第73話『冒険者ギルドにやってきた』
魔物の強さ表記をカテゴリーから討伐レベルに変更しました。
村の外見は砦のようであったけど、中に入れば平屋だけどしっかりとした家屋が並ぶ、少し発展した田舎の村といった印象だ。
人類最南端の村にしては家の造りとかが立派だなと思ったけど、このナナンの村周辺は稀少な野草が多く、高額な討伐金がかけられた魔物もいるらしく、一人前になった冒険者が何人も拠点にしているらしい。
悪魔像騒ぎで村人は減ったそうだが、悪魔像が山を越えナナンの村方面にやってきたことが一度もなかったらしく、昨年ごろから冒険者たちが空き家になった家を買い取り拠点へと改築しているらしい。
宿屋も二軒あり、俺たちは開拓村村長の好意で値段が高い方の宿にタダで泊めてもらうことになった。俺とシルヴィアはコーティング剤をネクロに売ったので少しはお金をもっているが、リンデやウルフクラウンたちは、開拓村に閉じ込められて必要の無くなったお金は金属として溶かし加工してしまったらしい。
硬貨の加工は犯罪らしいが、緊急事態なのでおそらく見逃してもらえるとのこと。
村長たち開拓民たちの殆どはこの村に残り、生活を再建するそうだが、俺は上質なアクティブ制作の材料を手に入れるためにも、大きな都市、ここから一番近い防衛都市サウスナンに行くつもりだ。
「それなら我々と同じだな」
もう騎士口調をしなくてもいいと思うけど、癖になっているようだ。
リンデたちもサウスナンに向かうらしい。いや、そもそもサウスナンにはリンデの実家があるそうなので、向かうではなく帰還と言ったほうが正しいだろう。
ナナンの村から交易都市サウスナンに向かうルートは主に二つあるようで。
一つ目は遠回りだけど安全なルート、ナナンの村とサウスナンの間にある広大なドゴビリスの森を迂回するルート。馬車で四日、徒歩だと十日前後かかる。
二つ目は近道だけど危険なルート、それはドゴビリスの森を真っ直ぐに突っ切ること、これは徒歩で五日と遠回りの半分の時間で行けるが、森の中には危険な魔物が多く中堅冒険者でも確実に通過できるかは怪しいそうだ。
ドゴビリスの森は、森自体が強力な魔力を生み出しているとの説もあるらしく、森の奥深くにある湖にはドラゴンが生息していると目撃情報まであるらしい。そのため森を安全に抜けるには、森を熟知した案内人を雇うのが常識だそうだ。
でも、そのどちらのルートを選ぶにしても、数日の夜営はしなければならず、食糧や道具も必要になってくる。
そして、それらを用意するには当然お金が必要になる。案内人を雇うならなおさらだ。
お金のないリンデやウルフクラウンは悪魔像・少佐級を倒したことを冒険者ギルドに報告して懸賞金をもらうことにした。
悪魔像は人類の敵、討伐依頼を受けなくても、討伐を証明できれば懸賞金はもらえるらしい。俺も一緒に冒険者ギルドに行って悪魔像討伐の懸賞金を分けてもらうことになった。
旅支度の他にフゥオリジンを修理しなければならないので、収入があるのはとてもありがたい。
「カズマくんの功績は計り知れない、当然もらう権利はあるよ」
「そうだ坊主にも十分にもらう権利はある」
冒険者はもっとお金にがめついイメージがあったけど、取り分が減るにも関わらず俺も頭割の数に入れてくれた。
リードフェアリーの精霊ノネは、人の村は初めてらしく探検に行くと言って一人でどこかに飛んでいってしまった。晩飯までには戻ってくるだろう。
そんなわけで、冒険者ギルドに向かっているのは俺とリンデにシルヴィア、それにウルフクラウンの六人、全員で九人だ。
「冒険者ギルドか、ついでだから冒険者登録しとこうか」
「それがよろしいかと、マスターは魔導技師見習いと名乗っていますが、実際には自称にすぎません。つまり無職です」
「無職!?」
