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第38話『気がつけば』

本日3本目です。

 検索結果が信じられず望遠モードで直接見た光景、火事場に落ちた灰色の卵から足がはえ、割れるように裂けたかと思えば、それは大きな口へとなった。


 信じたくはないが、SOネットに表示される特徴がすべて一致している。すなわちあれは――。


悪魔像(ガーゴイル)


 俺のつぶやきを聞いたリンデが走り出した。鎧も装備せず剣だけを持って村へと、その後をバァルボンさんが追いかけていく。


「シルヴィア、俺たちも行くぞ」

「承知しました」


 ただし俺たちはばっちりアクティブアーマーを装備してからだ。シルヴィアはともかく俺自身はアクティブアーマーが無ければこの世界の村人より戦闘力が低い。






 くやしい。

 くやしいけど、目の前で成果を見せつけられれば認めないわけにはいかない。これ以上突っ掛っても、それは八つ当たり、ただの私のわがまま、わかっている。


 でもくやしい、かっこうはとても変で本人も弱そうなのに、持っている道具だって奇妙なのに、奇妙なのに高性能、あいつがどっかのお坊ちゃんで親から買ってもらったんだとしたら道具だけの小物なんだけど、全部自分で作ったとか言ってたし、だったらヘルダーティを倒した実力もあいつの実力になっちゃうじゃないの。


 つまり冒険者ランクとしても一流の実力ってことに…………あんな貧弱な奴が、どうしてそうなるのよ。


「ああ、ホントにわけのわからない奴なんだから」

「どうしたの姉さん」

「うるさいフット、なんでもないわいよ」

「なんでも無いって、さっきから姉さん真剣に考え込んでいろいろな表情をしていたよ」

「はぁー!? どうして私があんなヤツのことを真剣に考えないといけないのよ!」


 私は腹を立てていただけで、あいつのことなんて考えてもいないわよ。たまたま腹を立てていた原因があいつってだけで、絶対にあいつの事なんて考えてない。


「あいつって、もしかしてカズ――」

「うるさい、絶対に違うわよ、いいから大人しく待ってないさい、絶対にいい部位をゲットしてお母さんを喜ばせるんだから」

「わかったよ」


 私が握りしめた拳を持ち上げるとフットは大人しく引き下がった。あいつの名前を言いかけた気もするけど気のせいだ。だってフットは言い直していない。それよりも今は分配をゲットする方が重要なんだから。

「よし、解体に取り掛かろう」



 村長であるおじいちゃんの指示で解体がはじまる。


「下手に切って肉を無駄にするなよ」

「わかってるよ、誰がこんなご馳走を無駄にするもんか、一欠片も余すことなくさばいてやるぜ」


 もうすぐ日が暮れる時間だけど、屋根の崩れた馬もいなくなった馬小屋に、あいつがしとめた二匹の魔物を運び込む村人たち、最近では使う機会がなくなっていた剥ぎ取りナイフを磨き上げ対立していた山越え派と越冬派がギラギラとした目つきで仲良くしている。


 私とフットがここにいるのは解体を手伝うためではない、解体をできる人はたくさんいるので子供が手伝う余地などない。私たちは解体され食材となる分配を待っているのだ。罠をしかけて得物をおびき寄せたのは私なんだから、手柄の一割くらいは貢献している、と思う。あ、でも、罠を仕掛ける材料を用意したのもあいつになるのか、結局倒したのもリンデさんとあいつだし、私ってただ穴掘って血をまいただけ、これって貢献になるのかな。


「姉さん、また考え込んでるよ」

「え、違うわよ、私はこれからの事を考えてたんだから」

「何が違うかわからないけど、確かにこれからの事は考えないとだね」

「へ?」


 思いっきりこれまでの事を考えていました。この弟は何をいっているの。


「あれだけの食糧じゃ絶対に冬越えは無理だもん、そろそろ決断しないと。いくらカズマさんたちだって、また獲物を取れる保証なんてない、取れない確率の方がずっと高いから」


 この弟は私なんかより、とても難しいことを考えていました。昔はこうでは無かった、小鳥のように私の後ろをついてくるかわいいヤツだったのに、この村に閉じ込められてから次第に自分で考え行動するようになってきた。


 イライラしていた気持ちが虚しくなる。


 確かにフットの言う通りだ。これだけ大きな肉の固まりでも、村人全員の胃袋を満たせるのはせいぜい二週間程度だろう、節約すれば一カ月は持つかもしれないが、それでは冬を越せない。


