第51話『参謀役』
いろいろな想定外の事で士気を高めた即席討伐隊は、バァルボンさんの推測通り散発的にハラスメント攻撃を仕掛けてきた悪魔像・卵二等兵級を狩っては素材を収穫し、着々とアクティブへと加工していった。
「得物だ!」
「素材がきたぞ!!」
目をギラギラさせ見張りに立っていたウルフクラウンのメンバーが向かってくる卵二等兵級を見つけると、パイルバンカーを振りかぶり襲い掛かる。
もうこれで三度目の襲撃、もはや彼らに悪魔像に対する恐怖が感じられない。
ボンボンボンと、バンカーの発射音の後、ズルズルと大きなものを引きずってくる音が聞こえる。
「少年、素材とってきたぞ」
俺が悪魔像を素材呼ばわりした時には大笑いしたくせに、いつの間にかウルフクラウンの人たちも悪魔像を素材扱いしだしていた。
「やっと、俺の分までまわってくるな、少年よろしく頼む」
「よろしくしますよ」
俺を少年と呼ぶ落ち着いた参謀風の人はウルフクラウンの副リーダー的なポジションにいる魔槍士のテルザーさんだ、日本にいた頃の俺よりも年下なはずだけど、若返った俺の感覚が年上に感じさせる。
他のメンバーの分はすでに完成しているのでテルザーさんが最後になる。
七機目ともなると慣れ、一機目と比べると格段に早く完成させることができた。
「これで完成っと」
「おお、ありがとよ少年」
他のメンバーが欲しがるなか、テルザーさんだけは俺は最後でいいと告げて仲間に譲り、ウルフクラウンのメンバーの中で一番好感を覚えた。
「それでな少年、作業を見ていて思ったんだが、この鎧を少し改造できないか」
「へ? 改造ですか」
「ああ、バンカーのところに、コイツをさしこめるようにしてほしいんだ」
テルザーさんは自身が愛用している魔槍を差し出してきた。
魔槍、多くの魔槍士が装備している武器である。
魔槍士とは、魔法が使える槍使いではなく、槍状の杖をもった魔法使いの事を指す。
魔槍士の多くは、魔力が少なく魔法だけでは一流になれない魔法使いがなることの多いジョブ、槍に魔法を発動させる発動体を埋め込み、いざという時だけ魔法を使い、普段は槍使いとして動く。
その発動体を埋め込まれた槍をバンカーの杭にしたいと。
「もしかして最後でいいって言ったのは、改造させるためですか」
「もちろん、七機も作れば経験値も上がって、後もいないからちょっと無理は聞いてもらえると考えた」
さすがは参謀風の人、抜け目ないぜ。
「無理か?」
なんだ、その挑戦的な目は、たかが杭を付け替えるだけの事だろ。
「そのくらいなら改造しなくてもできる。なんなら魔法と連動するギミックも組み込めますよ」
「本当か!?」
その挑発にのってあげましょう。俺も七機も同じモノを作っていくつか改良案が浮かんでいたし。
「改造はこっちに任せてもらいます」
試したいアイディアがあったので製作者お任せ改造コースのみを提示させてもらう。ちょっとモデラー魂が燃え上がってくるな、ああ、楽しくなってきた。
「お、おお、任せる」
はい承認いただきました。任せてもらいましょう。
「使える魔法属性は?」
「風だが」
「風ね、了解」
風魔法か、攻撃よりも移動とか補助する機能の方がいいかも、機体が軽量だからそれほど多くのギミックは組み込めない。悪魔像の素材はまだ残ってるから、索敵用のヘッドギアと、後は風魔法を利用した突撃ブースターでも背中に取り付けるか武装はパイルバンカーだし相性はいいはず。
俺は絶対に装備したくないけど、これを装備したテルザーさんが猛突進をする姿は見てみたい。きっとかっこいいぞ。
それと風魔法で操作できる捕獲用アンカーとかもいいか。
「ククク」
「な、なにを笑っているんだい?」
「笑ってなんていないぞ、ククク」
「絶対笑ってるぞ」
「まあ落ち着いて、俺が要望以上の改造をしてあげますよ。サービスで」
さあ、俺の魔導ヤスリが唸りを上げるぜ、電動のヤスリじゃないけど。
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■製造番号AW-04MP-T ・機体名『スィンバンカーT仕様』
◇超軽量級突撃型 ◇カラー「デビルパープル」
◇素材 悪魔像・卵二等兵の殻&木材
◇機体構成
「コア(C)」水晶級魔結晶(小)
