第61話『ラストはやっぱり必殺技』
ニードルガンの電流にやられ、ピクピクと痙攣しながら気絶するネクロ。
「くそ、リボルバーがやられたのは痛い」
ちょっと破損なら変形で修理できるが、炎で解かされて原型もわからなくなっている。時間が無い現状、修理しているヒマはない。
「油断しましたねマスター」
そんな時、サーチバイザー越しではなく、生のシルヴィアの声が聞こえた。それも上から。
首を上に向けてみれば、そこにはスカイシールドに乗った万能メイドがいた。
「シルヴィア」
「ヒートレオン号周囲に悪魔像の気配が無くなりましたので、護衛をバァルボン様と村長様に頼み救援に駆けつけました」
よくできたメイドさんです。
「助かったよ、俺はリンデたちの所に戻るから、ここを頼む」
本当はシルヴィアには戦力として一緒に来てほしいけど、気絶している村人もいるここを無防備にできない、退路も確保しておいてもらわないと、ネクロにはもう任せられない。
「かしこまりました。ここはお任せください」
スカイシールドから舞い降りたシルヴィアが小さく頷いて了承してくれる。
「じゃあ俺は戻る」
ネクロのせいでだいぶ時間をロスしてしまった。
「お借りします」
俺は騎士の亡骸に一声かけてミスリルの槍を拾い上げた。
「マスターこれを」
シルヴィアがスカイシールドを差し出してきた。盾を失っているのでありがたいが、これはヴィアイギスの主力装備だ。
「ここの守りはグライダーナイフが三本あれば十分です。こちらもお持ちください」
スカイシールドに続いて、ショルダーパーツも外す。内部装甲はフゥオリジンとヴィアイギスでかなり構造が違うが、外部パーツであるショルダーのグライダーナイフ射出ユニットは同形状なので交換は可能。
ホントによくできたメイド様です。
もう押し問答している時間もないので、俺はシルヴィアの厚意を素直に受け取る。破損したユニットを外し、ヴィアイギスのユニットと交換しスカイシールドをレフトアームに装着した。
「お気をつけて」
シルヴィアに見送られ、俺は再び凸凹の坂道を駆け抜ける。
もうすぐ最深部。
耳に聞こえてくるのは激しい戦闘音。
よかったまだ戦闘は続いている。リンデたちは、一人もかけることなく踏ん張ってくれていた。
ウルフクラウンの幾人かは、パイルバンカーの予備を使い切り、欠けたままの杭で攻撃している。
「待たせた!」
「おせえぞ!!」
ダラスに怒鳴られたが、怒りではなく期待が込められていると勝手に解釈しよう。討伐のカギを持ってきたんだから。
「行け、スカイシールド!」
俺はシルヴィアから借りたスカイシールドを飛ばし少佐級を弾き飛ばす。
「カズマ殿」
「リンデ、こいつを使え」
俺は坂道を下っている間にミスリルの槍をバンカーの杭へと変形させていた。ついでに『粉砕』と付加した革袋の上級魔結晶を埋め込んである。
「これは!?」
杭に内包されている魔力に驚きの声を出すリンデ。ミスリルって魔力との相性がとんでもなく良いようで、魔結晶を埋め込んだら、魔力に鈍感な俺でもわかるくらいのオーラを放っていた。
「それが切り札だ」
「感謝する」
リンデはバンカーの杭を抜き、ミスリルの杭へと交換する。
「こいつをヤツへ叩きこむ、援護をしてくれ」
「おう」
「今度こそしとめる」
ウルフクラウンが最後の力を振り絞って、少佐級をかく乱させるべく仕掛ける。
少佐級もリンデのバンカーから放たれる魔力を感じ取ったようで、椅子型の管から体を引きはがした。
「逃げる気か」
「やろう、絶対に逃がすな」
怖いのはリンデのバンカーのみと判断したようで、ウルフクラウンの攻撃は一切無視して出口へと急ぐ。
「逃がすか!」
リンデの気合いの攻撃だけが交わされる。
管から解放された少佐級は素早く、単純な踏み込みでは交わされてしまう。リンデが撃ちこめる隙を作らなければ。
「シルヴィア、グライダーナイフの操作を頼む」
『了解しました』
