第77話『村の武器屋』
「待っているだけもヒマだな、今のうちに買い物に行こうかな」
「カズマくん、お金はあるの?」
「コーティング剤を売った分が少しね、壊れたフゥオリジンを直したいんだ、ただ材料の値段がどれくらいするかわからないから、懸賞金を貰わないと二度手間になるかもなー」
やることがない、ヒマだ。
少佐級討伐の検証結果を待つ間、俺たちは冒険者ギルドの食堂スペースのテーブルを二つ占領している。俺とリンデとシルヴィアで一つ、ウルフクラウンで一つである。
宿にタイランチュウラの素材を取りに行ったメンバーもまだ戻ってきていないため、所持金のないウルフクラウンたちは水の入ったグラスをちびちびと口にしていた。俺も無駄にお金を使う必要がなかったので、同じ冷えていない水だけを飲んでいる。
「マスター、買い物に向かうのは良い判断かもしれません」
「どうしてだ」
SOネットにはナナン村の買い物情報はのっていないんだよな。だから悩んでいたのに、シルヴィアが突然買い物に行った方がいいと言い出した。
「あちらを首を動かさずに視線だけでごらんください」
首を動かさずにってけっこう難しいな、サーチバイザーをしているから視線を読まれることはないけど、シルヴィアの示した方を見ると、さきほどギルドマスターに報告に行ったはずのキレイな声の受付嬢がカウンターの売店にいた。
さきほど俺がマジックワンドを購入したスタッフに何かを確認しているって、ワンドが並んでいる所を指差しているし、間違いなく俺がワンドを購入したかどうか確認してるんだよな。
「俺ちょっと買い物に行ってくるわ」
「それがよろしいかと、リンデ様、申し訳ありませんがマスターに付いていってもらえませんか、マスターはアクティブがないと一般人以下の戦闘力しかありませんので」
「わかった、カズマくんは病み上がりだからね」
「おいシルヴィア、一般人以下はないだろ」
グライダーナイフは装備しているんだ、不意打ちさえくらわなければ戦闘力はある。と思う。
「申し訳ありません訂正します。一般人未満でした」
「おい」
「冗談です。お急ぎください。報奨金は私がリンデ様の分も受け取っておきますので」
「ぐぬぬ」
最近、口ではシルヴィアにかなわなくなってきた。
「ほらカズマくん、行こう」
リンデに手を引かれ俺は冒険者ギルドをあとにした。
「それで、どんなモノを買うの?」
「やっぱり鉄材だな、鉄が不足で装甲の内側はしかたがなく木材で表面をコーティング剤を使って誤魔化していたからな」
鉄よりも軽かったから軽量化になると思ってたけど、実際に全力戦闘をしてみてホバーのパワーがあれば俺の戦闘スタイルだと重量はそれほど気にしなくてもよさそうだ。
それに少佐級とのラストの場面、ワイヤーを腕に絡みつけた時、全身が重量のある鉄製だった場合もっと踏ん張れたかもしれない。
「あの性能で妥協してたんだ」
「完成した時は完璧だと思ったんだけどな、悪魔像と戦ってまだまだ改良の余地があると実感させられた。多分ここだと欲しい素材が全部手に入らないと思うから、リンデの機体はサウスナンに行くまでまってくれ」
「う、うん、ありがとう」
せっかく着てくれると約束してくれたのに、すぐに作れないのがもどかしくもあるけど、リンデの機体は妥協したくない、思いついたアイディアをすべてつぎ込みたい。
そのためにはお金が必要だ、冒険者になったので依頼をこなせば報酬がでるけど、依頼をこなすにはフゥオリジンの修理が必要で、したいことがグルグル回転してるようにも感じるが、今できることを一つ一つ片づけていくしかない。
「ここで鉄製品を扱っているようだな」
ナナンの村の地理は俺もリンデも知らないのですれ違う人に道を尋ねながら、冒険者ギルドからそれほど離れていない一軒の店にやってきた。
ここは冒険者向けの武具を製作している職人が自分の制作した武具を販売している店なのだそうだ。それほど広くない店内にはさまざまが武具が並んでいる。
