贖罪
雨の日だった。以前は鬱屈とした気分にさせられた雨だが、今ではその雨音を落ち着いた心地で聞けるようになった。けれどこの日ばかりは違った。
リリーの刑が決まった、とラゼルから聞いたのは、そんな雨の日のことだった。
執務室でいつものように仕事をするラゼルはぱらりと、報告書を捲りながら告げた。感情はない。憐れみも怒りもなかった。
「……刑期は?」
「懲役12年だそうだ。陪審員の多くが減刑を求めたらしい。3年近い減刑とは予想が外れたな。リリーの普段の振る舞いがそうさせたんだろう」
「そっか」
赤い瞳が資料からルカへと移る。
「お前はどう思う?」
「どうって……長いようにも、短いように感じるよ」
「被害を受けたのはお前だろう」
「そうなんだけど……」
答えが出ない。12年というとルカの年齢とプラスすれば30歳だ。そう考えると長すぎる気がする。けれど法律的にも10年以上というのは決まっていることだ。それにあの時の恐怖を考えると妥当なようにも感じてしまう。そう思うのは狭量だろうか。
ルカは考えた末に口を開く。
「会いに行ってもいいかな?」
ルカの言葉にラゼルは溜息をついた。
「……止めても行くつもりだろう?」
「流石ラゼル。よく分かってるね。今から面会ってできるかな?」
「今すぐにとはいかないが、今日の昼間には」
そう言うとラゼルはセレンで動く電話機を手に、国立刑務所に電話をかける。幾つかのやりとりのあと電話を終えたラゼルが「昼間の12時半に面会予約を入れた」と言った。「ありがとう」とルカは言う。
「国立裁判所の場所は分かるか?」
「勿論」
「……ついて行ったほうがいいか?」
「過保護だなぁ。大丈夫だって。何かあったら、これ、鳴らすよ」
そう言ってルカが指さしたのは、青白い光を溜め込んだ小さな石が組み込まれたブレスレットだった。ラゼルが中級魔術で生成した石は望む時や有事の際にお互いの場所が分かるようになっている。ちなみにこのブレスレットはラゼルとルカだけじゃなく、グラムにもつけられている。信頼のおけるグラムを加えた三人なら、お互いに何かあった時連携が取れるからだ。
その事を忘れていたのだろう。「そういえばそうだったな」と溜息をつく。どうやらかなり疲れている──というより、滅入っているように見えた。
「ラゼル。何かあった?」
「……いや。何でもない」
こういう時は大抵、何かあるときだ。けれどルカは敢えて追求することをやめた。いつもだったら問い質すが、今日のラゼルは何か違うように見えたかららだった。ルカは「それじゃあ」と執務室の椅子を立った。
「そういう訳で今日の昼食は各自食べること。ラゼル、ちゃんと何か口にしてね」
「ああ、分かった」
やっぱり、変だ。ルカは眉根を寄せる。どうしてだろう。話して欲しいが、無理強いはやっぱりできなかった。ルカはぎゅっと拳を握ると、ラゼルの異変など気付かないふりをして執務室の扉に立った。
「それじゃあ行ってくる」
「気を付けろよ」
「はいはい。行ってきます」
ひらひらと手を振ってルカは執務室を出ると、小さく溜息をついた。誰にでも隠し事はあるし、愛する人だからといってそれを全て開示する必要は無い。ただ、今日見せたラゼルの憂いを帯びた瞳は、冷たい雨のようだった。
王宮を出て、馬車に乗ったルカはふうと息を吐き出す。揺れ始めた馬車の中で今度はリリーのことについて考えた。どうして会いに行こうと思ったのか。自分でもよく分からない。ただ、「納得」したいのかもしれない。
窓の外の雨を見ながら考え事をしていると、あっという間に国立刑務所へと辿り着いた。護衛の者をやんわりと退けて、ルカはひとり刑務所へと足を踏み入れた。刑務所の面会室に入ると、硝子の窓越しにリリーが見えた。分厚く強固な硝子は明確に二人の距離を隔てているようだった。リリーは真っ白な囚人服を身に纏い、長い髪は一つに結わいていた。それでも、麗しい姿だった。
