第49話『異世界カルチャーショック』
「だったら、村へ材料を取りにいけばいいんじゃない!」
材料不足を悩んでいたら、悪魔像を粉砕してハイテンションになっているカリンがアイディアを出した。
「これがあれば可能でしょ」
パイルバンカーを掲げてみせる。完全に増長してるな、人のポーズはダサいって言っておきながら自分も完全にポーズ取ってるし。
「って、あれ、うわ」
ポーズを決めていたカリンがバランス崩して倒れた。
「あいたた」
「大丈夫かカリン」
リンデが心配してカリンへとかけよる。カリンは起き上がることができずその場でうずくまったままだ。
「足が、いたた」
「最後の悪魔像を倒す時にむりに体を回転していたからな、捻ったんだろう。俊足の法よりもスピードが出ていたからな」
幸いケガはたいしたことなさそうだけど、軽い捻挫かな。
なんとなくカリンがどんな風に悪魔像を倒したのかわかった。無理に体をひねってパイルバンカーを放ったんだろう。そのためバンカーと回転のエネルギーがすべて軸足にかかってしまったのだ。
これは改良の余地があるな、パイルバンカーと四倍速レッグアーマーを連動させて、負担をどこかに流れるようにしないと、使うたびに足を痛めるかもしれない。
「警告。飛翔体が接近中、悪魔像の卵の確率は百パーセントに近いです」
カリンの活躍で和んでいた雰囲気がぶち壊された。
「落下地点は」
「ここから少しズレています。村への落下コース、リボルバーの射程外、迎撃は不可能です」
「村への材料回収は無理なようだ、みんな船へ戻ろう」
リンデはカリンを抱え上げ、退避を促す。落下地点は離れているのですぐには襲ってこないだろう。
「くそ、素材さえあれば俺たちだって卵二等兵級くらい」
甲板へと戻るとダラスが愚痴をこぼす。そんなにパイルバンカーが欲しいのか、魔物の素材がもっとあればな。
「あ、あるじゃん、魔物じゃないけど」
方法を一つひらめいた。
「なあ、見た目が悪くなれば作れるかもしれないけど、それでもいいか?」
「本当か!」
「ああ、素材に若干の問題があるけど」
「作ってくれるなら、小さな問題など気にはしない」
「あれが材料だけど、大丈夫か?」
俺はさきほどカリンが倒した悪魔像を指さした。
「おい、本気か」
「試したことはないけど、あれだけ堅いんだから十分素材になると思うぞ」
「いや、そういう問題じゃなくてだな」
「悪魔像を素材にするなんて、聞いたこともないぞ」
ダラスは驚くだけだったが、ほかのウルフクラウンのメンバーたちが怖気づいてしまった。魔物の素材には抵抗感がないのに、悪魔像を素材にするには抵抗があるのか、俺にはどっちも同じようなモノに思えるんだけど、この世界の人たちにとって、悪魔像は恐怖の対象として刷り込まれているようだ。
最弱の卵二等兵級にも腰が引けてたもんな。
「俺は悪魔像の素材でもかまわない、ヤツらを倒してここから脱出できるなら」
「わかった、一つだけならそんなに時間はかからないよ」
怖気づく仲間とは違いダラスは決心したようだ。
「すまないカズマ殿、どうか私の分も頼めないだろうか?」
「リンデも」
「私も、長期戦に耐えられるほどの腕はない、悪魔像を倒せるなら、どうかお願いしたい、私にも作ってもらえないか」
まさかまさかのリンデからの製作依頼をいただきました。本当ならリンデ用に書き上げた設計図の機体を着て欲しかったが、今は作れない、別の機体でも取っ掛かりとして良しとしよう。
「もちろん、喜んで作りますとも」
「喜んで?」
「え、いや、こっちの話しだ、リンデの分もだな了解だ。カリンの先走りのおかげで、改良点もわかったし、もっと良いモノを作らせてもらうぞ」
「うう~、すいません」
先走りして足をひねったカリンが縮こまって謝罪を口にする。
「次からは、試験する前の武器を実戦でいきなり使うなよ」
「身にしみました」
「それじゃ、二人分の素材を回収しにいきますか」
「どのくらい必要だ」
倒した悪魔像は全部で五体、二人分なら二体くらいでいいと思うけど。
「多めに見て三体回収すれば足りるだろう」
「待ってくれ、俺の分も頼む!」
「俺も、俺も頼む!!」
「手伝うから、俺も分も作ってくれ!!」
回収にいこうとしたら、ウルフクラウンのメンバーたちに取り囲まれ口々に自分たちの分も欲しいと言い出した。ダラスとリンデに触発されたようで、結局ウルフクラウン全員分の武装を作ることになった。
倒した悪魔像を回収してみれば、取れた素材は二種類だけであった。
魔物の場合は魔結晶に始まり、肉や骨など使える使えないは別にすれば十数種類の素材は取れるものなのだが、この悪魔像・卵二等兵級はたったの2種類だけ。
「これ、生物じゃないよな、魔物とも根本的に違いすぎる」
外側の卵の殻はそのまま残っていたが、中身の体は紫色の砂となって崩れていたのだ。骨どころか内蔵や血の一滴も存在しなかった。
核を砕くと体が維持できなくなり崩壊するようだ。
「俺の持つラノベ知識から答えを導き出すとすれば、魔法で動くゴーレムに近いのか?」
なぜラノベからなのか、俺の持つ知識のなかで異世界で役立つのはラノベくらいしかないからだ。どうせ正解などわからないんだから、自分が納得できればいい。
死骸が残る魔物とはまったく生態が違うこと、魔結晶すら存在しない悪魔像という存在が異質であることを再認識。
「しかし、これはまいった」
骨や牙が取れると期待していたのだが、予想外に取れた素材が少ない、あそこまで期待させて、もし悪魔像の素材が役に立たなかったらどうしようと不安になったが。
調べてみて安心した。
悪魔像の殻がアクティブの装甲としても使えそうだったからだ。
強度的には石よりは固いけど、鉄ほどではなく柔軟性もなく扱いづらい素材ではあったが、戦地採用の代用品としては、とてもありがたいしろもの。
紫の砂も発火性があり、砲弾はむりでも錬金魔法で圧縮すれば銃弾の発射薬としては代用できるとわかり俺は大いに喜んだ。これで銃弾が補給できる。
銃弾が補給できるならロマン武装ではない、実用的な銃も普及できると、これで戦力が大幅にアップできると、そう思った。
でも――。
「あたらないぞ、これ」
銃の有効性を教えようと、小型の単発ハンドガンを作り試しにダラスに撃ってもらったら、五メートル先の的に当てることができなかった。それもロックオンアームを使ってだ。
ホワイ、どうして!?
動かない的にもあてらないのに、動き回る悪魔像に当てるなど不可能だ。せっかく作った卵二等兵級と同サイズの的が無傷で鎮座している。
「練習すれば、誰でもあてられるようになるって」
「攻撃魔法みたいなものか、でも攻撃魔法の方が威力あるよな」
「それは、拳銃だから、大砲だったら魔法より威力あるでしょ」
俺は主砲をさしながら訴えるが。
「大砲は持ち運べないだろ」
「ごもっともです」
「俺にはあまり役に立たなそうだ。やっぱりパイルバンカーで頼む」
そげな。
確かにあたった時の威力はハンドガンが負けるけどさ。
まさか、歩兵の必須装備ともいえる銃が断られ、ロマン武装のパイルバンカーが求められるとは。
「異世界カルチャーショック」