「ヘッド(H)」索敵ギア
「ボディ(B)」スィンプレート・ワイヤーアンカー内蔵
「ライトアーム(AR)」バンカーアーム
「レフトアーム(AL)」Dエッグシールド
「レッグ(L)」アクセルグリープ4(最大4倍)
「バックパック(BP)」小型突撃用ブースター(風)
◇武装
・メインウェポン(AR)……右腕部内蔵パイルバンカーD
・サブウェポン(AL)……Dエッグシールド
・サブウェポン(B)……捕獲用ワイヤーアンカー
◇補足
スィンバンカーを魔槍士テルザー用にカスタムした機体、名称の「T」はテルザーのこと。基本はノーマルと同じ構成だが、頭部に索敵用のヘッドギア、背部に風魔法で使用できる突撃用ブースター、ボディにはワイヤーアンカー射出機能が追加されている。
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「テルザー、てめぇずるいぞ」
「一人だけ特別仕様かよ!」
完成させたスィンバンカーTにウルフクラウンのメンバーがブーイングしているが、予想していたのだろう当人のテルザーは涼しい顔で流している。
「先を譲ってやったんだから、これくらいの褒美あってしかるべきさ」
「くそー、一人だけ学院に通ってたからってエリートぶるなよ」
「学院?」
言い争いの中で気になる単語が聞こえたので、つい呟いてしまった。
「俺たちの中でテルザーだけが防衛学院の魔導科に通っていたんだよ」
呟きを聞いたダラスさんが説明してくれた。この世界には学院なんてモノがあるのか、異世界モノには定番の一つだ。ものすごく興味がある。この村を脱出できたら調べてみるか、アクティブのさらなる強化に繋がるかもしれない。
でも、まずは悪魔像問題の解決からだ。
テルザーさんの機体完成。そして砲弾の寝かしに必要な二日がたった。
反撃に必要な準備はすべてととのった。食糧の残りはあと一日分、時間的余裕はなくなってきているが士気は高い。
「さぁ反撃を開始しよう」
「おう」
討伐作戦を提案していたリンデがそのまま強襲部隊の指揮をとることになった。
強襲部隊のメンバーは隊長のリンデにスィンバンカーを装備したウルフクラウンの六人、そしてなぜか参謀役として俺が参戦することになった。
整備士としてならまだわかるよ、途中で破損したりしたらすぐに修復できるようにって、それがどうして参謀なんだ。ウルフクラウンの参謀役テルザーさんだっているだろ。
俺はバァルボンさんやシルヴィアと一緒にヒートレオン号の支援兼護衛として居残り組に入るつもりだったのに。
バァルボンさんとシルヴィアの二人が護衛に選ばれた理由は船の主砲が動かせるから、作戦の都合上、主砲は必要なのでこの二人を強襲部隊に入れることはできないのはわかるけどさ。
でも、どうして俺も強襲部隊に。
「カズマ殿は常に冷静で視野も広い、それに戦いにおける視点も私とは違うモノをもっている気がする」
いや、冷静でいられるのはアクティブで対処できる問題しか起きてないからで、視野が広いのはサーチバイザーのおかげだ。戦いの視点が違うのは接近戦は絶対にしたくないから、どうやって遠距離戦で片づけるかをずっと考えているだけなんだよ。
スィンバンカーが完成したので、俺の出番なんてないでしょ。
「頼めないだろうか」
そんな純粋な瞳で見つめないでくれ、リンデなら断ればこれ以上しつこくはこないであろうが、ええい、何を悩んでいる。リンデの好感度を高めるチャンスだろ、ここは男気をみせる場面だ。それに参謀だぞ、戦闘要員ではない、だったら接近戦をする確立は低いじゃないか、ここは小さな勇気を振りしぼるのが正解だろ。
「わかった、引きうけるよ」
「そうか、よかった」
俺の返答は正解を引き当てたようだ。俺の両手を握り喜びを表現してくれる。
「俺はあくまでもお前だけの参謀だからな、接近戦はなしで頼む」
「わ、私だけの」
「ああ、参謀役だ」
あくまでも戦闘要員ではない参謀役だけをすると念を押しておく。
「了解した。カズマ殿はあくまでも参謀なのだな、よろしく頼む、私の参謀殿」
「お、おお」
あれ、かなり臆病な具申だったはずなのに、どうしてかリンデはとても嬉しそうに俺の申し出を聞き入れてくれた。
ちくしょう、その笑顔は反則だぞ。




