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第42話『工作開始』

本日7本目になります。

 カリンは俺から両手で丁寧に回復薬を受け取ると、ふたを外して弟のフットに母親の体を起こさせ回復薬を口元へ持っていく。


「お母さん、頑張って、これ飲んで」


 だが母親には飲み込む力も残っていなかった。


「カリン、魔力の宿った回復薬だ、傷口に直接かけても効果がある」


 とSOネットには書かれている。

 初めて製作した物なのでちゃんと効果を発揮するのか少しだけ心配であった。レシピ通りマリンブルー色になっているので大丈夫だとは思う。


 頭の傷口に回復薬をかけると、時間が巻き戻るかのようにカリンの母親の傷が塞がっていった。顔色も血の気が戻ってくるのがわかる。


「こ、ここは?」

「よかった、お母さんの意識が戻った!」

「カズマさんありがとうございます!」

「ああ、薬は効いてよかったよ、まだ完全に回復してないみたいだから、残りも飲み干した方がいい」


 俺の助言を聞き、ビンに残った分を一気に飲み干す。服を赤く染めていた背中の傷もこれで大丈夫だろう。他の重症者にも渡したいが、いきなりよそ者の俺がわたしてもカリンのように信じてくれるだろうか、武器とかと違って直接体内に入れる物だし、この世界での薬に対しての認識ってどんなものなのだろうか、人の感情や思想まではSOネットには載ってないからな。


「信じていないわけではなかったが、この効き目、間違いなく最上級回復薬だな」

「こんな薬をお持ちとは、いったいカズマ殿は何者なのですかな」

「ただの駆け出しの魔導技師ですよ」


 離れていたバァルボンさんが瀕死から瞬時に回復したアンナの様子を見に近づいてきた。リンデは約束通り、俺が回復薬を作ったことを誰にもバァルボンさんにでさえ話していないようだ。


「駆け出しの魔導技師が所持できる類の代物ではないのですが」

「まだ四本残ってます。リンデ、悪いけど回復薬を配ってくれるか」


 俺が話を濁すとバァルボンさんはこれ以上の追及はしてこなかったので、リンデに回復薬を配るのもお願いする。まだ顔見知りのリンデが配った方が信用されるだろう。


「君はこれほどの品を躊躇なく渡してくるのだな、街へ行けばこれだけで一財産を築けるというのに」

「今はそれどころじゃないだろ」


 最上級回復薬の販売価格はSOネットにのっていたので知っているが、売る場所もないのに取っておいても仕方がない。それに売ってお金にするなら、鉱脈の革袋の魔結晶一つで十分な資金をえられる。


「私はカズマ殿に出会えた幸運を感謝する」


 まっすぐな感謝に照れくさくなるからやめてと視線をそらしながら頬をかく、俺の照れ隠しを優しい笑みで理解してくれたリンデは回復薬を受け取り、こちらを伺っていた看病をしていた者たちに配っていく、回復薬を受け取った者たちは歓喜の声をあげた。


「感謝ならカズマ殿へ、この回復薬は彼の持ち物だったのだから」

「もちろんだ、本当にありがとう」

「今は何もお返しはできないが、きっといつか!」

「わしからも言わせてくれ、村を代表して感謝する」


 最初はあれだけ警戒されていたけど、口々に感謝を伝えられ悪い気はしない。村長さんからもお礼を言われた。カリンとフットの母親は村長の娘でもあるからな。


「飛翔体接近してきます。数は三」


 重症者も持ち直し落ち着きかけた時、警戒していたシルヴィアが警告を発する。甲板に避難していた村人たちに再び恐怖が蘇る。


「ヒートレオン号への直撃コースは二体、この二体のみを迎撃します」


 そうだ直撃さえしないのであれば、地上に降ろしてから倒した方が弾薬の節約になる。歩いてくるならリンデも討伐に参加できる。


 シルヴィアは夜空へと五発の銃弾を発射して、宣言通り二体を撃ち落とした。


「シルヴィアでも命中精度は俺と大差ないか、これは本格的に照準システムを考えないとダメだな」

「後続の飛翔体が接近、数は三」

「間隔が早くなった」

「マスター、直撃コースはありません。迎撃しますか」


 直撃コースはなし、こっちが直撃弾だけを迎撃していることがわかったからか、この紫色の卵を飛ばしているヤツは頭がいいのかもしれない。


「さらに後続の飛翔体、数は同数の三。これも直撃コースはありません」


 ちょっと考え込んだ間にさらに後続だと、対策を練る時間も与えてくれないつもりか。


「連射もできたのかよ」

「そのようです。まだ後続がきます。ヒートレオン号を包囲するように落下」

「ケガ人は船内へ、それ以外の者は悪魔像を迎え撃つぞ!!」


 命がやばい重症者はいなくなったが、足を引きずる者や腕を痛め戦闘のできない状態の者も多数いる。リンデは声を張り上げ村人に指示を飛ばした。


「聞いたとおりだ、動けない者には手を貸してやれ、考える時間はねぇ、とにかく動け」


 村長がリンデに従うようにうながしようやく動き出す村人たち、恐怖にかられどうすればいいのかわからなくなっている。この中でどれだけ戦える者がいるのだろうか。


「リンデ様、悪魔像は戦術を変えたようです。ヒートレオン号を包囲していますが襲ってくる気配はありません」

「こちらを確実に倒せる数が揃うのを待っているのだろう。二年前もそうだった、やつらは並の魔物と違い戦術を使ってくる」

「レオリンデ、ここには武器はないのか!」

「予備の剣が二本ほどだが」


 リンデは自分で使っていた剣の他に予備として背中に一本背負っている。したがって残っているのは俺が修理した二本だけ、激しい戦闘になると予測していたバァルボンさんがあらかじめ予備の剣も持ちだしてきていた。


「一本貸してくれ、迎撃には俺も参加する」


 名乗りを上げたのは冒険者チームのリーダー、たしかダラスと言ったか、越冬派のトップ的存在の男だ、そして悪魔像のことを誰よりも恐れていた人物でもある。


「仲間を救ってもらったんだ、ここで恩を返せなければ冒険者は名乗れねぇ」

「おいおいリーダー、一人だけかっこつけんなよ」

「そうだぜダラス、俺たちも参加する。そもそも解体用ナイフしか持ってない方が冒険者として恥ずかしいぜ」

「うるせぇぞ」


 ダラスに続き仲間の冒険者チームの五人全員が迎撃に名乗りをあげてくれた。回復薬をわたした一人が仲間だったようだ。そしてダラス以外の五人はちゃんと武器を装備していた。ダラスは解体作業中だったので武器を近くにおいていなかったらしい。


「悪魔像への恐怖は大丈夫なのか」

「新入りの小僧や嬢ちゃんに、ポンポンとあれだけ簡単に倒される姿を見せられて、今さら恐怖なんて感じるかよ、名前だけでビビっていた自分が恥ずかしいぜ」


 冒険者たちの態度に感化された村人たちからも名乗り出る者が現れ、村長を含めた約半数の村人が迎撃要員に加わってくれた。しかし、ほとんどの者が武器などを所持していない。いきなりの襲撃で着の身着のまま逃げてきた状態だ。


 これではせっかくのやる気が減退してしまう。


「リンデ、甲板の床板もらうぞ、バァルボンさん食糧庫からブラックボアの骨をあるだけ持ってきてくれますか、即席の武器を作ります」

「承知しました」


 俺はグライダーナイフと魔導式ヤスリを取りだし、なるべく壊しても支障の出ない位置の板を削りはじめた。


勢いがついて7話分できてしまった。明日からはまた一日一本に戻す予定です。

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