第37話『勇気を出して告白』
本日2本目
もうたいぶ秘密が増えたので、開き直ってスキル『変形』もばらした。もらった酒ビンを500ミリリットルのペットボトルサイズに変形させて回復薬を詰めていった。
窓の外が暗くなり、シルヴィアが夕食の用意ができたと呼びにくるまで回復薬の製作をおこない五本完成させた。
「本当に秘密が多い、味方に引き入れた自分の判断は間違いではなかった」
どうやら変形のスキルは最上級回復薬を作れることに比べたら、それほど驚くことではなかったようだ。珍しいスキルではあるが、最上級回復薬を作れる人よりは使い手が多いらしい。
「これだけのことをしてもらい、こちらからは報酬がなにも払えないのが心苦しい、自分の不甲斐なさが身に染みる」
食堂へと移動しながらリンデが心境を吐露する。ホント真面目だな、そこまで気にしなくてもいいのに。
「こっちだってけっこう払ってもらってるぜ、寝床を提供してもらってるし、いろいろな情報も教わったからな」
これまでの付き合いで俺たちが世間知らずだと十分に伝わっているはずだ。そこを利用すればもっと楽に俺たちを利用できただろうに、リンデの優しさにとても助けられている。
「それだけでは割に合わないだろ、何かほかにできることがあればいいのだが」
おおっと、これは思いがけないチャンスの到来ではないか、昼間は失敗してしまったアレを伝えるチャンスだ。勇気をだせ別に愛の告白をするわけでもないんだぞ。
「だ、だったらさぁ」
うわ、声が上ずった。なにを緊張しているだ俺。落ち着け、おちつけ、平常心だ。
「何かできることがあるのか?」
期待のこもった瞳でまっすぐに見つめられ、余計に緊張してしまう。改めて正面から見ると本当に美少女だなリンデは顎が細く日本人風の顔立ちなのに鼻は少し高い、日本人の足りないパーツを持ってきて足したような美人になりかけの美少女だ。
「えへん」
大きく咳払いを一つ。
「だったら、テストパイロットになってくれないか」
言えた、二度目にしてようやく言えた。よくやったぞ俺、ブラックボアと戦うよりも数倍の気力を使ってようやくだ。すでにリンデに装着してほしいアクティブアーマーの設計は終わっている。材料さえ揃えばすぐにでも製作できる。残るはリンデの了承のみ。
「てすと、ぱいろっと、とは何のことだ」
「え?」
渾身の告白が空振りに終わった。
この世界にテストパイロットと言う概念はなかったらしい。
一気に緊張が崩れさった。まさか意味が伝わらないなんて、でも緊張が無くなったおかげで俺はリンデにテストパイロットとは何かをわかりやすく説明することができた。と思う。
「つまり、カズマ殿たちが着ている魔導甲冑を私にも着てほしいということか」
「そう、それであってます」
「それが報酬になるのか」
「なりますとも!! 俺の夢はこのアクティブアーマーをたくさん作っていろいろな人に装着して欲しんだ」
それが美少女や美女なら、もっと良し。
「でもまだまだ試したいことが沢山あって、性能や着心地なんかの感想を言ってくれる人を探してるんだ」
「なるほど、そういうことなら私でも協力できそうだな。わかったできる限り協力することを約束しよう」
「うおぉぉぉー、ありがとう。なんとお礼を言っていいか、とにかくありがとう」
約束を取り付けることができた。今夜は徹夜で設計図のチェックをするぞ、完成しているが、どこかに見落としがあるかもしれない。
「お礼をするのは私の方ではなかったか」
リンデよ、そんな細かいことは気にするな、俺にとって最高のお礼なんだから。
食堂につくと、テーブルにはシルヴィアの腕によりをかけた節約料理が並べられていた。村へ来れば別の料理が食べられると思ったけど、結局シルバーメイズの時と同じ食事だ。
薄くスライスし焼かれたブラックボアの肉の下に何か黒い物体が敷かれ量を増している。これはシルヴィア特性の節約食材であり味のない固形物。別の料理を上に乗せることで味がしみ込み、乗せた料理と同じ味になる不思議物体。
見た目が黒過ぎて食欲を削ってくるが、俺はもう食べ慣れている。ブラックボアの肉を乗せると、ジューシーな触感すらも移るからな。
シルヴィアがブラパンと呼ぶ固形物、まだゴブリン程度しか倒せなかった時に出された料理だったので材料などは怖くてきけていない。
ゴブリンなどの人型の魔物は食用には適さないとシルヴィア自身が言っていたから、それでいいじゃないかと俺の中では完結している。
「カズマ殿、この料理はいったい」
先に食堂へきていたバァルボンさんがシルヴィアにではなく俺に小声で聞いてくる。
「俺にも詳しくはわかりません、食べれないモノではないので、見た目と材料にさえ気にしなければ美味しいですよ、腹も膨れますし」
「そうですか、確かに食糧難にこれだけの量を食せることはありがたいですね」
「その通り、食べれることに感謝しましょう」
シルヴィアは同じ料理でも俺があきないように、いつもいろいろと工夫してくれていた。これに文句をつけるなんて罰当たりなことは絶対にしない。
「私も感謝をするシルヴィア殿」
これまで食卓に上がることのなかった不思議物体、ブラパンを食べる決意をかためたリンデとバァルボンさんは、俺に続いて席へと付いた。
さあ、気合いを入れて食事をしようとしたら、窓の外を見つめ動きを止めているシルヴィアに気が付いた。
「どうかしたかシルヴィア」
「マスター、大きな熱源が村の中央に見えます。悪魔像が近辺にいるなら危険な行為だと警告します」
「熱源?」
サーチバイザーでマップを表示してみれば、確かに街の中心部からわずかに外れた場所に高熱の反応がある。意味がわからずに窓へと駆けよってみれば。
「何だよありゃ」
どんなものか探すまでもなく熱源の正体がわかった。あそこは俺たちが最初に案内された馬小屋辺りか、火柱が立ちその一角だけが夜だと言うのに明るくなっていた。照らされる黒煙がモクモクと空へのぼっていく。
あんな大きな炎でわたした肉を焼いているわけではない。あれは間違いなく火事だ。
「魔物の襲撃か⁉」
「索敵レーダー範囲を最大にします。村外に反応有り、飛翔体接近、熱源付近に落下する模様」
飛翔体って、小さな窓で探すよりサーチバイザーで確認した方が正確にわかるか、俺はバイザーのモニターに集中する。シルヴィアがわかりやすいように飛翔体をマークしたデータを転送してくれた。
大きさは1メートル前後、楕円形、卵のような物体が放物線を描き落下してくる。落下予測は火事現場の周辺だ。それも一つではない、確認できるだけで三つもある。ここからではどうすることもできない。
砲弾のように着弾する飛翔体。衝撃で周囲の家屋を破壊したが幸い爆発することはないようだ。
「いったいなにが降ってきたんだ」
「検索を開始します」
落下した二つは建物の屋根を突き破り見失ったが一つだけ火事場に落ちていた。魔物と一緒でSOネットにデータがあればあの卵型の正体がわかる。
「飛行型の魔物かもしれない、救援に向かおう」
食事どころではなくなった。リンデが剣をとりバァルボンさんと一緒に村へと向かおうとする二人を止める。
「ちょっと待て、嘘だろ」
SOネットの検索結果はすぐにでた。
俺は表示された文字が信じられず、バイザーを外して目をこすり二度見したが、表示は変わらかった。
検索の結果『悪魔像』と――……。




