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第23話『若気のいたり』

「まったく君は職人気質なのだな、休める部屋も用意してシルヴィア殿に伝えておいたのだが無駄だった」

「すみません」


 はじめは気遣ってくれていたリンデも剣だけでなく鎧までも一晩でしあげてしまったことに驚き、説教をされてしまった。俺の体を心配しての事なので反論はない。

 俺は正座してリンデの説教をあまんじて受け入れる。


「仕事が早いのは正直ありがたいので感謝する。だがこれからは無理をしないでくれ」

「肝に銘じておきます」


 ひとしきり説教を終えたリンデは、ため息ひとつで自分の心を落ち着けると気持ちを切り替えたようだ。


「しかし本当に一晩で鎧の調整まですませるとは」

「手は抜いてない、サイズは完璧に調整したから大丈夫だとは思うけど、試着してくれないか問題があったらまた直すから」

「わかった」


 鎧を着はじめたリンデがさっそく声をあげた。


「カズマ殿、この胸当ては大きくしすぎではないか」

「そんなことないはずだけど、シルヴィアが測ってくれたサイズの通りに作ったんだし」

「しかし、隙間が大きく固定できないぞ」


 どうして固定できなか、俺には分かっている。いや、きっとリンデもわかっているのだろう。すこし顔が赤くなっている。解決方法は簡単なんだけど、俺が手伝うとセクハラになるだろうからな。


「シルヴィア、リンデの着替えを手伝ってやってくれ」

「かしこまりました」

「いつのまに」


 リンデはシルヴィアの接近に気が付いていなかったようだ。俺も昨日バァルボンさんに気が付かなかったので、あれからずっとサーチバイザーのレーダーを起動させていて、シルヴィアがやってくるのも把握していた。

 多分、俺を起こしに来てくれたのだろう寝てなかったけど。鎧の着付けをシルヴィアにまかせ俺は部屋を出て試着が終わるのを待った。


 十分ほどSOネットを流し読みしていると、手伝いを終えたシルヴィアが扉を開けた。


「マスター、終わりました」

「おう」


 部屋に戻ってみれば、そこには立派な胸部装甲を持つ少女騎士がいた。


「あまりじろじろ見ないでくれ」

「何を言ってるんだ、その鎧に携わった技師として確認しなければならない事がある」

「そ、そうなのか?」


 疑いの目で見られるが、魔導技師として確認しなければならない事は確かにある。やましい気持ちを心の奥深くに押し込んで観察する。

 鼻のあたりに血が昇っていくように感じるのはきっと徹夜で疲れているせいだ。


「腕回りとか、動かして痛みや違和感はあるか」

「いや、支障があるところはないが」


 リンデは一通り体を動かし確認するが問題はないようだ。


「気のせいか、この鎧を着た方が皮の鎧よりも動きやすい気がする」

「それは締め付けから胸部が解放されたからだと推測、私の計算では肩の可動域が3.6パーセントほど広がっています」


 どれだけ締め付けていたんだ。さすがシルヴィア、精密の採寸しただけにリンデの体を本人以上に理解しているようだ。


「そ、そうなのか、私は成長にしたがって邪魔に感じていたのだが」


 なんともったいないことを、大きな胸部にはロマンが詰まっているんだぞ。


「確かに平均よりも大きい胸部は動きを阻害する要因にもなりますが、必要以上に締め付けることは肩の動きや呼吸にも影響がでます」


 確かめるように肩を大きく動かす。


「言われてみれば、いつもよりも肩があがるような」

「マスターのミリ単位までの精密な調整の結果です。揺れることなくフィットしていることもプラス要因でしょう」

「そうなんだ、え?」


 あ、リンデと目があった。


「え、えっと、それで他の場所で動き辛いところはあるか?」


 誤魔化そうとしたが駄目だった。質量があるんじゃないかと錯覚するほどの眼力で睨まれた。騎士と言っても年頃の女の子、男に体のサイズをミリ単位で把握されるのは恥ずかしいはずだ。


「…………他には絶対にもらさないでくれ」


 数秒の葛藤の後、それだけを言葉にして絞り出してきた。きっと自分の羞恥心と鎧の有用性などを天秤にかけた結果の答えだ。その場しのぎの皮鎧と自分用に調整された鉄の軽装鎧(ライトアーマー)とでは性能の差を比べるまでもない。


「墓の下までもっていくことを誓います」


 俺は背筋を伸ばし直立姿勢で誓いを立てる。もちろんもらすつもりなんてないが、知ってしまった以上、その秘密を守る義務はある。いくら俺が健全な男であり女体には関心があるとしても女性が嫌がる事をやるほど落ちぶれてはいない。