シルヴィアさん、出会ったころに比べて遠慮がなくなったことは喜ばしいけど、同時に言葉に鋭さが加わりましたね。
「どうした坊主」
「いえ、なんでもないです」
「そうか、ついたぞここが冒険者ギルド・ナナン支部だ」
紹介された建物は周囲の建物よりも二回りほど大きい立派な作りだった。荒くれ者たちが集う場所にしては清掃が行き届いておりきちんと管理されている。
やってきたのが夕方であったためか、ギルド内は一日の仕事を終えた冒険者たちが報酬をうけとったり、併設されている食事処で飯を食べたり酒を飲んだりと騒々しかったが、まさにイメージ通りの異世界の冒険者ギルドの姿であった。
ざっと見回してみたが、装備している武器は剣や槍などの接近戦主体のモノが多く、いくつか魔法発動の杖や魔槍があったが、銃を装備している冒険者はいないようだ。やっぱり銃はこの世界では人気がないらしい。
そんな冒険者たちの間を紫色で統一されたアクティブアーマーの一団が通り過ぎると、騒いでいた冒険者たちが何者だと静かになる。
シルヴィアは白銀のヴィアイギスで、俺だけフゥオリジンが壊れているからサーチバイザーに薄い布の服だけどね。
「ようこそ冒険者ギルド・ナナン支部へ、本日のご用件はなんでしょうか」
見覚えのない集団の到着に動じることなくきれいな声の受付嬢が丁寧に対応してくれる。瞳が大きく、温かい笑顔の受付嬢。きっと冒険者たちには人気があることだろう。
いい声だな、シルヴィアと並べたらクール系と明るい系のオペレーターコンビが作れそう。もし俺が飛行艦を手に入れたら二人で管制オペレーターを是非ともコンビでやって欲しいくらいだ。
「俺たちは冒険団『冠の狼』悪魔像・少佐級を倒したからその懸賞金をもらいたい」
「悪魔像・少佐級ですか?」
さすがに受付嬢の表情がかわったぞ。そりゃ驚くよな。だって少佐級っていたら討伐レベル100で軍隊が必要なレベル。それが討伐されたと聞けば驚いて当たり前。
「またですか」
あれ、でも驚いたことは驚いたけど、なんか想像していた驚き方じゃないな。
「また、きたぞ」
「今度は奇妙なかっこうの連中だな」
俺たちの異様な姿に静かになっていた冒険者たちが一斉に笑い出す。どういうことだろうか。
「半日ほど前にも見えられたのです。少佐級を討伐したので懸賞金をくれと言ってきた人物が、討伐が証明できなっかたのでお断りしましたが、あなたたちは証明できる品をおもちですか」
あ、完全に疑われてる。
「半日前にきた人物って」
「99.9パーセントの確率で自称商人の盗賊ネクロだと思われます」
それネクロだって断定してるよね。自称商人の盗賊か、たしかに俺はミスリルの強奪現場を目撃して命狙われたし盗賊とカテゴライズされても間違いではない。
「あの野郎、つくづく俺たちの足を引っ張りやがって」
「落ち着けダラス、あいつに関しては後で盗賊として訴えを出せばいいだろう。俺たちは証拠を見せれば問題ない」
テルザーさんもネクロを盗賊認定してるんだ。まあ、俺もそう思うけど。
「これが証拠だ、少佐級の体を構成していた一部だ」
「少佐級の欠片ですか?」
盾の収納に収まっていた皮袋を出しカウンターにのせる。
「あ、少佐級の体だった紫の砂か、あれ弾丸の火薬代りに使えるから俺も欲しかったぜ」
「それでしたら可能な限り回収してあります」
さすがシルヴィア様、ホントに万能ですね。後から聞いた話だけど俺が気を失った後、少佐級だった砂を回収するシルヴィアを見てテルザーさんは討伐証明部位に使えるのではと考えたのだそうだ。やるね流石ウルフクラウンの参謀。
「ですが、あれで少佐級の討伐証明になるのでしょうか」
「え、だって少佐級だった砂なんだろ」
「はい、確かに少佐級だった砂ですが、あの状態になりますと、私の解析では卵二等兵級から採取された砂と区別はつきませんでした」
「え?」
それってまずくない。




