第96話『ゴールドキングと二代目』
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姿を現したのは、窓から差し込む朝日を反射させるほどに磨き上げた黄金色の機体。
「これが私用の機体なの?」
「そうだ」
「色がちょっと派手すぎない」
「え、だってシルヴィアからファーの一番好きな色はゴールドだって聞いたけど」
この機体の色はシルヴィアに姉の好きな色を知っているかと聞いて決めていた。
「私はそんなこと言ってないけど」
「そんなことはありません、昨日姉さんはお金は好きかと聞いたとき、好きだと返答しました」
「あの時の質問はこれだったのね、お金を好きか嫌いか聞かれれば大抵の人は好きだって答えるわよ」
察した。きっとシルヴィアはファーにお金は好きかと聞いたのだろう。そしてファーは好きか嫌いかなら好きと答えた。その返答をお金好きからゴールド好きに変更して俺に伝えてきたのだ。
「でも残念だったわねシルヴィア、確かに驚かされたけど、この程度で絶叫する私じゃないわよ」
「絶叫って?」
「こちらの話ですので、マスターは姉さんに機体の説明をお願いします」
「お、おう、それじゃファー、装備してみてくれ」
ちゃんとファーサイズのインナーも作ってある。準備に抜かりはない。
「かかってきなさい!」
なんでそこまで気合を入れてるの?
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■製造番号AW-06-G・機体名『チェイス・ゴールドキング』
◇中量級砲戦型 ◇カラー「メタルゴールド」
◇素材 フォルテ合金
◇機体構成
「コア(C)」上級魔結晶
「ヘッド(H)」チェイスヘッドギア(スコープ付き)
「ボディ(B)」フォルテミラープレート
「ライトアーム(AR)」ミラーアーム
「レフトアーム(AL)」ミラーアーム
「レッグ(L)」ミラー装甲フォバーブーツ
「バックパック(BP)」魔力弾生成ユニット
◇武装
・メインウェポン(AR)……マルチマジックライフル(MMライフル)
〃 (BP)……魔導連射式キャノン
・サブウェポン(AL)……ゴールドミラーシールド
〃 (B)……マジックガンソード
◇補足
チェイスのバリエーション機の一つ。体のサイズがカリンたちに近かったためファー専用機のベースに選ばれた。しかし、ファーは見た目が子供なだけで中身は魔導人形なので能力に制限をかけた子供用のAW-06T 型ではなくリミッターオフのAW-06型になっている。
また全身をゴールドカラーにしたことがカズマにひらめきを与え、磨き上げられた黄金の装甲は魔力を吸収し背中の魔力弾生成ユニットで魔導銃の銃弾を生成する機能が付けられた。
イメージモデルはチェスのキングである。
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「…………」
あれ、説明をしていたらファーの顔が無表情になって黙ってしまった。まだ武装の説明をしていないんだけど。
「次は武器について説明するぞ、まず固定武装からな、背中から伸びているのが魔導連射式キャノンだ、連射は二秒で一発の間隔だな、これ以上早くすると砲身がもたない、まあ百八十秒くらい連射したらこの間隔でも熱ダレ起こすけど、エネルギー供給は背中の生成ユニットからだから魔力が尽きるまでは弾切れは起きない」
「…………」
あのー、その沈黙は少し怖いんですけど。
「次は手持ちの魔導銃マルチマジックライフル、略すとMMライフルについて、こっちは生成ユニットからの供給じゃなくて弾倉を差し込んで弾を装填する仕組みだ。銃の上と下それぞれに弾倉を差し込む部分があるだろ、二種類の弾丸を装填できるんだ」
「……二種類ですって」
「ああ、上には魔力弾の下には実体弾の弾倉を差し込んで、横に摘みが二つあるだろ、一つはフルオート、三点バースト、セミオートの切り替えで、もう一つが魔力弾、実体弾、そしてMMライフルの最大の特徴である魔力を宿した実体弾、名付けて魔力内包実体弾が撃てるんだ」
「そのまんまのネーミングですねマスター」
「わかりやすいだろ、あれファー、どうかしたのか?」
俯いてプルプルと震えていたファー、あれ、機体の空調管理に失敗したかなとも思ったが、そうではなかった。
「――ありえないでしょーー!!」
ファーの絶叫が俺の右耳から左耳を貫通するよに撃ち向いた。やばい音だけで脳が揺さぶられる。ファーはゴールドキングから飛び出すと俺の胸倉を掴みあげ揺れた脳をさらにシェイクしてくる。
「ありえないでしょ、ありえないのよ、どうして魔導甲冑が一日でできているのよ、魔導銃だって製作に1カ月以上かかるって言うのに、それ以上に不雑な構造を持っているじゃないこの機体は、さらに、なに普通に新型の魔導銃まで装備させてるのよ、それも二種類も、連射機能付きですって、ふざけるんじゃないわよ、前マスターだって連射機能が欲しくていろいろ実験をして不可能って結論出したのに、魔力弾以外に実体弾もですって、その上、魔力内包実体弾とか世界にケンカ売るレベルの非常識よ、バッカじゃないの、バカバカバカ、この創造主二代目がーーーーー!!」
やめてくださいファーさん、脳がつぶれたプリンになりそうです。それにまだ説明していないけど、マジックガンソードも分類は魔導銃になるので新型の魔導銃は三種類装備しています。
「勝ちました」
勝ちましたじゃない、助けてシルヴィアさん、もうホントに限界です。
「チィ、わかってるわよ、約束は守るわ」
「死ぬかと思った、ファーはいったいどうしたんだ?」
シルヴィアの救助によりファーは大きな舌打ちをして解放してくれた。今朝の朝食が口からこんにちわをしそうになったけど奇跡的にギリギリの所で踏みとどまれた。
「申し訳ありませんマスター、あれは姉さんの照れ隠しです」
「照れ隠し?」
「姉さんはマスターに新しい主になって欲しいそうなのですが、恥ずかしさのあまり攻撃してしまうほどシャイなのです」
なんでファーが俺に仕えるんだ、これもシルヴィアの冗談だよな、ますます意味がわからない。
「ちょっとそこ話を捻じ曲げない、照れ隠しじゃないから、あまりの常識外な代物を見せられて我を忘れただけだからカズマも勘違いしないでよね、照れ隠しじゃないから」
大事なことだから二回言ったのね、きっとシルヴィアにからかわれたんだろ、賭けがどうのって言ってたし、これからまだ何かあるとは思うけど。
「照れ隠しじゃないし、私はヘタレでもないからちゃんと言えるわ」
乱れた髪を整え俺の前から一歩さがってまっすぐに見つめてくる。そして大きく手を振り上げて、俺の頬を叩いた。
「いってー」
なんで俺が叩かれんだ。からかったのはシルヴィアだろうに。
「魔力パターン解析完了。カズマ・ミョウギンをプロトナンバー・ワンの二代目マスターとして登録します」
え、二代目マスターっていったい?
「次は名前の登録だけど、先代が付けてくれたファーが気に入ってるからそのままでお願い、まあ、あんたの魔道具技師としての腕だけは認めてあげるから、せいぜい私に見限られないように頑張りなさいよ、二代目マスター」
一体全体どうなっているんだ。今日は朝から疑問のオンパレードだ。
「ふぁーおはよう、もうすぐ昼食?」
朝食をとってお昼寝ならぬ御前寝をしていたノネが起きてきた。こいつだけはいつもと同じで本当にうらやましい。




