第89話『廃墟と姉』
選択肢が無く泊まった高級宿は金額が高いだけあってベッドもふかふかで食事も朝から豪華だった。
「いやー悪いな坊主、俺たちの宿代まで出してもらって」
豪華な朝食を腹いっぱいに食べたダラスが腹をさすりながら礼を言ってくる。別におごるつもりはなかったけど、思いがけない大金が手に入ったので数人分の一泊代を払ってもお金が減った気がしない。
「さて、これから俺たちはウルフクラウンの伝説を作るために活動を始める。手始めにギルドで受けられる一番難しい討伐依頼を受けるつもりなんだが、坊主はどうすんだ」
「俺も依頼を受けようと思ってたけど、お金が手に入ったからね、前から欲しかったものを探してみようかと、後、アクティブを本格的に作る工房も欲しい」
「いいじゃねぇか、工房の場所が決まったら教えてくれよ常連になるからよ。そしたら常連割引もよろしくな」
「調子が良すぎるぞダラス、まあ、このウルフバンカーの整備は頼むはずだからな、俺からも頼む」
「わかりました。工房の場所が決まったらアクティブに通信を送ります」
こうして高級宿の前でダラスさんやテルザーさんたちウルフクラウンと別れ、俺はシルヴィアやノネと共に買い物へと繰り出す。もっともノネはもはや定位置になっているコンテの中で熟睡中だ。いつの間にかノネサイズの枕や布団が持ち込まれていた。
開拓村を脱出した時には大人数だったのに、少なくなったな。
寂しくないと言えば嘘だろう。でもきっとここでも新しい出会いもあるはずだ。
城塞都市サウスナンは三つの城壁を持つ都市である。
サウスナンは壁で三つに区切られた作り。一番外の壁の内側、外円部は外と繋がりのある業種の建物が多く冒険者ギルドもその一つで人はあまり生活していない。広がる土地はほぼ畑や牧場などで都市の住民の食料庫となっている。
二つ目の壁の内側は居住地区と呼ばれ、殆どの住民はこの居住地区で生活している。以前は住民が多くなりすぎ新しい家を立てる土地は一つも残っていないと言われていたそうだ、SOネットの情報だとメインストリートは歩けばかならず肩がぶつかるほどの込み合いであったらしい、だけど。
「あまり人がいないな」
まったくいないわけではないけど、アクティブを装備したままでも人とぶつかることはないと断言できる程度には人がいない。
「活気がありませんね、サウスナン上層部は移住を積極的に受け入れると発表しているそうなのですが、あまり効果は出ていないようです」
視線が自然と三つ目の壁の囲まれた中央地区に向いていた。あそこはサウスナンを采配する領主が住まう城がある。この都市で一番大きく堅牢な建物だ。
「マスターのアクティブなら一日で陥落できそうですね」
「危ないこと言うなよ、そんなことする気もないし、意味もないからな!」
「戦力分析をしただけですので実行する計画はありません、制圧計画を制作しますか」
「しなくていい!!」
「冗談です」
このメイドさん怖いんだけど。
「話は変わりますが、マスターはどのような買い物をする予定なのでしょうか?」
本当に話ががらりと変わったな。
「まだ話してなかったっけ魔導銃専門だよ、SOネットのマップに書き込まれてたんだ」
魔導銃は高い、最低価格でも金貨300枚からだそうだけど、スコーメタル関連でゲットした金貨なら余裕で買える。これはアクティブの新たな武装になる発見があるかもしれない。
「やはりサウスナン城陥落計画のために魔導銃を」
「違うからな、誰が聞いてるかわからない往来でその妄想発言はやめてお願い、心臓に悪いから」
「周囲に人がいないことは確認済みです。マスターに忠実なメイドである私がマスターを貶める行為をするはずがありません」
「精神はゴリゴリ削ってくれるけどね」
人が少ない道を俺とシルヴィアは特に意味のない会話を続けながら魔導銃専門店へとやってきた。いつもよりもシルヴィアのジョークがきついのはリンデ達と別れ寂しくならないようにとの配慮なのだろう。そうに決まっている。
「ここが魔導銃店であってるよな」
「SOネットのマップではこの住所を示しています」
