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第60話『青い紋章』

 四方から撃ちこんだパイルバンカーだが。


「硬てッ!!」


 バンカーの方がへし折れてしまった。


 あれだけボロボロなのにまだ悪魔像・少佐級の方が硬いのかよ。


「割れ目を狙え!」


 リンデが四倍に加速した俊足の法で少佐級の懐に潜り込み、まだ再生されていないヒビ割れにバンカーを撃ち込んだ。


「ッ!」


 だが、それでもバンカーの杭の方が力負けして砕け散る。

 唯一残った片腕がリンデへと迫る。


「リンデ!」


 俺は最速でリボルバーを抜き打ち連射、バンカーよりも攻撃力の低いリボルバーでは表面を削るのがやっとだがリンデが体制を整える時間は稼げた。


 盾裏の収納から短剣を引き抜いて斬りかかる。あれは父親のミスリル製の短剣だ。


 本来ならあれほどの短い剣、少佐級相手に刃を届かせるのは至難だが、相手は片腕が無く四倍に加速できる今なら不可能ではない。


 ミスリルの短剣は少佐級の硬度に負けずその体に傷をつけた。


「追撃を!」


 刃が短いため深手ではないが、パイルバンカーよりも確実に深い傷、テルザーが突撃用ブースターを使いその傷にバンカーを叩き込む。すると、バンカーの杭が僅かにだが突き刺さった。


「効いたぞ!」

「俺たちも続け!!」


 リンデがミスリルの短剣で傷をつけ、ダラスたちウルフクラウンがその傷口を広げダメージを与える。


 なんとか攻撃を通す方法は見つけられた。


 だが、相手は管から魔力を吸収して再生している。リンデは何とか先に管を切断しようとするが、少佐級も管を絶たれれば敗北をわかっている。己の体を犠牲にしても管を守っている。


 それに傷をつける方法がわかっても、パイルバンカーの杭の消耗が激しい、予備で各自に二本ずつ用意したけど、打ち込むたびに破損している状況だ。


 別の方法を考えないと、少佐級を倒しきる前にこっちの手札が無くなってしまう。

 何か方法はないか。


「いけグライダーナイフ」


 俺に残された最後の武器、追加オプションはもう一つ残っているが、あれは攻撃用ではないので、この場面では有効じゃない。


 肩のユニットから射出した二本のグライダーナイフは高速回転しながら弧を描き、少佐級背後の管を狙うが、それも残った片腕によって弾かれてしまった。


 腕とぶつかったグライダーナイフは火花をちらし、少佐級を削るが、硬度の差でナイフの刃がボロボロになってしまった。


 もっと上質な金属でナイフができていたら腕を切断することだってできたはずなのに。


「もっと上質な金属」


 まてよ、さっき見たじゃないか、上質な金属を。


 リンデの短剣は少佐級を傷つけている。同じ金属で武器を作れば奴に通用するじゃないか。


「リンデ、名案が浮かんだ。少しだけ時間を稼いでくれ」

「わかった」


 俺はリンデの短い返事を聞き、元来た道を引き返す。

 ホバー全快、凸凹な坂道もホバーなら何の障害にもならない。


 目指すのは繭のあった広場だ。


 あそこには、繭の中にミスリルの槍をもった騎士がいた。死人の荷物をあさるのは気が引けるが、これも悪魔像を倒すため。


 俺が繭の広場まで戻ると、見張りを頼んでいたネクロが一つの繭に取りつき、がさごそと中身をあさっていた。


「おい、何をしてるんだ」

「うわ、なんね、もう戻ってきたか」


 見張りを頼んだはずなのに、ネクロは気配を潜めてもいない俺の接近をまったく気がついていなかった。もし外から卵二等兵級とかがやってきたらどうするつもりだったんだ。


「もう少佐級を倒したのか」

「そんなわけあるか、絶賛苦戦中だ」

「じゃあ逃げてきたのか、ワタシも早く逃げるね」

「お前と一緒にするな、俺はここに武器の材料を取りにきたんだよ」


 そうだ、ネクロなどにかまっている暇はない。ミスリルを回収してリンデたちに届けなければ。


「武器? ここにそんなモノはないね」


 ネクロが素早く何かを背後に隠した。だがそれは大きすぎて、ネクロの体では隠しきれていない。肩口から見える長い棒、それは間違いなく俺が取りにきたミスリルの槍であった。


 こいつは頼まれた見張りもせず。上級騎士が閉じ込められていた繭の中をあさっていたのか。


 熱で溶かされたようにこじ開けられた繭の周囲には、人の骨だと思われるモノが散乱している。後で埋葬しようと思っていた上級騎士の亡骸だ。ネクロは装備品をはぎ取り、他は乱雑に扱ったのは容易に想像ができる。


 俺もこの上級騎士から槍を借りるつもりだったが、ここまでひどい扱いをするネクロには嫌悪しかわいてこない。


 俺は無意識にリボルバーをネクロに突きつけていた。


「そ、それは、魔導銃か、そんな物騒なモノ、ワタシに向けるなよ」


 慌てたネクロが両手をひらき前につきだすと、背後に隠していたモノがバラバラと地面に落ちた。それは槍だけでなく、金属鎧のパーツも含まれている。


『マスター、どうやら鎧もミスリル製のようです』

「ホントか」


 鎧だけでなく、金属を多く使用する鎧までミスリルなんて、この世界のミスリルがどのくらいのレベルで取り扱われているか知らないけど、希少金属なのは間違いない、リンデの短剣だってかなりの金額だった。それが鎧、もしかしてこの鎧を装備していた人って。


「これは、そう、被害回収の一旦ね、私は悪魔像に莫大な被害を受けたね、だから戦利品を回収する権利だってワタシにはあるよ」

「戦利品は戦いの貢献度で決まるだろ、お前は何もしてないじゃないか」


 そう、今も必死で戦っているリンデたちや、それこそ命をかけて救援にきた。この騎士のような人たちに。


 俺は散らばった鎧、そのブレストプレートの模様を見て固まってしまった。


 鎧に刻まれた青い獅子の紋章、これはリンデの鎧に刻まれていた紋章と同じものだ。じゃやっぱり、この人は――


「ワタシ、青臭い正義感は嫌いね!」


 鎧の紋章に意識をとられ、ネクロの存在を失念していた。


 首にかけられたネックレスから火魔法が放たれた。それも初級の弱いモノじゃない、人ひとりをまるコゲにできるほどの火力だ。直撃したリボルバーが溶解しながら壊れ、肩のグライダーナイフを収納していた発射ユニットが破損した。


 フゥオリジンを装備していなかったら間違いなく死んでいた。


「商人だと思って油断する小僧が悪いね」

「お前こそ小僧だと思って油断しすぎだ」


 俺はニードルガンを引き抜きネクロに打ち込んだ。


「ピギャ!」

「最低出力にしてやった、感謝しろよ」


 魔物用の電流ニードルガンだが、最低出力にすれば人を殺さない威力になる。


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