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第22話『気がついたら』

 直して欲しい剣は五本あると言っていたが、リンデの剣は置いていく暇もなくシルヴィアに連れていかれ、バァルボンって人とはまだ会っていないから剣がどこにあるかもわからない。


 まあ壁に掛けられている三本の剣を先にすまそう、フゥオリジンの装着を解除してコンテナから作業道具、魔結晶を埋め込んだ魔導ヤスリと黒い毛の筆を取り出すと、剣を一本手に取り鞘から抜いてみた。木刀などとは違う鉄の剣。模造刀とはぜんぜん違う重みが伝わってくる。


 これが本物の剣か、パワードスーツほどじゃないけど、やっぱり憧れとかあるよな、これを使って接近戦をやりたいとは思わないけど。


「しかし、こりゃ相当な激戦を潜り抜けた戦士だな」


 もはや寿命だろ。

 刃の輝きは完全になくなっている。刃こぼれもひどいな、根元には致命的な亀裂まで入ってるよ。あと一回使用したらポッキリ逝きそうだ。

 ここまでくるとリンデも買い替えたいのだろうが、剣を買える店などこの開拓村にはなく、修理できる鍛冶師もいない。


「コーティング剤と聞いて目の色をかえるわけだ」


 だけど、この亀裂はもうコーティング剤だけでどうにかなるダメージじゃないよな、ここは先行投資でサービスしておくか、亀裂に指を当て『変形』を使って塞ぐ。


「ついでだ」


 大き目の刃こぼれも『変形』で整えてからブラックボアの毛で作った真っ黒な筆でコーティング剤を塗りはじめる。毛先が固くてとても塗りにくいが、長年プラモを作り、二機のアクティブを塗った経験がある。まっすぐな剣を塗ることぐらいもう簡単な部類の作業だ。


「弘法筆を選ばず、なんてな」


 鉄色の液体をむらなくまんべんなく。

 コーティング剤は、簡単に言えば魔力で金属を溶かし液体状にした物である。塗って乾かせばその場所は溶かした金属と同じ硬さになる。木剣に塗れば即席の鉄の剣に早変わり、もっとも欠けたり剥がれたりすれば元の木剣に戻ってしまう。


 よって一度塗っただけでは効果が薄い。

 ここからが腕の見せ所、魔導式ヤスリでヤスリがけ、魔結晶には補助の能力を付加しているので俺の思い通りに向かってミスなく動いてくれる。そしてヤスリで薄くなった箇所をまたコーティング剤を塗る。

 その工程を繰り返していくと剣が輝きを取り戻していく、コーティング剤が欠けた場所に流れ込み魔力で融合され、それを研磨することで欠損を修復、俺の手で濁りきった刃が輝きをとり戻していく、バリを取った後のように指で撫でて一切引っかかりのない手触りがたまらない。

 もちろん指で撫でたのは刃ではなく腹の部分だ。


「これで完成っと」


 一本目の修復に費やした時間はサーチバイザーによるとおよそ二時間。


「思ったより時間がかかったけど、完璧なしあがりだぜ」


 集中していると時間の経つのが早い、シルヴィアからデータが来ているのも気がつかなかった。着信時間は一時間も前だ。


「採寸のデータか」


 宣言通りシルヴィアはリンデのことを事細かに採寸したようだ。小数点以下三桁までの細かい寸法がびっしりと、下から足回り、ヒップ、ウェスト、バスト……。


「な、なんだと」


 え、なにこのバストサイズ。

 リンデのデータで間違いないよな、俺はデータを拡大して入念に観察する。

 男の理想体型のシルヴィアとほぼ同じサイズじゃないか、もしかして普段は胸に何かを巻いているのか。これはけしからんことだぞ。


「なんでこんなリッパな物を持っていながら隠すなんてもったいない!」


 もしかして鎧が着られるように頑張って体を縮めようとでもしているのか、それなら全力でこのサイズにピッタリはまるように調整してあげないとな。


「何がもったいないのですかな」

「うわっ!?」


 とつぜん渋めの声に話しかけられ、めちゃくちゃ驚いた。中学時代にちょっと過激な青年マンガを読んでいたら、ドアをノックされた時と同じぐらい驚いた。


「大丈夫ですかな?」

「だ、だいじょうぶです」


 サーチバイザーの投影画面を視界いっぱいに表示していたのでまったく気が付かなかった。


「それにしても見事な腕前ですな、お嬢様から変わった御仁とお聞きしましたが、この短時間でここまで直すとは」


 歴戦の猛者という言葉が似合いすぎるがっしりとした兜以外の全身鎧の老騎士が、俺の直した剣を手に取りまじまじと刃を確認する。磨き上げた刃は鏡のように老騎士の顔を映した。


