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第43話『迎撃への準備』

「カズマ殿、何をしている」

「武器を作ってるんだよ、いくら下級の悪魔像が相手でも素手じゃ戦えないだろう」


 突如甲板を削り出した俺に困惑したリンデが尋ねてくる。


「長さはこんなもんでいいか?」


 削り出した一・五メートルほどの棒。


「槍を作ろうと思ってな、握りの太さはこのくらいで大丈夫かな?」

「あ、ああ、握りはこのくらいがちょうどいい」


 困惑しながらもちゃんと受け答えをしてくるリンデ。


「もう少し長い方がいいか」


 この長さの槍は短槍と呼ばれる。長槍よりも攻撃力は低いが剣よりも扱いが簡単で素人に持たせるなら有力候補の一つだと、昔に読んだマンガに書いてあった。


「いや、訓練されていない者が扱うならこれくらいがいいだろう」


 マンガの知識が実戦経験のあるリンデに認められた。


「この人数では横陣も組めはしないが、戦力が強化されるのは間違いない、すまないが数を作ってもらえるか」

「まかせろ」


 人数がいれば、ヒートレオンを囲むように並んで長い槍を突き出す戦法もとれたのだが、船の大きさから計算して、百人近くが必要だ。村人全員が協力しても足りない。


「カズマ殿、お待たせしました」


 棒の切り出しをこなしていると、バァルボンさんがブラックボアの骨を抱えて戻ってくる。後ろには同じく骨を抱えたカリンの姿もあった。カリンは母親を船内に連れて行ったはずだが戻ってきたのか。


「私にも何か手伝えることないですか」

「カリン、気持ちはありがたいが」

「あるぜ、丁度良かった手伝ってくれ」


 リンデがカリンを船内に戻そうとしているのはわかったが、カリンの性格から無理やり戻したらこっそり外へ出てしまうかもしれない。ここは無難な仕事を任せて眼の届くところに置いておいた方がいい。


 人手が欲しかったのもホントのことだしな。

 少しだけリンデに睨まれてしまったが、すぐに仕方が無いと了承してくれた。


「何をすればいいの?」

「いいか、まず俺がこうやってブラックボアの骨を適当な大きさに折って」

「おお~」

「なんだあの力は」


 村人たちの間でどよめきがおきた。なにかあったのか。


「シルヴィア、悪魔像が接近してきたのか」

「いいえ、落下した悪魔像はこの船を包囲するように動いていますが、目視できる距離までは近づいてきていません」


 村人のどよめきは悪魔像の接近ではなかった。


「カズマ殿、皆は魔物の骨を素手で折ったことに驚いて――」

「素手? アクティブを着ているけど」


 アクティブのパワーなら骨を三本だって同時に折るのも楽にこなせる。


「いや何でもない、作業を続けてくれ」

「そうか」


 では、適当なサイズにしたブラックボアの骨に魔導式ヤスリを当て、槍の穂先の形へと削りだす。もちろんヤスリがけだけでは時間がかかるのでスキル『変形』も同時使用、おおよそ五秒くらいで一つを作り出した。


 魔導式ヤスリを使っているので、スキル『変形』は誤魔化せるだろう。


「これを棒の先に取り付けて繋げるっと」


 ヤスリで一叩き、これも演出で本当は『変形』で繋げている。急ぎの作業で歪な部分もあるが棒と穂先は一体となり、即席短槍の形状は整った。


「ほれカリン」


 俺はコンテナからコーティング剤とハケを取り出しカリンへ手渡す。


「え?」

「手伝ってくれるんだろ。これから俺が短槍を作っていくから、お前はできた短槍にこのコーティング剤を塗っていってくれ、そうすれば鉄の強度を持つ槍になるから」

「わ、わかった、やってみる」


 コーティング剤とハケを受け取ったカリンが緊張した表情で頷く、どうでもいい子供のお手伝いではなく、重要な仕事であることを明確に理解してくれた。


 ほぼ何も持たずに逃げてきた村人たち、素手のままでは戦力にならないが、槍を持てばそこそこの防衛力にはなるだろう。


「もう残りが少ないから、なるべく薄く塗ってくれ、十五本は作らないといけないから」

「カズマ殿、私も手伝おう」

「助かるよリンデ」


 リンデにもハケをわたした。塗る作業を人に任せるだけでも俺の製作効率は格段にあがる。


「俺たちも手伝うぜ、コーティング剤なら最近世話になりっぱなしだからな。扱いには自信がある」


 なんか強気になった冒険者ダラスは兄貴風を吹かせた良い男に見える。


「気持ちはありがたいんだけど、ハケはこの二つしか持ってないんだ」


 ハケは俺個人の道具で人に貸すなど思ってもいなかったので二つしか作っていなかった。コーティング剤が多量にあるのなら、布に染みこませて塗ることもできるのだが、今は一滴でも無駄にしたくない。それに丁寧に仕上げないのならコーティング剤は誰が塗っても効果は同じなのでカリンでも問題ない。


