第45話『食い違い』
魔物の強さ表記をカテゴリーから討伐レベルに変更しました。
「まず一つはこの包囲だ、三十体近くの悪魔像に包囲されている。この囲いを突破するのは至難だ」
へ?
危うく間抜けな声を出しそうになり、両手で口を押さえる。
「カズマ殿?」
「いや、何でもない説明を続けてくれ」
声は抑えられたが、挙動不審にはなってしまいリンデの説明を中断させてしまった。
「シルヴィア殿のおかげで明確な数と位置がわかっているのが救いだが、それでも突破するとなると犠牲を覚悟しなければならないだろう」
「シルヴィアって銀髪の彼女だよな、あの子は探索系の魔法を持っているのか」
「そのようだ、詳しくは聞いていないが村内部くらいなら正確に調べられるらしい」
「補足訂正、私の索敵範囲はこの村の倍はとらえています。ですがそれは索敵に集中した場合に限ります。戦闘行為などをおこなう場合、索敵範囲は狭まります」
見張りをしているシルヴィアが自身の能力について補足した。
「そ、そうなのか、そこまでの広範囲な上級魔法、騎士団の魔導士にもできなかったが」
え、そうなの。
「まあ、細かい話しはなしで、できるんだから有効に使ってくれ」
「そうだな、シルヴィア殿のおかげで空からの襲撃は抑えられている。悪魔像もヒートレオンを避けて卵二等兵級を送りこんでいるのは彼女のおかげだ。詮索はなしで頼む」
こっちは手の内を明かしてないのに、フォローしてくれるリンデ様、すでに返しきれない貸しを作っている気がする。
「話しを戻そう、もう一度説明するが。私の第三の案は、敵のトップである悪魔像少佐を少数精鋭で打倒、統率を乱すことだ」
「ホントに頭を倒せば統率がみだれるのか?」
ダラスが不安を口にする。倒しても相手が混乱しなかった場合、突破は不可能になるので当然だろう。いまならみんな聞く耳をもっているので、説得できる材料さえあればリンデの第三案は通せるかもしれない。
はたしてリンデは説得材料をもっているのかと思ったら、シルヴィアが説得材料をすでに拾いあつめていた。
「敵統率者を打破した場合、統率が乱れる確率は八十パーセント以上だと推測します。悪魔像・卵二等兵級は無差別な行動はせず一つの意思の元に行動しているからです。現在ヒートレオンを取り囲んでいるのは二十八体、それ以上の増援が送られてこないことから相手が一度に指揮できる数が二十八の可能性もあるかと」
「上限はともかく、どうして統率されていると思う。俺たちがここに逃げ込んだから悪魔像たちは同じ行動をしたんじゃないのか」
もっともな疑問だダラス、俺も同じことを思いました。
「三体もしくは二体の卵二等兵級がグループを作り、この船を等間隔で包囲しリボルバーの射程には絶対に近づきません。これは明らかに意思あるモノが戦術的に指示をだしている証拠と言えるでしょう」
「……たしかに」
見事に説得させられたなダラス。しかし、もうリバルバーの射程を把握されたのかよ、増援できた個体はリボルバーを見ていない、それが射程を把握しているってことは間違いなく指示を出している存在がいる。
「戦術的動きをしているからこそ、敵の頭を倒せれば撹乱させられる可能性は高いか」
村長もリンデの作戦が有効かもしれないと思い始めたみたいだ。あごひげをさすりながら自分の考えを整理するようにゆっくりと言葉をつなぐ。
「有効な方法だということはわかった。しかし、この包囲を突破できるのか?」
第一の問題だよな、どうしてそれが問題になるのかよくわからない。
もう我慢できないここは素直に聞こう。
「あのリンデ、質問いいか」
「かまわない、気が付いたことがあったら言ってくれ」
「包囲している卵二等兵級なら倒すの簡単だよな」
「なに?」
驚いたような反応だ、あれー、威圧を克服すればまったく問題はないだろう。
「本気で言っているのかカズマ殿」
「あ、ああ、たかだか三十体程度だろ、増援さえこなければ楽勝じゃないか」
問題が増援を止めるならわかるが、包囲はさしてこわくない。
「私たちが相手にしなければならないのはあくまでも敵の首領だ。取り巻きを相手に体力の消耗は避けなければならない、私一人で倒せるのはせいぜい五、六体が限界だ、ダラスたちウルフクラウンで十体程度はいけるか」
「そうだな、それぐらいなら」
「バァルボンでも十体は倒せまい」
「そうですな、お嬢様との連携で戦えれば二人で二十体は倒せるかもしれませんが、そこで力尽きてしまうでしょう」
えーーーー、なんでそうなるの!?
