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第50話『バンカーと鴨ネギ』

 銃が、銃が、役立たずなんて。


「マスター、私は銃を所望します」

「ありがとうなシルヴィア」


 女神のようなシルヴィアの申し出に少しだけ癒された。残った心のダメージを押し流して、俺はパイルバンカーの製作に取りかかる。


 カリンが足を捻ったことを考慮して、その対策も考えよう。

 捻った原因、それはパイルバンカーと四倍速のレッグアーマーが別々の装備だったからバランスが崩れた。だったら一つの装備として連動させてしまえばいい。バンカー射出で生じる衝撃を受け流すようにレッグアーマーが機能すればいい。


 二つを繋ぐ制御装置として卵の殻を使ったハーフプレートを追加して、バンカーのない逆手がスカスカだから、こっちも卵の殻で全身を隠せる大きめの盾を持たせた。これで防御力もなんとか補えるだろう。盾の裏側にはバンカーの杭の予備を二本収納させて、軽装ではあるが、まあ、なんとかアクティブアーマーと呼べるレベルまでには仕上がった。


「機体名はそうだな、軽装の打撃手『スィンバンカー』と名付けよう」



==============================

■製造番号AW-04MP ・機体名『スィンバンカー』

◇超軽量級突撃型 ◇カラー「デビルパープル」

◇素材 悪魔像・卵二等兵の殻&木材

◇機体構成

「コア(C)」水晶級魔結晶(小)

「ヘッド(H)」なし

「ボディ(B)」スィンプレート

「ライトアーム(AR)」バンカーアーム

「レフトアーム(AL)」Dエッグシールド

「レッグ(L)」アクセルグリープ4(最大4倍)

「バックパック(BP)」なし

◇武装

・メインウェポン(AR)……右腕部内蔵パイルバンカーD

・サブウェポン(AL)……Dエッグシールド

◇補足

 カズマがパイルバンカーのパワーに振り回されないように制作した超軽量の量産型、ほぼパイルバンカーを使用するのみに特化された接近戦専用の戦地制作。バンカーの杭は取り外し可能で短槍でも代用可能。アクセルグリープは最大4倍まで走力や脚力を強化できる。

===============================



 まさに急造設計の機体、それもゴリゴリの接近戦使用で飛び道具は一切なし。

 俺は絶対に装備したくないけど、ウルフクラウンの方々には絶賛された。

 ナンバリングは04、03はすでにリンデの設計図に使っているからな、設計四機目にしてはじめての量産機だ。


 回収できた五体の悪魔像・卵二等兵級の素材で作れたスィンバンカーは二機、最初に欲しいと主張したダラスとリンデの体にあうように薄着になってもらって調整した。


 心を鋼にして、ダラスとリンデの機体は平等に調整したぞ、薄着のリンデの体を近くで見ていたいからって時間をかけたりはしなかったぞ。


 残った素材でパイルバンカーDだけを先に作りウルフクラウンのメンバー全員に配布した。ちなみにDとはデビルの意味だ。


「残りのパーツは素材が手に入ってからで」


 と伝えたら。


「どうする、こっちから狩りにいくか」

「この船を囲むようにうろちょろしてるんだ。見つけるのは簡単だろう」


 パイルバンカーを持って強気になったようで、残りのパーツ欲しさから、こちらから襲撃しようと言い出した。


 おいおい、それはちょっと好戦的すぎないかい。人間、失敗する時って新しい道具を手に入れて浮かれているこんな雰囲気のときだぜ。


「心配しなくとも、向こうの方から襲ってきますよ」


 皆が浮かれている中、冷静なバァルボンさんが今にも飛び出していきそうなウルフクラウンたちにストップをかけてくれた。いいよな渋いキャラも、経験豊富な老齢な戦士の助言はゆるんだ空気をひきしめてくれる。


