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第63話『騎士見習いレオリンデ外伝Ⅱ』

魔物の強さの表記をカテゴリーから討伐レベルに変更しました。

 村に秘密は無いけど、この村では当たり前になっていた悪魔像の存在を彼らは知らなかった。


 秘密にするつもりは全くなかった。

 ただ当たり前すぎて、教えるという考えが無かっただけ。


 彼らは悪魔像の存在を聞いて、どんな反応するだろうか。

 これまでの、余裕がある態度は悪魔像を知らなかったから取れただけだったのか。


 当然だ、悪魔像は全人類にとっての敵、かの存在を聞き震え上がらない人なんていない、たとえ勇者であっても悪魔像と戦うには決死の覚悟が必要。


 そんな悪魔像・少佐級をアーネットは、翼を奪い落とした。

 讃えてあげたい、でも、救援できなかった。結果がすべてだ。


 彼らも村からの突破口を作れなかった私たちを、悪魔像を倒せなかったアーネットを責めるだろうか。


「アーネットは英雄として讃えられるべきだ、とどめは確認できていないが翼を奪い地上に落とすだけでも大功績だろう」


 でも私の期待は予想外の方向で裏切られた。


「たしかにそうだな、国家レベルの災害を払ったようなものだ」


 カズマくんはアーネットを讃えてくれた。


 いけない目頭が熱くなる。ここは、耐えろ、感情を顔にだしてはダメだ。


「……ありがとう。彼女の功績を認めてくれたのは君がはじめてだ」

「討伐レベル100の悪魔像を落としたんだろ、ほめて当然だと思うが」

「この村の者たちには、翼だけしか落とせない役立たずと言われたよ」

「わかった。俺がアーネットさんの功績に敬意をはらいコーティング剤を討伐部隊へ寄贈します」

「いいのか」

「もちろん」


 私は思わずコーティング剤を差し出してくれた腕を握りしめていた。


「ありがとう。お心遣い感謝するカズマ殿」


 アーネットを認めてくれてありがとう。


「かわりと言ってはなんだけど、頼みがあるんだ」

「なんだ、今の私ではたいしたことはできないが、できる限り努力はしよう」


 たいした事はできないけど、できる限り力になってあげたい。


「討伐部隊に魔導技師見習いとその従者を雇う気はない、素人よりコーティング剤の扱いはうまいと思うよ、鎧のサイズ直しは得意分野だ」


 それがまさかの入隊希望とは、つくづく予想外のことを口にする。


「面白い頼みごとをする、給金が払えないのはわかっているだろ」

「それは現状打破で手を打とう。俺には夢がある。その夢を叶えるためには大きな都市に行く必要があるんだ」


 夢、この村に閉じ込められてから、聞くことのなかった言葉。


 目標は私たちと同じ、この村からの脱出、利害は一致している。これほど頼りになる男性が仲間になってくれるなら、とてもありがたい。


「心強いな、さっきも名乗ったがもう一度名乗ろう。私は騎士見習いレオリンデ・フジ・ヴァルトワ。親しい者たちからはリンデと呼ばれている。どうか君たちもリンデと呼んでくれ」

「交渉成立だな、よろしくリンデ」

「よろしくお願いしますリンデ様」


 差し出した手をカズマくんは握り返してくれた。


「俺のこともカズマって呼び捨てでいいぞ」

「呼捨て!」


 私はこれまで同年代の男性を呼び捨てにした経験など一度も無い、父の部下であるバァルボンならいつも呼び捨てにしているけど、同年代はない、顔が熱い耳の裏まで熱を持っているような、申し訳ないが、カズマくんではなくカズマ殿と呼ばせてもらうことにした。


「まあ慣れたらまた挑戦してみてくれ」

「努力はしよう」


 努力できるかな。


 それからカズマくんは剣の修復と鎧のサイズ直しに取り掛かってくれた。


 でもまさか、鎧のサイズ直しのためとはいえ、シルヴィアさんに裸にされ体のサイズを隅々まで測られるとは思わなかった。いくら女性同士でも恥ずかしかったのに、そのデータをカズマくんに見られてしまうなんて。


「…………他には絶対にもらさないでくれ」


 カズマくんを睨んでしまったのはしょうがないことだ。


「墓の下までもっていくことを誓います」


 よろしい。


 それからは怒涛の展開が続いた。


 三年も進歩が無く、停滞していた村とは思えないほど、毎日いろいろなことが起きた。


 食料確保の狩りへ出かければ、長距離移動用の俊足の法にらくらく付いてくる魔導甲冑、カズマくん風に言うならアクティブアーマーか。


 高額なはずの魔導銃を惜しげも無く撃って悪食熊ヘルダーティをしとめてしまった。


 ヘルダーティなど、集団討伐推奨の魔物だ。


 私の剣技も厚い脂肪に通用しなかったのに、たったの一発だった。


 せっかく直してもらったばかりの剣を折ってしまい申し訳なく思っていたら。


「剣を修復しておいたぞ」

「さっそくやってくれたのか、助かる」


 もっとまともなお礼が言えないのか私は、何が助かるだ、上から目線にもほどがあるでしょ、ここでは騎士らしくはかえって相手を不快にさせるだけじゃないと自己嫌悪。


 どうも、騎士らしくあろうとする姿勢は私が考えているよりも、深く癖になってしまっていた。


「みごとな仕事だ、どこが折れたのかすらわからないとは」

「その辺りは得意分野だからな」


 これは得意分野ですまされる業なのだろうか。


「時間が余ったんで回復薬でも作ろうと思って」

「回復薬まで作れるのか!?」


 魔導技師見習いではなかったの。明らかに魔導技師とは別の技術が必要なはずだけど。


「マスターは錬金魔法も習得していますので、そのくらい簡単にこなせます」

「自己流だから、まだまだ作れる種類は少ないけどな、知り合いにちょっとレシピ教わっただけだ」

「いや、錬金魔法のレシピはそれぞれの派閥で秘匿されている。回復薬レシピは大手派閥が独占していて個人ではなかなか手に入らない筈だ」


 いろいろとおかし過ぎる。常識が抜け落ちているような、持っている技術と自己評価の差の開きが酷すぎる。


「あー、この事はご内密に願います」


 失敗したと顔に出すカズマくん、その表情が面白くてつい笑ってしまった。この村に閉じ込められてから初めて笑ったかも。


 きっと、もっと多くの秘密をもっていそうね。


 しかもポロポロと自分から暴露してしまいそうなあやうさもある。仲間となったからには、私がフォローするべきよね。


 話してくれるなら聞こう。隠したいならこちらからの詮索はしない。


 それからカズマくんを使い道のない素材が保管されている部屋へと案内したら、小さい子供がおもちゃを漁るように瞳を輝かせた。


 この姿を見てしまうと、隠し事がたくさんあろうと悪人にはとても思えない、同い年のはずなのに、今はどう見ても年下に見えてしまう。


ヒロイン外伝は3話完結の予定でしたが、書いているうちに楽しくなって文字数が増えてしまったので、4話構成に変更しました。

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