リンデなんて、さっき一撃で倒してたじゃん。
『マスター』
声が届く距離だというのに、シルヴィアはわざわざサーチバイザーを通して通信を送ってきた。それも小音声で周囲に聞かれないように配慮して。
『悪魔像卵二等兵級の体はブラックボアと比較すれば硬度は落ちますが、それでもそれなりの固さはあります。ですので、卵二等兵級を倒すには一定以上の技による攻撃か、ある程度の威力のある魔法が必要になり消耗は避けられません』
「カズマ殿の魔導銃が強力なのは理解しているが、魔導銃の弾は高額で数が少ないと聞く、できれば決戦を挑むまで温存してほしい」
「我々の目標は、あくまでも悪魔像の首魁、体力は出来る限り温存しませんと、シルヴィア殿の推測では例え今いる卵二等兵級を全滅させてもすぐに増援が送られてくる」
リンデやバァルボンさんが何かを話しているが、シルヴィアの解説が衝撃的すぎて耳に入ってこなかった。
つまり、討伐レベル20だとしても数が多ければ脅威になるのか、リボルバーの一発で倒せる敵だから違いがあまりわからなかった。卵二等兵級なんてゴブリン程度だと無意識に考えていたかもしれない。
囲んでいる悪魔像・卵二等兵級が倒せないわけではなく、体力を使うのが問題なのか、倒せても増援が送られ続ければ底の見えない消耗戦になってしまうわけだし、増援さえ止められれば、俺とシルヴィアだけでも殲滅は可能だろう。これならリンデたちが消耗することもない。
すると、問題はどうやって増援をとめるかだけど、さすがにリボルバーでも発射地点までは届かないし火力もぜんぜんたりない、もっと大口径で射程の長い飛び道具じゃないと、作るにしても材料もないし……って作らなくてもあるじゃんここに。
「カズマ殿、どうかしたのか?」
やべ、シルヴィアとの通信から黙り込んで考え事に突入してしまっていた。リンデが心配と疑問が入り混じった表情で訪ねてくる。
「えっと」
全員の視線が俺に集る。まさかここまで俺一人が勘違いしていたとは、訂正することはできるが、せっかくまとまった雰囲気を壊してしまうかもしれないので、思いついた作戦を伝え話題を変えてみよう。
「一つ作戦を思いついたんだけど、聞いてもらえる?」
「なぜ疑問形なのだ、カズマ殿の作戦ならぜひ聞かせて欲しい」
リンデは期待をこめた眼でみつめてくる。
その黒い瞳に俺の顔が映しだされているのが認識できるほどの近さ、ただでさえ美少女のリンデに至近距離から見つめられると心拍数が跳ね上がってしまう。ドキドキドキと高速で鼓動する心臓の音がハッキリと自覚できてしまうじゃないか、俺ってこんなにウブだったっけ。
早くなにか話さないと心臓の音がアクティブアーマーの装甲を越えて漏れそうだ。
「どんな作戦なんだ」
俺はゆっくりと甲板のあるモノを指で示した。
「アレを、使ってとりあえず増援を食い止めない」
「アレ?」
俺に集っていた視線が、指差した先にあるモノ、主砲へと移動する。
「おいおい、この船は墜落船だろ、動くのかよ」
「砲だけでしたら修理は完了しているので、問題なく稼働しますが」
ダラスの疑問にバァルボンさんが答える。主砲が動くという言葉にダラスたちや村長は歓喜するが。
「ですが、墜落時に魔導エンジンの破損で魔力砲を撃つだけのエネルギーはありません。実弾による砲撃にも切り替えは可能ですが、これも砲弾はすべて失われています。修理したのは稼働するところを見せ、悪魔像を牽制するつもりでしたが、すでに意味を失っています」
「少しでも効果があればと思ったが、すまないバァルボン、無駄な労力を使わせてしまったな」
「とんでもありません、わたしも修理してやりたかったんです。たとえ使えずとも」
リンデだけでなく、バァルボンさんにとってもこのヒートレオン号は思い入れのある船なんだろうな。たとえもう二度と空を飛ぶことはできなくても一部だけでも直したい。さまざまなプラモを作ってきたモデラーとして、その気持ち少しは理解できます。
「カズマ殿の主砲を使う案は私も考えた。しかし肝心のエネルギーも砲弾も無いため断念した。奇跡を信じて飛行経路に砲弾が落ちていなか探してみたが収穫はゼロだった。悲しいが今の主砲は畑のカカシほどの役目も果たせていない」
「いや、そうでもないぞ、砲弾なら俺が作れる」
「「「は?」」」
いやー、みなさんきれいにハモリますね。
俺とシルヴィア以外の全員が、それこそ声の届く場所にいた見張りまでもが一斉に何言っているんだこいつみたいな声を出されてしまった。
もしかして、まずい発言だったのかな…………。




