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第41話『想定外』

本日6本目になります。

魔物の強さ表記をカテゴリーから討伐レベルに変更しました。

 天空に向かって放たれる強烈な突き技――後から聞いた話だが、この時リンデが放った技は闘技法・技ノ章『天牙』というらしい。飛行型の魔物を迎撃する技なのだそうだ――落下してきた紫色の卵は悪魔像へと変身する前に砕かれた。


「カズマ殿、他の悪魔像は」

「ちょっと離れた位置に落下したけど、まっすぐこっちへ向かってる」

「聞いての通りだ。ヒートレオンまで下がるぞ」


 威圧を受け動きの鈍い村人たちをリンデが一喝する。バァルボンさんに先導を頼んだがうまく移動できていない。


 周辺には崩れかけの家屋。日の完全に沈んでしまった。迎撃をするにしてもここでは地形が悪すぎる。戦闘の影響で家屋が倒れ下敷きにされたらたまらない。


 サーチバイザーのマップのおかげで大凡の位置はわかるが、暗闇の中では正確な位置がとらえにくい。俺はリボルバーの弾丸を交換しながら飛び上がりスカイシールドの上へと戻る。ここなら悪魔像の攻撃も届かない安全地帯だ。


「殿は俺が引き受ける。できる限り早く走るんだ!」


 安全地帯を確保したからこそ言えるセリフ、俺にはリンデのように近接武器で接近戦をやる勇気はないが、この程度なら引き受けられる。


「なんでよそ者の小僧が」

「いいから急げ、受けた恩を無駄にするなッ!!」


 村長の怒号でようやく動き出す村人たち。リンデとカリンの二人が最後まで残り心配そうに見上げてくる。


「リンデたちも行け」

「しかし」

「残った奴だけなら俺一人で余裕だ、たかが卵二等兵(エッグ)級だぞ」


 強がりではなく本音、リボルバーの一発で倒せる相手なら俺にとって脅威ではない。


「……すまない、決して無理はしないでくれ」


 唇を噛みしめたリンデがカリンの腕を引き村人たちを追いかける。


「絶対、無事でいなさいよ!」


 腕を引かれながらカリンがそんな言葉を残して行った。なんか、カリンの雰囲気が俺に対して優しくなったような気がする。


 そこまで心配しなくても本当にこの程度の相手なら苦戦はしないのに、ようやく姿を現した残り二体を手早く二発でしとめる。走りはブラックボアより遅かったので外しはしない。


『マスター、更に敵増援です』


 サーチバイザーにシルヴィアからの通信が入る。


「またか」

『数は三です』


 繰り返すがたかがレベル20程度苦戦はしない、弾の数よりも多くの敵が現れなければと条件がつくが。


「落下予測は」

『移動中の住民グループの後方です』

「チィ、そっちかよ」


 舌打ちをしてしまった。俺の方へ飛んでくれば落下を待ってからでも倒せたのに、これでは空中で迎撃をしなければ被害がでてしまう。ゆっくりと再装填しているヒマはない、まだ四発も残っている残弾をシリンダーからまとめて抜き、新しい弾丸六発を装填する。


 抜かれた弾丸が零れ落ち、スカイシールドにあたり暗い村へと落ちていった。

 時間さえあれば空薬きょうだけをはじくのだが、今は一秒が大事、この弾丸消費が後でひびかなければいいけど。


 スカイシールドが悪魔色の卵の落下軌道の下に回り込む。

 数が三つで助かった。弾丸は六発、二発に一発を当てれば迎撃できる。


「今度こそ当れ!」


 よし、全弾撃ち尽くしたが三つすべて撃ち落とせた。弾丸を装填し直して次を警戒。


『マスター、飛翔体の発射位置が特定しました。北西にある山の中腹、データ送ります』


 送られてきたデータ近辺を望遠機能で確かめるが、明かりが無く、どこまでが山でどこからが空なのかもわからないほどの夜暗だ、かろうじて動いている存在は確認できたが、それが何かは判別できない。


「くっそ、暗視機能を付けておけばよかった」


 シルバーメイズにいたころは夜になる前には作業場に戻っていたので、夜の闇対策などしていなかった。アニメなんかでは主人公たちが対策を忘れると何で想定してないんだよって、よく野次っていたが、実際に異世界転移を経験すると、何でもかんでもこなせるものではなかった。


