第90話『ボンズ魔導銃専門店』
メイド型魔導人形プロトナンバー・シリーズは、約300年ほど前に日本からこの世界にやってきたと思われる男、世界有数の錬金術師ショウ・オオクラによって制作された。
人間とほとんど違いがわからないほどの完成度で契約した主をからかうほどの豊かな個性を持つ。
「あ、あんたたちが強盗じゃないことは理解できたわ」
今まで主をからかうだけであった口攻撃だが、今の標的は実の姉に向けられている。
「自己紹介しようか、俺はカズマ・ミョウギン。シルバーメイズの最下層に奇跡的に辿り着いて君の妹と契約を結んだんだ」
「マスターカズマと主従契約を結びシルヴィアと名付けていただきました」
「へ、へー、あの変態のダンジョンを突破するなんて、あなた見かけによらず優秀なのね。もうわかっているでしょうけど、私はメイド型魔導人形の最高傑作であるプロトシリーズ、その中でも最初に作られた長姉にしてパーフェクトメイドよ、名前は前マスターからファーと名付けてもらったわ」
小さい体を反らして自分はすごいんだと強調する長姉ちゃん。
「シルヴィアの方が姉に見えるけどな」
「う、うるさいわよ、魔導人形は外見が変わらないんだからしょうがないじゃない、稼働時間はナンバー・セブン、えっとシルヴィアだっけ、シルヴィアよりもずっと長いのよ!」
「事実ですマスター。私たちプロトナンバー・シリーズは、変態創造主のこだわりにより、ナンバリングプラス10歳の設定で外見が作られました」
二人とも自分の創造主を変態と言い切っているんだけど、どんな人物だったんだろう。SOネットもその人の創造物なんだよな、優秀さと性癖は別物なんだな。
「えっと、つまりナンバーセブンのシルヴィアは17歳設定で、ナンバーワンのファーちゃんは11歳設定ってことか」
「その通りです」
「ちょっとファーちゃんって呼ばないでよね」
「悪い」
外見は相当なコンプレックスになっていそうだな。
「ではワンちゃ――」
「ワンちゃんって呼んだら妹でも頭撃ち抜くわよ」
「シルヴィア、わかっていてからかってるだろ」
「流石ですマスター、以心伝心ですね」
こんな以心伝心はいやだ。ファーは涙目で握りのある筒をシルヴィアに向けている。このままでは話が進まない、それにさっきからファーが構えている銃らしきモノが気になってしかたがない。
「あ、あのー」
「何よ」
「さっきから気になっていたんだけど、その構えているのって魔導銃?」
「見ればわかるでしょ、それ以外のなんだって言うのよ」
「もしかして、魔導銃店ってどこかに移転でもした?」
ボンズ魔導銃専門店。かつては廃墟となっている店いっぱいに展示できるほどの品物があったそうなんだけど、今は品数が減って隣の小さい店舗で現在も営業中なのだそうだ。
店の入り口は小さくアクティブを着たままでは窮屈なので入る前にアクティブを脱いだ。
「おーいノネ、起きてくれ」
「なに、もうお昼ご飯」
「違うぞ、お前は飯の時以外は起きる気がないのか、これから店に入るから俺とシルヴィアのアクティブを見ていてくれ」
「わかったのね、お昼ご飯は期待してるのね」
「よろしくな」
店の横にフゥオリジンとヴィアイギスを並べるとその回りをふわふわと飛び回りながら光の粉をふりまくノネ、すると二機のアクティブが徐々に透明になっていき見えなくなった。
これはノネの光魔法を使った光学迷彩、動かないモノ限定だがノネは物体を見えなくできると聞いたので思いついた盗難対策だ。
「まさか、プロトシリーズだけでなく光の精霊とも契約しているなんて、あんた何者?」
何者と聞かれたからにはかっこよく自己紹介しないとな。
俺とシルヴィアはインナースーツの上にお揃いの黒いパイロットジャケットを羽織る。
ナナン村でウルフクラウンが大量にゲットしたブラックボアの毛皮からシルヴィアの裁縫で作っていたモノ、作った理由は表向きはカッコいいからだが、本当はインナースーツだけだとちょっと細目の自分の体が弱そうに見えたからなのは誰にも言っていない。
ジャケットの肩口にあるデフォルメされたアクティブのワッペンがお気に入り。