椅子に座ると緩慢にリリーがルカを見た。綺麗な、遠浅の海のようなエメラルドグリーンだった。
「……ルカ様」
薔薇色の唇が動く。ルカはリリーを見張っていた刑務官に言う。
「すみません。二人で話したいので席を外してくれませんか?」
「……それは流石に、ラゼル様のご婚約者様であっても……」
「お願いします。何か起きても私が全部責任を取りますので」
「……分かりました。何かありましたら緊急報知器がありますので報せてください」
「ありがとうございます」
そう礼を言うと、リリーの背後で刑務官が扉を閉めて去って行く。二人きりの空間。先に口を開いたのはリリーだった、
「どうして此処に? あのようことをしてしまったのです。わたくしが赦しを乞うたとしても許してはくれないのでしょう?」
「今更許しとかは正直私にも分からないのですが……ただ私なりに納得したいと思って、来ました」
「……納得、ですか?」
「はい。私は貴女がなぜあんな事をしたのか知りたい」
「何故って……そんなの、私がラゼル様の婚約者になりたくて」
「違います」
ルカの否定にリリーが目を見開く。
「『婚約者になりたい』から貴女は、ああいうことをしたんじゃない。ラゼルが好きだったから、愛されたかったから、ああいった事をした。だからこそ知りたいんです。あなたのラゼルへの愛情についてを。いつだってラゼルを愛していると言った貴女の瞳は、本物だった。だから教えてください。貴女の気持ちを」
そう告げるとリリーは驚きの表情を作ったあと、長い睫毛を伏せた。それからぽつり、ぽつり、と雨のように言葉と口にした。
「……一目惚れでした」
懐かしい思い出を綴るようにリリーは穏やかに話し始める。
「あれは学院での初等部のこと。王族ともまだ知らない頃に、一瞬でわたくしは、恋に落ちたのです。6歳で初等部に入ってからずっと、ラゼル様しか見えませんでした。……ラゼル様は、よく笑い、多くの友人たちに囲まれて、時々悪さもする子どもらしい子どもでした。6年近く、それを見てきました。わたくしは、他の女生徒とは違ってラゼル様に話しかけることができませんでした」
「ラゼルにもそんな時期が……」
明るく笑う少年。友人たちに囲まれて無邪気に遊ぶ姿。それを全部リリーは見てきたのだろう。だがリリーの表情が暗くなる。
「けれど、12歳くらいの頃からでしょうか。ラゼル様のお兄様が亡くなってから、ラゼル様は別人のように変わりました。笑顔が消え、その無感情さから人は遠ざかり、けれどそんなことを気にせずラゼル様は只管に学問に打ち込んでいました。その頃はグラム様が唯一、ラゼル様のご友人でした。今もそうであるように」
リリーは色あせない記憶を辿るように言った。
「それから……あれは15の頃だったでしょうか。既にグラム様と共に飛び級し、わたくしより二つ上の学年になっていたラゼル様とたった一度だけ、言葉を交わしたことがありました」
「……何を話したんですか?」
深刻な面持ちでルカが尋ねると、リリーは困ったように眉尻をさげて笑った。
「大したことじゃありません。廊下でぶつかって、持ち物を落としてしまった時にラゼル様に拾って頂いただけのことです。大丈夫か、という一言だけの会話。けれどわたくしは、ラゼル様の瞳を見て、足りない、と思ったのです。長い恋の果てに諦められるかと思ったのですが、ラゼル様の美しいのに──あの寂しい目を見たら、わたくしがこの方を支えたいと思ったのです。愛する人を、わたくしが……救いたい、と」
「そうですか……」
リリーもまた、ラゼルの悲しみの欠片に触れた人だったのか。だからこそ、愛しているという感情より、愛を与えたいという感情が勝ってしまったのかもしれない。それを悪いことだとは思わない。リリーは苦笑した。
「それほど長い間、ラゼル様をお慕いしていたので、正直な話ぽっと出の貴女に奪われたくなかったのです」