「空想と実戦の違いか」


 わかっていたつもりではあるが、しょせんつもりであった。


「アクティブもまだまだ改良の余地があるな」


 設計段階では完璧な気がしていたが実戦を経験するといろいろと足りない部分が発見される。


「でも、それは後回しだ。この状況をなんとかしないと」


 スカイシールドならあの発射位置に飛んでいくことも可能だけど、一人で飛び込んで対処できない敵がいたら終わりだ。


『村人がヒートレオン号に到着しました。重症者多数、早期の治療が必要』

「だったら、俺がさっき作った回復薬を……やべ、持ってるの俺だ」


 完成した回復薬はすべてコンテナに納めて背中に背負っていた。


「商人のネクロは回復薬は持っていないのか」

『商人ネクロ、彼はヒートレオンにはたどり着いていません』


 辿り着いていない、それってつまり、あのタイプの人物って意地汚く最後まで生き残りそうな印象をもっていたから、シルヴィアの報告は予想外だった。これも物語と現実の違うところか。


 知り合いが消息を絶ったと聞いても、自分でも驚くほど冷静でいられるのは、アルケミーアームにはめ込んだ精神対抗のおかげだろう。


「こっちも片付いたし俺のを配るか、スカイシールドをヒートレオンに戻してくれ」

『了解しました』

「シルヴィアなら落下してくる卵をグライダーナイフでの迎撃は可能か?」

『有視界に限りますが、迎撃に集中すれば可能です。ですがその場合、スカイシールドのコントロールや広域での警戒索敵ができなくなります』

「だよな」


 それは俺もわかっていた。グライダーナイフもスカイシールドも同じ原理で動かしているので、シルヴィアが迎撃に集中すれば発射位置の特定はおろか接近してくる飛翔体にも気が付けなくなる。


「後手後手だな、村が安全地帯だって先入観にとらわれてた」


 とにかく、次の卵が降ってくる前に回復薬をわたさないと。


「重症者を甲板に集めておいてくれ、回復薬を戻り次第配る」

『承知しました』


 安静にさせるために船室に運び込んでもらうことも考えたが、あの飛翔体の落下威力なら甲板を突き破り船内にも入ってこられるだろう。そうなった場合逃げ道が塞がれてしまう可能性もあるので、甲板でまってもらうことにした。






 ヒートレオンへ戻ってみれば、そこは野戦病院のようになっていた。

 かがり火がたかれ、立つことのできない負傷者が頼んだ通りに甲板に並んで寝かされていた。それぞれに親しい人たちが看病しているようだ。


 ホバーを起動させて甲板に着地するとコンテナを外して回復薬を取り出す。


「カズマ殿、無事だったか、よかった」


 俺の元へリンデとシルヴィアが駆け寄ってくる。


「ケガ人は何人なんだ」

「四人だ、軽傷者は多数いるが命の危険があるのは四人だ」

「シルヴィア、周囲の警戒を頼む」

「了解しました」


 魔導式リボルバーと残った弾丸すべてをシルヴィアに手渡す。現在悪魔の卵を迎撃できる武器はこれしかない、残弾が心配だがシルヴィアにグライダーナイフを使わせ広域索敵が無くなる方が怖い。


 重症者は落下した卵の衝撃波にやられたらしい。


「お母さん、しっかりして!」

「お母さん僕たちがわからないの!」


 その重傷者の中にカリンとフットの母親も含まれていた。泣きじゃくりながら必死で呼びかけを続けている姉弟。目を開けているのに意識がほとんどないようだ。冒険者に背負われ意識の無かった女性がいたのは気が付いていたがそれがカリンたちの母親だったとは、カリンは母親がこんな状態であったのに、さっきは俺の事も心配してくれていたのか。


 カリンの横に膝をおろして回復薬を差し出した。


「あんた、無事だったの」

「ああ、誰かが心配してくれたからな、とにかくお母さんにこいつを飲ませてやれ」

「……これは」

「俺が作った回復薬だ、信じられないかもしれないが、最上級品だぜ」

「あんたの作った物なら信じるわよ、ありがとう」

「へ?」


 まさかカリンからお礼を言われるとは、想定外の返しに思わず間抜けな返答をしてしまった。


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