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第65話『騎士見習いレオリンデ外伝Ⅳ』

これにて1章完結です。

魔物の強さの表記をカテゴリーから討伐レベルに変更しました。

 てっきりカリンに渡したのと同じ手足の武装だけかと思ったら、カズマくんは全身の装備、アクティブアーマーをまるまる一機完成させてしまった。


 カズマくんやシルヴィアさんのアクティブに比べて軽装であり、カズマくん本人はあまり納得する出来栄えではなかったようだが、スィンバンカーと名付けられたこのアクティブの打撃力は驚愕させられた。


 最下級である悪魔像・卵二等兵級すら、斬りかたを失敗すれば剣の方が折れてしまう強固な体をしているのに、バンカーはいとも容易く卵二等兵級を粉砕する。


 ハラスメント攻撃を受け、精神が乱れた時も。


「そうだぜリンデこっちにはアクティブがある。ハラスメント攻撃なんて食材が鍋もって歩いてくるようなもんだぜ。やってきたらおいしく頂いちまおう」


 悪魔像を食材に例えるカズマくんの場違いな意見に、イライラや焦りは抜け落ちてしまった。


 このアクティブさえあれば少佐級をも打倒できると希望がもてる。


 だから、弱い自分を認めたくはないが、カズマくんがそばにいてくれるだけで、どれだけ心強かったか、常に冷静でいて視野も広い。すべては魔道具のおかげだと言っているけど、使う人間が冷静さを失えば、どんなに優れた道具だってガラクタになる。


 だから私は冷静さを失わないカズマくんに参謀役をお願いした。


「頼めないだろうか」


 突然の申し出、カズマくんを悩ませてしまった。私としては適任だと思うんだけど、本人はあまり自信がないようだ。


「わかった、引きうけるよ」

「そうか、よかった」


 それでも引き受けてくれて一安心。


「俺はあくまでもお前だけの参謀だからな、接近戦はなしで頼む」


 え、ちょっとまって、わ、私だけの。


「ああ、参謀役だ」


 体の芯から熱が発せられるように、体温が急上昇したような錯覚に襲われる。私が頼んだのは、強襲をしかける際の後方サポートだったのに、それがどうして私だけに限定されるの。


 落ち着こう私、私の頼み方が悪かったのかな、強襲時の参謀を頼みたいって言っただけだし、まずくはないよね。


 でも、指揮は私が取るのだから、私をサポートするイコール全体のサポートに一応はなるか、それなら問題はないはず。


「了解した。カズマ殿はあくまでも参謀なのだな、よろしく頼む、私の参謀殿」


 ああ、もう騎士はいつも感情をコントロールしなければいけないのに、どうしてこんな状況なのに嬉しく思ってしまうのだろう。


「悲壮感を背負うよりもずっといいことだと思いますぞ」


 小さい頃から私の世話をしてくれているバァルボンには私の変化はお見通しのようで、こっそりと耳打ちしてくる。


「楽観はよくありませんが、カズマ殿は油断ではなく自然体でいるだけです」

「嬉しそうだな、バァルボン」

「この状況ではありますが、再び砲を撃てると思うと、若き頃の血が目覚めるようです」


 戦闘力のあるバァルボンを後方に残すのは、もったいないけど、主砲を操れるのは今はもうバァルボンだけしかいない、それに村人の護衛も残さなければならないから、適任なのは理解しているけど。


「大丈夫です。お嬢さまには立派な参謀が現れたではありませんか」

「からかうなバァルボン」


 バァルボンが嬉しそうに声を出して笑う。彼がこんなに笑った姿を見るのも二年ぶりね。


「後方はまかせたぞ」

「お任せください、必ずや強烈な一撃を加え、ヒートレオンを死守してみせなす」


 宣言通りバァルボンは、卵二等兵級が発射されていた地点を撃破してみせた。


「リンデ、潰したぞ」


 カズマくんにシルヴィアさんから砲撃成功の知らせが届いた。正確な観測魔法が使えるシルヴィアさんと砲撃の名手であるバァルボンが組めば当然の結果。


「了解した。強襲部隊出るぞ、アクセル!」


 脚力を四倍にする魔法の言葉。


 学院にいたころも、強行軍の訓練はした。けどそれがお遊びであったと思い知らされる。もしかしたら父が小隊を指揮してもこれほどの速度はだせないかも、いや、出せない。


 俊足の法以外の加速する代償をアクティブが肩代わりしてくれているので、障害物にさえぶつからなければ問題はない、あまりの速さにアクセルグリープを装備していないカズマくんが付いてこられないか心配になったが、彼は疲れた表情も見せずに最後尾に付いてきていた。


