第64話『騎士見習いレオリンデ外伝Ⅲ』
カズマくんの作った回復薬を見て、顎が外れるかと思った。
最上級回復薬なんて、父が望んでも簡単には手に入らない品なんだよ。
「本当に秘密が多い、味方に引き入れた自分の判断は間違いではなかった」
これを街で買おうとしたらいったいいくらになっていただろう。それがどうして、食糧調達のついでに取ってきた素材と料理用の鍋だけで作れてしまうのか。
本当に仲間に入ってくれてよかった。
「これだけのことをしてもらい、こちらからは報酬がなにも払えないのが心苦しい、自分の不甲斐なさが身に染みる」
だからどうして私は偉そうに、素直にお礼を言えばいいじゃない。こんなときだけ立派な騎士の言い回しが自然と口にできるの。
「こっちだってけっこう払ってもらってるぜ、寝床を提供してもらってるし、いろいろな情報も教わったからな」
それじゃ釣り合わないよ。
「だ、だったらさぁ」
何か頼みごと、それで少しはお礼になればいいんだけど、言いにくそうカズマくんは私の胸へとチラリと視線を向けた。まさか私の体で釣り合わない部分を払えとか。
でも、シルヴィアさんのようなキレイな従者を連れているカズマくんが、多少は成長したけど私みたいな小娘に欲情なんてするのかな、するわけないか、なんで私は自分で考えてガッカリしてるんだろう。
もう返せないほどの借りができてしまったのだ。
ここは、私にできることがあるなら、喜んで聞いてあげないとダメだよね。
「何かできることがあるのか?」
カズマくんは覚悟を決めたように大きく咳払いを一つ。
何を言われるのだろうか。
「だったら、テストパイロットになってくれないか」
なんでもこいと待ち受けていたけど。
「てすと、ぱいろっと、とは何のことだ」
言葉の意味が理解できなかった。カズマくんがテストパイロットの意味を詳しく説明してくたので何となくイメージはできたけど。
「つまり、カズマ殿たちが着ている魔導甲冑を私にも着てほしいということか」
「そう、それであってます」
そんなことで報酬になるの。
「なりますとも!! 俺の夢はこのアクティブアーマーをたくさん作っていろいろな人に装着して欲しんだ」
でもシルヴィアさんがいるんじゃ。
「でもまだまだ試したいことが沢山あって、性能や着心地なんかの感想を言ってくれる人を探してるんだ」
「なるほど、そういうことなら私でも協力できそうだな。わかったできる限り協力することを約束しよう」
「うおぉぉぉー、ありがとう。なんとお礼を言っていいか、とにかくありがとう」
お礼のはずだったのに、何故かカズマくんにお礼を言われてしまった。
でもヘルダーティをも瞬殺できる魔導甲冑には興味も沸いていたので、この申し出は私にとっても嬉しいことだった。
今は作ることができないけど、街にいったら材料を集めて私の機体を作ってくれるらしい。
これまでは悪魔像を倒すことばかり考えて、それからのことなど考える余裕もなかったけど、カズマくんと一緒にいると、本当に悪魔像を倒し街へと帰れる自分の姿が自然と想像できてしまった。
その日の晩だった、悪魔像が村を襲撃してきたのは。
私はカリンたち村の人を助けるために剣一本で飛び出した。せっかく直してもらった鎧も付けずに最速で悪魔像の元へたどり着いた。そのはずなのに、後から完全武装できたカズマくんにあっさり追いつかれ、また高価な魔導銃をバンバン撃って卵二等兵級を倒していく。
私も落下してくる卵二等兵級を迎撃したが、それもいち早く落下を教えてくれたカズマくんのおかげ、彼はすべてアクティブアーマーのおかげだと言っていたけど、そのアクティブアーマーはカズマくんが作り出したモノ、だから全てカズマくんの力と言ってもいい。
それでも戦闘飛行艦の砲弾を作れると聞いた時には、すぐには信じられなかった。さすがに国家機密レベルのレシピを簡単に教えてくれる知り合いがいるとは、誰も納得しないよ。
「知っているのは当然です。マスターの出身はジャンアーセナルですので」
ジャンアーセナルの名を聞き、驚きそして納得する一同。物造りに特化した所在もたしかではない神秘の国、存在自体が幻ではないかとささやく人もいるが、かの国が生み出した発明品の多くが、人々の生活を豊かにしている。
都市の基盤ともいえる上下水道や夜を照らす照明、さらには船を空に飛ばした飛行艦などジャンアーセナルの技師たちがもたらした技術だ。そして私の祖母もジャンアーセナルの出身者である。
祖母も年を取り髪が白くなるまでは、カズマくんと同じ黒髪をしていた。私のこの黒い髪も祖母譲りであり、レオリンデ・フジ・ヴァルトワのミドルネームのフジは祖母のファミリーネーム。同年代の異性をくん付けで呼ぶのも祖母に影響されたからだ。
祖母は道具の発明家ではなかったが、さまざまな料理を生み出す達人であった。五年前に他界しているが、祖母の残した数多くの料理レシピは多くの食事処で使用されていて、海外からもわざわざ食べにくる人もいるくらいだ。
私にはカズマくんと同郷の血が流れている。そのことを嬉しく感じる自分がいた。ジャンアーセナルの出身者ならあれほどすごい魔導甲冑を作れるのも納得できる。
私はそんなすごい魔導甲冑を着てみてくれと頼まれている。
あらためて考えると、とても名誉なことだ。
だからだろうか。
「そんな動きじゃ、今の私は四倍速い!」
カズマくんの作った武器で卵二等兵級を粉砕するカリンを見て、少しだけ羨ましいと思ってしまった。
ヒートレオン号に追いつめられ、絶望的状況なのに、カズマくんのまわりだけは、ゆっくりとした雰囲気がある。
「ロマン武装ってなんだよ」
「あー、見た目とかピンポイントの能力はすごいけど、実戦では使えない武装」
「十分に使えてるじゃねぇか」
「マスター、カリン様が三体の悪魔像を秒殺されました。実戦にて通用しています」
「まじで!?」
まさか砲弾を一日で完成させ、さらにあれだけの武器を開発していたとは、本人にとっては時間つぶしのようだったけど、もし彼が材料が揃い全力で製作したらどんなアクティブアーマーになるのだろうか。
私にそんな高性能な甲冑を扱えるのだろうか。
ふと不安に襲われた。そのせいで……。
「な、なあ、それなら、お前の手は空くんだよな」
ウルフクラウンのリーダーダラス殿がカズマくんに話しかけていた。
「それなら、頼みがある。あれと同じのを俺、いや、俺たちの分も作ってくれないか」
「おおお~~~~、話しわかるじゃん、あのロマンを理解できるなんて」
自分の発明品が認められ嬉しそうに顔をほころばせるカズマくん。先こされてしまった。何を不安になっている私、私はカズマくんから直接たのまれている。
ここで後れを取るわけにはいかない。
材料が無いから、悪魔像を素材にして作ると言い出し、ウルフクラウンはおののくけど、それがどうした。カズマくんのアクティブアーマーは信用できる。私は信じると決めた。
「すまないカズマ殿、どうか私の分も頼めないだろうか?」
「リンデも」
「私も、長期戦に耐えられるほどの腕はない、悪魔像を倒せるなら、どうかお願いしたい、私にも作ってもらえないか」
私はこの時に決意した。絶対にアクティブアーマーのテストパイロットなる者になり、誰よりもうまく使いこなしてみせると。