 気まずい空気になってしまった室内に外から元気のよい声が投げ込まれてきた。


「リンデ姉~! 今日も稽古してよ!!」

「ああ、もうそんな時間か」

「稽古?」

「村長の孫娘のカリン殿だ。冒険者になりたいらしく毎朝剣の稽古を頼まれている」


 朝食の用意に向うシルヴィアと別れ、することのない俺はリンデの後について稽古を見学させてもらうことにした。剣で戦うのは嫌だけど見学でならぜひとも参加したい、今度近接専用のアクティブ製作時のサンプルモーションも欲しかったので丁度よい機会だ。


「リンデ姉、今日もよろしく!」


 濃いブラウンの髪をおおざっぱに短く切った少女がリンデの元へ駆け足で近づいてくる。丁寧ではないがまっすぐに誠意が伝わってくる挨拶。

 歳は十歳ぐらいだろうか、服装は大人の物を着ており首回りが広く、長い丈は邪魔にならないように腰の部分でまとめて結んでいる。

 この子の格好からもこの村は食糧だけではなく衣服や生活雑貨まで足りていないと想像ができた。


「その鎧どうしたの、カッコいい!!」


 俺のデザインの良さがわかるとは将来有望そうな幼女だな。胸部パーツがいやらしさを出さないよう、されど女性としての魅力を損なわないようにデザインするのは作業時間の三倍もかかってしまったからな。デザインを妥協していれば徹夜にはならなかった。


「これはこちらのカズマ殿が私の古い鎧を再調整してくれたものだ」

「リンデ姉、この人だれ?」


 少女がリンデに続いて出てきた俺のことを訪ねてくる。視線には若干不審者を見るような色が浮かんでいてちょっとショック。まあ、この村には外から人がやってこないから知らない男がいたら怪しむのはしかたがないが、十五才まで若返っているのだそれほど怪しく見えないはず。


「彼はカズマ殿、凄腕の魔導技師だ」

「まだ見習い技師だけどな、鉄製のモノの修理にはちょっと自信があるぜ」

「カズマ殿、彼女はカリン殿、私の手が開いている時に剣の相手をしている」

「ふ~ん、あまり腕のいい職人にはみえないけど、腕も細いし力なさそう」


 前言撤回、生意気な幼女だ。


「それでその魔導技師見習いさんがなんでここにいるの?」

「討伐隊に入ったんだ」

「役に立つのなんか弱そうだし、変な黒いメガネかけてるよ」


 ストレートに言ってくれるな、まあフゥオリジンを装備していない俺は一般人と比べても弱い部類に入るけど装備さえすればかなり強いレベルになると思う。それにこれは変なメガネでは無い高性能バイザーだ。徹夜明けの疲れ目でも朝日のダメージを受けていないんだぞ。


「カリン殿、人の強さとは腕力だけで決まるものではない、彼はこの村にはない技術を持っている。この鎧も彼が一晩で直してくれたんだ」

「それが本当なら確かに腕はよさそうね、まあ、戦力としては私より下だろうけど」

「いくらなんでもお子ちゃまには負けないよ」

「なんですって、なら私と勝負する!!」

「幼女相手に攻撃なんてしたら俺が悪者になっちまうじゃないか」


 今の俺の装備はサーチバイザーと腰に提げている魔導式リボルバーだけだ、これを撃ったら幼女カリンなどはじけ飛んでしまう。


「幼女言うな、このヘンテコメガネ勝負しなさい!!」

「まあ押さえてくれカリン殿、カズマ殿は修理作業で徹夜明けなのだ、相手は私がするから今日のところはあきらめてくれないか」

「……リンデ姉がそういうなら」


 俺が勝負を受ける気がないと感じ取ったリンデはカリンの矛先を自身へと戻してくれた。

 しかし、いくら挑発されたからって、こんな幼女相手に簡単にケンカ腰になったな俺、正直カリンへの態度は大人げないとは思ったけど感情の抑えがうまくできなかった。

 体が若くなったことで精神年齢も引っ張られているようだ。前なら十五、六才の少女なんて子供にしか思えなかったのに、今は十五才くらいのリンデを同年代だと自然に感じている。

 まあ体が十五才になったんだから精神年齢が若返るのも悪いことじゃない、体とのギャップを感じて枯れるよりよっぽど幸せだ。と前向きにとらえることにした。


「見てなさいよヘンテコメガネ、私の強さに腰を抜かしなさい」

「ああ、ゆっくり見物させてもらうよ」


 俺は適当な場所に腰かけてゆったりと二人の稽古を見学することにしたけど、少し眠くなってきた。

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