第48話『ロマン武装のはずが……』
熟睡していたカリンも飛び起きる。
「なに、なんなの!」
ここは船内、鼓膜を震わすほどの大音量ではなかったが、ほかに音がしない早朝なのでよく伝わってくる。
続けて二発、三発と放たれる銃声。
これは間違いなくシルヴィアに貸したリボルバーの音、俺はサーチバイザーのレーダーを起動すると船を取り囲んでいた悪魔像の内の数匹が接近してきていた。
「悪魔像の接近、でもなんで一斉にかかってこないんだ」
こんな小分けの接近ならシルヴィア一人で撃退できる。船に取りつくことさえできないだろう。
「悪魔像が来てるの!」
「ああ、でもシルヴィアが迎撃してるから大丈夫だろうって、ちょっと待て!!」
俺の話しを最後まで聞かずにカリンは飛び出していってしまった。
「待てって!」
すぐに追いかけたのだが、俺が廊下に顔を出した時には、すでに姿は見えなくなっていた。四倍走力レッグアーマーも装備したまま寝てたのか、カリンはパイルバンカーを試すつもりだな。
「くっそ、あくまでもロマン武装だっての!」
自信はあるが、テストもしていない武装をいきなり実戦で使うつもりなどなかったのに。
昨日脱いだままの状態であったホバーブーツに飛びつき、できる限り素早くフゥオリジンを装着して外へ急行してみれば、唖然として立ちつくしているリンデたちの姿があった。
「どったのみんな?」
「…………」
返事がない、襲われているのにやけにゆったりとした空気がリンデたちを包んでいた。
リンデがゼンマイ人形のようなぎこちない動きでこちらへ振り返る。
「カズマ殿、カリンになにを渡したんだ」
「えっと、ロマン武装だけど」
カリンがやらかしたらしい、いったい何をやったのだろうか、気がつけばレーダーには接近する悪魔像の反応がなくなっていた。
「いったい、なにが?」
時間は少しさかのぼる。
一馬の制止も聞かず甲板に飛び出したカリンは、近づいてくる悪魔像の姿を目撃する。
すでに船外へと出ていたリンデやウルフクラウンのメンバーたちが船を守るように横に広がる陣形をとっており、甲板に残っていたシルヴィアがリボルバーで狙撃をおこなっていた。
カリンはまだ名称すらない、レッグアーマーの四倍速に加え俊足の法を上乗せして甲板から飛び降りると、勢いを殺すことなくリンデの脇を抜け悪魔像へと突撃した。
「待てカリン!」
突撃しようとしているのを察したリンデが止めようとしたが、リンデでもとらえられない速度で移動したカリン、警戒していた誰もが彼女の姿を見失う。
「ショーット!!」
次にカリンの姿を見つけた時には、パイルバンカーを突出し一体の悪魔像を一撃で粉砕していた。
「なっ!?」
言葉をうしなうリンデ、剣を教えていた幼い子供が、いきなり自分でもとらえられない速さで動き卵二等兵級を瞬殺してしまったのだ、驚くなと言う方が無理である。
「おとと、と」
パイルバンカーの威力で体制を崩しかけたが、ギリギリで踏みとどまり。
「もう一つ!」
もう一体の悪魔像も粉砕。
「あぶない」
最後に残った一体がカリンの背後から大口を開いて迫る。リンデが助けようと俊足の法を使うが間に合う距離ではなかった。このままではカリンが背中から噛り付かれる。誰もがそうなる未来を想像した。
だが、その想像は間違いであった。
「そんな動きじゃ、今の私は四倍速い!」
口を閉じるよりも先に、バンカーを叩き込み粉砕した。
「ロマン武装ってなんだよ」
ダラスがロマン武装の定義を訪ねてきました。
「あー、見た目とかピンポイントの能力はすごいけど、実戦では使えない武装」
「十分に使えてるじゃねぇか」
「マスター、カリン様が三体の悪魔像を秒殺されました。実戦にて通用しています」
「まじで!?」
パイルバンカーと四倍速のレッグアーマーセットで作るのに三十分もかけてないお手軽な武装だよ。
「カズマ殿、あの武器はいったいどうしたのだ」
「砲弾がひと段落したから、あまった時間で適当に作ったものなんだけど」
「適当って、あれでかよ」
ウルフクラウンの皆さんがおののいてしまった。まあ、カリンの活躍は武装よりもシルヴィアが援護したおかげだろうけど、だって威力は強くても射程の短いロマン武装だよ。
「さすがはカズマ殿だな、砲弾はもう完成したのか」
「形はな、後は砲弾内の魔力が安定するのを待つだけだ」
「そうか、感謝する」
砲弾の説明は昨日している。後は完成までの二日間、ここを死守すれば攻勢にでることができる。
「な、なあ、それなら、お前の手は空くんだよな」
こちらを伺うようにダラスが訪ねてくる。
「そうなるな、心配しなくても見張りには参加するよ」
砲弾製作が担当でも、手が空いたんだからできる仕事はするつもりだ。ここは仲良く協力して、元上司みたいに最低限の仕事だけして、ふんぞり返っているなんてしたくない。自分がやられて不快になることは絶対にしない、これが上手く人付き合いするコツだ。
もっとも襲撃されたら接近戦はみなさんにまかせて、俺は後ろから射撃の援護に徹するけどね。
「いや、そうじゃないんだ」
「え、違うの?」
なんだかとても言いにくそうだな、ここはこちらから歩み寄るべし、三流だろうがこれでも元は営業マンだ。相手の話しやすい空気くらいは作れる。
「遠慮なく言ってくれ、些細なことでも現状を打破するきっかけになることもある。思いついたことはどんどん声に出していこうぜ」
「それなら、頼みがある。あれと同じのを俺、いや、俺たちの分も作ってくれないか」
「へ?」
あれって、指差した先にあるのはカリンの装備しているパイルバンカーだよな、俺たちの分ってウルフクラウンのメンバー全員ロマンに目覚めたのか、あのロマンをわかってくれるか、これはこの世界でも同好の士が現れたのか!!
「おおお~~~~、話しわかるじゃん、あの外見重視を理解できるなんて」
戦いにはあまり役に立たないけど。
「マスター、おそらくですが、マスターの考えとは違うと思われます」
「え、違うの」
「彼らは主力の武器として、カリン様の装備を欲しているのです」
「主力武装としてだと!?」
俺なら大金積まれても実戦で使うのはお断りの超接近武装だぞ。
「ほんとうに?」
「もちろん本当だ、今は払える金もないが、この村を脱出できたら必ず返す。俺たちの力では悪魔像にダメージを与えるのは難しいんだ、あれと同じやつを作れないか」
マジだ。マジな目ですよ。
ダラスだけじゃない、後ろにいるウルフクラウンメンバー全員が、ほしそうな目をしている。まさか、ロマン武装がここまで人気がでるとは、ここは本当の同士を得るためにも繋がりを作っておきたい、ところなのだが。
「まいったな」
「やはり、後払いは都合がよすぎるか」
「いや、お金はぜんぜん後払いでもかまわないだけど」
緊急事態だし、この場でお金をもらっても使い道がない。
「問題は材料がないんだ。砲弾でほとんど使っちまって、残った材料で子供のカリン用は作れたけど、大人サイズとなると」
「そうか」
悔しそうにうなだれる。せっかくやる気を出してくれてるんだし、あまり萎えることはしたくない、どこかで材料を入手できないかな。




