第44話『討伐隊拡張』
迎撃の準備は間に合った。
悪魔像たちは遠巻きに伺ってくるだけで、けっして近づいてこない。短槍を完成させ、さらにリンデやバァルボンさんが簡単な槍の動作をレクチャーする時間さえあった。
「増援は止まりました。柵を挟み内側に十六体、外側に十二体。計二十八体の悪魔像がヒートレオン号を包囲しています」
「やつらの狙いはなんだ」
「戦術の概念があるのなら、兵糧攻めかもしれませんな」
とはバァルボンさんの意見だ。それにリンデが賛同する。
「確かに、やつらはこの村を伺っていた形跡がある。襲撃のタイミングも食糧を手に入れもっとも油断した時だった」
言われてみればこれ以上ないタイミングだ。襲撃は見事に成功している。
村人たちは武器も食糧もほとんど失って、このヒートレオン号へ閉じ込められた。
「望まずの籠城戦に持ち込まれたってことか、山越えどころか村から出るのも難しくなったな」
「俺たちが望んだ越冬は、こんな籠城じゃなかったんだけどな」
俺のつぶやきにダラスが反応する。別に嫌味で言ったわけではないが、結果嫌味になってしまった。申し訳ないと頭を下げる。
「気にするな、まさか悪魔像がここまで賢いとは、安易に越冬を考えた自分が馬鹿バカしくなるぜ。レオリンデ、俺たち『冠の狼』はお前の指揮下に入るぜ、いや入れてくれ」
「いいのか、我らは越冬派ではないぞ」
「いじめないでくれよ、お前たち討伐隊に協力することが、一番生存確率が高そうだからな、いいよなみんな」
「リーダーに従う」
「俺たちは冒険者だ。冒険者はプライドよりも命を大事にする」
冒険者チーム『冠の狼』からは誰も反対意見を言う者はいなかった。共通の敵をつくれば人は協力し合う。むかしどっかの哲学者が言っていたと、マンガのキャラが言っていた。
「ワシらも加えてくれ、お前さんたちがいなければ、ワシらは全員あの怪物に食われていた。今さらではあるが、恥を忍んで頼む」
村長がリンデに頭をさげ、それに続くように甲板に残っていた村人たちが頭を下げる。みんな生き残りたくて必死なのがひしひしと伝わってくる。一度は救援に失敗した討伐隊、村人たちとしては思うところがあるだろう。それは命がけで助けにきたのに冷たくされたリンデにも言えることだが、はたしてリンデはどう決断する。
「バァルボン」
一番付き合いの長い老騎士に意見を求める。
「お嬢様のお好きなようになさればよろしいかと」
「カズマ殿やシルヴィア殿はどう思う」
「俺たちはこの村にきて日が浅いし、意見なんてないよ、リンデの決断に従うぜ」
「私はマスターの意見に従います」
「そうか……」
今の討伐隊責任者はリンデである。しかし、なる者が他にいなかったからの強制繰り上がりであり、これまで重要な決断を求められたことなどなかっただろう。
ゆっくりと考えている時間はない。まだ十五歳のリンデに命を預かることはできるだろうか、手助けしてやりたくなるが、今回ばかりは俺に協力できることはない。ただ少しでも負担を軽くするように、どんな決断をしても気にしないと態度で表すだけ。
「わかった。皆の命、騎士ライエン・フジ・ヴァルトワが娘、レオリンデ・フジ・ヴァルトワが預からせてもらう。共にこの局面を打開しよう」
こうして、俺、リンデ、シルヴィアにバァルボンさんの四人だけだった討伐隊に、冒険者チーム『冠の狼』の六人と村長率いる開拓民十二名が加わり、合計二十二人の集団へと拡大した。
今後の方針を決めるため、俺とリンデ、バァルボンさんにダラスと村長が甲板中央で議論をかわす。シルヴィアを加えた討伐隊の残りの人たちは交代で見張りをしてもらっている。
「リンデ、これだけ人数がいれば、前に話していた第三の作戦が実行できるんじゃないか」
