第85話『樹海ツアー』
「私の分まで用意していただきありがとうございます」
ナナン村に到着してから四日、防衛都市サウスナンへと向かう準備が整った。
サウスナンに向かうメンバーは俺、シルヴィア、ノネ、リンデ、バァルボンさんにウルフクラウンだ。その全員が俺の制作したアクティブアーマーを装備している。
バァルボンさんだけアクティブを持っていなかったのでリンデと同じチェイスを制作してあげた。シンプルが売りのチェイスは制作が簡単で慣れもあり制作時間は三時間もかからなかった。
俺は修復した『フゥオリジン』。
シルヴィアは『ヴィアイギス』。
ノネは『メタルノネ』。
リンデとバァルボンさんは『チェイス』二機。
ウルフクラウンは『ウルフバンカーF&B型』六機。
これだけ揃うと壮観だな、少し男性率が高いけどこれからだ。サウスナンに到着したらどんどん新しい機体を生み出して美少女に装備してもらうぞ。
俺たちはカリンやフット、ミルフィ、開拓村を一緒に脱出した人たちに見送られて旅立つ。
「冒険者になったら私たちもサウスナンに行くからね!」
「おう、その時は冒険者仕様のアクティブを作ってやるよ」
「約束だよ!」
三人に制作したのは子供用の機体だ、成長したら体に合わない部分は必ず出るはず。その時は制限なしで制作してあげよう。
「よし、出発するぞ」
このメンバーを仕切るのはウルフクラウンのリーダーであるダラスさん。俺やシルヴィアはサウスナンに行ったことはないし、リンデたちは飛行船でサウスナンを飛び立っているため陸路の道を知っているのはダラスさんたちだけになる。
ナナン村からサウスナンへの二つあるルートのうち、全員一致で近道である樹海横断ルートが選ばれた。
その理由は全員アクティブアーマーを装備しているからだ。バァルボンさんの機体を作ったのもこのルートを行くためである。
樹海にはさまざまな魔物が存在している。俺のレーダーにも強力な反応が何度か出たが、アクティブの機動力を使い無視して突き進む。二度ほど魔物と遭遇したけど先頭のダラスさんがバンカーの一撃で倒しているのでロスは殆どなかった、射程の長い魔導式ボーガンもあるのに使われるのはバンカーばかり、まあ倒せればいいんだけど、どうにかして飛び道具の素晴らしさを伝えたい。
一流の冒険者でも最速で三日かかると言われている横断ルートをたった半日で三分の二を走破してしまった。体力的には少し疲れた程度だが、制作したばかりの機体が多いので休息がてら点検をする。
「チェイスは特に問題なし、ウルフバンカーも問題はないけどブーツに泥が詰まってきてるな」
チェイスはシンプルさがよかったのか問題なかったが、ウルフバンカーは狼をモチーフにしたデザインのブーツに泥が詰まってしまった。動かなくなるまでじゃないけど泥除けフィルターを付けておくか。
小休止を終えて出発、このペースで進むと一日で樹海を突破できそうだ。野営の準備が無駄になってしまうが、都市の宿屋で寝れる方が樹海の中で眠るより何倍もいいので文句などない。それだけアクティブの性能がいいと証明されたようなものだ。
「止まってください」
順調に進み、あと一時間ほどで城塞都市サウスナンが見えるくらいの所でシルヴィアが全体を停止させる。
「前方に巨大な魔物の反応があります」
「ノネ、見てきてくれるか」
「まかせてなのね!」
ノネは高く飛び上がると光の魔法を使って全身を見えなくした。妖精の中でも光の妖精の遭遇率が極端に低い理由は光魔法で姿が消せるからだ。悪魔像に捕まったのものんきに昼寝している所を襲われたらしい。とてもノネらしい理由だ。
『こちらノネなのね、カズマ見える?』
「感度良好、見えるぞ」
ノネの見た映像がでサーチバイザーに送られてくる。それをシステムを通じて仲間全員に転送した。ナナン村についてから制作したチェイスとウルフバンカーには通信や情報共有を目的としたデータリンクシステムを標準装備にしていた。メタルノネにも通信システムのみ装備した。
「なんだこれ、なんだこれ、すげーぞ、これなら探索も楽すぎるじゃねぇか」
「信じられませんね」
ダラスさんがいつもの通りに騒ぎ、寡黙なバァルボンさんもリンクシステムには驚いてくれた。予想はしていたけど軍事に詳しいバァルボンさんですら知らないなら、この世界に類似するシステムは無いんだろう。
『カズマ、いたよ見える』
「茂みで見えにくいな、大きな魔物みたいだけど」
『大きいカニかな、二つのハサミを持ってるよ』
「大きなカニ? この森にそんな魔物なんていたか」