「なかなかいい剣だ、仕上げも丁寧でこれなら長持ちするだろう」
リンデが手近の剣を手に取る刃を覗き込み感想をのべる。
俺には剣の善し悪しはわからないが、磨き上げられた剣はプラモ熟練者の作品と似たような輝きを放っている気がする。
「いらっしゃい、お、見かけない顔だ、この村に来たばかりの冒険者かな、それとも駆け落ち」
ニヤニヤ笑みでフレンドリーに話しかけてきたのは二十歳を過ぎたくらいの青年店員。不真面目そうだけど来店するお客は把握しているようだ。
「か、駆け落ちなどではない、私たちは!」
「リンデ落ち着いて、からかわれているだけだから」
早口な騎士口調で言い訳しても青年店員が面白がるだけだぞ、ここは店員のペースに乗らずに平坦な反応をした方がいい。
「怒鳴って、すまない」
「いや、こっちこそ、うちの店若いお客が少ないから嬉しくなっちゃって、お探しの物はあるかな、俺の権限で可能な範囲ならちょっとだけサービスできるかもよ」
「それなら鉄材とかもらえないかな、あと魔結晶とかもあれば」
「製品じゃなくて素材を欲しがるのか、冒険者にしては腕が細いと思ったけど、もしかして少年は職人?」
「まだ見習いだけどな、冒険者登録はついさっきしたばかりだ」
遠回りだけど、また弱そうと言われてしまった。少し体を鍛えた方が良いかなせっかく若返ったんだし、でもな、運動する時間があるならアクティブの製作に使いたいし。
「見習いかこの村にくるなんて珍妙な少年だな、自分で使う武器は自分で作るつもりなのか」
「そうだな、武器も自分で作る」
武器だけでなく全身装備もだけど。
「ここにあるのじゃだめなのか」
「ここに銃はある?」
「銃? 魔導銃のことか、あれは金持ちの道楽武器だろ実戦じゃ使い物にならないぜ」
簡単に流された。やっぱりこの世界での銃の認識はそんなものなのか。
「この剣なんて軽いのにスピード増幅のエンチャントが掛かってるから非力な少年にはオススメできるよ」
取り出されたのは刀身の細いショートソード、サーチバイザー越しだと微弱だけど魔力が帯びているのがわかる。エンチャントと言ったか、俺のスキル『付加』のように能力を付け加えているのか、アクティブと違い核となる魔結晶を埋め込むのではなく剣全体に能力が備わっているようだ。
なるほど、この世界にはこんな技術もあるのか、付加以外での能力の追加か、この世界の製法技術を勉強するのも面白いかもな。
お金に余裕があったら買って調べてみたいけど、今は後回しにするしかない。
「今回は遠慮しておくよ、仲間が報酬をもらいに行ってるから、懐にゆとりができてまだ売れ残ってたら買うかもね」
「若いのに断るのがうまいな」
「いや、本気で欲しいとは思ったよ、でも今は鉄材が至急必要なんだ、これで買えるだけの鉄材と魔結晶を売ってください」
俺は生活費を引いた買い物に使える金額すべてを青年店員に差し出した。
「けっこう持ってるな、これだけあればそれなりの量になるぞ」
「もらえるだけ欲しい、最低でも全身鎧を一つ作れるくらいの量で、予算が残れば魔結晶も買えるだけ欲しい」
「全身鎧って、少年がそんなの着たら足の指一本動かせなくなるんじゃないか、まあ金を出してくれてるから売ってはやるけどよ。持って帰れるか」
「大丈夫、全身鎧一つくらい、私が運べる」
「ええ少年、彼女に荷物持ちさせるなんてかっこ悪くないか」
「か、彼女ではない!!」
照れてるリンデがかわいいな。
リンデはスィンバンカーの力があれば持つのは簡単だと言いたかったんだろうが、店員はスィンバンカーの能力しらないからな。
やっぱり少しは体を鍛えようと決意した。でも今日はフゥオリジンの修理があるから明日から、いや明日は修理したフゥオリジンの稼働してテストをしたいから、やっぱり鍛えるのはサウスナンについてらにしよう。




