第46話『魔導式の砲弾』
「ほ、本当に作れるのか」
リンデの声が震えている。ああ、俺またやっちまったのか。
「戦闘飛行艦の主砲の砲弾は、悪用されないために製法は軍内部と魔導組合の専門部署のみの機密のはずですが」
老練な騎士のバァルボンさんでさえ少し声が震えている。
間違いない、やっちまったようです。
砲弾レシピは最上級回復薬を上回る秘匿レシピであったらしい。SOネットで検索かけたら出てきたんですよ、国家機密ならロックくらいしといてくれ、注意書きすらなかったぞ。
どう言い訳しよう。
リンデだけなら秘密にしてで通用したかもしれないけど、ウルフクラウンの冒険者たちや村長たちにもしっかりと聞かれてしまった。
「知っているのは当然です。マスターの出身はジャンアーセナルですので」
「ジャンアーセナルだって!?」
「ヒノモトにあるという伝説の国か」
シルヴィアさんが意味不明なフォローをしてくれた。なんですかジャンアーセナルって、初耳なんですけど、とパニックになりかけていると、バイザーにシルヴィアからメッセージ付きのデータが送られてきた。
なになに『ジャンアーセナルとは日本からの転移してきたショウ・オオクラと仲間たちが超技術を使う上での言い訳に捏造した架空の国であり実在しない』らしい。
設定ではヒノモトのどこかにあると言い伝えられている伝説の国であり、モノ作りに突出した国で、現在の冒険者ギルドネットワークシステムや飛行艦の主機関など、この世界の技術水準を大きく越えたモノを数多く世に出している。
補足、ヒノモトとは正式にはヒノモト地方と呼ばれており、世界の極東に実在する島で、多くの小国が点在している。
統一されていない戦国時代の日本みたいだな。
「転移事故と聞いて半信半疑だったが、ジャンアーセナルなら納得だ」
リンデさん、転移事故の話し疑ってたんですか、確かにとても信じられない作り話みたいだけど、転移事故は本当でジャンアーセナルの方が作り話なんです。
「どのくらいで製作できる。材料はこの船にあるものだけで足りるのか」
「えっと」
検索の結果、砲弾じたいはそれほど難しい作りはしていない、まあ、俺の変形スキルがあるからこそだけど、普通なら専用の工房がいる。
「正規の素材はそろってないけど、魔物の素材で代用できそうだ」
「何日かかる。この人数だ、食料もそうもたない」
「そうだな、三日もあれば」
「三日ッ!?」
砲弾の製作自体は一日でできるけど、砲弾も魔道具の一種のようで、内胞した魔力を安定させないと砲から撃ちだすことはできない。最悪、爆発するケースもあるとの注意書きがレシピに書かれていた。
「時間がかかって悪いけど、これ以上は早くはできない」
「い、いや、三日でできるのか」
「信じられませんな、魔導組合にどれだけ急かしても一カ月は待たされますから」
あれ、三日って遅くないの。
「一カ月って時間かかりすぎじゃないか」
「魔導組合に任せたままなら二カ月以上待たされることもある。父上が直接交渉して時間を半分まで短縮させていたのだ」
「なんでそこまで時間がかかるんだ、大量注文だからか」
軍が頼むなら、それなりの個数になるだろうから、時間がかかるだろうな。
「いや、一発でも百発でもかかる時間はかわらないぞ」
「え? そうなの」
ってことは、ぼったくりか。
見たこともない組合を悪く思いたくないが、どうも魔導組合のイメージが俺の勤めていた会社とかぶっちまうな。
どのみち、現状では組合に砲弾を発注することはできないので自分で作るしかない。ありったけの材料をかき集め、自室兼作業部屋へと戻る。カリンが砲弾作りも手伝いたいと言いだしついてきていた。
「さて、はじめよう」
「ついてきてから聞くのもおかしいけど、私が手伝ってもいいの」
「問題ないぞ、どうしてだ?」
「だって、砲弾の製造って秘密なんじゃないの」
「ああ、大丈夫だ、俺の作り方は特殊だから見られただけじゃマネできない」
シルヴィアが警戒のため甲板から動けないのでカリンの手伝いは正直とてもありがたい。リンデも一緒にくるかと思ったが、彼女も甲板での警備に参加している。
俺が安心して作業できるのも、彼女達が警戒していてくれるからだしな。みんなの頑張りに答えるためにも、こっちはこっちで完璧な仕事をしよう。
結局、三つの問題っていうのを詳しく聞けなかったけど、俺は戦闘員じゃなくて裏方のサポート要員として動けばそれほど支障はないだろう。
「まずは手順の確認からだ」
砲弾を作るには大きく分けて三つのパーツが必要、とSOネットには書かれている。この世界では火薬の替わりに砲弾用に調合した発射魔法薬と、弾頭と薬莢の三つだ。
元の世界では弾を発射するには雷管も必要なのだが、魔導砲の中の魔導回路が代わりを務めてくれるようなので必要はない。シルヴィアの話しでは魔導回路は生きていたようなので砲弾さえあれば撃てる。
弾頭は水晶級の魔結晶に爆裂の性質を『付加』して、外殻をブラックボアの骨を使い『変形』で包み込むように形を整える。大きさはボーリングの弾を楕円形にしたくらい、それなりに重量がある。本当は鉄製の方がいいのだけど、鉄不足だからコーティング剤を塗って代用だ。
「カリン、この弾頭にコーティング剤を塗ってくれ、できる限り均等にな」
「わかりました」
今まで反抗的だったのが嘘のように素直になってる。違和感があるが助かるので指摘はしないでおこう。『変形』を使ってもなにも聞いてこないのはありがたいし。
薬莢は、こっちもブラックボアの骨にコーティング剤でいきたいけど、骨には余裕があるけどコーティング剤が心もとない。
「しょうがない、これをバラすか」
俺はコンテナに手をかける。
冷蔵機能やソリへの可変機能を付けた力作だったんだけど、現状を打破するための尊い犠牲だ。少しだけ躊躇いはあったが、魔導ヤスリを使い解体、鉄材へと戻してから。また『変形』を使って薬莢へと姿を変える。
次は弾頭、素材の核として必要な大きめの水晶級魔結晶が四つしかないので、砲弾が四発しかつくれない。こればっかりはスキルで補えるモノじゃない、発射地点を潰すにはなんとか足りるだろう。
最後に発射用の魔法薬。
発射薬とも呼ばれるこの魔法薬は粘り気のある液体で、爆発に指向性を付けることができる。
鍋でぐつぐつ煮込んだ魔力水へレシピには爆葉草、火を付けると破裂する植物を使用とあったのだが手持ちがないのでバドショットの種を砕いた粉末などの魔物の素材を代用して放り込み調合していく、この魔法薬が一番時間がかかるが、それでもたった四発分、数時間でできあがる。
これを薬莢に流し込んで弾頭をはめこむ。
「ねぇ、これって大砲で撃つんだよね、こんな差し込む程度の固定で外れないの」
カリンの言う通り、このままではちょっと力を加えればはずれてしまう。
「問題ない、この魔導ヤスリを使えばな、このヤスリは魔力込めながら念じると、イメージした通りに鉄材などを変形させてくれるんだ」
はめこんだ弾頭は薬莢の口を『変形』ですぼめれば外れない、後は中の魔法薬が安定するまで待てば砲弾の完成だ。
「すごい、変ダサなメガネしてるのに、やっぱりすごい人だったんだ」
俺の技能に感心して態度を変えたようだがカリンよ、サーチバイザーをダサいと言うのは変らないんだな。




