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第29話『開拓村会議』

魔物の強さ表記をカテゴリーから討伐レベルに変更しました。

「何言ってやがる!?」

「そっちこそふざけるな、俺たちだけで山を越えられるわけないだろ!!」

「だがこのままじゃ冬を越えられないんだぞ!」

「山も越えられねェよ!!」


 いやーすごい会議だな。


 遠征組が村に帰還した翌日。リンデに頼まれて一緒に村の会議に参加したんだけれども、俺たちを無視して繰り広げられているのは、開拓で鍛えられた肉体を持つ男たちと、傷んだ魔物素材の鎧を着込んだ冒険者パーティーの男たち、この二つのグループが激しい言い争いを繰り広げている。


 村長が間に入っていなければ掴み合いの喧嘩になっていそうな雰囲気もあった。

 開拓村の住民は二十数人で冒険者側は冒険者六人と商人のネクロ。人数は冒険者の方が少ないが、着込んでいる鎧の威圧感でほぼ互角の勢力に見える。


 俺とリンデはどちらの勢力にも加わらず、少数の第三勢力として壁の花状態。シルヴィアとバァルボンさんは見張りもこの会議に参加しているので、変わりに見張り櫓に登っている。


 議題はもうすぐ到来する冬にどう対処するかだ。


 意見は真っ二つに割れ主張をぶつけ合っている。


 一つは開拓民たちの雪が降る前に悪魔像の占拠する山を越えようという意見。この地方は冬になれば結構な量の降雪があるらしく、整備された道も無いので雪が積もれば山越えは不可能、その前に山を越えこの開拓村を脱出したいらしい。


 もう一つ、冒険者たちの意見は食料を蓄えこの村に残り冬を乗り切ろうというもの。悪魔像のいる山へ近づきたくない一心での主張にみえる。この村にいる唯一の冒険者パーティーで山を越えるのに、護衛を押し付けられるのは絶対にごめんだと顔に書かれている。


「お前らは悪魔像の強さを知らないから、そんな無謀なことが言えるんだ!」

「貴様らこそ村の備蓄を楽観している。このまま村にとどまれば雪が解ける前に餓死するぞ!」

「山に行けば悪魔像に皆殺しだ!」

「全員で団結すれば、退治できなくても追っ払うくらいできるだろ!」


 山を越えたい、山越え組は開拓民たち。

 村に残りたい、越冬組は冒険者たち。


 こうまで極端な意見だと妥協点を探すことも難しい。冒険者たちは悪魔像の力を正確に把握しているのだろう。だからこそあれだけ強く反対をしている。


「まあまあ、みなさん少しは落ちつくね。水でも飲んでとりあえず喉を休めてはどうか」


 相変わらずのニヤニヤ笑顔で仲裁に入るのは行商人のネクロ。食料は不足しているが村の近くには飲み水として使える小川があるため最悪の状態だけは避けられている。


「少し落ち着いた所でワタシが計算した村の実状をお知らせするね」


 オホンと声に出して咳払いを一つすると羊皮紙を取り出し読み上げる。


「現在村に備蓄されている食料はどう節約しても二カ月程度、昨日村へ訪れたカズマ殿から多少の食料を分けてもらったけど、村の全員で分けると一食分増えた程度ね、とても来年の雪解けまでもたないね」


 この世界も日本と同じく十二カ月、三百六十五日で一年となっている。これも多分ショウ・オオクラとその仲間たちが係わっているだろうが今はそんなことはどうでもいい。


「過去の経験で雪が解けるのが二月の後半から三月の頭、今は十一月に入ったばかり、どう考えても越冬は不可能ね」


 残酷な事実を淡々と告げる。


 重くなる会議の空気を一切無視して淡々と認めたくない報告をすることはすごいと思うが、そのニコニコ笑顔のままなのは無性に腹立たしい。俺は第三者として眺めていたのでさほどでもないが、越冬を主張している冒険者側にいるネクロが笑顔でそれを否定すれば、冒険者たちは黙っていられない。


「だったらなんだネクロ、お前まで山越えに賛成だって言うのか!」

「聞いてなかったか、もうそれしかないね」


 冒険者パーティーのリーダーらしいき男が小柄なネクロを怒鳴りつけるが、ネクロは恐怖することもなくニコニコ笑顔で右から左。

 外見はまったく似ていないが、俺にリストラを言い渡した上司に態度がそっくりだ。


「どうかね。以前に交わした報酬の三倍をはらうね。山越えに賛成してもらえないか、本来キミたちはワタシの護衛ね」

「ふざけるな、貴様の依頼はこの村へ来る時の護衛だろうが、依頼はとっくに達成してるんだよ」


 開拓民でもない冒険者パーティーがどうしてこの村にいるのか疑問だったけど、行商人のネクロの護衛としてこの村にきていたのか、疑問が一つ解消した。


「では改めて依頼するね」

「十倍もらっても、お断りだ!!」


 戦う能力を持つ冒険者パーティー、依頼を受けてしまえば山越え時、彼らは先頭に立たされることになる。それは絶対に受け入れられないのだろう。


「だいたいネクロは村に残ることに賛成してたじゃねぇか、突然態度を変えやがって裏切り者んが」

「裏切りとは心外ね、確かに私は村に残ることを主張していた時期もあったが、それはあなたたちが遠征で食料を確保してくれると信じていたからよ、それが確保できなかったから、しかたなく意見を変えたね」