「確かに私もリリーさんの立場だったら、苛立つでしょうね。どうしていきなり現れた女が、ラゼルに愛されるのかって」
でも、とルカは溜息をついた。
「貴女はやり方を間違えてしまった。正々堂々、戦えばきっとお互いわだかまりを残さずに済んだでしょう」
「正々堂々って……」
「そりゃあアピール勝負とか、殴り合い勝負ですよ。殴り合いだったら、リリーさんの美貌なんて関係なく、純然たる力勝負でしょう?」
「ふっ」
ルカが提案してみれば、口元を押さえてリリーがぷるぷると震えていた。けれど押さえきれなかたのだろう、声を上げて笑った。無邪気に笑うその姿に虚を突かれて見ていると、リリーが「ごめんなさいね」と言って微笑む。
「あまりにもわたくしには思いつかない提案で……女性同士の殴り合いの勝負なんて、聞いたことがありませんわ」
「そうかもしれませんね。でも白黒ハッキリつくじゃないですか。まぁ勿論、最終的に選ぶのはラゼルなんですけど」
「それじゃあ意味がないじゃないですか」
くすくすと笑う姿は、とてもルカを陥れた人間には見えない。いや、元々はそういう人間ではなかったのだろう。単にルカの存在が、リリーの中に今までなかった独占欲という感情を作り出したのだ。ルカがリリーと同じ立場だったら、もしかしたら同じような、酷いことをしてしまっていたかもしれない。
ああ、そうか。
ルカはそこでようやく納得した。
愛しいから、愛を与えて救いたかったから、その立場に自分が立ちたかったから、リリーは間違えた。たとえ悪にと手を染めようとも、自分が、ラゼルを救いたいとリリーは願ったのだろう。公爵家の令嬢という地位も捨てたとしても、十年以上もこの美貌を閉じ込められることになったとしても、きっとリリーに悔いはない。何故なら目の前にいるリリーは、純粋に、ラゼルへの愛を語っているのだから。
「リリーさん」
ルカはリリーの美しい瞳を見ていう。
「ありがとうございました。お陰で、納得できました。理解して欲しいとは言いません。きっと私達は、似たもの同士でした。ラゼルの憂いに気付いて、どうか救いたいと願って、それが愛だと知って──それなら誰だって愛する人の為になら何だってしたくなる。リリーさん、この刑期は貴女にとって長いものでしょう。けれど、ラゼルへの愛は思い出として、この時間が消化してくれると思うんです。もしかしたら時間以外のものも、あなたを哀しみから救ってくれるかもしれませんが」
ルカは立ち上がる。何か言いたげにしているリリーに、ルカは微笑む。
「一生背負わなければならない罪はありませんよ。その罪を、心から懺悔することができれば」
そう言うとルカは面会室から立ち去った。刑務所を出ると、まだ灰色の空からは雨は降っている。ふと、今朝見たラゼルの表情を思い出した。リリーの言葉を思い出す。愛する人を自分こそが救いたかった、という言葉。馬車に乗ろうとしてルカは足を止め、腕輪でラゼルがどこにいるのか探す。
ラゼルがいるのは馬車に乗って、それから徒歩。そんな場所に何があっただろうかと思いながら、ルカは行者に馬車で目的地へと向かうようお願いする。
──『ラゼル様の美しいのに──あの寂しい目を見たら、わたくしがこの方を支えたいと思ったのです。愛する人を、わたくしが……救いたい』
ルカは瞑っていた目を開く。もし出会わなかったらルカとラゼルの運命も違っていた。それともラゼルが言っていたように、自分たちはどうやっても出会う運命だったのだろか。思わず幸せな苦笑が零れる。
馬車が目的の場所に着き、ルカはそれから傘を持って徒歩で腕輪の光が示す方向へと歩く。鬱蒼とした木々をかき分けて、木々から雫が頬に落ちて、その森が開けた場所に、青々とした草花があった。
そこにラゼルは立っていた。こちらに背を向け、黒い喪服を着て、黒い傘を差している。どうしてこんなところに、と思ってルカが一歩前へ足を踏み出すと、ラゼルが無表情に振り返った。
