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猫をなでる手

作者: 茶町

仕事終わり、冬の繁華街で待ち合わせ。

適当にに夕食を済ませて、彼の車の助手席に座る。


私の家の前についてから、

待ち合わせ前に買った二人分の缶コーヒーを渡す。

彼は嬉しそうに受け取る。


一時間前には私の家の前についているけど、

シートベルトだけ外して、ドアは開けられないまま時間が過ぎる。

いっそ、「またね」と言ってくれればいいのに。

名残惜しくて、あわよくば、告白してくれないかな。

私からは「またね」と言えなくて。


彼の筋肉が意外とあるだとか、私はお肉がついただとか、

付き合う前のもどかしい触れ合いを重ねながら他愛のない会話は続く。


時刻は午前三時を回っている。

うとうとし始めた私は運転席と助手席の間の肘掛を枕にした。

彼が私の髪を撫でる。


彼が飼っているという、愛しい猫を撫でるように優しい手だった。

私の耳に指がかかる。


少し、期待してしまう。

ただ、それ以上にうっとりする心地よさがそこにあった。

本当に寝てしまったのかと、時折私の顔を覗き込む彼の優しい顔をちらりと見ながら、精一杯の可愛い寝顔を作る。


気付けば枕は、意外と筋肉があるという彼の腕になっていた。


私の髪を、頭を、背中を撫でる彼の手が次第に熱を帯びる。

眠気の中に疼く期待。

伏せていた顔を上げて、彼を見つめた時に初めて彼が、男の人になった。

離れた唇と、交わされる視線。

「これって付き合うってこと?」

浮かぶ疑問に、重なる唇。

コーヒーの苦味が、恋愛なのか、友情なのか、お互いに探り合うあの距離感を余計に名残惜しくさせた。


猫を撫でていた優しい手はするすると、私の足の方へ伸びる。

私が小さく首を振ると

彼は愛しそうに微笑んで、両手で力強く抱きしめた。


抱きしめた、だけ。その優しさに私は安堵した。




どれだけそうしていたのだろうか。

またねと彼の車を見送る私は

名残惜しさと、嬉しさと、少しの後悔を抱えて

明るくなった道を歩きながら、

次はいつ会えるの?と送ってしまう。

付き合うって年を重ねるごとに複雑になりませんか?手をつないで満足していたあの頃の自分たちに見せてやりたい。

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