「あなたがバァルボンさんですか」

「いかにも、ヴァルトワ家に仕える老いぼれ騎士のバァルボンです。このたびは貴重なコーティング剤を分けていただき感謝いたします」


 鎧の上からでもわかる分厚い筋肉の体を倒して俺に頭をさげてくる。


「このご恩に形あるもので酬いられないのが情けない」

「こっちにも思惑はあるんで、もちつもたれつですよ」

「それでも感謝する」


 挨拶をすませると作業の邪魔をしないよう、自分の剣を預けすぐに退出していった。


 渋いお爺さんだった。美少女がパワードスーツを装備するのが一番だと思うがその脇を固めるベテランも渋さが映えるよな、リンデをセンターに置き、その脇に静かにたたずむバァルボンさん。うん、リンデがとてもきわだって見える。これはこれでいいかもしれない。

 などど勝手に写真を撮る場合のポジションをキャスティングしながら修復作業に戻る。途中に食事を差し入れに来てくれたシルヴィアからリンデの剣も受け取り五本すべての修復を終えたころには深夜一時を過ぎていた。


 ちらりとシルヴィアがこの部屋でも眠れるように用意してくれた毛布を見る。そろそろ寝た方がいいのはわかっているが、リンデのデータを見てしまったため、体がかってに鎧の調整に取り掛かってしまった。


「子供用の全身鎧、ヘルムはもう完全に頭には収まらないから潰すしかないと、後は肩幅が成長したからショルダーを外して」


 採寸データを参考にどう頑張っても収まらない部分をおもいっきり削り落として、人体の急所である体の中心軸を最低限守れる軽装鎧(ライトアーマー)へと作りなおす。


 ヘルムを潰して額当てにして、ブレストプレートは胸の青い獅子の紋章を残して取り外したショウダープレートを鉄材として混ぜ込みサイズを拡張、レッグアーマーも腿のパーツを外してすね当てのサイズを拡大などなど、ちょっとの趣味を含んだ実戦使用の軽装鎧を仕上げていく。


「それにしてもたった二年でものすごい成長したんだな~」


 こんな素晴らしいプロポーションを持つリンデが二年前まではこのお子ちゃま鎧を着ていたなんてちょっと想像ができない。


「魔結晶を組み込めば軽装鎧でも全身鎧より高い防御力が持てるだけど、さすがにそれはやり過ぎだよな、それにどうせ魔結晶を組み込むならやっぱアクティブの方がいい…………」






 やってしまった。


 軽装鎧が完成した時に眠ればよかったのに、ついアクティブのことを考えたのがいけなかった。欲求に負けリンデに似合うアクティブアーマーの設計をはじめてしまい、フゥオリジンをベースに騎士をイメージした接近戦用の機体の設計図を書いてしまった。


 まだリンデの戦闘スタイルを知らないので細かい要所は詰められないが大まかな基本軸はできあがる。

 小窓からは朝日が差し込み完全に徹夜してしまった。

 ここは魔物が徘徊する世界である。いつ不測の事態が起こるかわからないから休めるときは休み、体調はできる限り整えておかなければ危ないとシルヴィアからも進言を受けていたのに。


 ドアがノックされ、リンデが入ってくる。


「おはよう」

「おはよう。いい朝だが、カズマ殿はもしかして一睡もしていないのか」


 折りたたまれたままの毛布に気づき整った眉をゆがませる。


「つい集中しすぎちゃった」

「いかんぞ、柵があるとはいえこの村は城塞都市ではないのだいつ襲撃を受けるかもわからない、世話になっているので言いづらいが体調管理だけはしっかりとして欲しい」


 結局リンデからもシルヴィアと同じ注意を受けてしまった。申し訳なさそうな態度が逆に申し訳なくなる。徹夜してしまったのは頼まれた作業をしていたからではなく、趣味に没頭していただけなんだけど。


「あはは、気を付けます」

「ああ、気を付けてくれ」


 俺は笑ってごまかした。


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