「ハケはある?」


 と聞くまでもないだろう。


「すまない、村に置いてきてしまった」


 ですよね。武器すら持ってこられなかったのに、ハケなんて持っているはずもない。


「おい、もしかしたらネクロの野郎なら持ってるんじゃないか」

「可能性はあるな」

「今日のブラックボアの肉だって、配分を増やしてくれたら、コーティング剤を融通するとか腹立つこと言ってたぞ」


 その融通するコーティング剤とは俺が交換した物だろう。平等に分配するといっていたがはたしてそれは自分の配分なのか、こっそりガメていたのか、おそらく後者だな。


「ネクロはどこに行った」

「船内に逃げ込んでるんじゃないのか?」

「俺は見た覚えが無いぞ」

「逃げる時、先頭にいたよな」


 そんな会話を耳にした。さきほどシルヴィアに確認したときは、ここに到着していなかったが、今いないということは。


「シルヴィア」

「開拓村内を検索しましたが悪魔像・卵二等兵級以外に動体反応はありません」


 魔力を抑え、じっとしていればシルヴィアのレーダーにも引っ掛からないだろうが、冒険者でもない商人のネクロが気配を殺して隠れているとは思えない。


「あ、あの、ネクロなら、真っ先に逃げて、悪魔像に丸飲みにされたよ」


 ハケを握ったカリンがネクロの最後を目撃していたらしい、その時の場面を思い出したのだろう。肩がふるえている。普段は強気のカリンもまだ十歳だ、人が悪魔像にやられる現場を見て無反応ではいられないだろう。


 震えるカリンをリンデが優しく抱きしめ気持ちを落ち着かせる。


「大丈夫だカリン、お前とお前の家族は私が必ず守ってやる」


 男前ですリンデ様。


「嫌なヤツだったが、仇くらいはとってやらないとな」


 そうとうボッタくられていたであろうダラスが怒りをあらわにした。


 ネクロのために怒れるなんて、ウルフクラウンのリーダーは人情あふれる男だな。嫌いじゃない、ダラスは男だけどアクティブを作ってあげてもいいなと思えるほどに、俺は彼を信頼することにした。


「そうだな、嫌な奴だったが雇い主だ、仇くらいはとってやらないとな」


 ダラスに感化されたのかウルフクラウンのメンバーが同調する。なんて人情集団なんだウルフクラウンと思ったのだが。


「仇をとるためだ、この荷物はそのために使わせてもらおう」


 メンバーの一人が肩にさげていた道具袋を下ろし、中身を全部ぶちまける。金貨や宝石など貴重品と思われる品々が散らばり、その中にあった箱を開けてみればコーティング剤が収まっていた。


「やっぱり持っていやがったな」


 道具袋はネクロの物だったそうだ。護衛の依頼は終了していたが、村での荷物運びの依頼は続いていたらしく、逃げる時にもちょうど持っていたらしい。出てきたコーティング剤は明らかに一人分よりも多かった。


「少年、俺たちも手伝うぜ」

「よろしく」


 緊急事態だ、何も言うまい。


「カズマさん、コーティング剤の塗りかたってこれでいい」

「お、どれどれ」


 リンデのおかげで落ち着けたカリンが、仕上げた短槍を持ってくる。


 塗り方にむらがあり見栄えはよくないが隙間なく塗られている。観賞用ではないのだ、これでも十分に役目をはたしてくれる。


「問題無い、この感じでどんどん仕上げていってくれ」

「わかった、まかせて」

「カズマ殿、私もできた。こちらも見てもらえるか」

「もちろん見せてもらうぜ」


 どこか競うようにリンデが短槍を差し出してきた。


 カリンよりも薄く塗られているコーティング剤、これ以上は無理だろうと思えるほどの薄さだ。コーティング剤の塗り方一つでも性格が出るものなんだな。


 この薄さで全体をまんべんなく塗られていれば完璧なのだが、リンデにはそこまでの腕はない。


「リンデ、この辺りがまだ素材むき出しだから、塗り直してもらえるか」

「薄く塗るのは、けっこう難しいのだな」

「慣れれば上達するさ、槍はまだまだ作るからよろしくな」

「ああ、まかせてくれ」


 リンデはわざとらしくカリンを見つめ対抗意識を燃やしているようにみせる。対抗意識を燃やされていると理解したカリンは負けるものかと塗装に集中してとりかかった。


「リンデ」


 俺がリンデに行動の意図を訪ねようとしたら、人差し指を口にあてられた。やはりカリンに別の事に意識を向け恐怖を紛らわせようとしたようだ。


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