第80話『複数受注』
一通りドルファンさんの義足を見せてもらった。形をドルファンさんの体格に合わせて作られているが、それ以外は腐敗防止のエンチャントが刻まれているだけで他に特徴はなかった。これなら間違いなくこれ以上のモノは制作できる。
データをサーチバイザーに保存して、ギルドの受付ホールに戻ると、カリンとフットも丁度依頼が終わったところだった。
「カズ兄、用事は終わったの」
「ああ、ギルマスから依頼? のようなモノを受けた」
義足の製作も一応依頼と考えてもいいんだよな。
「ギルマスから依頼なんてすごいですね、でもそれじゃカズマさんに僕たちの依頼を受けてもらうことはダメですよね」
「俺たちに受けて欲しかったのか」
「はい、カズマさんはモノ作り得意だし仕事も速いから」
「この村、中堅が多くて新人が少ないから、雑用依頼ってあまり受けてもらえないのよ」
そんな話しを聞いたな、確かにプライドが付くと受け無くなりそうな依頼だ。
「ん~受けてやりたいが、こっちも作らなきゃいけないモノがあるからな」
どんな形にするかまだまとまっていないけど、材料さえあればそんなに時間がかからないか、手伝いくらいならできるか、出た廃材なんかをもらえたら材料を集めに行く必要がなくなるし。
「おう、坊主ここにいたのか探したぜ」
どうしようか悩んでいると今度はウルフクラウンのダラスさんがやってきた。
「何か用ですか」
「お前に作って欲しいモノがあるんだ、金はちゃんと払う。正式にギルドに依頼として出すから、入門の三つの一つはクリアできるはずだぜ」
ああ、ギルド登録してから一カ月以内に依頼を三つクリアしないとギルドカードが失効してしまうんだっけ。ギルマスとカリン&フットとウルフクラウンの依頼を受ければ、俺は晴れて冒険者になれるのか、ギルマス以外が見事に身内依頼だけどいいのかな。
聞いた規定にはなかったよな、なら二つとも受けてもいいかもな。
「シルヴィア」
「大丈夫です。規定に触れる部分はありません」
よし、シルヴィアのお墨付きがあれば安心だ。
「どんな依頼、内容によっては受けてもいいよ」
「俺たちの依頼はそんなに難しいものじゃない、このスィンバンカーを正式に売って欲しい、それでな、メンテとかバンカーの追加が欲しいんだ」
おお、スィンバンカーをそこまで気に入ってくれたのか、それはとても嬉しいです。
「お安いご用、そうだ、サービスでちょっと改造もしてあげるから、こっちのカリンたちの依頼を一緒に受けてくれない」
「こっちこそお安いご用だぜ」
依頼内容を話してもいないのに即決で了承してくれたよ。
こうして頭数も揃ったので、俺とシルヴィアはさっそくカウンターに行って三つの依頼を同時に受けることを伝えカリンたちの家へと訪れた。
他のウルフクラウンのメンバーは同じ冒険団限定で使えるギルドカードの通信機能でダラスさんが集合をかけた。この通信機能は音声ではなくメールのような文字のやり取りだけができるらしい。まるでスマフォのメール機能のようだ。
「ここが私たちの家だよ」
案内された場所は、まさに廃墟と呼ぶにふさわしい建物であった。一部の壁は崩れたりツタが絡みついていて、天上は風に飛ばされないのが不思議なくらい取れかかっている。これでは急いで修理したいと依頼を出すのも頷ける。
「お母さん、おじいちゃん、ただいま依頼を受けてくれた冒険者を連れてきたよ」
傾きかけた扉を潜りカリンが中へと声をかける。
「この村にもこんな雑用を引き受けてくれる冒険者がいたのか、驚きだぜ」
返ってきた声は、カリンたちの母や祖父のものではなく、どこかで聞いたことのある青年の声だった。
「つい最近聞いた声だ」
「私のメモリーには該当するデータはありません」
「昨日は別行動していたからな」
家から顔を出したのは予想通り、昨日武器屋であった青年であった。
「あれ、その黒メガネ、もしかして昨日のお客さん、駆け落ちしたばかりなのに、もう別の女性を連れてるのか」
「駆け落ちではない」
冗談で言っているのかと思っていたが、どうやら本気で駆け落ちだと思っていたらしい。
「ごめん、ごめん、新人がこの村にくるなんて珍しいから勘違いをしちまった。俺はノイマン、普段は武器屋をやっているけど、今日はこの家の修理の助っ人として駆り出された。カリンとフットとは従妹の関係だな」
「俺はカズマ、彼女は」
「マスターカズマの従者兼メイドのシルヴィアです」
「メイドだー、お前どっかのお坊ちゃんかよ」
「いや、普通の魔導技師見習いだけど」
「お前のどこが普通なんだよ、それに見習いは外せ、この国の魔導技師が全員廃業しちまうぞ」
それじゃ次から自己紹介をする時は見習いを外すか。
「俺はウルフクラウンって冒険団のリーダーをしているダラスだ。後から仲間が五人ほどくる」
「へーそんなにいるんだ、立派な鎧を着ているけどまだランク低いのか、六人もの集団で村中の雑用を受けるなんて」
いつも冒険者を相手に商売をしているからだろう、恐れることなくノイマンは聞きづらそうな話題を平然とダラスに訪ねる。
「まあ、まだ一流と呼べるランクにはなっていないな」
嫌味ともとれる発言を聞き流したダラスが誇るように自分のギルドカードをノイマンに見せる。そこには三本の線で三角形が描かれていた。
「三角線だって、どうしてこんなランクの冒険者が雑用なんて受けるんだよ!」
「この坊主に借りがあってな」
ウルフクラウンは元々十字線ランクであったが、少佐級討伐が認められメンバー全員がワンランク昇格して三角線へとなっていた。三角線とは一流と呼ばれる一ツ星ランクの一つ手前、このナナンの村にいる冒険者の中ではトップレベルである。
俺とシルヴィアは少佐級を倒した後で登録をおこなったので昇進にはならなかった。
「それで、どこから手を付ければいい?」
アクティブは作れるけど家の修理などしたことがない。
「建物の基礎はさっき確認した。外観ほど傷んでなくてまだまだ使えそうだったから、壁や天井を直せばひとまず生活は出来るようになるだろう。まずは裏にある倉庫の解体だな、それで出た木材を使って修理をしよう」
「了解」
なるべく木材を傷つけないように解体すればいいんだな。
解体に取りかかってしばらく、テルザーさんたちウルフクラウンのメンバーも来てくれたので、俺は解体作業の手をとめた。
六機もスィンバンカーが揃うと作業が格段にはやくなったからだ。
「坊主、こっちは俺たちがやるからその間にバンカーの杭を作ってもらえないか」
とテルザーさんに頼まれたからだ。
「シルヴィア、ちょっと鉄材が足りなそうだから買ってきてくれるか」
「了解しました」
家の修理の依頼を受けたのにいいのかなとも思うけど、アクティブのパワーで俺とシルヴィアが抜けてもまったく問題がみあたらなかった。最初は一緒に作業をしていたノイマンも作業スピードの違いで途中から指示を出すだけになっている。
遊び好きに見える青年ノイマンだけど、家の建築関する知識ももっていた。意外といっては失礼かもしれないけど、器用な人だったんだ。
「いいな、アクティブ」
「どうしたカリン」
「あ、あのね、カズ兄、私たちにもアクティブを作ってくれないかな」
出会ったころのトゲトゲしさはどこへやら、人差し指をつんつんとつきあわせながら、そんなお願いをされてしまった。