感情の抜け落ちた表情に、久しぶりに心臓に冷たいものが落ちていく。けれどルカを見ると、その表情に感情は戻ってきた。だが戻ってきたのは、深い哀しみの色だった。その雨に濡れた足元には、石碑が立っていた。こんな自然の中にありながらも、石碑は苔生すことなく綺麗に手入れされているようだった。そしてその傍らには、アネモネの花束が置いてあった。
ルカは隣に並ぶ。石碑には「レルシャール・コリンズ」ろいう名前と、日付だけが記されていた。亡くなった日は分かっても、産まれた日は分からない。その意味はわからなかったが、ルカは口を開く。
「……今日が、『あの日』だったんだね……この石碑の人、お兄さんの恋人?」
「そうだ」
「……毎年一人で、来てたんだね」
「……ああ」
ラゼルは沈鬱とした表情で頷く。やっぱり、ルカは目の前の死者が許せなかった。けれどラゼルの悲しげな瞳を見て要ると、湧き上がってきた怒りも沈んでいった。
「ねぇ、産まれた日が書いてないのは……」
「娼婦だったらしい」
「……え?」
「後で分かったことだ。孤児院で育った彼女は娼婦であることを隠して、金目当てに兄上に近寄った。昼間は花屋の手伝い、夜は娼婦。それが彼女だった。だが、婚約者になれば娼婦であることが露呈する。それを恐れて彼女は恐らく、手っ取り早く金を手に入れられる悪魔の手を取ったのだろう」
「……そうだったんだね」
それ以外、何も言葉が見つからなかった。孤児である彼女はきっと貧しさという不幸を痛いほど知っていたのだろう。ルカたちには知らない苦しみもあったに違いない。だからこそ自分を好きになってくれた第一王子のジュダを利用した。けれどすぐにそれが愚策だったと気づき、悪魔と取り引きをした。その過程の中に少しでも愛があれば、こうはならなかったのかもしれない。それと、秘密を打ち明ける勇気。全てを話し、また受け入れてくれる関係だったら、違っていた。
雨音に交じって、ラゼルの声が聞こえた。
「俺は、兄上が殺された時、この国の……いや、この世界の全ての人間が信じられなくなった。……王族として失格だ」
細かい雨が誰かの涙のように降り注ぎ、石碑は濡れていく。ラゼルはずっとこんなに重い思いを抱えて、9年も一人で通っていたのか。そう思うと、胸が痛くなった。兄を殺したけれど、兄の大切な国のひと。その二律背反に苦しめられ続けてきたのだろう。
「……人を愛することなど、ないと思っていた」
雨の滴が跳ねて、落ちる。傘の暗がりの中で言うラゼルは、寄る辺のない子どものようで、すぐにでも抱きしめたくなった。けれどラゼルがこちらを向いた時、その哀しみはなくなっていた。真剣な眼差しでルカを見ていた。
「だがルカ。お前と出会って、変わった」
「出会って……そうかな? 私、大したことしてないよ」
「そんなことはない。俺は……お前が家族を自分を犠牲にしてでも守ろうとした所も、俺の父上のことを案じてくれたことも、俺に恥をかかせまいと必死に努力したことも、誰よりも俺の身体を案じてくれたことも……何もかもが懸命で、安心してお前を信じていいんだと俺に思わせてくれた」
だから、とラゼルは微笑む。
「ありがとう、ルカ。お前と出会えて良かった」
赤い瞳は優しかった。けれどルカは、それでも足りなかった。
「残念。私はまだまだ足りないよ」
「どういう意味だ?」
「もっとラゼルの為に頑張れることがあるってこと」
「頑張れること……?」
ルカはラゼルを覗き込んで、ニッと笑った。
「前に言ったでしょう? ラゼルが背負っているもの、頂戴って。だからさ、これも同じ。今度からはラゼル一人で行かせないよ。一緒に行こう。来年の10年目も、そのあともずっと。ラゼルが満足するまで付き合うからさ。だからそんな昏い顔をしないで、私の愛しの王子様」
その言葉にラゼルは目を瞬かせたあと、長い溜息を吐き出した。
「……お前は逞しいな。時々弱いくせに、いつも俺を救う」
