第54話『PBミサイル』
発射地点まであと少し。
シルヴィアに索敵強化してもらったレーダーが悪魔像をとらえた。
「リンデ、前方に卵二等兵級の反応が多数」
俺が告げた情報に強襲部隊が再度、表情を引きしめる。緊張感はずっともっていた、いまさら卵二等兵級程度では恐怖はない。
「正確な数はわかるか?」
「動き回っていて、数えにくいけど、だいたい30ぐらいかな」
『レーダー内、卵二等兵級の反応は二十八です』
「28匹だ」
ありがとうございますシルヴィア様。
「こちらに気が付いた様子は」
「これも多分だけど、ないな、動きに変化がない」
「よし、奇襲をしかけよう」
まあそうなるよな、わざわざこちらの存在を知らせる必要もない、安全に倒せるのが一番だ。それに俺には秘密兵器がある。
「リンデ、一撃目は俺にまかせてくれないか、急ごしらえだけど、遠距離から高火力で攻撃できる」
「わかった、一番槍はまかせよう。私たちはカズマ殿が撃ち漏らした敵を駆逐する」
「了解だ」
ウルフクラウンはそれぞれのパイルバンカーをかかげる。
やる気十分なことで大いに結構、俺の初撃でどれだけ減らせるか、最低でも半分できれば二〇匹くらいは倒しておきたいな。
速度を落とし注意を払いながら接近すると、悪魔像・卵二等兵級たちは、大きく陥没した地面の周辺をぐるぐると徘徊していた。観察した印象ではとくに目的があって動いているようにはみえない。
ただやることが無く、だらだらと歩いているだけのようだ。
「悪魔像の指揮官の姿はないな」
「砲撃で倒しちまったんじゃないのか」
「ダラス、楽観的憶測はやめた方がいい、ここに居ないだけですでに逃走している可能性もある」
「お、おお、わかってるよ」
テルザーさんにたしなめられるリーダーダラス。
俺もあの砲撃だけで倒せたとは思わないけど、レーダーに映っていないので、少なくとも視界に入る距離にはいない。
「カズマ殿」
卵二等兵級たちを睨みつけたままリンデが俺の名前を呼ぶ。宣言通り、攻撃の一番手やらせてもらいますとも。こんなこともあろうかと、打撃力のある武器を用意しましたよ。
「まかせろ、俺が先制攻撃しかけるから、撃ち漏らしを頼む」
「おう、期待してるぜ、ドデカいのを一発やってくれ」
スインランサーの性能ですっかり俺のことを信用してくれたダラスの注文に力強くうなずくことで答えた。ご期待以上にドデカいモノをかましてあげましょう。俺はミサイルランチャー内蔵シールドを構え発射口を解放する。
この村に到着した時には空であったミサイルランチャーだけど、今は違う。
「シルヴィア、補助を頼む」
『了解、悪魔像・卵二等兵級、マルチロックします』
「みんな、大きな爆発が起きる。盾を構えてくれ」
「爆発? 大魔法でも使うのか」
「もっとカッコいいものさ」
俺にとってはだけど。
これが余った時間で開発した秘密兵器、追加オプションその2『ペットボトル型ミサイル』。
船で拾った酒のビンをみて思い出した。小学生の時にペットボトルロケットを作ったことを、原理は魔力で飛ばしているのでまったく違うが、見た目が似ているのでPBミサイルと命名した。
「PBミサイル4連、発射」
割れないようコーティングされた酒ビン型ミサイルいやPBミサイルが4発、魔力を推進剤として悪魔像たちに殺到、シルヴィアのアシストのおかげでミサイルは狙い通りの地点に命中する。
爆発、爆発、そして爆発、さらに爆発。
不発弾はなし、PBミサイル四発は大地をゆらし、爆風を起こして構えていた盾を襲う。
直撃した悪魔像はバラバラになって吹き飛んだ。
「……なんじゃそりゃ」
「しんじられん、魔法なのか」
いつでも撃ちもらしに攻撃できるよう盾と一緒にパイルバンカーも構えていたはずのダラスやテルザーたちが、棒立ちになっていた。
「……これほど、とは、これがカズマ殿のアクティブの力」
