第57話『ジャンバット』
魔物の強さの表記をカテゴリーから討伐レベルに変更しました。
十メートル以上ある天井から吊るされていた大小三十以上の繭。
そのほとんどは不気味なほど沈黙しているが、いくつかは魔力を宿しかすかにだが魔力光をだしている。少佐級はその魔力を宿した繭の中でも一番巨大な繭に手をかけ強引に天上から引きはがした。
支えが無くなり落下してくる巨大な繭。
『推定サイズ3メートル以上の繭状の物体、落下してきます』
「わかってるよ!!」
シルヴィアの冷静な解説に、ついついツッコミを入れてしまった。
巨大と言っても落下してくるのはわかっているので回避はそれほど難しくない。問題は魔力を帯びていることだ。落ちた衝撃で爆発したらたまったものじゃない。
盾を失ったのは、やっぱりいたかった。
「私の後ろへ」
「ホントに助かります」
こんな時は頼まなくても庇ってくれるリンデ様。その凛々しい後姿が戦乙女に見えてくる。
男として情けなく感じてしまうが、アクティブを脱げば戦闘などできないこの世界の平均的一般人よりも弱い貧弱異世界人なのだ、リンデさんこの恩はきっとお返しします。
さしずめ街に行ったら、リンデの体にフィットした美しさを磨きあげた女性らしいアクティブをプレゼントしよう。そうしよう。
「なんだ?」
「え、何でもないです」
いかん、こんな時なのに脳内でリンデ用のアクティブの設計図に修正を入れようとしてしまった。幸い落下した繭は爆発などの副次効果はなかった。
「ただの脅しだったのか」
「やろう、天井の繭を落として攻撃してくるつもりか」
スィンバンカーを装備したウルフクラウンはその程度の攻撃なら恐怖はないと、繭が無くなり降りてきた時が貴様の最後とバンカーを構えたが、少佐級は予想に反してほかの繭には手を触れず、落とした繭の上に降りてきた。
「いったい何を考えているかしらないが、これで終わりだ!」
ダラスたちが一斉に襲い掛かった。
加速された攻撃、広いスペースだろうと、このくらいの距離なら間合いを詰めるのは数秒もいらない。しかし、ダラスの攻撃が届くよりも早く落下した繭が脈動すると殻を突き破り中から巨大な翼が現れた。
翼は突風をおこしダラスたちを吹き飛ばす。
「まさか新しい悪魔像か」
天井から吊るされているのはあいつらの卵なのか。
『否、繭から現れたのは悪魔像ではありません』
「魔力を感じる。あれは魔物だ!」
俺の推測は目の前のリンデとバイザー越しのシルヴィア両者にすかさず否定された。そうしている間にも繭はどんどんと砕けていき、翼だけだったのが短い脚が生え、剛毛に覆われた体が姿を見せる。
体毛があるってことは、やっぱり悪魔像ではないよな、あいつら動いているけど、像って名前にある通り石像のような皮膚してるし。
『魔力反応パターンをSOネットと照合、魔力が弱まっていますがジャンバットのパターンに類似しています。体格のサイズからもジャンバットの可能性85パーセント』
シルヴィアがジャンバットの詳細データを送ってくれるが読んでいる暇はない。
「ジャンバットらしい気をつけろ!」
俺自身はジャンバットがなんなのか知らないけど、見た目で大きなコウモリってことくらいはわかった。だが知らないのは俺だけのようでリンデやウルフクラウンは過敏に反応をした。
「ジャンバットだと!」
「マジかよ」
繭の影にいた少佐級にトドメを刺そうと隙をうかがっていたダラスたちが一斉に距離をとった。
「悪魔像め、とんでもないモノを飼っていたな、連中にこんな知恵があったとは驚きだ」
リンデがまだ完全に繭から出てきていないジャンバットから視線を離さずに俺に後ろへさがるようにと手で合図をしてくる。
「そんなに凶暴な相手なのか」
「お前、ジャンバットを知らないのかよ!?」