ダラスが自身の記憶を掘り起こしていると、シルヴィアが先に正体をつきとめてくれた。
「魔力パターンをデータと照合、一致するデータが一つあります。照合結果スコーメタルと判明、魔力量の多さから特殊個体の可能性有り」
「特殊個体のスコーメタルだと!?」
鋼大蠍スコーメタル。全身が鋼のように硬い全長三メートルオーバーのサソリ、討伐レベル95、特殊個体ともなるとレベル105、少佐級よりも強いと評価される。
「こんな都市の近くにいるのかよ」
「どうする迂回するか」
遠回りを提案するウルフクラウン参謀のテルザーさん。しかしそれをリンデが否定した。
「このアクティブの性能ならスコーメタルにも対処できるし、ここはサウスナンに近すぎる。
討伐できる力のある我々が討伐するべきだ」
「了解、協力するよ」
俺がリンデの意見に賛成すると、しかたがないなといった感じでダラスさんたちも了承してくれた。
「作戦はどうする。俺たちが囮になって嬢ちゃんバンカーでしとめるか」
「そうだな言い出したのは私だ、スコーメタルに近づく危険な役目は私が引き受けよう」
「お待ちを、お嬢様にそんな危険な役目はやらせられません。ここは私が攻撃します」
「何を言い出すバァルボン、速度だけなら私の方が早い、ここは少しでも成功率を上げるべきだ」
俺やシルヴィアを除いてまるで少佐級を相手する前のような緊張感を出している。
討伐レベルだけで言えば、少佐級よりも上であるがデータを見た限り硬くて毒を持っている以外に脅威を感じられないんだよな。
「ノネ、こっちに気が付いた気配はある?」
『ないのね、動いてないよ』
「マスター、サソリ型の魔物の多くは待ち伏せをする習性があるようです。こちらが接近しない限り動かない可能性が高いでしょう」
「なるほどね、だったらあの手が使えるか。シルヴィア、スコーメタルの急所のデータの詳細を送ってくれ」
「了解しました」
俺は魔法の袋から上級魔結晶を取り出して弾丸に『変形』させ貫通と『付加』した。
「俺たちは不意をついてワイヤーで毒の尾を封じてバンカーでとどめを刺す」
リンデとバァルボンさんたちどっちが危険な役目をやるかと口論しウルフクラウンのバンカー発言と聞いて、どうして遠距離から攻撃する発想がでないのか不思議でしょうがないが、まあこれがこの世界の常識なんだろうな。
「あの、ちょっといいかな、俺が試しに遠距離から攻撃しかけてみたいんだけど」
「遠距離? ああ、あの少佐級にダメージを与えたミサイル――」
「いや、ミサイルランチャーじゃないよ、こいつで試してみる。まだ距離があるから効かなくてもこっちに気が付くことはないと思うよ」
遠距離と聞いてリンデはミサイルランチャーのことだと思ったようだけど、樹海の中だと障害物が多すぎて目標に到達する前にどこかにぶつかる。
「しかし」
「それに囮ならシルヴィアのスカイシールドができるからわざわざ誰かが危ないことする必要はないよ」
倒そうと言い出したリンデは責任を感じて一番危険な役目に名乗りを上げている。それは理解できるけど安全策があるんだからまずはそれを試そう。
「ノネ、もう少し高く飛んでスコーメタルの全体を見せてくれ」
『まかせてなのね』
距離は350メートルくらいか、魔導式リボルバーの射程ギリギリだけどロックオンアームのおかげで射程内なら外すことはない、相手が動いていなければ、制作したばかりの弾丸を装填して構える。
「マスター、スコーメタルの急所は胴体のやや後方、尾の付け根付近です」
「サンキューシルヴィア」
ノネを通してサーチバイザーに映るスコーメタルの映像に急所地点にマークが浮かび上がる。リンクシステムによりロックオンアームが自動で急所にロックオンしてくれる。俺はタイミングをはかり引き金を引くだけ。
「戦いは相手の攻撃が届かない遠距離から一方的にが俺のポリシー」
バーンと発砲音が樹海に響く。
間にあった枝を飛ばし気が付かれることなくスコーメタルを撃ち抜いた。
「命中しました。狙い通り急所を射抜いています」
「よっしゃ追撃だ、左右から挟み撃ちにする、油断するなよ一斉にバンカーを打ち込むぞ。俺たちは左側に回り込むからリンデの嬢ちゃんは右から――」
「魔力反応消失、スコーメタル活動を停止しました」
「へ?」
急所の完全破壊、つまり魔結晶を砕いたのだ。魔結晶をくだけば強い魔物でも例外なく倒せる。ダラスさんがバンカーを掲げたまま信じられないと顔だけをこちらに向けてくる。突撃ブースターを点火する前にシルヴィアの報告があってよかった。点火した後にこの報告を聞いていたら激突事故を起こしていたかも。