「リンデ、前方に卵二等兵級の反応が多数」


 私やウルフクラウンがわずかに息を乱す行軍であったのに、カズマくんだけは一切の疲れも見せずに悪魔像を発見する。


「リンデ、一撃目は俺にまかせてくれないか、急ごしらえだけど、遠距離から高火力で攻撃できる」


 そしてカズマくんが急造で作った武器はパイルバンカーだけではなかったらしい、自信溢れる顔で宣言するので任せてみたら。


 連続爆発。


 三十近くいた卵二等兵級の殆どが吹き飛んでしまった。


「……これほど、とは、これがカズマ殿のアクティブの力」


 私はよく騎士の体裁を保つことができたと、私自身をほめたい。


 残った悪魔像も無傷の固体はなく、ほんの数分で駆逐できた。私はみんなに油断するなといいながら、あまりの攻撃力に無意識の油断をしていたのかもしれない。


「カズマ殿!」


 突然地面の下から現れた少佐級がカズマくんを殴り飛ばす。でも、すぐに起き上がったカズマ君が。


「足を止めてくれ!!」


 と叫んだので、足止めに動いた。


 強烈な攻撃だったはずなのに、盾が粉砕される衝撃をモノともせず立ち上がり、本人は戦闘は苦手といっておきながら、少佐級を前にしてすぐに打倒策を構築したらしい、先程の攻撃を発射した盾は失われと言うのにまだ策があるとは、彼に参謀をお願いしてよかった。


「みんな、避難だ!!」


 とうやらアクティブを通してシルヴィアさんに正確な少佐級の位置を教えたようで、バァルボンの放った砲弾が見事に少佐級へと命中した。


 盾を失ったカズマくんを衝撃から守るために前へとでる。


「参謀を守るのは前衛の務めだ、礼にはおよばない」


 ここまでいろいろとしてくれたんだ。カズマくんに怪我をさせるわけにはいかない。私の参謀は私が守る。


 爆風がおさまり、カズマくんを守れたことに安堵した私はとんでもないことを、しでかしていた。


「リンデ」

「なんだカズマ殿」

「もう放してもらっていいか?」


 私はカズマくんをすごく密着するように抱きかかえていたのだ。


「す、すまない!」

「おい、お二人さん、お前らこそ緊張感を持ってくれよ」


 慌てて手を放すが、ダラス殿にからかわれてしまった。


 でもカズマくんは私が守らないと、危なっかしい。追いつめた少佐級がジャンバットを放ってきた時も。


「リンデ、俺がヤツを落とすからトドメは任せる!」

「それは危険だ!」

「大丈夫だ、信じてくれ」


 ほら、またすぐに危険な役目を自分から引き受けて、心配ではあったけど、カズマくんとアクティブを信じよう。


 彼がジャンバットの音波魔法を正面から受けた時には背筋に氷のナイフを突き刺されたような衝撃を受けたが、音波魔法を受けた本人は変わりなく。


「リンデ!」

「承知!」


 私の名を呼んで、後を託してくれる。彼が私を信じてくれるなら、私も彼を信じよう。背中を預けると決めたんだ。だったらハリボテの騎士としてではなく、レオリンデとして彼の期待に応えてみせる。


 翼を失ったジャンバットだがまだ音波魔法を放てるかもしれない、なので攻撃に手数はかけられない一撃でトドメを刺さなければ、パイルバンカーは攻撃力はあるが、形状の問題で突きしかできない、固い悪魔像には有効な攻撃手段であるが、ジャンバットのような大型の魔物には相性があまりよくない。


 攻撃をバンカーから剣へと切り替え、一撃の元、ジャンバットの首を切り落とした。私だけの力ではジャンバットの首を一撃で斬り落とすことはできないが、四倍の力で踏み込めるおかげで斬撃の威力も格段に上がっていた。