「逞しくないよ。ただ困ってる人に手を差し伸べるのは当然のことでしょ? 特に愛する人にはさ。……ほら、行こう。道に迷ったら私が案内してあげるからさ」
「この道は俺の方が詳しい」
「あはは、でもさ。一人で歩く道よりも、二人で歩く道の方が断然心強くない?」
「……そうだな」
「でしょ?」
ルカは笑うと、ラゼルの手を取って二人歩き出す。傘からは雨粒が垂れて、足元の草花に粒が跳ねている。ルカは決してラゼルを手放さないようにぎゅっとその手を握った。大丈夫だよ、と伝えるように。長い木々の中を抜けて、街へと戻る。
街は雨の中でも賑やかで、雨を鬱陶しそうにする人もいれば、笑いながら雨の中をかけっこする子どもたちもいる。アクアフィールに住む人々は、こんな雨の日でも穏やかな日常を送っている。待たせていた馬車にラゼルと共に乗ると、ルカは「ねぇ」と声をかけた。
「雨の日でも、アクアフィールの人々は、こんなにも平和だ。何に脅かされることもなく、『日常』というかけがえのないものを当たり前のものとしてしている。けれどそれってすごい、本当にすごいことで……ラゼル。ちゃんと見ておいてね。これが貴方が守ってきた街だよ」
花屋では色とりどりの花が売られている。赤い薔薇、ピンク色のチューリップ、青みを帯びた紫陽花、真白い百合。雨の中でも、それらを見て楽しむ客もいる。洋菓子店の中はあたたかい光が灯って、きっと甘く良い匂いがするのだろう。洋服店では楽しげに中で女性が服を選び、学院の生徒は男女入り交じって談笑しながら帰っている。
その光景を赤い目に映していたラゼルに、ルカは優しく声をかける。
「ラゼル。帰ったらいつも通り仕事がたくさん待っていると思うけど、ほんの少しだけお茶をしよう? 冷えた身体も心も、あっためてくれる。別に何を話さなくてもいい。ただゆっくりしよう。何も考えないでもいいし、今日見た町並みを思い返したりしてもいい……安らぐことをしよう」
「……ああ。いいな。その時はお前も一緒だろう?」
「当たり前じゃん」
「そうか」
ラゼルは笑う。その表情は穏やかだった。
「お前は……大丈夫だったのか? 会ってきたんだろう?」
「んー……リリーのことはさ、色々と納得できた。ようやく区切りがついた気分かな。たださぁ、私の知らない無邪気なラゼルを知っていて。正直、ちょっとだけ悔しい。勿論、私が好きなのは、今のラゼルなんだけどね」
今ここにいるラゼルが好き。過去どうであったかルカは知らないが、ルカは嬉々としてラゼルを見た。ラゼルは視線を逸らし、言う。
「本当にお前は……平気で好きとか、言うな」
「思ったことを言っただけだし。それにラゼルだって最近、妙にスキンシップ多くない?」
「好きな奴に触れたくなるのは仕方ない」
むすっとするラゼルが可笑しくてルカは笑う。そんなルカを見て「笑るな」といじけたように言う。その姿があんまりにも可愛くて、ルカは少し雨で濡れたラゼルの髪をわしゃわしゃと撫でた。
「……何をやっている」
「私なりのスキンシップ」
「子ども扱いしてないか?」
そんなことないよ、とルカは嘘をつく。けれどそれをラゼルはちゃんと見抜いたらしい。王宮に戻ったら覚悟しておけ、と何やら物騒なことを言う。何だか楽しい気分になって笑えば、ラゼルもつられたように笑ってくれる。やっぱり、まだ笑うことが下手なのか、ほんのちょっとだけど。
ルカは乱れた髪を直すように撫でると、すり、と甘えたようにラゼルが手に頬をよせてくる。
──『俺にとって安心して、信じていいんだと思わせてくれた』
ラゼルにとってそんな場が、もっと広がっていって、生きていて心地の良い世界になればいいと思った。
そうしたらきっと、ラゼルもまた子どもの頃のように、笑えるのかもしれない。
あんまり盛り上がりもオチもない回でしたが、ここまでお読み下さって本当にありがとうございました!
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