あまりの威力にリンデも含めみんなの頭から作戦が抜け落ちたみたい。正直、俺も想定以上の威力でちょっとだけ驚いてしまった。
やっぱりカリンの時のパイルバンカーでも思ったけど、実戦に使う前にテストは重要だな。まあ、それは落ち着いてからのことで、今は傍観者でいるわけにはいかない。
「リンデ、出番だぞ」
「あ、突撃隊いくぞ、残敵を掃討する!!」
「へ? ああ、そうだった。おい、お前ら!」
突撃隊など組織されていなかったが、リンデの言いたいことは伝わった。
駆けだしたリンデを追いかけウルフクラウンがバンカーを振り上げ突撃していく。
爆発から生き残った悪魔像・卵二等兵級たちも、爆風によるダメージをうけていた。動きも鈍く、加速したリンデたちの敵ではなかった。ことごとくパイルバンカーに砕かれていく。
「一匹も逃すな!」
「わかっている」
突撃用ブースターを装備しているテルザーさんが逃げようとした個体の先回りをして足止めしリンデやウルフクラウンが囲い込み殲滅していく。
「こいつで最後だ!」
ラスト一体をダラスが倒し、攻撃をしかけてからわずか数分で悪魔像をすべて破壊できた。
「やってやったぜ」
三年間も村へ閉じ込められた恨みをこめていたのだろう。ウルフクラウンは戦力差があろうと手加減なく攻撃していた。
「ここまでやって、少佐級が出てこないってことは、倒したって考えていいよな!」
「これでやっと、街に帰れるぜ」
「うまい飯に、安全な寝床、そして女、うるおいのある生活にもどれる」
「確認が先だ、まだ少佐級が倒されたと決まったわけじゃない」
リンデが浮かれるウルフクラウンを一括して砲撃のクレーターへと降りていく、姿を現さなかった少佐級が砲撃でやられたのなら、クレーターのどこかに残骸があるはずだ。
「シルヴィア、サポートよろしく」
『了解しました。マスター』
俺もレーダーの感度を最大にしてクレーターの中へ、漫画とかだと死体がないイコール生きてるフラグなんだよな、倒れた姿をみるまでは安心できない。
『悪魔像・少佐級の反応はありません』
レーダーでとらえられるのは動いている反応だけ、破壊していた場合、破片は目で探すしかない。
ウルフクラウンも加わり岩をどけ、飛び散った卵二等兵級の破片を分別する。
「おい、これ少佐級の一部じゃないか!」
捜索をはじめてから小一時間、破片の分別をしていたダラスが卵二等兵級以外の破片を見つけた。それはコウモリの羽のようない巨大な石像の翼。
骨格は折れまがりボロボロだが卵二等兵級の残骸ではない。
『データ照合、悪魔像・少佐級の翼である確率91.3パーセントです』
「間違いない、少佐級の翼だ」
この中で唯一の目撃者リンデも少佐級の翼だと断言する。
「砲撃が命中していてくれたか」
「あっけなくはあるが、バァルボンの腕がよかったということだろう」
「シルヴィア、船周辺の卵二等兵級は?」
『マスターたちが囲いを突破したタイミングで、逃走していきました』
「逃走か、シルヴィア殿の情報通りだな」
腰にさげられた剣を握るリンデ、本音は自分の手で少佐級にトドメを刺したかったんだろう。
「まだ卵二等兵級は残っているかもしれないが、統率はとれないだろう。カズマ殿、村への連絡を、我々が周囲と山越えの道を確認する。異常が無ければ脱出してくれと」
「シルヴィア聞こえたよな、村長にすぐに山を越える準備をはじめるよう伝えてくれ」
ここまであっけなくていいのだろうか。ちょっと、嫌な予感が、でも姿が見当たらないし、レーダーにも映っていない。
『了解しました。トーマス村長に伝え――』
シルヴィアとの通信を遮るように警報音がなった。
『――レーダーに反応!』
俺のバイザーにも映し出されている。卵二等兵級よりもでかい反応が突然あらわれた。
それもすぐ近く、レーダーではほぼ重なるくらい近くに。




