第47話『ロマン武装』
魔物の強さ表記をカテゴリーから討伐レベルに変更しました。
丸い船窓から差し込む光が無くなりカリンが壁にそなえ付けのランプを灯す。蛍光灯と違う揺らめく光に照らされて部屋の中央には四発の砲弾が並べられた。長さは約12センチ、重さは約50キロ。ヒートレオン級飛行駆逐艦の主砲用砲弾。
「材料が少しあまったし、別のモノでも作ってみるか」
「砲弾はこれで完成なの?」
「形としてはこれで完成だ。あとは中に入れた発射用魔法薬が安定するまで寝かせないといけない、それが二日掛かるんだ」
「早くならないの、あっ、ならないんですか?」
本当にカリンの態度が変わったな、言葉使いもリンデに対してより丁寧になっている。
「窮屈そうなしゃべりだな、昨日の朝まではかなりケンカ腰だったよな」
「あれは、できれば、忘れてほしい、です、ます」
「その変な敬語をやめたら了解するよ。それじゃ何か作るか」
残った材料は、小ぶりな魔結晶に、木材に鉄材と魔物の素材が少量。魔物の素材は保管状態が良くなかったのか腐敗劣化しているものが多いので使えるのが思ったよりもなかった。砲弾を作る分はまにあったけど、もう一機アクティブアーマーを作ることもできない。それが例えカリンのサイズに合わせた子供用だとしても。
「どんなのを作るかな、どうせなら役に立つものがいいけど」
「それなら、悪魔像を倒せる武器が欲しい!」
「武器か、イメージとかあるか?」
「剣だと私の力じゃ悪魔像は斬れないから、パワーの出る槍とか」
防衛用に配った槍、自分の分も欲しかったのか。
「槍でもカリンの力じゃ悪魔像の装甲は抜けないだろ、いや、まてよ、パワーを出せればいいんだから、パワーが出る装備に槍を装填すれば――……」
装填、そう装填だ。
手に持つ必要はない、ようは固い装甲を貫ければいいんだ。強固なものをパワーで貫く武器、これもロボット物の醍醐味の一つ。それなら、うってつけがあるじゃないか。
「思いついたぜ!」
俺自身は使いたいとはまったく思わないけど、観賞するならとてもかっこよく感じるロマン武装。
「カリン、ちょっと利き腕をだしてみて」
「こう?」
カリンの腕を取り、まずは木材と魔物の骨を組み合わせた手甲をこさえ、腕をケガさせないように魔物の皮をクッション代わりに隙間に入れてフィットさせ、腕に水平になるように手甲に穴をあける。
「痛い所はないか」
「大丈夫だけど、これが武器‽」
このままでは防具にしかならないが、ここからロマン武装を追加する。
「射程は短いけどな、パワーだけは申し分ないぞ、卵二等兵級くらいなら一撃だ」
わずかに残った鉄材でスプリング状にして、魔獣の骨でこさえた直径十センチの杭と一緒に手甲の穴に差し込み固定する。
最後に小さい水晶級魔結晶に『杭打』ちのイメージを付加、発動トリガーはとりあえずショットでいいか、難しい構造ではないので案外簡単にできた。
「手甲型杭打機、ロマン武装パイルバンカーの完成だ」
「これが武器」
「ショットって言葉で杭が飛び出すようにしてみた。これで試してみ」
手近にあった木材をカリンへと投げる。
「ショット」
撃ちだされた杭が木材を撃ち抜きこなごなにした。
「すご、なにこの威力」
「木じゃテストにもならなかったな、本当は鉄板とかで試したいんだけど」
「うんん、手応えでわかる。これなら分厚い鉄の盾だって貫くよ、悪魔像だってホントに一撃で倒せるよ!」
子供らしい仕草、ピョンピョンと跳ねて喜びを表現する。
「くらいなさい、ショーット!」
ついにカリンもパワードスーツのロマンがわかってきたか。
腕を突出し飛びだすバンカー、その先には仮想の悪魔像がいるのであろう。俺はカリンがはしゃいでいる間にもう一つの装備を簡単にこさえておく、きっとこの後に落胆するであろうカリンを再度喜ばせるために。
