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第53話『山道の進撃』

『マスター、発射地点への砲撃、成功しました』


 サーチバイザーから聞こえるシルヴィアの声が作戦第一段階の成功を知らせてくれた。


「リンデ、潰したぞ」

「了解した。強襲部隊出るぞ、アクセル!」


 リンデを先頭にアクセルグリープを起動させたウルフクラウンが全力で走り出す。俺も遅れないようにフォバーブーツで後を追いかける。


 強襲部隊の目的は、指揮官である悪魔像・少佐級だ。


 発射地点で指揮を取っていたと推測されるので、さっきの砲撃でダメージを受けていてくれたらありがたい、ダメージを与えていなくとも混乱を与えることはできたはずだ。体制を立て直す前に強襲して打倒。


 そのためにはできる限り早く、指揮官級を発見しなければならない。

 リンデが包囲網を作っていた悪魔像・卵二等兵級を破壊したが増援は送られてこなかった。


「増援なし、発射地点の破壊は成功したみたいだ」


 サーチバイザーのレーダーには飛来する影はない。砲撃は想定通りの成果をあげてくれた。強襲部隊は走りながら歓声があがる。


 砲撃によるカウンターパンチが見事にきまった証拠。


「気を緩めるな、ここはもうあいつらのテリトリー。どこから襲ってくるかわからないぞ」

 浮かれるメンバーをリンデが一括する。


 砲撃だけで決着がつくなら討伐隊が敗れることなどなかった。悪魔像たちは間違いなく残っているはず。今は発射地点を潰し増援がこないだけ。


 目標地点に近づけば増援に送るはずだった卵二等兵級であふれている可能性だってある。


「レオリンデの言う通りだ、みんな気を引き締めていくぞ。これは俺たちが過去に経験したことのない最高難易度のクエストだと思え」


 リーダーのダラスさんがカッコいいセリフを口にする。この人はアクティブを装備するようになってから性格が変わった気がする。


「慎重にでも全力で向かうぞ」

「ルートは予定の通り、山道でいく」


 発射地点はかつて使っていた山道のすぐ近く、リンデは使われていなかった山道の荒れ具合を確認してまだ道として使えると判断した。


 人が足を踏み入れなくなってから約三年、かつて人が使っていた道は草で覆われ獣道のようになっているが、以前は馬車も通れたほどの広さがあったのだ、今はどこまでが道だったかはわからないが、アクティブなら人ひとりが通れる幅が残っているなら問題ない。


 一列縦隊になり、蛇のようにまがりくねった獣道を馬車よりも早く駆けていく。


「うわ~早すぎだろ」


 俺は誰にも聞こえないようにつぶやいた。

 コンテナが無くなった背部に補助用ブースターを付けておいて良かった。これが無かったら付いていけなかったかも。ちなみにこれは俺が追加したオプションの一つ目である。


 それにしても速力を四倍にするアクセルグリープを履いているにしても早すぎるぞ、だってこの速度の四分の一は自力で出せるってことだろ。


 俺がアクセルグリープを履いてもこの速度を出すのは不可能だ。元の世界で世界大会とかに出たら余裕でトップクラスに入れるんじゃないか。


 ウルフクラウンはけっしてレベルの高いチームではない、多くある冒険者チームのなかで中堅の下の方だったはず。やっぱり魔法や闘気法なんてもんがあると違うのか、この世界の人向けのアクティブの設計はその点を考慮に入れておいた方がいいな。


 この村を脱出できたら、誰かテストパイロットでも雇おうかな、できればリンデにやってもらいたいけど。


 驚きと衝撃で思考が余計なことを考えはじめてしまった。これはいかんと前方に集中するとリンデの背中とかお尻が目に入る。やっぱりスィンバンカーはパーツが少なく背中はガラガラで物足りない。物足りないと、こうムラムラといろいろといじりたくなる。もちろんアクティブのことだぞ、リンデの体をいじりたいとは考えてないからな。