寂しさなど感じることなくやってきたのだが、目の前にあるのはとても寂しい廃墟であった。
ここは第二の壁の内側、居住地区にある商店街、真っすぐな道に二十四の店舗があるとSOネットに紹介されていたが、その殆どが廃墟であり現在看板が掲げられているのは三店舗しかなかった。
異世界にシャッターはないけどシャッター商店街状態だ。
魔導銃専門店はしばらく使われていなかったようだ、カギはかかっておらず。床には埃が積もっていた。
「少なくとも半年以上は使われていないと推測します」
メイドとしてのスキルなのか積もった埃でシルヴィアが推理を披露する。
店の名残で壁などには商品を掛ける金具などはあるが魔導銃などは当然掛かっていない。
「マスター、奥には魔導銃を製造や整備などをしていたと思われる作業場があります。もしここが廃墟なら、探していた物件に適してるのでは」
「そうだな、落ち込んでいてもしょうがない、ここはちょうどいいかもな」
目的であった魔導銃が見られなくて忘れていたけど、もう一つ俺は工房に適した物件も探していたんだった。ここが見た目通りの廃墟なら安く買えるかもしれない。俺のスキルがあればリノベーションも可能だし。
「なにがちょうどいいのよ、あんた達強盗、隠れ家でも探してるの?」
いつの間にか、俺たちが入ってきた入り口にいたのは十歳くらいの小さい少女、シルヴィアに似た銀色の髪をリボンで一つにまとめ手に持つ大きな筒をこちらに向けて睨んでくる。
「落ち着いてくれ、俺たちは怪しい者じゃない」
「そんなヘンテコな鎧きて廃墟に入ってくるなんて十分怪しいわよ」
「確かにマスターの言い分の方が信憑性がありません、私たちはとても怪しいです」
「おい、おまえはどっちの味方なんだ」
「もちろんマスターです」
「一体なんのようなのよ、あんた達」
「俺たちは魔導銃店を見に来た客なんだ、まさか廃墟になっているなんて思わなかった」
「客?」
俺たちの緊張感のないやりとりに、少女も怪しんだ視線を向けたままだけど、こちらの話を聞く姿勢になってくれた。
「私ですよ姉さん」
「私なんて妹、私にはいないんだけど」
「鈍感な姉さんですね、直接会ったことがなくても私には姉さんだとわかりましたよ」
「誰が鈍感よ」
相手は10歳くらいの少女、見た目にはシルヴィアの方が姉に見えるけど、シルヴィアの正体を知っている俺からすると、少女の正体には見当がついた。だってこの少女は髪色だけじゃなく顔立ちまでシルヴィアそっくりなんだもん。
シルヴィアがヘッドギアを外すと少女とよく似た顔が現れる。
「あ、あんたもしてして」
あ、舌を噛んだ。
「初めまして姉さん、マスターによりシルヴィアと名付けていただいたショウ・オオクラ作メイド型魔導人形プロトナンバー・セブンです」
「うそーーー!!」
シルヴィアの顔を指さし絶叫するシルヴィアそっくりの少女。
「やっぱり彼女も」
「はい、ご紹介しますマスター、彼女は私と同じショウ・オオクラによって作られたメイド型魔導人形プロトナンバー・ワン。私たちプロトナンバーシリーズの長姉になります」
「へー長女なんだ、シルヴィアの方が姉に見えるけど」
「頼りない姉で申し訳ありません」
「ちょっと、あんた私のこと殆ど知らないでしょうが、いい加減なこと言わないでよね、普段の私がどれだけしっかりしているか――」
「姉さん!!」
「な、なによ」
長女の文句を強い口調でシルヴィアが遮った。
「SOネットに書き込む日記にはロックをかける事をおススメします。失敗したことを反省するために細かく書き残すのはいいことだと思いますが、ちょっと妹として恥ずかしい失敗が多々あり。毎晩笑って読むのが私の日課になってしまいました」
「あれを読んだの!?」
「ええ、普通に閲覧できたので」
SOネットにアクセスできる存在が少なかったので油断していたんだろうな、きっとプライベートページのような感覚で使っていたんだろう。
「いやーーーーー!!」
廃墟に長女の魂が摩耗するような悲鳴がこだました。
いったいどんなことが書かれていたんだろ、とても気になるので後で読んでみよう。




