第93話『獣人族の恩返し』
評価やブックマーク、誤字報告ありがとうございます。
大量の荷物を抱えてサウスナンに戻ると、南門で守備隊長のベテルドさんにあきれられた。
「お前出て行ったの今日の朝だよな、それがどうして半日ほどでこれだけ狩れるんだ」
「それはもちろんこのアクティブの性能です」
久しぶりにポーズコード01を起動してアピールしてみる。
「そ、そうか」
いまいちな反応だな、ベテルドさんはスコーメタルを倒せるほどの性能を持っていると知っているはずなのに。
「ご依頼があれば守備隊専用のアクティブを制作しますよ」
「もういいから、門を通ってくれ」
売り込み失敗か、まあノルマなんて無いから頑張らないけどね。
スコーメタルの件で顔を覚えられていたので、二度目の今回は簡単に南門を通れた。そのまま冒険者ギルド南門支部へ持ち込む、門の一番近くに支部あってとても助かった。こうして利用してみると門の一番近くという立地はとても利便性がいい。
討伐依頼を受けていたわけではなかったけど、ガマンティスは常時討伐依頼があったので事後報告でも依頼達成扱いにしてくれたが、ブラックボアに関しては討伐依頼を受けられるのが三角線ランクからだったので達成扱いにはならなかった。素材は買い取ってくれたので、それでよしとしておこう。
「これからどうするの?」
素材の代金を受け取りギルドでの用事が終わるとファーが今後の予定を聞いてきた。まだテストしていない魔導銃があるから、また樹海に戻ってテストの続きをしてもいいんだけど、このままだと狩った素材を持ち帰ってこられなくなるかも、先に運搬方法を考えようかな。
「あのさ、ボンズ魔導銃店の隣りって空き家」
「元の店のこと、使ってはいないけど土地はまだウチのモノよ」
「だったら売ってくれないかな、ここで拠点となる工房が欲しかったんだ」
「もう使うことはないから大丈夫かな、エルに確認が必要だけど多分了承してもらえると思うわ」
「では早速、了承をもらいに行こう」
これで拠点工房ゲットだぜ。
「ちょっと待ってください」
冒険者ギルドから出たところで、獣人三人娘が追いかけてきた。
「すみません呼び止めて」
「どうかした?」
「ちゃんとお礼ができてなかったので」
「お礼はちゃんと言ってもらったと思うけど」
樹海からここまでの帰り道、三人からは感謝やお礼の言葉をたくさんいただいた。
「そうはいきません、獣人族は受けた恩は必ず返す種族です。まだ駆け出しですが私たちで協力できることはないでしょうか」
「ありますとも」
つい即答してしまった。彼女たちに似合いそうなアクティブの設計を脳が勝手にはじめていたのでこれは大変喜ばしい申し出だ。
「マスター、いやらしい顔になっていますよ、夜の相手でしたら私がいるではありませんか」
「か、体で払えと」
ムギが両手で体を隠し一歩下がり、クロエはミケの後ろに逃げ込んだ。
「違うから、そんなこと求めてないから」
「あんた、私の妹にそんなことさせてたの」
「そっちも誤解だから、まだ一日の付き合いだけどファーだってシルヴィアの性格は理解しただろ」
「冗談よ」
理解した。ファーは間違いなくシルヴィアの姉である。
「戦闘よりも数倍心臓に悪いぜ」
「ごめんなさい。あんたたちも安心していいわよ、この男からは典型的なヘタレオーラが出てるから、出会ったばかりの女性を襲う度胸はないわ」
「その言い方は傷つくんだけど」
なんだよ典型的なヘタレオーラって、いてもあまり戦力にはならないけど、ノネはすでにコンテナの中でお昼寝しているので俺の味方は誰もいない。
「あら、外れてる?」
「大正解です姉さん」
「君ら姉妹はしばらく黙っててくれ、お願い」
「了解しました」
「了解よ」
「聞いての通り、さっきの冗談だから忘れてくれ」
「面白いパーティーなんだな兄さんたちは」
ミケはそんな俺たちの様子にケラケラと笑った。
「それじゃあらためて、あたしたちに何かできることはないか、兄さんたちの腕なら今後も大量に魔物とか狩れるだろ、依頼に同行して荷物運び、ポーター的な仕事とかなら手伝えると思うぜ」
ムギが少しだけ俺を警戒してしまったのでミケが代わりに話を進めてくれる。
「荷物運びは考えていることがあるから、別のことを頼んでもいいか」
「夜の相手をするには、まだ兄さんへの親愛度は足りてないぜ」
「それはもういいから、そうじゃなくて俺の本職は魔道具技師って言っただろ」
「ああ、さっき聞いた」
「この魔導甲冑アクティブアーマーも自作なんだけど、今度新しく作るアクティブのテストをしてくれる人を探してたんだ」
リンデ専用に考えているアクティブには新要素をふんだんに盛り込む予定なので、できればいくつかの試作機を作ってテストしてみたいと考えていた。それに合わせてシルヴィア以外にテストしてくれる人がいないかと思っていたところだ。
「それをあたしたちにやれって、そんなことでお礼になるのか、あたしたち魔導甲冑なんてさわったことないぜ」
「それがいいんだ、製作にはより多くの人の意見を取り入れたい。どうかお願いできないか、なんならギルドに依頼を出してもいい」
男性のテストパイロットならウルフクラウンがやってくれそうだから、今求めていたのは女性のテストパイロットなのだ。リンデに渡す機体は最高のモノを用意したい。
「どうするムギ」
「そうですね、アクティブですか、その魔導甲冑にも興味がありますしミケとクロエが嫌じゃなければ受けましょう。受けた恩を返すのが獣人族です」
「あたしは問題ない、やろうぜ楽しそうだし」
「……私も大丈夫」
ミケの元気な承諾とクロエのギリギリ聞き取れる返事をもらい三人がテストパイロットになることが決まった。
「機体の準備に少し時間が欲しいから、そうだな一週間後にボンズ魔導銃専門店ってわかる。その隣で工房を出す予定だからそこに来てほしい」
「すみません、知りません」
三人は誰もボンズ魔導銃店を知らなかった。
「このサウスナンで三百年も続く老舗なのに、まぁ、しょうがないか、道楽武器専門店だもんね」
少しだけショックを受けるファーだが、魔導銃の世間的評価を理解しているのですぐに立ち直り、サラサラとわかりやすい地図を書いてムギに手渡す。
「わかりました。一週間後にここに行けばいいんですね」
「よろしく」
こうして約束を取り付けた俺は、工房を手に入れるためエルフ美人のエルさんとの交渉に向かった。




