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第76話『ナナン支部のギルドマスター』

「おい、何なんだこれは」

「悪魔像・少佐級を討伐した証拠だそうです」


 ここは冒険者ギルド・ナナン支部ギルドマスター室。ナナン支部の冒険者たちから一番人気の受付嬢ナタリーが少し引きつった顔でカズマより渡されたマジックワンド型魔導式映写機を作動させ、少佐級との戦いを上映していた。


「少佐級討伐の報奨金を欲しいと言ってきた冒険者の人たちが、証拠だと提示した魔道具です。ギルドマスターにお見せするためにお借りしました」

「こんな魔道具をホイホイ貸すなよ」


 最近髪に白い毛が混じりだしたギルドマスタードルファンが頭を抱えた。


「こんな魔道具をかせるような金持ちなら、懸賞金なんていらないだろうに」


 元は二ツ星(ダブル)ランクの冒険者であったドルファン、魔物との戦闘で片足を失い引退してギルド職員となり、実直な性格が評価され二年前からナナン支部のギルドマスターを務める男。


 鍛えられた筋力は維持されており、片足だけになった今でも駆け出しの冒険者たちをまとめて蹴散らせる実力は持っている。そのドルファンから見ても戦闘の映像は異常であった。


 少佐級を見るのは初めてであったが伝え聞いた強さとそれほど変わるモノではなかった。強靭な体に鋭い攻撃、軍隊規模での討伐が望ましいとの評価は納得させられる。だが、そんな軍隊を相手にできる怪物をわずか十人にも満たない少数の冒険者たちが圧倒している映像はそう簡単に信じられるものではない。


「それでこの映像は本物なのか」

「この映像が作りモノだった場合、懸賞金より制作に予算がかかりそうな気がしますが」

「だろうな」


 ドルファンの目にも少佐級が作りモノには見えない、映像だけでも恐怖を振り撒く存在などどうやって作ればいいのか見当もつかない。


「この映像を持ってきた冒険者たちは『冠の(ウルフクラウン)』です。映像と同じ鎧をまとっていました」

「冠の狼だと、開拓村に閉じ込められていた冒険団か、間違いないのか」

「ギルドカードで確認しました。間違いありません」

「そいつらのランクは確か」

十字線(クロスライン)です」


 まだまだ半人前のランクである。映像の動きと階級がかけ離れすぎている。


「三年も閉じ込められているうちに腕を上げたのか。しかしこの動きは一ツ星(シングル)にも匹敵しているぞ、支援もない村で成長したなど信じられんな異常すぎる。未開の地でダンジョンでも発見したのか」

「装備している鎧からは強力な魔力が感じられました。ダンジョンから獲得した品なら納得できますね」

「この映像を映し出す魔道具もダンジョンから、……ちょっと待てその魔道具、うちの売店で売っているマジックワンドじゃないか」

「ギルドマスターもそう思われますか」


 ナタリーも気になっていた様子、カウンタースタッフとして販売をしているのでこの映写機がギルドの売店品だとはすぐにわかったが、こんな性能は絶対に付いていなかった。


「ナタリー、これはどのような経緯で出てきたんだ」

「最初に少佐級討伐の証拠として提示された紫の砂を、これでは証拠にならないと伝えたところ、少しして冠の狼と一緒にきた少年が提示した物です」

「すぐにでてきたのか」

「いいえ、しばらく時間はありました」


 ナタリーはどうにか懸賞金をもらえないかと交渉してくるウルフクラウンに対応していたので、少年カズマの動きは見ていなかった。


「売店のスタッフに聞いてきてくれ。このワンドはいつ誰に売ったのかを」


 初心者用の魔法の杖、中堅が多く集まるナナン支部ではめったに売れない品だ。なので売店スタッフも誰に売ったのかくらい覚えているだろう。


「ギルマス、まさかあの少年が交渉している間に作ったとでも」

「証拠がないと懸賞金を拒否したら出てきたのだろう、非常識すぎるが、そう考えれば辻褄はあう。一応な」


 もし本当にそんな事ができる人物がいるとすれば、それは一体どんな技術をもった人物なのだろうかと、恐怖すら感じるナタリーが駆け足で販売担当の元へ向っていった。


「映像を映し出す魔道具」


 ドルファンは終わった映像をもう一度最初から再生する。


 内容は変わることなく、リンデとウルフクラウンが悪魔像と戦っている映像だ。


「鎧、魔導甲冑か、ダンジョンから手に入れたにしてはデザインが揃いすぎているな、それにサイズも採寸したかのように全員の体にフィットしている」


 普通、魔導甲冑のようなレア装備は未踏のダンジョンでも一個か二個見つかれば大アタリなのだ。それが七機も同じデザインである。それに鎧などの装着タイプはサイズを調整しなければならない、発見者が見つけた魔導甲冑をそのまま装備してピッタリだったなんて話しは冒険者経験の長いドルファンですらめったに聞かない。


「たった七人で少佐級を倒すほどの性能を持つ魔導甲冑か、いや、この映像を撮っている者を含めたら八人になるのか」


 二度目の視聴で、ドルファンはカズマの存在に気がついた。


 観察力には自信があるギルドマスターでも動画自体を見るのが初めてなので、撮影者の存在を見落としてもしかたがないことだろう。


 少佐級へリンデがトドメを刺す場面で、ワイヤーを発射していなければドルファンは最後までカズマの存在を見落としていたかもしれない。


 二度目の再生が終わった。


 もう一度見直せば、また新しい発見があるかもしれない。


 ドルファンは三度目を見ようとして、魔力を魔導式映写機に送り込んだ瞬間。


 ピシッ。


 小さな破裂音がなり、マジックワンドの水晶にヒビが入った。映し出された動画にも斜めに大きな筋が入る。


「うそだろ」


 百戦練磨のギルドマスターであっても全身から冷や汗が噴き出した。


「やばいぞ、こんな魔導具、いったいいくらするんだ」


 ギルドマスターであるからこそ、魔道具の正確な値段がわかってしまう。見た場面を記憶して外部に映し出せるレア魔道具。いくつか存在するとは聞いたことはあるが、その値段はドルファンの給料三カ月分に相当した。


「ここまでもろかったとは」


 もし先程の推測がはずれ、ダンジョンで発見した物ならドルファンの給料三カ月が吹き飛ぶことになる。


「ギルマス戻りました。その魔道具を提供した少年がさきほどマジックワンドを購入したと販売スタッフから確認がとれましたよ」


 確認に行ってきたナタリーがドルファンにとっては嬉しい情報を持って帰ってきてくれた。


「お、おお、そうか、それは朗報だ」

「朗報?」

「い、いや、なんでもない、気にしないでくれ」

「そうですか」


 ナタリーは不思議そうに首をかしげながら報告を続ける。


「購入したのはやはり、懸賞金の交渉をしている時でした。これで少年がわずか数分でその魔道具を作ったことが判明しました」

「信じられん、だが一度あってみなくてはならんか」


 ドルファンは愛用の杖を持ち立ち上がった。


「謝罪と弁済をしなければな」


 壊してしまった映写機を握り小さくため息をこぼす。こうして本人も知らないところでナナン支部のギルドマスターに貸しを作ったカズマであった。


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