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第66話『山越えの道中』

評価&ブックマークありがとうございます。

今日から二章スタートです。

 カラカラ、カラッと不規則な振動を感じ、俺はゆっくりと意識を覚醒させた。


 ここはどこだ。


 のんびりと移動する乗りモノのようだが、森の中を進んでいるのか、あおむけで寝ていた俺には冬の到来で葉の無い木々とその間から差し込む日差ししか見えない。サーチバイザーは付けたままだが、フゥオリジンは外されているのが感覚でわかった。


 体には徹夜明けに飲み会に連れて行かれた後のような疲労感がある。


「マスター、お目覚めですか」

「シルヴィアか」


 頭の上から俺にはもったいなさすぎる万能メイドのシルヴィアの声が聞こえてきた。


「ここは?」

「馬車、いえ馬はいないので元馬車、くるま、と表現するべきでしょうか」

「元馬車ってなんだよ?」


 俺が体を起こしてみると、馬車の先、本来は馬のいる場所に空飛ぶ盾が繋がれていた。シルヴィアのアクティブであるヴィアイギスの主力武装スカイシールドだ。それが馬の変わりとして馬車を引いていた。


 スカイシールドにこんな使い方があったとは、作った俺でも知らなかった。


「目が覚めたかカズマ殿」


 馬車に並走していたリンデが話しかけてきた。スカイシールドの使い方に驚いてリンデの存在に気が付かなかった。彼女は俺が作ったスィンバンカーを装備したままだった。


 馬車は歩く程度のスピードしか出していないので、リンデも普通に歩いている。


 そうか、だんだん記憶が甦ってきた。


 俺は悪魔像・少佐級を倒した後に気を失ったのか。


「俺はどのくらい寝てたんだ」

「そうだな、丸一日と言ったところか」


 丸一日、そんなに寝ていたのか。


 リンデは俺が意識を失った後のことをかいつまんで説明してくれた。


 少佐級を倒した後、洞窟を出て残った悪魔像がいないか周囲を探索、山越えの道が安全かを確認するのに一日を費やし、今はウルフクラウンが先導して村人全員で山越えをしている最中なのだそうだ。


 シルヴィアが操る馬車は集団の一番最後をゆっくりと付いていっている。


 もし背後から襲われたことを警戒して、リンデが最後尾を歩いているらしい。


 ここは人が足を踏み入れ無くなって三年が経過している山、悪魔像がいなくなっても、魔物は徘徊しているはずだ。馬車には俺の他に、繭から救出された二人が寝かされていた。


「ネクロは?」

「マスターを襲撃した商人でしたら、体の痺れがなくなると同時に私に襲いかかりましたので、撃退したところ逃げていきました。おそらく先行して山を越えているかと」


 ホントに商人ではなく盗賊が似合いそうな男だな。


 死人の荷物をあさって、現場を目撃した俺を殺そうとしたし、そうだ、繭の中にいたリンデと同じ紋章を付けた騎士、後で埋葬しようと思っていた。あの遺体はどうしたんだ。


「シルヴィア、えっと、ネクロがあさっていた、モノだが……」


 リンデが隣を歩いているので、なかなか明確な言葉で質問ができなかった。説明しなければならないが、どう説明すればいいものか。


「それでしたら、そちらの袋に納めてあります」


 俺が聞きたいことを察してくれたシルヴィアが馬車の隅に置かれている皮袋を示した。皮袋は全部で五つ。もしかして、あの騎士以外の繭に閉じ込められていた人たちか。声には出しづらかったのでサーチバイザーを使いメールで尋ねてみると、肯定との返事がきた。


「山越えには後二日は掛かるだろう。カズマ殿はゆっくり休んでくれ、両足の骨が折れていたのだから」

「え、マジで」

「ケガは私が魔法で治療をしておきましたが、直したばかりですので今日一日は安静でお願いします」

「了解、助かるよ」


 もう完治しているので実感はまったくないが、いったいいつ足の骨なんて骨折したんだ。


 でも、せっかく休んでいいと言われたのでお言葉に甘えることにしよう。目覚めてから体に疲労感もあるし。


 俺は楽な姿勢をとり、サーチバイザーでフゥオリジンの状態を確認してギョっとした。


 いたるところが損傷しており、大破と言っても過言ではないダメージを受けていた。特にスラスターブーツなんて核である魔結晶にまで亀裂が入っていた。考えられるのは殴り飛ばされた時に傷をつけられ、それから全力機動を何度もしていたので負荷に耐え切れなくなった。


 全身にも細かい破損があり、これは直すには時間をかけてスキルも使いまくらなければならない、最後尾と言っても人目はある。ひらけた馬車の上では直せないな。


「ところで、山を越えた先には何があるんだ」


 この一行はどこを目指しているのだろうか。大きな街があるのはSOネットでわかっているが、それは山を越え、更に街道を進んでいかなければならない。さすがにそこは目指していないと思うのだけど。


「超えた先の麓に、村長たちが開拓村へ移住する前に住んでいた村がある。とりあえずはそこを目指している。開拓村の半数はその村の出身者らしいからな」

「へ~」

「その村も、もともとは村長たちが開拓して作った村らしい」


 つまり人類の最南端を開拓している人たちの村ってことか。


 悪魔像にさえ襲われなければ、きっと開拓を成功させシルヴィアが眠っていたシルバーメイズも見つかっていたかもしれない。


 それからリンデとたわいもない会話を続け、俺が目覚めたと聞いたカリンとフットがわざわざ集団の最後尾までやってきて話しにまざり、結局俺は繭の中で見つけた上級騎士の話しをリンデにできずじまいであった。


「おい、前で魔物が出たらしい!」

「私がいく、カリンたちは集団の中央に行きなさい」

「わかりました」


 そうこうしていると、先頭で魔物と遭遇したらく、リンデが応援に行ってしまい。


「言い出せなかった」


 落ち込む俺。


「マスター、リンデ様に私から伝えましょうか」

「いや、ここは俺にやらせて」


 いやな役割だけど、だからって従者に任せたら、それは俺の嫌いな元上司と一緒になってしまいそうだ。それにリンデには俺から伝えたい気持ちもある。


 魔物との遭遇で止まっていた一行が再び動き出す。


 どうやら無事に魔物を撃退できたようだ。


 それからは穏やかに進んでいく、リンデが戻ってくる様子がないのでただボーと流れゆく山の風景を眺めていた。


 丸一日寝ていたからなのか、疲労感があるのに眠気はない。


 手持ち無沙汰になったので、スラスターブーツの破損した外装で、ついつい日本にいたころに一番作った某起動する戦士ロボのプラモデルならぬ、金属モデルをこさえてしまった。


 もうこのシリーズは何体作ったかも覚えていない。


 説明書がなくても記憶には残っている。スキル変形はイメージが重要なので、金属色一色であるが、三〇分ほどで1/60サイズのガ〇プラが完成した。


「コーティング剤が余っていたら色を塗りたいところだな」

「マスター、お暇でしたらこちらを調べていただけませんか」


 御者台にいたシルヴィアが俺の作業が暇つぶしであることがわかったようで、自分の脇に置かれていた布の包みを差し出してくる。


 大きさはバレーボールくらいの丸い形状だ。


「これは」

「悪魔像がいた洞窟にあった繭です」

「へ?」


 布をめくってみれば、確かにそれは天上からぶら下がっていた繭だった。ただものすごく小さいが。


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