「ダメだな、状況が変わってしまった」
リンデが欲しがっていた人手がやっと揃ったのだが、時はすでに遅かった。俺も薄々そんな感じがしていたが、リンデの苦い顔で、俺の感じていたことは間違いではなかった。
「なんだよ第三の作戦って、もしかして山越えと越冬以外の方法を考えてたのか」
第三の作戦にダラスが一番反応した。ダラスも越冬を考える前にはいろいろと考えていたのだろう。だが思いつかず越冬派のトップになっていた。
「私が考えた策は山越えと大差ないものなのだが、現状ではそれも難しい」
「その策とやら、聞かせてくれぬか、実行できないかどうかは、みなで考えた方がいいじゃろう」
「お嬢様、私も村長殿と同意見です。ご自分の考えに自信をお持ちください」
バァルボンにうながされ悩むリンデが俺へと視線を向けてきた。追い詰められた状況、彼女が一番気にしているのは作戦を実行するうえでの戦力だ。ボスと対峙する前の下級兵に追い詰められている現状で、はたして悪魔像・少佐までたどり着き討伐できるのであろうかと。
俺は大丈夫の意味をこめて力強く頷いてみせる。リボルバーが利く相手なら負けない自信があるから。
「わかった」
リンデは心を決め、俺に話してくれた第三の作戦をみなに説明した。
「少数による首狩り戦術か」
「以前に聞いていたら、反対してただろうな」
村長とダラスが腕を組んで唸る。籠城よりは生き残る確率がありそうだと考えたのだろう。しかしそれをやる上で一つだけ大きな懸念があるのだ。
リンデの作戦は選抜した少数による。悪魔像のトップを狩るというシンプルなモノ。だがこれは村が安全地帯であることが前提条件であった。今はヒートレオンに閉じ込められている。精鋭が悪魔像に挑めば、ここの守りがいなくなってしまうのだ。
出発まえに包囲している卵二等兵級を殲滅してもすぐに増援が送り込まれる可能性が高い、卵の発射をなんとかして食い止め後方の安全を確保しないと、攻めに転じることはできない。
「今回の襲撃をみても指揮系統が存在していることは明らかだ」
逃げる村人を家屋などで見失ったのにも係わらず、卵二等兵級は正確に最短ルートで追跡してきた。あれは間違いなく村の外から監視して指示を出している存在がいる。
「トップを潰して混乱させるのは理に適っているが」
「その策を実行するには課題が山積みだな、クリアしなければならない問題は二ついや三つか」
村長は顔のシワをさらに深め悩み出すのだが、そこまで問題があるか。俺には卵の発射地点を潰すこと以外に問題は思いつかなかったけど、そんなにたくさんあるの。
「私も村長殿と同意見です。村長殿は若いころに従軍の経験があるのでは、見事な戦術眼です」
「そんなにたいしたモノではない、若いころは傭兵をしていただけ、戦術など指揮官の見よう見真似で習ったにすぎん」
へ~、村長さんは元傭兵なのか、他の村人よりも体の筋肉がすごいとは思ってたけど、開拓じゃなくて傭兵として鍛えた肉体だったのか。
しかし村長とバァルボンさん、経験豊富なベテラン二人があげる三つの問題とはなんだ。リンデやダラスは理解してるのか、ここは素直に聞くべきか、いや、恥をかくかもしれないがここは聞いておくべきだ。命に係わるかもしれないことなんだから。
「あの……」
「すまん、俺には問題が二つしかわからん、教えてもらえないか」
と俺が聞くよりも早くダラスが質問してくれた。
ナイスだダラス。よくぞ聞いてくれた。理解していなかったのは俺だけじゃなかったんだ。でもダラスも二つまではわかったのか、これが剣と魔法の世界で生きてきた人間と、ラノベやマンガだけで知識を得た人間の違いなのかな。