シルヴィアと交換してもらった肩のユニットには三本のグライダーナイフが収まっている。俺には同時コントロールはできないがバイザー越しの遠隔操作でもシルヴィアなら可能だ。俺はスカイシールドの操作に専念する。
逃げようとする少佐級の進路をスカイシールドで塞ぎ、ミスリルの短剣で付けられた傷にシルヴィアがグライダーナイフを突き立てる。傷はほんの些細なモノしかつかないが、魔力吸収が付加されているナイフだ。
補給がなくなった少佐級にとっては地味な嫌がらせになるだろう。その証拠に無視していたグライダーナイフを振り払う動作をしだした。
「テルザーさん」
「わかった」
ここで最後の追加オプションその四を使用する。
その四はテルザーの機体に追加した捕獲用ワイヤーアンカーがカッコよく見えてしまったので、フゥオリジンにも組み込んでみたモノだ。ミサイルランチャーに比べれば攻撃力は格段に低いが、リンデの攻撃の隙を作るにはうってつけだろう。
「アンカー射出」
少佐級を挟み左右から放たれたアンカーは、俺のアンカーが腕に、テルザーのアンカーが胴体へと巻き付いた。
「うわッ!」
ホバー全快で押さえつけようとしたが、逆にフゥオリジンが引きずられてしまった。フゥオリジンの全力が少佐級の片腕に馬力で負けているのか。
ひっぱられ、振り回される。
スラスターブーツを地面に突き刺すように踏みしめ、何とか動きを止めようと苦心していると、後ろから力強い腕によって支えられた。
「踏ん張れ小僧、ここが正念場だ」
引きずられる俺をダラスたちウルフクラウンが押さえつけてくれたのだ。テルザーの方にもウルフクラウンの半分のメンバーが押さえつけている。
機体全体がきしみはじめたが、これでやっと、ギリギリで少佐級の足を止めることができた。
「リンデ!」
「了解だ」
ワイヤーが限界だと悲鳴をあげ、ホバーブーツからも異常な音が響くが、ここで放すわけにはいかない。
四倍に加速した俊足の法、もう何回も見ているはずの連携技であったが、装備しているミスリルバンカーの輝きで、まったく別の技に見えてしまった。
まさに三〇分アニメの勇者ロボがラストに繰り出す必殺技のような、リンデのような美少女が俺の作ったアクティブで悪魔像を粉砕する。
幻でも見ているようだ。
ずっと、夢描いていた光景が今そこにある。
繰り出されたミスリルバンカーはワイヤーで動きを封じられた悪魔像・少佐級の中心をとらえた。いままで何度もバンカーを弾いてきた紫色の体を砕き突きささる。
刺さっただけでは止まらない、俊足の法で加速されたバンカーは深く、深く、突き刺さり、少佐級の体を貫通してみせた。
上下にわかれる少佐級、あらわになった体内の核が砕けるのも俺のバイザーではっきりと確認できた。
落下した少佐級の上半身と下半身は形をたもつこと無く紫色の砂へと崩れていく。
ホバーを切り着地すれば、洞窟の最深部はとても静かな空気に支配された。
「我々の勝利だ」
リンデが掲げたミスリルバンカーの輝き、その姿がとてもきれいで一枚の絵のようだった。やっぱりパワードスーツは美少女が良く似合う。ウルフクラウンが勝ちどき、勝利の雄たけびをあげる。
みんな元気だな、俺は叫ぶ気力が残っていない。
俺の元へやってきたリンデが、手を取り感謝を伝えてくる。
「ありがとう、カズマ殿、貴殿がいなければこの勝利はありえなかった」
「へへ、どういたしまして」
リンデからのお礼がどこか遠くで言っているように聞こえた。
「カズマ殿?」
勝利して緊張がとけたのかな、急に膝に力が入らなくなった。瞼も開けているのが辛い、なんか一週間連続残業をした後の感覚に似ている。
ダメだ、意識が遠のいていく。
「カズマ殿、カズマくん、しっかり!!」
後から聞いた話しであるが、倒れる俺をリンデが抱きとめてくれたらしい。その時の表情がとても幸せそうだったそうだ。
俺はリンデに抱きしめられたというのに、その時の記憶は一切残っていなかった。