「俺はジャンアーセナルからやってきた魔導技師カズマ・ミョウギン、ここには俺の制作したアクティブアーマーのメイン武装になりそうな魔導銃を求めてやってきた」
「その従者シルヴィアです。よろしくお願いします姉さん」
「息が合ってるのね二人とも」
かっこよく二人でポーズを決めてみたが、やっぱりアクティブを装着していないとしまらないか。
「ジャンアーセナル、なるほど、あの変態の同類なのね、よく理解できたわ」
なぜかとても疲れたようなため息をつかれた。どうしてだ。
「まあいいわ、お客なら歓迎してあげるわよ」
ファーの案内で店に入ると、そこには様々な魔導銃が陳列されていた。
「おおーー!!」
広さは隣の半分もないが、それでも三十近い魔導銃がある。バズーカ砲のような物からアサルトライフルのような物までいろいろだ。あっちには超砲身のスナイパーライフルなのかな予想以上に種類が豊富というか。
「すべて一品物で類似するモノがない」
「当たり前じゃない、魔導銃は完全ハンドメイドなのよ、素材を変えれば同じ職人が作った銃だって違う形になるわよ」
日本の量産品に慣れていたから出た感想、そうだような製造工場を機械化していないんだら一品一品違くなって当たり前か。
「あらワンちゃん、お客さんかな久しぶりね」
「ちょっとエル、ワンちゃんはやめてって何度も言っているでしょ!」
店の奥から出てきた若い女性にワンちゃんと呼ばれたファーが抗議するが、そよ風並の軽さで流された。
「いらっしゃいませ、ボンズ魔導銃専門店にようこそ、私は留守を預かるエル・リ・フェリエルよ久しぶりのお客様だから張り切って接待しちゃうわ」
レモンゴールドの長い髪の間からとんがった耳が伸びている。これはファンタジーの定番種族であるエルフさんではないでしょうか。
「あら、この耳が珍しい? このサウスナンには他にもエルフ族はいると思うけど、この街に最近やってきたのかな」
やっぱりエルフであっていた。少しタレ目で優しい顔立ちをしてるエルフ女性が髪をかき上げエルフ耳を良く見せてくれる。
「ほら作りものじゃないわよ、さわってみる」
「ちょっとエル、おふざけはやめなさい、孫までいるおばあちゃんが若ぶらないで!」
「あら、心はいつでも16才よ」
孫がいるのか見た目は16才って言われても信じられる外見なのに、流石エルフ、長寿族なんだな。
「もういいからちゃんと商売しなさいよ、あんまりお金もっていなさそうだけど、久しぶりの客なんだから」
「なめるなよ、魔導銃の販売価格は調べてきた。余裕で買える資金は用意してきたぞ」
「あらステキ、それならこちらなんてどうですか、当店自慢の一品ですよ」
ススメられたのは銃口の大きいマスケット銃に似た魔導銃だ。
「この魔導銃の特徴はなんと言っても使い勝手のよさね、弾丸も豊富に残っているから実戦でも使用できるわ」
金額は金貨500枚と陳列されている中で一番高額だ。
「先代のガイル・ボンズの傑作の一つでね、使いこなせばブラックボアも一撃よ、唯一の欠点は制作者のガイルがすでに故人だから弾丸の補充ができないのよね」
「弾丸は制作者にしか作れないんですか?」
「当たり前じゃない、何バカなこと言ってるの」
ファーに常識じゃないといった顔をされてしまった。なるほど、全てがハンドメイドであるため銃弾の規格統一もされていないのか、面倒だな。
陳列されている他の魔導銃を見てみれば、金額が大きく二種類のグループに分かれていた。一種類は調べた通り金貨300枚以上で値札がついているグループだけど、もう一つのグループは。
「もしかして、こっちの棚に並んでいる金貨10枚や20枚って値札がついている魔導銃って」
「ご推察の通り、もう弾丸が一発も残っていなくて入手手段も失われたモノよ、形が魔導銃なだけで飾りと同じね」
なるほど、いろいろと想像と違うところはあったけど、これはもしかすると俺にとっては好都合かもしれない。だって俺には『変形』と『付加』のスキルがあるのだから。
「それじゃ、おススメの魔導銃と弾丸が無くなった魔導銃、全て売ってください」
ここは爆買いしかないでしょ。
ズシャリとカウンターの上に置いた金貨袋の大きさに、ずっとニコニコしていたエルさんが唖然とした表情になったのが面白かった。