ロマンを共有できる女性の人材は大切にしないとな。
「すごい、すごい、これが当たれば悪魔像でも楽勝よ!」
「当たればだけどな、使ってみてわかっただろうけど、射程は短いから懐に入らないといけない」
「俊足の法を使えば潜り込める」
「パイルバンカーは連射ができないだろ、囲まれると逃げ道がなくなるぞ」
「俊足を連続で使えば」
「それだとすぐに体力がなくなるぞ」
朝練を見ていてわかったこと、カリンは俊足の法はだいたい三連続くらいしか使えない。本人の方がよく分かっているのだろう。顔から喜びの表情が抜け落ちた。
「これ、使いづら~」
良い感じで言葉使いが柔らかくなり、最初はパワーに喜んだカリンもパイルバンカーの性能を知ると不満をもらす。
「ロマン武装だからな、パワー以外は全てが欠点といってもいい」
もともとは破砕機であり武器でもないし。
「え~~~」
「確かに、それ一つでは使いづらいが、これと合わせることにより欠点を補うことができる」
「なにそれ、すね当て?」
「おう、パイルバンカーの補助装備のレッグアーマーだ。これがあれば実戦でもある程度は使えると思う」
カリンがはしゃいでいる間に魔物の素材でこさえておいたレッグアーマーだ。
通称、噛みつきトンボと呼ばれている討伐レベル17の虫型魔物ニードラゲンの外殻を変形させて、混濁級魔結晶を埋め込み左右それぞれに『四』と『倍』を付加してはめ込んである。
イメージ通りの能力が付加されているなら、これで走力や脚力が四倍になるはずだ。
「うわ、すご、足が軽すぎだよ」
さっそくレッグアーマーを装備したカリンがその場で軽くジャンプ。それだけで頭が天井にぶつかりそうになった。
「うわ、うわ」
それほど広くない部屋、壁から壁までほぼ一瞬で移動してしまう。
走力四倍、単純に考えれば100メートル10秒で走れる選手がこれを装備すれば、2.5秒で走ることが可能となる。ドーピングがお遊びに感じるほどの能力だ。まあ混濁級だと四倍程度の付加が限界であったが。
加工時に五倍以上の付加をしようとすると、魔結晶が砕けそうな手応えがしたので四倍で止めている。魔結晶の内胞する魔力以上の能力を付加しようとすると、魔結晶が砕けてしまうので、何でも付加すればいいってものじゃない。
「これなら本当に悪魔像にも通用するかも、こんな魔道具を簡単に作っちゃうなんて、やっぱり、すごいよこの人、見た目は村の人より弱そうなのに」
「なにぶつぶつ言ってんだ」
「え、な、なんでもないよ、気にしなくていいです」
また少し丁寧な言葉使いになったか?
「ふぁ~~」
ひと段落したらアクビがでた。バイザーの時計は深夜だと表示している。
「もうこんな時間なのか、集中していて気が付かなかったぜ」
「ホントだ、外はもう真っ暗だ」
「見張りのリンデたちには悪い気もするけど、俺は少し寝るわ」
集中が切れた途端にものすごい睡魔が襲ってきた。いまなら目をつぶれば三秒もしないで眠る自信がある。
「私はもう少しこの武器いじってていい? 使いこなせるようになりたいから」
「別にいいぞ、砲弾だけには注意しろよ、もう代わりは作れないから」
「うん」
満面の笑顔のカリン。
「じゃ、おやすみ」
俺は薄い布を掛布団代わりにして、そのまま床に横になった。
固い床でも気にならないほど熟睡した俺が目を覚ましたのは、翌朝の五時過ぎであった。悪魔像に包囲されているのが信じられないほどの穏やかな朝日が部屋へとさしこまれている。
カリンは遅くまでパイルバンカーをいじっていたのか、腕に装備したまま、壁に寄りかかって眠っていた。
床が固かったので背中がちょっと痛いけど、布団のぬくもりを失うのは惜しい、時間もまだ早いので、二度寝をしようと思っていたら――。
「――ッ!?」
外から響いた銃声で眠気すべてが吹っ飛ばされた。




