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第56話『暗闇にバイザー』

 緊張感を持ち直して着弾地点をしらべる。


 思ったより地面の陥没が小さいか、前に打ち込まれた砲弾跡はもっと地面がえぐられていた。それに比べると、今回は表面を吹き飛ばしただけみたいだ。この痕跡から予想できるのは砲弾が地面にぶつかる前に悪魔像に命中して爆発したから。


「シルヴィア、そっちはどうだ?」

『こちらのレーダーにも反応はありません。少佐級に命中した確率92パーセント』


 俺もギリギリまで目を離さなかったから命中は確実だと思う。あとは倒せたかどうかだ。


「少佐級の破片かこれは」


 ダラスが指でつまめるほどの小さい紫色の破片を拾い上げた。


 悪魔像の色は二等兵級も少佐級もほとんど違いはないので見分けが難しいが、爆心地の近くで見つかったのなら少佐級の破片である可能性が高い。


「こっちにもあったぜ、小さいけど」


 別のメンバーがダラスのよりさらに小さい破片を見つけた。


 俺も足元の砂を簡単にはらうと、小指の第一関節くらいの破片を発見した。


「見つかるのは小さいモノばかりだな」


 いくら砲弾の直撃をくらっていても、パイルバンカーの攻撃で表面を削るくらいしかできなかった固さだ、大きめの破片だってあっていいはず。それが見つからないということは、どうも嫌な予感が、このまま終わりにはしてくれなそう。


「みんなこっちにきてくれ」


 少し離れた茂みで何かを発見したらしいリンデ、いやな予感ほどよく当たる。


 彼女が見つけたモノ、それはまだあたらしい少佐級の足跡であった。


「まだ倒し切れていない」


 爆風に紛れて逃げたようだ。しかし、無傷ではない、足を引きずったような不規則な足幅に、血の流れていない悪魔像、流す血の変わりに体を構成している紫色の破片が足跡の上に落ちている。


 間違いなくダメージをあたえている。


「今なら倒せるかもしれない、回復する前にトドメをさすぞ」


 俺たちもすでに万全の状態ではなくなっているが、村に残された食料事情からも一時撤退はできない。ここで倒しきらなければ後がない。


 欠けたバンカーの杭を入れ替える者や、戦闘で落とした道具がないかなど最低限のチェックのみをすませ、追撃をはじめた。






 足跡は蛇行することなくまっすぐに続いている。


 明らかに目的地をもった進み方、進路上の障害となる木々すらへし折っていて、折れた枝のまわりには無数の破片。自身のダメージよりも急ぐことを優先していたのは明らかだ。


「地上を歩いているのに、どうしてレーダーに映らないんだ?」


 反応があっていいはず。

 その答えはすぐに判明した。


 追跡をはじめてすぐ、着弾地点から30メートルも離れていない場所で、大きな洞窟が姿を現した。アクティブを装備していても余裕で二人並んで入れるほどの入り口。


 むき出しの岩肌が緩やかな下りになっており、足跡は消えたが小さな破片は蟻の行列のように中へと続いている。


「だからレーダーに映らなかったのか」


 魔力電波の反射を利用する魔導レーダーでは洞窟内まで探知できない。


「こんなことなら、灯りを作っておけばよかった」

「お前、灯りをもってないのか」

「え?」


 暗闇での戦闘を想定していなかったわけじゃない、俺一人なら暗闇でも問題はないが、他のメンバーの灯りを用意すればよかったとの意味だったのだが、それは無用の心配であった。


 盾の裏の収納からそれぞれ松明を取りだし、魔槍士である二人は魔法を使い盾自体を発光させた。


「灯りは冒険者の必需品だぜ、どんなときでもな」


 ダラスが先輩風をふかすように松明をかかげてくる。


 いや俺、冒険者じゃないし。


「みんなのアクティブに、ライト機能を付けてなかっただけで、俺の分だけなら間に合ってるぜ」


 俺はコンコンと指でバイザーを叩いてみせた。


「黒メガネで暗闇に入るのか!?」


 あー、もっともな疑問だな、はたから見れば違和感バリバリだろう。


 治安のいい日本でも夜の薄暗い公園でサングラスをかけていれば間違いなく職質されるな、でも。


「問題ない、コイツには暗視機能が付いてるんで」

「暗視機能だ?」


 胡散臭そうに言うなよ。サーチバイザーのスイッチを入れれば、暗視モードへ早変わり、わざわざ色を変える必要もなかったが、同じような機会がくれば、また周囲から奇妙な視線を送られそうだから、暇ができたら考えよう。


「カズマ殿、ホントに問題ないのだな」


 リンデにまで心配されてしまった。


「大丈夫だ、星明りの無い夜だって俺の射撃精度はかわらないぜ、援護ならまかせろ」


 前には出ないけどね。


「わかった信じよう。ここからはヤツらのテリトリーだ。背中は任せる」

「まかされて」


 リンデだけはすぐに信じてくれた。ホントにいい子だな、詐欺師などに騙されないか少し心配になるが、この難局を突破しない限り詐欺師のいる都市にすらたどり着けもしないのだ。リンデは小さく息を整えると、先頭で洞窟内へと突入する。


 罠などを警戒して慎重に進むかとも思ったが、トップを行くリンデは全速力に近いスピードで少佐級の痕跡を追いかけた。


「おい、もっと慎重に行くもんだろ!!」

「おそらくここに襲撃を警戒した罠はない、あったとしてもアクティブの防御力にかける!」


 また男前なことを、俺のフゥオリジンなら耐えられるかもしれないが、急造のスィンバンカーじゃ落盤とかには耐えられないぞ。


『リンデ様の推測はおそらく正解でしょう。過去の悪魔像のデータからも罠などを使用した待ち伏せなどの戦法はとったことはありません』


 そうなのか、リンデは悪魔像の習性をずっと調べていたって言うし、それなりに確証があって突き進んでいるのか。もし何かの罠があったとしても一番被害のあう先頭をリンデが進み、罠があれば責任をもって自分で食らうつもりだな。


 少佐級にダメージを与えたこのチャンスを逃したくはないのだろう。


『さらに加えるなら、木々を避ける余裕もなく逃走した少佐級に罠を設置する猶予もなかったと推測できます。総合しますと落盤や落とし穴、大玉転がしなど、大掛かりな罠は約80パーセントの確率で無いと推測します』


 落盤や落とし穴はともかく、大玉転がしって、元の世界の映画ネタじゃないか、シルヴィアの言語の中に製作者の趣味嗜好が少し混ざっている気がする。


「いたぞ!!」


 思考がズレだした時、リンデが少佐級を発見した。


 そこは下り坂が終わりひらけたスペースになっていた。


 自然にできた感じではない、何かで固い岩盤を砕き無理やり広げたような広場、テニスコート四面分は楽に入りそうだな。


 そんな広場の奥に全身にヒビの入った少佐級の姿があった。


「ほとんど死に体じゃないか、一発ぶち込めば終わりそうだな!」


 予想以上に弱っていた少佐級、ダラスたちが勝ち誇った笑みを浮かべてバンカーを構えた。


 少佐級もとうぜん俺たちに気が付いた。威嚇するように大口をあけて叫び、全身が軋み崩壊していくのもかまわずに飛び上がった。その勢いで左腕がもげるがそれすらも気にすることなく、残った腕で天上にぶら下がっていた何かに掴まった。


「な、なんだあれは!?」


 暗くて気が付かなかったが、広場の天上からは強大な繭のようなものが無数に垂れ下がっていた。サーチバイザーにはその不気味な形状がハッキリと浮かびあがって見えた。


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