第75話『冒険者登録』
「頼むぜ、懸賞金がでないと俺たちは一文無しだからな」
魔導式映写機で騒動になりかけたが、受付嬢が責任をもってお返しすると確約してくれたので、なんとか収まった。映写機を持ってギルドマスターの元へ向かう受付嬢をダラスさんたちが祈るように見送った。
「ダラス様、山道でタイランチュウラを討伐して素材を回収したと思うのですが、あれは換金しないのですか」
「あ、テルザーあの素材どうした?」
「……宿に忘れてきた」
「しっかりしてくれよ参謀」
「お前が言うなリーダー」
全員忘れていたらしい、少佐級の懸賞金がとんでもない額だったので、浮かれていたのかもな。メンバーの半分がダッシュで宿に素材を取りに戻っていった。
「あの~、すみません、タイランチュウラを討伐したと聞こえたのですが」
先ほどまで対応してくれていた受付嬢がギルドマスターに報告に行ってしまったので、奥にいた別のスタッフがカウンターへきたのだが、ちょうどタイランチュウラの話しが聞こえたらしい。
「山の道に巣を張っていた個体でしょうか」
「ああ、確かに道を塞ぐように巣を張ってたな、倒すのは簡単だったけど、通れるように巣を取り除くのに時間がかかったぜ」
「た、倒すのが簡単だった!?」
受付嬢がダラスの返答に悲鳴に近い叫びをあげた。
「道を塞いでいたタイランチュウラは、他の個体に比べて体が一回りも大きく吐く糸も強靭で当ギルドでは特殊個体と認定して討伐レベルを上げて、サウスナンから討伐のために上位の冒険者を呼ぼうと話しが出てたんですよ!!」
長い説明、ご苦労様です。
「確かに前に戦ったヤツよりは大きかったかも?」
「以前に遭遇したのは開拓村に閉じ込められる前だからな、記憶があいまいだ、俺の魔槍バンカーの一撃で倒せなかったから特殊個体の可能性はあるな。ブラックボアは一発で倒せるのに同じレベルのタイランチュウラが倒せなかったのはおかしい」
「ウルフクラウンにカズマくんの非常識が感染してる」
ちょっとリンデさん、感染ってなんですか。俺だって今のテルザーさんのセリフが非常識なのは理解できるよ。あれだろ、初心者殺しって呼ばれているブラックボアをまだ一人前のランクになってないウルフクラウンが倒せると発言をした。
ウルフクラウンは先程、ギルドカードを提示して自分たちは十字線だと伝えている。十字線はようやく駆け出しを卒業したくらいのランクで、ギリギリの死闘でようやくブラックボアを討伐できるランクなはず、それなのに一撃で倒せると言い切ったことが非常識なんだろ。
「タイランの方は素材を回収しているから、それを見て判断してくれよ、悪魔像と違って詳しく査定できるだろ」
「は、はい、通常の固体かそうでないかは、判別できると思います」
少佐級の報奨金に比べたら大した額ではないのでダラスさんも余裕をもってるな。
「受付嬢さんも少しは落ち着いたみたいだし、今のうちに冒険者登録しちゃおうか」
「そうですね」
「カズマくんたちは冒険者になるの」
「いきなり転移させられたから、こっちでは現状無職なんだよ。てっとり早くお金を稼ぐには冒険者になるのが効率的だろ」
「まあ、アクティブがあれば心配ないかな」
「だろ」
俺とシルヴィアはカウンターに行って冒険者登録をしたいと伝えると、俺のかっこうから冒険者が務まるのかと心配そうな目で見られてしまった。
「大丈夫ですか、初心者のうちは村内での雑用とかもありますが、上を目指すとなると危険な仕事ばかりになりますよ」
確かにこの薄い布の服だと筋力のない弱そうな体つきが丸わかりだけどさ、そこまであからさまに言わなくてもいいじゃないか。
「問題ありません。マスターの強さは身体能力は関係ありませんから、なんでもありの勝負でしたら、マスターはこのギルドの最強ともやりあえるでしょう」
「まあ、確かになんでも有りならカズマくんは強いよね」
リンデがうんうんと頷いてくれる。
「確かに坊主は強いよな、ぐらいだーナイフを使われたら、近づく前に切り刻まれちまう。模擬戦でも俺は坊主と戦いたくはないな」
「俺はみさいるらんちゃーだったか、あっちの方が怖いな、あんなものを正面から撃たれたら盾があっても粉々にさせられる」
リンデに続いてダラスさんにテルザーさんもしきりに俺が強いとアピールしてくれる。もしかして援護してくれているのだろうか。
「わかりました。登録を認めます。登録したからには冒険の失敗でのケガや万が一死亡しても自己責任になりますからね」
「了解だ」
受付嬢も心配しての申し出だろうが、俺にはアクティブがあるので戦闘での失敗はそうそうないだろう。
「冒険者について説明は必要ですか」
「お願いします」
冒険者とは冒険者ギルドに持ち込まれる依頼をこなす他に、未開の地の探索やまだ生態がどうなっているかわからない魔物の調査などもあるらしい。
そして冒険者ランクは七段階あり、下から。
・無印(階級外)
・(F)一本線ライン
・(E)十字線クロスライン
・(D)三角線トライアングル
・(C)一ツ星シングル
・(B)二ツ星ダブル
・(A)三ツ星プラチナ
・(S)星座線アストロライン
無印を除いて一本線から星座線の七階級、冒険者として一人前と認められるのは下から三つ目の三角線からで、一ツ星以上が一流と呼ばれるらしい。星が付けば一流と覚えればわかりやすいか。
そして冒険者の一番多いランクが十字線と三角線らしい、そのためほとんどの冒険者は一流の証明である一ツ星を目指すのだそうだ。
他にはモラルには反することはするな、冒険者の信用を落とすようなことはするなと、まあ、だいたいどこの協同組合でも言われそうな約束事の話を聞いて説明は終了した。
「こちらがカズマ様とシルヴィア様の冒険者カードになります。紛失時の再発行は料金がかかりますので、無くさないよう注意してください」
「どうも」
渡されたのは少し厚めの黒いカード。
表には俺の名前が書かれているだけだが、冒険者ギルドのある国では身分証としても使えるそうだ。
めくってみると裏も何もないただ黒い面。これが無印状態ってわけか、これから一か月以内に依頼を三つ以上達成しないと冒険者として才能無しと評価され、以後カードは使えなくなる。つまり今は冒険者としての採用試験期間ってわけだ。