「いいか、こっちの肉は保存用に加工する。冬を越すためには綿密な配分が必要だ」


 先頭に立ち解体の指示を出しているのは、この村で一番の解体巧者でもあり唯一の冒険チームのリーダーでもある男ダラス。リンデ姉と同じ剣士でもあり見た目ではあの変な鎧を着たヤツより強そうなのに、とんでもない臆病者だ。この男さえいなければ山越えで案がまとまり悪魔像に戦いを挑む事ができたのに。


 私もフットも山越え派だ。リンデ姉は悪魔像を倒すための特訓を毎日してとても強くなっている。一対一なら悪魔像少佐にだってきっと負けない。


 私だって訓練をしてもらって強くなった。それに認めたくはないけど、あの変な鎧を着たあいつは戦闘能力だけは高い、認めるのはとても業腹だけど戦闘能力だけは高いから、くやしいけどきっと私よりも戦闘には役に立つ。


「ヘルダーティの肉は腐りやすいからな手早くするぞ」

「皮膚表面は食料にはならないから、切り分けたら表面だけを焼き払うぞ」


 まったく、どう配分してもこれだけじゃ冬を越せないのは子供の私でもわかるのに、あの人たちはわかっていないのだろうか、それともまた獲物が狩れると考えているのか。自分たちが遠征に出て収穫がゼロどころかマイナスだったことを忘れていないでしょうね。


 でもあいつなら、また簡単に得物をゲットしそう。


「あれ、もしかしてダラスさんたちよりあいつの方が優秀ってことにならない」


 ああ、私は自分でも気が付かないうちに、あいつの事を認めていたのか。


「だからイライラしたんだ」

「あら、何をイライラしてたの?」

「え、お母さんどうしてここに!?」


 家で待っているはずのお母さんがいつの間にか後ろにやってきていた。


「姉さんがブツブツつぶやきながら考え事してるときにきたよ」

「フットあんた、気が付いてたんなら教えなさいよ!」

「横暴だよ姉さん」

「うるさい!」


 フットに八つ当たりをしてしまった。考えないようにしているのに、どうして気づけば私はあいつの事を考えてしまうのよ。


「お母さんはどうしてここに来たの、家で待ってると思ったのに」


 フットが私から逃げるようにお母さんの反対側へと回り込む。おのれお母さんを盾にするとは男のくせに根性なし。


「お手伝いすることがあるかなと思ったんだけどね、人手は十分にたりているわね」


 余るほどの村人が解体作業に参加している。

「すこしでも協力して取り分を増やしたいんでしょ。狩りではなんの貢献もできなかったんだから」

「配分は平等にっておじいちゃんが目を光らせてるから、増えたり減ったりはないよ」

村長(おじいちゃん)はそのへん頑固だからね」


 森を開拓するために新しい村を作る。国からの募集があり、おじいちゃんが村長に任命されたので家族全員で引っ越してきた。


 おじいちゃんの娘のお母さんはどこかおっとりとした女性で農作業よりも織物とかをしていた方が似合う人、貴族様のご婦人とは比べられないけど町レベルではきれいな奥様であった。でも閉じ込められてから三年、頬はやせ、手の皺も深くなった。


 お母さんが自分の分の食糧を私やフットに分けてくれているのを知ったのは閉じ込められてから二年も過ぎたころ。ちょっと前には体調を崩したこともある。回復することはできたけど、このまま食糧が無くなれば今度は起き上がれなくなるかもしれない。


 少しでも負担を減らしたくて狩りを頑張ってみたけど、結局食糧を手に入れられたのはあいつのおかげ……――。


「ああもう、後でお礼を言うしかないじゃない!」

「姉さん、今日は独り言多いね」


 あ、また口に出してしまった。本当にあいつがきてから調子が狂う。これもそれも全部あいつのせいだ。やっぱりお礼はやめよう。そうしよう。


「ねえ二人とも、あれは何かしら」


 お母さんが空を見上げて指差した。


 もう日が沈みかけの時間、薄暗くなった空に三つの黒い点。よく気が付いたなと思う暇などなかった。黒い点は急速に拡大していく。


「あぶない!!」


 それが大きな落下物だとわかった頃には私とフットはお母さんに抱えられ地面に押し倒されていた。

 黒い落下物の一つは馬小屋に直撃、天上の穴から中へと飛び込み、暗くても作業ができるように用意していたかがり火を飛散させた。

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