした」

「ついでに言うのならフレイの動きにも気づけなかった」

「ふんっ、その場の思いつきだ。気づかれてたまるか」


フレイのフォローに族長は頷く。


「どうしてあんな無茶なことを強行したのですか?」

「獣人はエルフの血族序列とは違い実力主義社会だ。私に意見できる奴は多くない。何より、エルフに対して最も太いパイプを持つのは私だ。交渉は一任されている」

「「「交渉……」」」


風月、質屋、族長の声が完全に重なった。

かくいう風月もそこまで交渉らしいことはしていないし、脅しとブラフのオンパレードでここまで押し通してきたが、それでも直接ぶつかるフレイの『交渉』はさすがに同意できなかった。

この微妙な雰囲気を変えるべく風月が話題を切り出した。


「これからどうする―、というかフレイ、どうするつもりだ?」

「私も気になっています」


風月と族長の意見は同じだった。

過程はどうあれ、フレイは第三陣営に片足を突っ込んだ。すなわち、獣人たちの大半が第三陣営に引き込まれたことを意味する。共同歩調をとるのか、独自路線を進むのかでこの森の趨勢は大きく変化する。


「……ふんっ、お前らに協力する。だが、クォリディアだけは任せてもらう。ケリは自分でつける」


ふさがりはしたが、フレイの腹には傷跡が残っていた。それを指で撫でながら過去に思いを馳せる。神域の騎士であるレルキュリアが頷き、族長も同意した。だが、風月だけがその姿を一歩引いた、俯瞰した状態で見ていた。だが、最終的に口をつぐんだ。


「これで解決すべきことはあと二つだね」

「そんなに少ないか?」

「ああ、それだけだ。連絡方法と、敵の正体」


さらに苦い顔をする風月。もっと細かなプロセスに分けていた風月に対して質屋の装丁は大雑把すぎる。


「私に悟られない連絡方法があるのなら潰しましょう。それで敵を炙りだせます。それができたら苦労しないとはわかっているのですが、それ以外に有効な方法がありません」

「今夜、というより日が暮れる今からクォリディアから目を離すな。絶対に接触があるはずだ」


それはこちらが打てる最大の手だった。待ちに徹し観察する。それ以外に打てる手がないともいう。

そうして各々が今後起こりうる戦いに準備を進めていく。フレイも族長たちも、戦いを防ぎたいのに戦禍が広がっていく予想が生々しくできてしまうことが歯がゆかった。

そんなか、早々に退散した風月は扉のすぐ近くでフレイを待ち伏せしていた。


「何か用か?」

「聞きたいことが一つだけ」


風月より頭一つ分高いフレイを見るときは自然と見上げる形になる。切れ目は冷静に風月を見つめた。大きな胸を支えるように腕を組み、無自覚のままそこが強調されるが、風月の眼はそんなところに奪われない。そして笑みもなかった。


「やれるの?」

「私は『戦人』だ。獣人たちを背負っている」


それだけ言うと風月を避けて歩いていった。


「そんなことが聞きたいわけじゃないんだけどな……」


戦えるのかどうか、聞きたいのはそこであったのに、義務感の返事をされて思わず言葉がこぼれ、その独り言を聞いていたのはレルキュリアだった。


「なんでもない。ちょっと付き合ってよ。外まで」

「護衛だからな、どこまでもいくだ」


横を歩くレルキュリアに口を開く。


「このままエルフ領に身を隠すぞ。俺たちもクォリディアを見張る」

「それは良いが、この会話も族長には筒抜けだぞ?」

「むしろそれがいい」


風月の言葉の意図が読めずに首をかしげる。


「アイツだけは裏切らない。それに、最も危惧しているのは知らないうちに情報の域気があることだ」

「どういうことだ?」

「本人が知らないうちにクォリディアと黒幕の情報の受け渡しをしているって意味だ。俺たちはそっちを張る」

「そんなに近づけるのか?」

「いいや、怪しそうなやつを追って現場を押さえる」

「……」


そんなにうまくいくのか?

声が聞こえてきそうなほど表情を曇らせるレルキュリア。


「うまくいかなくてもいい。何ならばれてもいい。見張られている、その事実が情報の受け渡しを難しくするからな」


レルキュリアという護衛がいてハイトラに頼めば足も確保できる。この作戦はフレイ以外にできるのは風月のみ。どう転んでも悪くならない。それならやらない手はなかった。


「俺の命はお前次第だ。『預ける』ぞ」

「……!」


レルキュリアは驚いた顔をした後すぐに笑顔を見せた。

素材を預けないのに命を預けられる、鍛冶師のレルキュリアとしては不思議だったが、その関係がたまらなく心地よかった。


「任せておけよ」


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