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第71話『リンデの刻』

「な、なにかな、あ、いや、なんだ」


 カズマくんが今までにない真剣な顔で私を見つめてくる。


 いったいなんのようなんだろう。


「今は二人だけだから、無理に騎士風にしゃべらなくてもいいぞ」


 え、バレてた。自分ではもう癖にまでなっていると思っていたしゃべり方なんだけど、カズマくんには無理をしているように見えてたの、いったいいつから。


「…………気がついてたの」


 恥ずかしい、地面に穴を掘って埋まりたいくらい恥ずかしい。


 耳たぶまで真夏の太陽を浴びたみたいに熱くなってるよ。


 シルヴィアさん、こっちに戻ってこないかな、二人だけだと間がもたないよ。どうしようカズマくんの顔が恥ずかしさのあまりまともに見られない。


「リンデ、伝えたいことがある」

「は、はい、なにかな」


 カズマくんは真面目な顔のままだ。いったい私に何を伝えようと言うの。


「ちょっと一緒に来てくれ」

「え、でも見張りが」

「シルヴィアが警戒しているから大丈夫」


 テントの裏、もしテントで休んでいる村人がなんらかの理由で出てきても、視界にはいらない場所に私を誘導していく。


「このタイミングを逃すと、もう言えなくなりそうだからな」


 これって夜のお誘いってこと、経験はないけど、書物で読んだことがあるから知ってはいるけど、確かに今晩のタイミングを逃すと明日には村に到着するし、サウスナンへと向かう準備をしないといけないから、忙しくなって、二人でゆっくり合う機会はないかもしれない。


「もしかして一緒に見張りをするって言ってくれたのって」

「ああ、リンデにどうしても伝えたい事があったからだ」


 やっぱり、え、カズマくんって私みたいな無愛想で騎士気取りな女性がタイプなのかな。開拓村では女性が少ないから身の危険を感じたことはあったけど、街へ戻れば魅力なんてない不器用な女なんだよ。


「あ、あのカズマくん。私なんかでいいのかな」

「リンデ以外にいないだろ」


 私以外いない、カズマくんにはシルヴィアさんってキレイな従者がいるじゃない。


「こっちだ」


 ここはカズマくんたちが使っている馬車だ。テントの出入り口からは死角になっていて、馬車の中で身をかがめれば探しにこない限りは見つからないだろう。


 私の返事も持たずにカズマくんが先に馬車にのり、手を差し出してくる。


「カズマくんって意外に強引なんだね」

「わるいな、でも今の俺は一生で一番勇気を出しているんだぜ」

「そ、そうなんだ」


 そこまで勇気を出してくれているのなら、私も勇気を出そう。OKカズマくん。私も今夜大人の女性になるよ。


 手を取り馬車の上へと引き上げてもらう。あまり鍛えられた腕ではないけど、繋いだ時に力強さが伝わってくる。これが騎士ではなく職人の腕なのだろう。


 私が馬車に上がると、カズマくんは積んだままになっている荷物を持ち上げた。


 体を横にするためのスペースを作るのかなと思ったら、カズマくんは持ち上げた荷物、大き目の皮袋を私の前へと持ってきた。


「これがリンデに見せたいモノだ」

「え? 見せたいモノ?」


 伝えたいことって言ってなかったっけ、それが見せたいモノってどういう意味かな、もしかして私かなり勘違いしてた。


 肩の力が抜け、首がガクっと重くなる。


「リンデ、あまり、いや、かなりキツイ話しになる。本当はもっと早くに伝えないといけなかったんだけど、俺に勇気がなくてすまない」


 それほど大事なこと、勇気を出さないと伝えられないことっていったいなに。


 カズマくんの雰囲気は真面目なまま、悲壮感すら漂っている。これはただごとではない、浮かれた心で聞いていい話しではなさそうね。


「ちょっと、まって気持ちを切り替えるから」


 毎朝やっている大き目の深呼吸と自己暗示、何があっても動じない柔軟な心と、どんな事があっても耐えれる強靭な精神を、私は騎士だ。


 カズマくんは本気で私に何かを伝えようとしてくれている。ならば私も本気で答えないと。


「もう大丈夫だよ」


 心は強く持ち直したが、言葉遣いは騎士にはしなかった。


 どうしてかはわからないけど、自然とこうなった。


「俺には、詳しい見極めはできない、でも、もし俺の予想があっているなら、この人はリンデに取って大切な人なんじゃないか」


 カズマくんが丁寧に袋を結んでいた紐をほどく。


「少佐級がいた洞窟にあった繭の中に、討伐隊と思われる人たちの遺体があったんだ」


 心を持ち直しておいてよかった。そうでなかったらあまりの衝撃で卒倒していたかもしれない、カズマくんが袋から取り出し見せてくれたモノ、それは見覚えがあり過ぎる全身鎧のブレストプレート、そこには私の鎧と同じ青い獅子の紋章が。