 昨日帰ってきた食料確保を目的とした遠征隊。参加していたのは冒険者パーティーの六人と狩った獲物を運ぶために同行した村人数人で構成されていた。カリン達がおこなっていた日帰りできる距離での食料探しではなく、森の奥深くまで入った数日掛かりの、越冬ができるだけの食料を確保するための遠征隊であった。


 だがその結果は大角鹿ゾンディアという討伐レベル36の魔物を一頭だけという悲しいものだった。


「す、少ないが獲物はとってきただろ」

「鹿の魔物一頭だけ、遠征組が持って行った食料の方が多かったね。これなら遠征に行かない方がまだ備蓄できたよ」


 うわー、意見を変えた理由を遠征隊に押し付けたよ。間違ったことは言っていないが、ネクロの態度は最初から山越えの意見だったようにもみえる。反対する冒険者たちの発言力を削ぐために会議前は越冬に賛同したふりをしていたとか、遠征組が収穫無しで帰ってくることも予想していたな。


「それに村長もついに山越えに賛同してくれたね」

「な、ホントかよ村長!」


 上座に座りながら両陣営を抑えるだけで自分の意見を述べなかった白髪マッチョの初老の男性がようやく重い口をひらいた。


「ネクロ、ワシはまだ決めかねている」


 山越えを否定しないで言葉を濁す。印象でしかないが村長も山越え案に傾いているようだ、でもまだ迷いもありそうだな。


「村長も村に残れば破滅と理解しているね」

「だが、山を越えるのはやっぱり反対だ、貴様らは悪魔像の怖さをしらないから簡単に言えるんだ、村長だって知ってるだろ」

「ああ、知っている」


 短く答えるだけで、村長は結論を先延ばしにする。


「リンデ、どうして村長は自分の意見を言いたがらないんだ」

「彼は聡明な人だ、新しく開いた開拓村を仕切るのは軍で小隊を率いるよりも難しい。それだけで尊敬でき村の人々からの信頼もある。ここまで意見が分かれてしまうと彼の意見がそのまま採用されてしまうだろう」

「ひょっとして両方選びたくないから黙ってるのか」

「恐らく、村長も以前に山越えを挑んだ事があるらしい。私も悪魔像を目撃した人間として山越えのリスクの高さを理解している。だが村に残れば確実に破滅だ、もしかしたら少ない食料を取り合い争いが起こるかもしれない」


 どっちを選んでも良い結果はえられそうにない。越冬は確実な破滅、だが山越えはもしかしたら、運がよかったら数人は悪魔像をかいくぐり山を越えられるかもしれない、だから村長も山越えに傾いているのだろうが、確実に犠牲者がでる。そしてそれは体力の無い女子供の確率が最も高い、この村には村長の娘や孫たちもいる。そんな私情からも山越えと言い出せないのだろう。


「なるほど、じゃリンデが黙っている理由は?」

「私か、私たち討伐隊は後からこの村にやってきたよそ者だ、発言する権利はない。求められれば別だが」


 リンデは山越え、越冬の二つの案以外に別の意見がありそうだ。黙っているのはただ発言できるチャンスを待っているのか、だったら俺も場が落ち着くまで待ってみるか。


「リンデがよそ者なら、俺やシルヴィアはどうなるんだろうな」

「同じよそ者で良いんじゃないか、よそ者にベテランも新入りもないだろう。私たちは私たちでよそ者同盟として奮闘しよう」

「なるほど」


 よそ者同盟か。


「俺をこの会議に誘った理由を聞いてもいいか」

「口で説明するよりもこの村の現状を一発で理解できただろ。カズマ殿には正確な状況を知っておいて欲しかった」

「なるほどねー」


 確かに村の現状は一発でわかったよ。悪魔像と戦う力も足りない、冬を越える食料も足りない、無いない尽くしの状態が、そのせいで村が真っ二つに割れていることも。


 意見のぶつかり合いは平行線のまま、村長がチラリとリンデに視線を送ってきたので、もしかすると、そろそろ発言のチャンスが来るかもしれない、そう思っていたら、昨日の狩り場にしかけていたグライダーナイフに反応が現れた。登録されている魔力パターンからカリンとフットだとわかる。


「あいつら本当に子供だけでいったのかよ」

「どうかしたのか?」

「いや、昨日狩り場にセンサーを仕掛けておいたんだけど」

「センサー?」


 ああ、この世界ではそんなの無いか。


「えっと、遠くの場所、今回は昨日の狩り場だけど、そこに魔道具を仕掛けておいたんだ。人や魔物が近づくと教えてくれる魔道具」

「そんな便利なモノまで持っていたのか」

「これも自作だぜ、それで、その狩り場にカリン達がきたと反応があった」

「あの二人、我慢できなかったか、無理にでもバァルボンに頼んでおけばよかった」


 やってしまったと顔を覆うリンデ。尊敬しているリンデの言いつけを破るとはカリンたちも子供なりに食糧難を感じ取っているのだろう。幸いなのか残念なのかはわからないが、カリンの仕掛けた罠に獲物がかかった反応はない。


 まあ、あんなお子様の罠にかかる魔物なんていないだろうと、念のためにセンサーの範囲を拡大してみたら、狩り場にゆっくりと近づく別の反応を捕らえた。


「嘘だろ」


 この反応には憶えがある。シルバーメイズ遺跡でサバイバルしていたころに何度も対峙した魔物だ。それもゴブリンなんて下級なモノじゃない。


「どうしたカズマ殿」

「カリン達が危ない!!」


 リンデの質問に怒鳴り声で答え、会議場となっている村長の家を飛び出した。


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