 わきあがりそうな邪念を払い、さらに進む強襲部隊。

 発射地点までの距離、残すところ三分の一までさしかかった。


「とまれ!」


 小さい声、けれども鋭くリンデが全員を停止させる。


 何を意味しての停止かは俺でもすぐに理解できた。リンデは悪魔像の気配を感じ取ったのだ。サーチバイザーには反応はないが、レーダーだって絶対はないんだ。油断はしない、リボルバーを抜き警戒を強める。


 一列に並んでいたウルフクラウンも円のような隊形へ、どこから襲われても対応できるように、さすがは実戦を経験している冒険者チーム、十字線(クロスライン)クラスでも動きがスムーズだ。


「やつらがいたのか?」

「いや、姿は確認できていない、だが、足跡だ」


 足跡? リンデが示した場所にあるのだろうか、俺にはどれが足跡かわからなかった。

 さすがはリンデ、バァルボンさんと二人でずっと悪魔像を相手にしていただけのことはあるな、普通なら判別もつかないだろ。


「この足跡、ついてからまだそんなに時間がたってないな」


 え、ダラスさんもわかるの、ついたばかりの足跡だって判別まで。

 ダラスさんの見立てに俺以外の全員が頷いている。


「この足跡は、私たちが目指している方角に続いていますね」


 テルザーさんが指さす方向は間違いなく卵の発射地点だ。


 ウルフクラウンのみなさんごめんなさい、冒険者ランクが下から二つ目の十字線だからってどこか侮っていました。流石は冒険者、そりゃ魔物を退治して生活してるんだから足跡くらい判別できますよね。


 俺にはついた時間どころか、どれが足跡なのかも判別もできません。よ~く観察すればすこし地面が凹んでいるように見えなくもないけど、それだけです。


「どうする速度を落として警戒態勢にするか」

「いや、相手に時間を与えたくない、奇襲に警戒しつつ、全力で目指そう」

「賭けではあるが、それでいこう」


 臆病な部分もあるダラスさんがすんなりと自分の意見をとりさげた。冒険者としてのカンが時間をかけてはいけないとささやいてそうだな。この場で、俺以外がみんな一流の戦士にみえてきた。


「カズマ殿」


 最後に俺に意見を求めてくる。


「奇襲ならレーダー(俺)が察知できる。このあたりにはいないみたいだから俺も一気に進むに賛成だ」

 もう俺自身の力では役に立てそうにないので、プライドなど持たず、アクティブの性能をフルにつかってサポートさせていただきます。


「周囲の気配をさぐれるのか」

「カズマ殿の察知能力は私が保証する。村にいながら五キロ以上はなれたブラックボアの気配を感じ取ったほどだ」


 カリンとフットを助けた時のことか。あれは狩場にセンサーを仕掛けていたからできたことだ、これから向かう先には当然センサーなんてないのでバイザーに頼るしかない。


「五キロだと」

「うそだろ」

「でも、たしかにブラックボアはあったよな」

「人間にできるのか、そんなこと」

「あ、いや、それは、センサーやサーチバイザーのおかげで、現状はせいぜい二~三〇メートルくらい先までしかわからないぞ」


 ウルフクラウンがお前人間か、みたいな驚愕の視線をむけてきた。俺から言わせればあんたらの身体能力の方がよっぽど化け物だからな、俺が気配を探れるのはすべて道具のおかげで俺個人のスキルや技能ではないのだ。


「魔導具の能力だとしても、それはとても助かるぞ」

「そうですか」


 まあ、彼らにしたら俺の能力か道具の力なのかなんて関係ないことか、ようは奇襲がわかればいいんだから。

 あ、そうだ。だったら。

 俺はつながったままの通信でたずねてみた。


「なあシルヴィア、俺のサーチバイザーを通して周囲を索敵できるか」

『精度は落ちますが、半径約五〇メートルはカバーできます』


 ああ、できるんですか、さすが万能メイドのシルヴィアさん。


 いままでずっと一緒にいたから思いつかなかった遠隔索敵、できるかなと思って聞いてみたらできてしまった。


 悪魔像との決戦はもうすぐだな。


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