 足に力を入れろレオリンデ、ここで倒れるわけにはいかない、もう守られるだけの少女はやめたんだ。自分の足で立って現実を受け止めろ。


「ありがとうカズマくん、君が繭を持ってきてくれなければ、私は父上をあんな暗い洞窟に置いてきてしまうところだったよ」


 うすうす可能性を考えていた。


 悪魔像が侵略してきた時に備えて組織されていた騎士団。父はそこの団長を務めていた。


 ヴァルトワ家が大きくなれたのも、悪魔像の備えとして、いろいろな優遇を国から受けていたからだ。


 そのためヴァルトワ家は対悪魔像戦では最前線に立つ義務がある。それなのに、王国領土近郊に陣取った悪魔像が三年も討伐されずにいた。


「リンデに渡したミスリルバンカーは、この人の槍から作ったんだ、お父さんはリンデを守ってくれたんだよ」


 父上が私を守ってくれた。


 このミスリルの鎧は国から与えられ家宝として代々受け継がれてきた物だけど、ミスリルの槍なんて持っていなかった。私が一緒に討伐に参加した戦いにも持参していなかった。


 つまり父は、一度敗れた討伐隊を再編成して、再び悪魔像へ挑んでいたことになる。


 父は最後まで私がいた開拓村を助けようとしてくれていた。


 視界が歪んできた。どうして、焚き火からは離れているけど、さっきまでカズマくんの顔を確認できるくらいの明るさはあったのに。


「あの、えっと、無理をするなリンデ、大切な人を亡くすのって、とても悲しいことなんだろ。まだ経験のない俺がとやかく言えたもんじゃないけどさ、こんな時ぐらい、泣いてもいいんじゃないのか」


 私が泣いている。


 頬を流れ落ちる水を感じて、私は自分が泣いていることにはじめて気がついた。


 いつのまにか近くに来ていたカズマくんが、私の肩を支えていてくれた。ダメだ、こんな時に優しくされたら、騎士の精神が揺らいでしまう。


「泣きたいときは、思いっきり泣いた方がいい、大丈夫だ音は消しておくから」


 意味は理解できなかったけど、もう限界だった。いつのまにかに私はカズマくんの胸にしがみつき、大声で泣いていた。


 今だけは泣かせて、明日には騎士に戻ります。


 だから今だけは……――


 泣き疲れ、いつの間にかに眠ってしまったらしい、夢の中で久しぶりに父と会い、少佐級討伐を褒めてくれた。


 夢だと理解できたけど、それでも父と会えたことは嬉しかった。


 そして眠りが覚めていく。


 さんざん泣いたからか、父を失った悲しみはあるが、気持ちはすっきりとしていた。


 父は誇り高く立派な人だった。私もそんな父の娘として無様な姿はさらせない。そう決意したのだけど。


「お嬢様、お目覚めですか」

「バァルボン?」


 意識が完全に覚醒するとバァルボンが話しかけてくる。バァルボンは揺れる馬車の隣を歩いていた。


「もう村へ到着します」

「え、もう村に」


 あ、私は見張りをしている途中で抜け出してそのまま、さんざん泣いて馬車の上で寝てしまったいた。


「ごめんバァルボン、私見張りの途中で」

「いいのです。理由はシルヴィア殿から聞いています。見張りには私が立っていましたから、それより。おめでとうございます」

「おめでとう?」

「私は反対しませんぞ、カズマ殿は優秀な魔導技師、もしお父上が存命であったとしても反対はなされなかったでしょう」

「え、カズマくん、反対って何に?」

「あ~、リンデ、その、おはよう」


 混乱していると、温かい敷物から声をかけられた。あれ、もう冬だというのにどうして、屋根もない馬車でぬくもりを感じるの。


 意識をバァルボンから自分がしがみついていた存在にむける。


 ああー! 思い出した。私はカズマくんにしがみついていたんだ。


「あ、あの、もしかして一晩中」


 カズマくんは、答える変わりに首ごと動かして視線をそらした。それってつまり一晩中カズマくんと一緒に、寝床を共に、バァルボンのおめでとうってまさか。


「ちがうのバァルボン、私はまだなにも」

「あはは、よきことです」


 豪快に笑うバァルボンを説得しようと、問い詰めるけど流され相手にされなかった。


 そうこう騒いでいるうちに、一行は最初の目的地である。村長たちが以前にくらしていた村へ到着した。


「う~カズマくんもバァルボンに説明するの手伝ってよ」


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