 討伐レベル88の魔物をほぼ瞬殺できた。本来なら歓喜が沸き起こる場面だが、今の私には音波魔法を正面から受けたカズマくんの方が心配であった。


「カズマくん、大丈夫だったの、体は何ともない!?」

「ああ、なんともないけど」


 その何を心配しているのみたいな顔で聞き返さないでほしい。本人は音波魔法を受けたことも気がついていなかったようで、アクティブが勝手に弾いていたらしい。


 アクティブの性能もすごいけど、カズマくん本人もすごいと思う。


 だから。


「リンデ、名案が浮かんだ。少しだけ時間を稼いでくれ」

「わかった」


 ようやく少佐級を追いつめたのに、決定打を無くした時、彼がひらめいたという名案を疑うことはしなかった。


 時間稼ぎが少佐級打倒に繋がるのなら、私は彼を信じてもてる全てで時間稼ぎをしよう。そして彼が策を持ち帰った時にそれを実行できる体力も残しておかないと。


「無理に踏み込むな、時間稼ぎに専念、体力も温存しろ」

「ホントにあの坊主は戻ってくるのか」


 ウルフクラウンはカズマくんが逃げたかもしれないと疑う。


「カズマくんは逃げない、絶対に、私は信じる」


 第一目標は時間稼ぎ、第二目標はできるだけ体力を使わずに少佐級の回復の妨害として、私はウルフクラウンを指揮してカズマくんを待った。


 一時間でも二時間でも粘る覚悟をしていたけど、それほどの時間は必要なかった。


「待たせた!」


 彼は三十分もかけずに戻ってきてくれた。


「カズマ殿」

「リンデ、こいつを使え」


 白銀に輝くパイルバンカーの杭を私に投げ渡してくる。


「これは!?」


 見ただけでも、杭に内包する魔力がわかってしまうほどの濃密な魔力。これは伝説の魔剣や聖剣に匹敵するほどの力を秘めているのではと錯覚してしまうほど。


「それが切り札だ」


 これほどの物をこの短時間にどうやって、いや、今は詮索なんてどうでもいいじゃない。カズマくんはこれを私に託してくれたんだから。


「感謝する」


 そう、感謝すればいい。


「こいつをヤツへ叩きこむ、援護をしてくれ」


 少佐級もこのバンカーの力を感じ取ったようで、逃げに転じた。


 逃がすわけにはいかない、この悪魔像を倒すために、私の父や仲間たちは多くの犠牲を払ってきたのだ、みんなの遺志を無駄にしてたまるものですか。


「アンカー射出」


 左右から放たれたアンカーが少佐級に絡みつき動きを封じようとするが、強引に振り払おうとする少佐級の力に負けカズマくんとテルザー殿が振り回され、私は近づくことができなかった。


 でも、カズマくんが自分の足を地面に突き刺して強引に悪魔像の動きを止める。


 なんて気迫なの、カズマくんの足が少し変な方向に曲がったような気がするけど、大丈夫なのかな。


「踏ん張れ小僧、ここが正念場だ」


 ウルフクラウンの残りのメンバーがカズマくんとテルザー殿を押さえつけ、完全に少佐級の動きを封じこんだ。


 そして。


「リンデ!」

「了解だ」


 彼がまた私の名前を呼んでくれた。


 ずっと少佐級を倒すことばかり考えていたけど、まさか本当に少佐級が倒せるなんて、それも私の手で、父上、アーネット、みんな。


 私は白銀に輝くバンカーを少佐級へと叩き込んだ。


 今まで弾かれていたのが嘘のよう、強固だったはずの悪魔像の体が薄い氷を砕くように貫通した。


 静寂に包まれる洞窟ないで、私はミスリルのバンカーをかざした。


 やったよ、みんな。


「我々の勝利だ」


 ウルフクラウンから歓声が沸き起こる。


 これもすべて彼のおかげだ。私はカズマくんのところへ駆け寄り、両手を握りしめて感謝を伝えた。


「ありがとう、カズマ殿、貴殿がいなければこの勝利はありえなかった」

「へへ、どういたしまして」


 こんな時は騎士ではなく普通の少女へ戻ればいいと思うけど、それができない自分の不器用さが悲しくなる。


「カズマ殿?」


 私のお礼に笑顔で返してくれたカズマくんの様子がおかしくなった。


「カズマ殿、カズマくん、しっかり!!」


 彼の体が傾き倒れるのをギリギリで抱きとめることはできたけど、いったい何が。


『心配いりませんリンデ様、マスターの呼吸に問題はありません。おそらく緊張が解け気を失っただけのようです』


 カズマくんの黒いメガネからシルヴィアさんの声が聞こえてきた。


 シルヴィアさんに言われて表情を確認してみれば、とても穏やかな顔で寝息を立てていた。もう驚かせないでよ。


 しかたがないよね、私は眠ってしまったカズマくんを抱えて洞窟を後にする。


 ダラス殿が運ぶのを変わろうかと言ってくれたけど、アクティブの力があれば苦ではないので問題ないと断った。


 本当はちょっと重かったけど、もう少しだけこうしていたかったから。


少し長くなってしまいましたが、1章完結しました。

ここまで読んでいただきありがとうございます。もしよろしければ、ここまでの評価をつけていただけると嬉しいです。

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