 俺もあのくらいの年になったらあの渋さを出せるだろうか。


 務めていた頃の上司とは年も近そうなのにえらい違いだ。


「先ほどの攻撃は恐らくハラスメント攻撃です。しばらくすればまた少数で攻めてくるでしょう」

「ハラスメント攻撃? 悪魔像は俺たちにセクハラをしたいのか」


 久しぶりに思い出した元上司の映像が、女子社員に手をわきわきさせながら襲い掛かるビジョンになってしまった。


「セクハラの意味はわかりませんが、砦などに引きこもり、籠城した集団の精神を攻撃する戦術です。攻略を目的とした攻撃ではなく、追い詰められたと精神を攻める心理攻撃が主目的になります」


 セクハラは意味が通じなかった。


「過去のデータにもありましたが、悪魔像は魔物とは思えない戦術を用いますね」

「その通りだ、ヤツらは魔物とは違う。食欲のためでもない、快楽のためでもない、ただ人がいるから襲ってくる。それも知恵を使って」


 リンデは怒りを隠しきれず奥歯を強く噛みしめている。


 魔物が人を襲う理由は二種類、一つは食欲を満たすため。もう一つは自身の力を誇示するためまたは遊ぶために、自身よりも力の弱い種族を襲う。


 二つ目の理由に関しては、どうかと思わないでもないが。悪魔像に至っては本当にただ人を殺すためだけに襲ってくる。殺した後に食するでもなく、狩りを楽しむでもなく、ただ淡々とプログラムされた機械が命令を実行するようにただ人を襲う。


 悪魔像のことをSOネットで調べたときネット越しでも吐き気がした。リンデはそれをじかに体験している。それも身内がやられているのだ。その怒りは俺なんかには想像もできない。


 そんな悪魔像が近くにいる。アクティブがなかったら俺は恐怖で震えることしかできなかっただろう。


「お嬢様どうか冷静に、悪魔像の戦術を破るためには冷静な判断力が必要になります」

「そうだぜリンデこっちにはアクティブがある。ハラスメント攻撃なんて食材が鍋もって歩いてくるようなもんだぜ。やってきたらおいしく頂いちまおう」


 リンデやウルフクラウンを武装させた今、卵二等兵級は鴨ネギにクラスチェンジしたと言っても過言ではない。


「…………」

「あれ、どうかしたか?」


 テンションをあげていたウルフクラウンも、怒り心頭だったリンデでも、冷静さを呼びかけていたバァルボンさんさえも、ぽかんとした顔で俺を見てくる。


「悪魔像相手にその例え」


 しばらくの沈黙の後、渋キャラのバァルボンさんが大口で笑った。つられてまわりも笑い出す。リンデまでもが口を押え肩を震わせている。今度は怒りの震えではなく笑いをこらえた震えだ。


「なんで、笑うんだよ」


 そう言ったら、更に笑われた。


 ついにはリンデもこらえきれずに声を出している。おいおい、悪魔像に包囲されている状況で爆笑できるとは、流石は異世界の騎士や冒険者は大物ぞろいだな。


「大物ですなカズマ殿は」


 え、大物って、俺が。


「まさか悪魔像を食材と表現されるとは、このバァルボン人生の半分を戦場で過ごしましたが、悪魔像をして料理の素材と表現された方はあなたがはじめてです」


 悪魔像は人類にとって天敵、恐怖の対象でしかないとSOネットにはのっていたけど、調理素材と表現しただけでここまで騒がれるなんて。


「まさかナベ、悪魔像がナベ」


 リンデさんにも相当のツボであったようだ。


「ありがとうカズマ殿、冷静さを取り戻すことができた」

「それはよかったです」

「すねないでくれ、貴公には本当に助けられてばかりだ。この局面を打開したら必ず礼はする。今の私にできることは少ないが、必ずこの恩には報いよう」


 まさか悪魔像を素材と表現するだけでここまで感謝されるとは思わなかった。しかし、これならリンデ専用アクティブアーマーの着用はもはや確実に違いない。


 量産機のスィンバンカーではなく、細部まで設計したあの機体を完成させるため。


 待ってろ悪魔像ども、わが夢の実現のため、人類の敵であるお前たちを駆逐してやる。


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