ダラスに驚かれた。そんなに有名な魔物なのか。
「動き出す前にしとめる!」
リンデがジャンバットに攻撃をしかけた。
修練とは違う実戦での踏み込み、遠慮も手加減もない正真正銘リンデの全力の踏み込みだった。でも、危険を察知したジャンバットは体が完全に出てくる前、繭を頭にかぶったまま翼を素早く動かし飛び上がった。
「あの巨体なのにすばやい!」
『ジャンバット、討伐レベル88に分類される魔物。外見は巨大蝙蝠で魔力が高く特殊な音波魔法を使ってきます。抵抗力の無い者がジャンバットの音波をあびた場合、即座に脳が破壊される危険あり』
つまり即死魔法みたいなものを使ってくるコウモリってことか、それにレベル88って討伐には軍隊推奨のレベルじゃないのか。
『また音波魔法にはステルスになる効果もあるようです。狭い空間での戦闘は極力さけるようにと冒険者ギルドが注意喚起しています』
「そんな注意されても今さらだろ!」
「テルザー! ヤツを落とせ!!」
「わかっている」
テルザーが一日に数回しか使えない魔法を放ちジャンバットを撃ち落とそうとするが、素早く飛び回わられ牽制にしかならない。
「リンデ、俺がヤツを落とすからトドメは任せる!」
「それは危険だ!」
「大丈夫だ、信じてくれ」
アクティブを装備しているからなのか、俺にはみんなが怖がるほどの魔物には感じられない。
ジャンバットに向けてリボルバーを連射。
サーチバイザーとロックオンアームのアシストのおかげで弾丸はジャンバットに命中するが、胴体にあたった弾は弾かれ、翼は貫通して小さな穴をあけるだけで飛行の妨害にはならなかった、だが、あれほどの巨漢だこれは予想通り。
効果が薄くても、ジャンバットの意識を俺に向けさせることには成功した。
どのタイミングで音波魔法を使うかわからない以上、出し惜しみなし、できる限りの速攻でたおさなければ、そのためならやりたくはないが囮にもなろう。リンデの信頼に答え、俺もリンデを信頼する。
方向を変えたジャンバットが周囲の繭を弾き飛ばし真っ直ぐに俺へ突っ込んでくる。睨まれたマジでこわいんですけど、アクティブに精神安定の機能を付けといてホントによかった。そうでなかったらホバー全快で逃げてたね。
まっさきに逃げ出すと思ったダラスさんたちも頑張ってるんだ。
俺もなけなしの根性出すぜ。
「奥の手だ」
両肩に収納されていたグライダーナイフを二本射出。フゥオリジンが装備するなかで最高の攻撃力のある武器だ。高速回転しながらジャンバットの両翼を根元から切り裂く、真っ直ぐ突っ込んできてくれたおかげで狙いを付けるのは簡単だった。
「リンデ!」
「承知!」
バンカーではなく腰の剣を引き抜き斬撃一線。自身の突進力にアクティブの加速を加えた、流派の奥義レベルの一撃を放ち、ジャンバットの首を切り落とした。
「おみごと」
華麗な技に拍手を送るが、リンデはジャンバットを倒した余韻などなく、慌てた様子で俺の元へ駆け戻ってくる。
「カズマくん、大丈夫だったの、体は何ともない!?」
あれ、なんかリンデさんが普通の少女のような言葉使い、ものすごい取り乱して心配してくる。
「ああ、なんともないけど」
「ボウズ、お前、無事だったのか?」
ダラスさんまで青い顔して問い詰めてくる。いったいどうしてだ。
『マスターがジャンバットの音波魔法を正面から受けたからだと推察します』
「えっ?」
音波魔法って、即死魔法のことだよな、そんなのいつ食らったんだ。
『正面で睨みつけられた時、同時に音波を発していました』
「……まじで」
俺、よく無事だったな。
魔法をかけられていたなんて、まったく気が付かなかった。
休日は予定が不規則なので早めに投稿しました。
『セブンセイバーズと聖剣鍛冶師の奪還物語』も書いていますので、よかったら覗いてください。




